色々と人生限界の三十路女が、「うっせぇわ」(youtu.be/Qp3b-RXtz4w)を、リスペクトインスパイアしたらこうなります
クリスマスに・寝室で・ひびの入ったビー玉を・予約しました。
金に困る事態にすぐに陥った。そんな俺は大学時代から地元を離れ、過ごした東京でそのまま就職をしたのに、失職した。不景気の影響では無いし俺のせいでもないのに。”俺”は齢23にして勤め先の企業から解雇を言い渡されていた。学生時代はスポーツに傾倒し、部長を務めてリーダーシップを発揮。学生時代は飲食店でアルバイトをしてバイトリーダーになり、店の運営の一部を任されるようになって店舗だけで無く周辺の店のリサーチをして売り上げを30%伸ばし、長期の夏休みを利用してオーストラリアでバックパッカーとして世界を見て回りました。新卒としては申し分ない資格の持ち主だったが、配属された先の部長の不正を見つけて少々悩んだ結果、思いあまって社長ならびに上層部に報告。監査などの第三者機関があるにも関わらず、少々自分の雄志に酔ってかまるでテレビドラマのように重役が数名参加する会議中に暴露。結果、花形部署からの異動が決定した。
企業は、勤続年数の浅い”俺”よりも経費と公私を混同した犯罪者の部長を取った。告発が入社してから半月ほどの出来事であるので、”俺”は入社してから一年を経たずに解雇に追い込まれている。とはいってもこのご時世にて唐突な解雇など存在しないため、本人の希望であった営業部から倉庫管理部へと異動。会社に楯突いたことへの報復の左遷であった。だが若さ故か、大見得切って辞表を机に叩き付け、自席にいた冷静な部長をふんぞり返って見下ろすと鼻の穴を大きく膨らませて言ってやった。腐ってますから辞めます。持ち前の正義感は結構なことだが、部長は何も言わずにそれらを吞み込んで人事部に提出する。ドラマのように泣いて謝ったり、良心の呵責に囚われた部長が何かをしてくれるんじゃないかと期待した”俺”の淡い希望は打ち砕かれ、そのショックを引きずりながらも引きつった口で笑顔を作ったまま退社した。”俺”はすぐに再就職先なんて見つかると意気込んでしばらくは貯金で食いつないでいたが、会社から近いという理由で決めた地価の高い家に住み続けるのが難しくなり、あっという間に引っ越しを余儀なくされた。
生来、物の覚えが良いゆえに進学先が一般平均よりちょっとだけぬきんでて、挫折をあまり知らずに順風満帆で来た”俺”である。トラブルがあれば本人が頭を下げるか両親が頭を下げるかで嵐は過ぎ去り、祖父母からの援助が毎年お年玉という名前でもらえたものだが、社会人になったのでとそれは齢23に止まった。学生時代は当然だった両親からの仕送りも同時に止まった。給与所得しか”俺”の手元には無い。そのことに”俺”が気付いたのは、残高が枯渇した預金通帳とにらめっこしながら、ふと両親や祖父母の顔が浮かんだ時だった。それでも親に頼るわけには行かない、すぐに今までの生活を取り戻してやると意気込んで、学生時代に過ごしたようなボロアパートに決意と共に引っ越す。だがどうにも一度休むと気儘な学生に戻ったような気の緩みが出て昼過ぎまで寝たりと、生活リズムは不規則となり無断欠勤が続いた。だが改めようにも瞼が朝にはどうにも開かないので、結局たまにしかアルバイトを出来なくなる。その生活では金が増えるわけも無い。それでも友人は多いので、ときおり就職している友人達と居酒屋で会うことになり、昔から偏差値が同じぐらいで同じバカをやった相手にみすぼらしい格好を晒すのはどうにも自尊心が許さなくて、気が付いたらキャッシングや消費者金融に手を出した”俺”は24歳の半ばだった。一時的な金回りの良さに安堵しても、すぐに返済期限よりも早く手元の金を使い切り、迫りくる期日と原資の無さに顔を蒼白にした。だが不思議なもので、その期日を迎えても”俺”は死にはしないしヤクザが迎えに来ることもなかったから、金銭感覚はだんだんと麻痺してきて、一定量の督促状が届き始めた頃から鏡に映る自分の顔を見ても何も思わなくなってきた。少しだけ湿気た畳の上で鳴るスマホのバイブ音に、開封もしていない封筒の山。それらに向かって髭を剃りながら、うっせぇな、と”俺”は呟くだけだ。
ある日に”俺”の親友が尋ねてきた。”俺”が辞めた会社の近くに住んでいて、別会社の勤務だったが仕事上がりによく飲みに行っていた仲だ。数日どころかしばらく”俺”の姿を見ないものだから、不安に思ったのか人づてに探して様子を見に来てくれたようだ。上記の内容を目の当たりにした親友は絶句した後に、何を思ったのか”俺”のスマホに弁護士事務所のHPを転送した。そこで借金を整理しろと言われ、一回目の訪問の後にコンビニ弁当を一個奢った。二回目の訪問時には、これ貸してやるからと言って数十万の金を渡された。銀行専用の封筒が見えてこのために下ろしてきた金だと気付き、驚きつっぱねようとするとスーツを新調しろとのこと。これで就職活動しろと言う。”俺”はありがたいやら悲しいやらで泣いた。親友も泣いた。その晩はコンビニで買った酒で昔話で盛り上がり、お互い何も言わずに翌朝親友は帰った。金曜の夜に親友が来たから、土曜の朝に帰ったのを見送って”俺”は安アパートの畳の上で大の字になった。何も変わらない。親友が帰ると何も変わらない部屋でただ若い”俺”は畳と同じように腐っている。だがこの金でやり直そうと”俺”はスーツを買いに出掛けることにした。結果的にスーツは買った。標準体型であったため裾上げくらいの値段で既製品をそこそこの値段で新調し、余った金を一発逆転狙いで競馬につぎ込んだ。今までのアルバイト代も同じようにパチンコや競馬、競輪につぎ込んで大金を夢見たのだ。
だが結果は今までの”俺”の人生に積まれた経験値通り、すった。唾を飛ばして怒号を叫ぶおっさんの横で、”俺”は同じように腹の底から騎手と馬を力一杯罵倒して、帰り道に親友にこのことを謝る気がないことに気付いた。だが一度思い浮かべると頭から消えない親友の顔にばつが悪くなって、今まで快適だったスーツの着心地すらごわごわとして蒸れて気分が悪くなった。帰ってすぐに脱いだが、ひとまずスーツをハンガーに掛けることだけは親友への最低限の礼儀としてまだ出来た。
”俺”はある日悪友に相談を持ちかけた。
「なあどうしたら大金って稼げる?」
「なんだよ、自己破産でもしたのか?」
唇にピアスを嵌めて髪色が緑と金で構成された悪友は、大学時代から容姿が変わっていないので何の仕事をしているのか分からない。むしろ”俺”はそこを考えないようにしていたのだ。危険なかおりに金の臭いが混じっているのに気付き、真っ当な社会人の親友ではなく半グレのような悪友に助けを求めたのだ。
「してねぇよ。でも金が無い」
「色んなバイトあるぜ?でもまあ、お前じゃ度胸無いだろうがな」
ニヤニヤと悪友は笑ってロックの焼酎を飲む。騒がしい居酒屋の席では誰も“俺”達の話に耳など傾けないと思うけれど”俺”はそわそわして周囲を窺いながら喋っていた。それすらも悪友は馬鹿にしたように笑う。
「誰も聞いてねーし。それより手っ取り早く稼げる方法だろ? 女でも作れば?」
そう言った悪友は大学時代から女にだらしないというか、生活費はほぼ女が負担させていることを自慢していた性根の男だ。だから”俺”の親友はあまり付き合いを好まなかったが、”俺”は刺激のある悪友の話をおもしろがって聞いていたので気に入られていた。だから今も交流がある。
「女に金出してもらうのか?いっくらなんでも俺はそれ無理だ。パス」
「じゃあ金出してもらう口実作ればいいじゃん。今日持ってる俺の金、そういうのの売上金だぜ」
得意げに悪友が財布を取り出して”俺”に見せると、長財布には札束で分厚くなっていた。
目を白黒させる”俺”に、悪友は続けた。
「簡単だよ。最近よく聞くだろ?本を出版しないかって声かけて、出版に必要だからって金集めんだよ。後はその金持って逃げる」
「詐欺じゃん」
「いいんだよ、二度と会わねえし。それに会ってみ? なんでもいいけどほんとブスばっかだぜ? だから余計騙されんだろうな。ブスの言うことなんて誰が信じるかよ」
「でも」
「やり方だけ教えてやるよ。そんでアレンジすりゃいいじゃん」
悪友の言う方法はこうだ。ハンドメイドや文芸作品など出版作品は多々あるので、有名どころではない実在しないがありそうな出版社名を出して本を出さないかと声を掛ける。だが出版業界はどこも不況のあおりで資金繰りが厳しいので、いくらかの融資をお願いできないかと金額を提示する。それも微妙に出せない金額では無く10万20万と現実的な値段をふっかける。それで支払いに応じればそれはカモ。何回か言い聞かせても金払いがいいのでいい商売になるという。だが話を聞いていて、悪友の髪色でそうそう騙される人間がいるだろうかと疑念に駆られるが、悪友は笑いながら自身はやらないのだと言った。
「俺はやってんのはマニュアルの販売!俺が言っても真実味ないだろ、ただうまくやれるか待ち合わせ場所には一回だけ様子見に行くが、その後は好きにやれって感じ。お前もうまくやったらマージン払えよ?」
友達割引してやっからと悪友が言うのに、”俺”は親友のくれたスーツを着ながら居心地の悪さと視界の端にある札束から目を離せない衝動との板挟みでどくどくと動悸がしていた。やってはいけないという良心とやってしまえば楽になるという欲望とのぶつかり合いで、ぬるくなったビールを思わず一気飲みした。アルコールを入れても頭がまとまらないでいたが、悪友に”俺”は賭けることにした。詐欺のやり方を教えてもらったのである。
まず架空の出版社名とそれらしいビル住所を作り上げる。そしてそれらの名刺を作る。これは安い紙でいいとのことだった。今会社はエコを推進しているから名刺も安い紙なんだと説明したらいいとの助言を受ける。そしてターゲットになるのは女性がいいとのこと。やはりいざという時に殴れるからと悪友は言っていたがそれは実行しないでおこうと”俺”は思った。
女性の見つけ方はあるサイトを教えてもらった。作品を自由に無料に掲載できるサイトがある、そこで何でもいいからオリジナルとタグが付けられていてあまり有名どころは狙わない方がいい、本当に有名ならとっくの昔に出版社が声を掛けているから、投稿日が古くてそんなに閲覧数が伸びすぎずにランキングにも載らずフォロワーも二桁台で文章に少々の癖がある人間を狙え。そういう奴らは自分が面白いと思っていてでも認められないから褒められたらすぐに信用するからと。そいつらのマイページからダイレクトメールを送って接触を図れ。もしそれで話に乗ってくるようなら、SNSでもフォローして同じようにダイレクトメールを送っておけ。捨てアカウントでやるが、会社に内緒で作って接触している、あるいは今までやっていなかったので慌てて作ったと言っておけばいい。今SNSの企業アカウントの運営が難しいので、個人的なアカウントを作ってまでSNSにあがってる作品を見たくなってと言い訳し、出来るなら捨てアカウントと悟られない程度に偽装しておくのが一番だ。そうして接触を続け、安心させたところで直接作品を持ち込まないかという問いに乗ってきたらしめたもの。実際に喫茶店なりで待ち合わせしろ、そこに俺も行くからと悪友は言う。指示を出すわけではなく、”金”の見定めをするのは悪友の仕事らしい。
「出しそうなら終わってから指示出す。無理そうなら言い訳考えてやる。で、成功したら最初だけ6割俺に寄越せ。そんで勘弁してやってる」
「その後は?」
「もっと絞るってんなら勝手にすればいい。ま、もっとやって稼いでるやつもいるし。アドバイス欲しけりゃ俺に連絡くれ。金取るけどな」
財布に詰まった札束を見て、何人の人間がこの与太話を信じて金を払っているのだろうと”俺”は少し気が遠くなる思いがしたが背に腹は代えられなかった。
一人目はあっさりと掴まった。喫茶店での待ち合わせには親友からのスーツを着ていった。鞄が新卒で買ってから使い込まれているのしか手元になかったが、かえって社会人らしくていいと悪友からの評価をもらってそのまま向かう。骨格にもサイズも合わないフリルの付いたワンピースを着て頭にはリボン付きのカチューシャを付けた被害者①は大柄な女だった。被害者①はなんとかたどたどしく褒めた”俺”の言葉に頷き、あっさりと二回目の打ち合わせに金を持ってくる旨で了承した。15万に設定して、悪友がカモだと認定したので”俺”は安堵した。と同時に強烈な罪悪感に襲われて、飲んだばかりのコーヒーがせり上がってきたが、悪友がにやにやしながら背中を叩いて、あの怠惰な生活に戻りたいのか尋ねるとやはり自尊心故で”俺”は首を振った。次の打ち合わせで金を受け取り、表紙のレイアウト見本を作って来た被害者①から笑顔でステキですねと褒めて”俺”は丁重にそれを受け取って鞄にしまった。あとはデザイナーと相談してみますとすらすらと嘘を吐いて、悪友を呼び出してからマージンを渡した時に尋ねた。
「俺、なんか普通に出来たわ」
「お。才能あんじゃん」
”俺”は罪悪感が薄れて消え去ったのを感じた。ある程度の金でなんとか返済の足しにして、親友が示した借金整理の道を自ら断っていばらどころか犯罪者への道へと足を踏み入れたのだ。だが被害者①があまりにうまくいったので、怖くなってすぐ逃げるようにアカウントを消して喫茶店に二度と立ち寄らないようにした。だが人の道から転げ落ちていた”俺”は次からは、一人でも演技が出来るようになっていた。勝率は完全とはいかないが、それでも月に二人は引っ掛かった。共同制作の冊子にした方が数名から同時に金が集まるとふんで、何人にも声を掛けて名簿を作ってみたりした。昔の彼女が文学部だったので、部屋で見た覚えのある文芸評論の本を古本屋で安く買って読みあさり、専門用語らしい言い回しを研究した。”俺”にとって打ち込む事が出来たのは久しぶりで、その評論が的を射ていると被害者に感心された時に感動すら覚えるようになった。自分は評論家であり編集者なんだと自分を錯覚させて罪悪感から逃げていた。慣れてきた”俺”はだんだんと大胆な行動に移るようになって、被害者①との打ち合わせに使って今まで避けてきた喫茶店で他の被害者との打ち合わせに使うようになった。今なら過去の被害者に鉢合わせしたとて、土下座してなんとか許しを請える程の言い訳を並べられるという謎の自信さえ持った。そんな”俺”はある日SNSで自撮りと合わせて詩のような短文を載せている”姫”に会うことになる。
”姫”は富裕層の娘だった。花の大学生であるがブランド物ばかりに囲まれるような下品さは無く、気に入った物が高価でありそれを使いこなすだけの所作を自然体で持ち合わせていて、髪は茶色に染めていても清楚であった。SNSにアップされている”姫”の自撮り写真と詩を冊子にしないかと”俺”は持ちかけたのだが、”姫”は一回目の打ち合わせで”俺”に待っててくださいと言ってコンビニに向かった。戻ってきた彼女の手には10万ほどの束があり、足りませんけどとはにかみながら笑う。”俺”は衝撃を受けた。ほんの数秒で彼女は自分にとっては大金をはした金のように引き出せる。これはかなりのカモだと思う反面、女子大生のほほえみは歪み始めていた”俺”のこころを癒やした。彼女のために更生したいと思う反面、まだある借金が減らないので”姫”からの入金を控えめにさせて他のカモを探すことにしたのだ。
”私”はしがない物書きだが趣味の範疇を出なかった。仕事は低賃金だがそれなりの上場企業にて勤めている。だがだんだんと経験値を積んだ業務内容がどうしても嫌いに傾いて誇りもなく、人間関係や風土が肌に合わずに一年ほど休職した。復職したが他に行く場所を探そうともがくも体調面への不安と転職業界で求められる基本的スキルの無い三十路の女に、世間は冷たく行き場を用意しなかった。それでも縋り付いて復職し、金を稼ぐために折り合いを付けねばならない。結婚をしろと同居する親は五月蠅い。兄弟いとこは全員結婚して子供がいるか家を買って一般的な社会人らしい資格を得ている。会社の同期も学生時代の友人も×が付こうが付かまいが子供や結婚生活を”経験”している。全てに乗り遅れている”私”の心を癒やす趣味といえば、いじめを受けていた小学生の時から漫画や文章を書いて作品を作り上げることだった。
だから社会人になってもたまに折を見て書き上げたものをSNSやサイトにアップロードして、反応があれば心の糧とした。その糧をすすって同調圧力に逆らうだけの天才的な経済能力も閃きも度胸も無い。ただ這いずって、人並みに近付こうとするのと近付きたくないという生来の反発心でうずくまるばかりだ。そんな”私”の元にダイレクトメールが届いた。
『突然のメールにて失礼します。初めまして、改進堂書店の編集部”俺”と申します。この度本誌にて何名かの新人作家を発掘して本誌に掲載していただく企画を立ち上げています。そこで”俺”から”私”さんを推薦したく、お話をさせていただければと思います』
”私”は懐疑的だった。猜疑心が強かった。幼少期のいじめのせいで、人間はそんなに信用に値しないものと分かっていた。
『詐欺っぽいですね』
『そう思われる方も多いです。是非今までの作品の再掲載でも構いません、何点か編集部で検討させていただくために提出いただけませんでしょうか?』
『画像でもいいので名刺を送っていただけませんか?』
”俺”はしめたと思った。現物でそれらしい名刺を作る金が手に入っているが、加工した画像には金が掛かっていないので詐欺の道具としてはコストパフォーマンスが良い。いかにも机に置いて今撮りました感の出るよう工夫した名刺の写真を送った。光りの具合で今の時間帯で無いと見破られるかもしれない、だから極力自然光の向きが入らないように注意を払い。時にはフリマサイトの出品の仕方なども参考にした。するとすぐに返信が来る。
『名刺の裏側も見せていただけますか』
”俺”はその画像も送った。
『分かりました。まだ信用していませんが、幾つかとおっしゃいますが私はシフト制で働いてますので新しい作品は難しいです』
『失礼ながらリンクしてあるSNSも拝見しております。ですので今までの中で有名な”私”さんの作品を載せる方向で行きましょう。加筆が必要でしたらその点もご協力します』
『分かりました。』
『ギャランティーが発生するんでしょうか?』
がめつい女だと思われても、自分の書いた物が一文であろうが三文字であろうが取られるのは許せない性質だった。”私”も十分に自尊心が高いのだ。
『それは・・・申し訳ありませんが”私”さんが望む金額は保証しかねます。出版業界も幾分か不況ですので』
『じゃあ結構です。お話ありがとうございました』
『待ってください!とはいえ本誌も小さな会社でありますが20年ほどの実績があり、中には文壇界の関係者も多く目を通していただいてます。ですから今すぐお断りされてしまうのは得策では無いといいますか・・・』
『短気は損気って事ですか?』
『その通りです、一度私と打ち合わせに出向いていただけませんか?こちらは合わせますので』
『名刺を拝見する限り、御社の所在地は東京ですよね?』
『はい左様です』
『私は地方なんで移動が必要なんですが』
『でしたらzoomという手段のあります。とにかくお会いしてお話をしたいのですが』
『zoomでいいなら、お会いする意味はありますか?メールでも終わる話だと思うのですが。少々疑ってしまいます』
『それも”私”さんの仰るとおりです。私も少々早く話を進めたくて意固地になってしまいました。よろしければ一度編集部の方で協議させていただき、再度連絡させていただいても
よろしいですか?』
『そちらの点についてはどうぞ』
『再びのメール失礼します。やはり色々と協議させていただき、”私”さんの作品を掲載させていただきたく思います。そこで改めて本誌掲載の際の報酬についてお話させていただきたいのですが』
『私も疑ってしまって先日は失礼しました。zoomは少々不慣れなので電話などでも構いませんか?やはり体力的に東京への頻繁な移動は疲れますので、こちらの都合で申し訳ありませんが』
『分かりました、電話番号を教えていただけますでしょうか?』
『ーー”私”さんですか?編集の”俺”と申します。この度はお時間いただきありがとうございました』
『ーーこちらこそ色々失礼なことを申し上げてすみませんでした。御社のHPなども拝見してまして、安心しました。機会が失われなくて良かったです』
『ーーいえいえ。それでは今後のお話なんですが、作品について何か書いてみたいテーマなどはありますでしょうか?』
『ーーそうですね。ホラーとか書いてみたいテーマがあります。まだ表に出してないんですが』
『ーーなるほど、どんなものかお教えいただけますか?』
『ーーすみません、まだそれは。もし今後作家として雇われるような腕前になったらお伝えしてもいいですか?未完成なもので』
『ーー分かりました。実は、編集長の意向で今回の企画は何かテーマを決めて寄稿いただくという方針になってしまいまして・・・』
『ーーそうなんですか』
『ーーそれでテーマを恋愛物にしたいとの意向なのですが、その点は大丈夫そうですか』
『ーー正直厳しいですね。あまり人を愛したこと無いので』
『ーーそうですか?お電話だけですが、受け答えもしっかりしておられて好感が持てますが』
『ーーまあ顔が醜い女に世間は冷たいんですよ。太ってもいますし』
『ーーそんな卑下なさらないでください。俺もモテませんでしたよ、それでも行動してばかりでなんとか実った恋もあったりして』
『ーーへえ』
『ーー大学時代の頃なんですが、マドンナ的な美人がいてモデルの仕事をしていたりして、近付きがたかったんですが図書館によくいるという話で。仲間と一緒に勉強するふりでよく眺めていたりしたんですが、そのうち本気になって』
『ーーステキじゃないですか』
『ーーだけど仲間はただアクセサリー感覚と言いますか、ステータスとしか見てなかったんで話をしていてもなんだかこじれてしまって』
『ーー真面目なんですね』
『ーーでも本気なんで勉強と合わせて近くにいて話しかけたりきっかけを掴んで、なんとかOKをもらったんです』
『ーーステキな話ですよ。編集さんが書けばいいんじゃないですか?』
『ーーいえ俺にはとてもそんな能力は・・・では話が戻りますが、そのような体験談は?』
『ーーうーん無いんですよ。だってデブでブスって男の人は見向きもしないでしょ?それでいてまあそこそこ勉強は出来たから。目に付くと不快って感じで扱われてましたし』
『ーーそれはひどいですね。確かにそんなやつもいましたが、子供って感じですよね』
『ーー本当にね、でも10代なんてそんなものじゃないですか?”私”が大人びてたのが悪かったんでしょうね。それなのに周囲はちゃんと大人になってくんだから』
『ーーすみません、話が逸れましたがそれで幾つか短編を作っていただけませんか?指定枚数をお伝えします』
『ーー分かりました、こちらこそすみません。メモ出しましたのでお願いします。・・・・・・はい、分かりました。期限はありますか?申し訳ありませんが繁忙期なのでそう近くは出来ないかと思います』
『ーーかしこまりました。それでは一ヶ月後の・・・日はどうでしょうか?また期限が延びそうならこちらに直接伝えてくださいね』
『ーー分かりました』
『ーーもしもし。”私”ですが”俺”さんの携帯でしょうか』
『ーーああ、どうしました』
『ーーやっぱり純愛物は難しいのですが、その代わり短編ホラーは駄目ですか?だめなんでしょうけども』
『ーーうーん、一応掛け合ってみますが・・・』
『ーー思いついた話があるんです。メリーさんって知ってます?』
『ーーああ、電話が掛かってくる都市伝説でしょう?知ってます知ってます』
『ーーわたし、メリーさん。今最寄りの××駅にいるの』
『ーーああ、そんな感じですよね』
電車音。駅の騒がしいアナウンスや人の足音がする。
『ーー今外ですか?』
『ーーわたし、メリーさん。今東京駅にいるの』
電車音と合わせて発着音としてメロディが流れている。人々の声や足音がもっと密で濃い。
『ーーもしもし、”わたし”さん?』
『ーーわたし、メリーさん。今貴方の出版社の最寄り駅にいるの」
歩く足音。
『ーーわたし、メリーさん。今貴方の名刺にある出版社の前にいるの』
しんという音と風が鳴る音。”俺”の全身の血の気がさあっと引く。名刺に載せたHPと住所はでたらめなもので、そこにビルなんて無いのだと全て手際の良い悪友が用意した時に笑っていた。ちなみに電話番号も載っているがそれに架けると悪友が同僚あるいは編集長と名乗って応対する。まさかバレたのかと冷や汗が出た。詐欺に慣れて常々堂々としていたが、化けの皮が一気に剥がれると素の自分が顔を出して良心の刃ににおびえて震える。電話の向こうの”わたし”が黙ったままのだが言葉を掛けられずに”俺”は生唾を吞み込んだ。
『ーーなんてね?』
”俺”は聞こえないようにスマホを顔から話すと、ぷはっと息を吐いてもう一度鼻から大きく新鮮な空気を吸った。
『ーー・・・ちょっと、驚かせないでくださいよ。背筋が凍りましたよ』
『ーー冗談じゃないですか。それに、真実は違いますよ』
『ーーえ?』
『ーーわたし、メリーさん。今警察署の中にいるの』
”俺”の背筋が固まった。
『ーーやっぱり詐欺なんじゃ無いかって、思って。それで出版社が存在しないんじゃ無いかって確証を得てから実行しようと思って。だって民事的なものだから動いてくれないんじゃ無いかって。だから画像と今までのやりとりと、録音した会話と。名刺の画像と実際の住所が相違していることを相談したら、なんか被害届が出てたみたいですよ?複数の女性から。随分稼いだみたいですね?』
”俺”の呼吸が止まった。
『ーー警察の方に電話番号が分かるので探知してみようかって話を”私”からお願いしてみたら是非とも協力をお願いされましたので。それで長い長いお話をしてたんです。逆探知って早いんですけど、スマホのGPS特定したりするのに時間掛かるんですって。で、出来たそうですよ』
”俺”が見たことも無い”私”の口が醜く吊り上がっているのを想像した。それは当たっているだろうと確信できる歪な愉悦に満ちあふれた声音だった。
『ーーわたし、メリーさん。今警察が貴方を探しに出て行ったの』
『ーーふ、ふざけっるなよ。てめえ何してんだよ!』
『ーー本音ダダ漏れですよ。まあいいや』
『ーー頼む、取り消してくれ。それか俺が無罪だって言ってくれ!』
『ーーいやだから被害届が』
『ーー何かの間違いだって』
『ーーフリルのロリータ的な服の女性が警察署で泣いてたんですよね。騙されたのって。恋心も踏みにじられたって』
『ーー知らねぇよ!俺は何にもしてない』
『ーーいやこっちも知らねぇし。うっせぇわ』
”私”の愉快そうな声が唐突に憎悪がまみれた低い声音に変わったので、”俺”は混乱した。だがその混乱で少しだけ冷静さを取り戻し、スマホを離して逃げれば良いんだと思ってその場で駆け出して路地裏に逃げ込むと目に付いた飲食店用の業務用ゴミ箱にスマホを突っ込んだ。通話は切れていないので、”私”の声が続いていた。
『正しさとか愚かさとか、それがなんなのか見せてあげようか?』
『昔から優等生で勉強だけが取り柄で先生には従順で良い子で良い子で内申点も順調で反抗期も無く親と夜は布団並べて寝てたわ。それが正しいことだって思ってたし社会に出るまではまあ順調だったよ?でも成人してからは評価が一転したわ』
『女に生まれたのに化粧もしないしスカートも履かない、化粧なんて興味も持たなくて良いと口酸っぱく言われてきたのにいきなりなんで口紅の引き方も分からないんだと馬鹿にされて誰も教えようともしないのに馬鹿にだけして、今まで不良だなんだと押さえつけようとしてきた化粧を早く覚えた子だけを可愛いTPOに合うってちやほやしてきた。はぁ?』
『それでもなんとか就活して、そしたら金を稼いで当たり前だけど家事もしてね仕事さっさと慣れて親孝行してと言われ、仕事覚え始めててきたら昇進してね昇進するけど産休取らないでね取るなら辞めてね家族からは仕事ばっかで何やってんの結婚はどうしたって仕事したくないって言ったらあれだけ責めたくせに”私”一人を養う金も無いくせに金は工面してどっかの金持ちを引っかけて私の介護見て面倒見て死ぬまで楽させてねと要望丸出しで地元にいろ地元から出るな親を見捨てるなと言われてどこにも行けなかった。ずっとどこにも行けなかった。反吐が出るまで憎い地元の連中は私がブスだデブだと散々罵って、顔も見たくない輩が普通に幸せになってるを見なければならないのに車の免許を取らなかったのは、轢き殺すかもしれないからだよいじめっこが幸せそうに子供と並んで家族団らんなんかしちゃってたらさ、トン単位のデカいトラックで轢き殺してやりたくなっちゃうし今だって刺し殺してやりたいけど私はずっと地元では優等生で大人しくて真面目で良い子って評価だけが生きがいで取り柄だし模範人間だからそんな事はしないけど。でもSNSで仮面被って誹謗中傷しようもんならこのご時世許されないし匿名だからなんで中傷しちゃ行けないのか分からないけど、それで傷付く人がいるのは容易に想像付くんだけど私はその傷付く奴らにどれだけ傷付けられたか分からない。デブブス真面目だけ意味分かんない何考えてるか分かんないのろまドジへらへらしてキモい、そんな言葉どんだけてめぇら私に向かって吐いたんだよその重さ考えたらてめぇらをSNSで叩いた所で罪になるのは納得いかないけど私は頭が良いのでそんな自分の不利になるようなことはしません頭の出来が違うので。とっとと地獄に落ちて死んじまえば良いのに、私を傷付けて私より幸せな奴ら全員死んじまえば良い!!!!!』
スマホを取り上げる音がした。警察か”俺”か分からなくても”わたし”の独白は止まらない。
『一切合切凡庸なあなたじゃ分からないかもね』
『敷かれた一般的なレールから外れたところで何が問題で何が悪いって言うんだろうね。どこで築かれた社会的な正しい生き方のメモリーから外れてるから異端だってよく言うよねそういう外れた天才の恩恵を受けて生きてきて、この社会に何のルールも不満も無い凡庸な貴方には。天才の私はとっくにこの矛盾点に気付いているんだけど貴方たちは一生かかってもそれに気付かないなんて、それなのにぎゃあぎゃあくさい口で喚き散らすのは滑稽極まりない』
『あんた達は光りを受けたらきらきら光るビー玉みたいな人生だ。でも私のビー玉はあんたらが傷付けまくるから表面傷だらけだし泥も砂も入り込んできたねぇきたねぇ泥玉になってんだよ。なんでこんなことを強いるからって?私の報われない人生において、私を傷付けた奴らの端くれが同じ土俵に転がり込んでたから足をひ・っ・ぱ・っ・て・あげただけ。あんたのビー玉にも傷が付けば良い。私よりもエグい量の傷が付けば良いんだ。でもあんたはラッキーだよねいっそ落ちた人間って社会は優しかったりするじゃない顔が良かったり経歴が良かったりするとさ。私だって地獄をいくらでも見てるのにその狂気はありふれたものだってレッテル付けられてさぁ!蛇にピアスとか一度本気の悪に落ちた人間の文学作品が評価されるのって不良少年が真面目になったギャップで評価しているだけで真面目に真面目に真面目に自分に向き合ってる私の作品を評価しない社会なんかさぁ!とち狂ったバカしかいないんだろうなって思うのは私が天才だからかな!ありふれた狂気って認定しやがって地獄が何かも知らないでいじめられて学年中からハブられたことも無い奴らがえらっっそうにな!』
『最後まで落ちるところが見えないことは残念だけど、今回はそういうワケだから。落ちるとこまで落ちる日の当たる人種をこれからも暗闇に引きずり込んでやろうと思ってるよ。もちろん、暇つぶしでね?騙そうとする側と頭の出来が違うんで。じゃあ、さよなら』
非公開の通話はこのまま警察側の公式記録にも載らずにいる。本当にこの一方的な独白がこの世に存在したのかは証拠無ければ記憶も記録にも何も残らない。憎悪と愉悦と僻みと当然のように傷付いた人間の不当性が絡まった痰のような声は、吐き出されて地面を汚すこと無く”私”の体に根付いているのだろう。”私”はこの後、警察に協力の礼などの一通りのことが終わるとまた引きずるように会社に向かって金を稼いで行きたくもない婚活で男と会って、這ったまま生きている。
”姫”が出版詐欺のニュースで”俺”を見たのは数週間後のことだった。関東圏で報道された番組を見て、テレビを見つめたまま”姫”は茫然と自室でへたり込む。富裕層の娘だ。父は社長で母も事業をやっている、だから一人娘には存分に金を掛けようと進学先には口を出さなかったが一人暮らしをする娘には高級マンションの最上階、実家から連れてきたハウスキーパーに生活費は親負担、運転手付き車両による移動手段という万全の態勢と共に定期的に大金の仕送りがあった。”姫”はSNSで新しい物を自慢するというよりも、仕送りがある一定額貯まったので高級ブランドのバッグを買ってみて、なんとなく写真を挙げたりしていたが大抵は友人か自分のみの自撮りを挙げていた。
きらきらと輝くより落ち着きのある暮らしぶりはSNSでそれなりのフォロワー数を獲得したが、特段”姫”がそれを気にする素振りはなかった。余裕があるのだ。だから”俺”が声を掛けてきた時に何の疑いも無かった。合ってみれば幾分か年上のさわやかな顔立ちではきはきと喋るイケメンだ。その真っ直ぐな瞳で情熱を語ってくるのに”姫”は惹かれていた。喫茶店で打ち合わせをした後に財布を取り出して少々中身を気にしていたので、お金が無いのだろうと察した”姫”がカードで支払ったこともある。申し訳なさそうにしている”俺”は、大学で金目当てであろう同世代の態度よりも紳士的な”俺”をすっかり信用しきっていた。時折弱みを吐き出す彼を支えてあげたいと思った。だが彼は詐欺師だったのだ。それは公共の電波によって証明され、全国民の手によって晒されている。震える手で”姫”は騙された旨を投稿する。被害届を出すという考えよりも先にSNSを更新した。さっそくの反応が予想以上に拡散され、見知らぬアカウントからのコメントがどんどんどんどん溢れてきた。
投稿:どうしよう。騙されてた。お金渡しちゃってた・・・最近会ってくれないから不安で不安で仕方なかったのに。。。”姫”の投稿と写真をまとめようって・・・頭回らないよ
コメント「”姫”どした?」「大丈夫?」「本ってあのテレビでやってた詐欺の?」「かわいそう」「警察に行かないと」
「てか、そんなん信じるやついるの?ウケる」
”姫”が眉をひそめたコメントが一つあった。だが大勢のフォロワーの心配するコメントにすぐ見えなくなるかと思ったが、スクロールしていくとそのコメントを皮切りに一気に”姫”への誹謗中傷が溢れてきた。
「”姫”ちゃん大丈夫「騙されたやつここにおったわw」「うざ」「てか投稿見返したけど、金持ちで生まれたからって恵まれてるのに頭残念とかわらう」「そんなに美人か?」「買うやついるか分かるだろ常識的に」「頭残念がここにもいるとはw」「騙されんやついるの?嘘じゃねえの?」「嘘つきだろ」
「警察いった方がいいよ”姫”。大丈夫応援して「うっざ」「信者うぜえええええ」「普通頭がおかしいのを責めるだろ」「きもきもきもきも」「金持ちはこれからも騙されて金ばらまいてくださいね」「てか学生ってあるけど親の金だろ?親に土下座しろよ」「親かわいそう」「おつむが残念女」「可愛いかこいつ?本出ても買わんわwwトイレットペーパーなら使うけどwww」
誹謗中傷のコメントがあっという間に”姫”の目の前に溢れ出してとめどなく流れていった。コメント数は瞬く間に膨れあがって、”姫”に肯定的なコメントは肝心の”姫”の目に見えなくなっている。全員が敵になったと勘違いしてしまった。全世界中が自分を責め立てていると感じる喪失感。コメントには中には昔からフォローしていた名前がいて、そのコメントも昔からちょっと鼻についた。金持ちだからって勘違いしてる。てか自分の実力大したことなくね?イージーモードなんだからちょっとぐらい社会と同じ苦労しろよ。そんなコメントが立て続けに流れて、おしとやかで金持ちの優雅な女子大学生というブランドは集まってきた野次馬がそのイメージの皮をひっぺがして、その上から馬鹿な金持ちの苦労知らずというレッテルとべたべたべたべたと貼って満足して帰って行った。だが最初の野次馬から別の野次馬が次から次へと現れて、レッテルを見てゲラゲラ笑って自分達もともっとひどいレッテルを貼り付けて去って行く。その繰り返しで、”姫”のイメージはもはや本人を乗り越えた屈辱的な評価のままSNSに残り続けるだろう。一瞬で切り替わった世界の評価に”姫”はほんの数十分の出来事をただ眺めていた。だが次第に許せなくなっていた。気付いたらスマホの画面を握りしめて、SNSのライブ画面を起動したのも気付かないまま怒りで震えていた。
「・・・うっせぇ」
なんて?とコメントが流れていったのを気付かないまま、”姫”は叫んだ。
「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!!!!」
世界が変わった音がした。
「見せてあげる。私が見るしか無かった地獄のほんの、いっぺん」
”私”が次の得物を待ちわびながら一本また書き上げた。だが相変わらず閲覧数は伸びないでいる。
原典:一行作家