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プロローグ



魔界と聞いて人間たちはどんな姿を思い浮かべるだろうか?


血肉湧き踊る悲鳴の坩堝?

それとも規範的な統制だけで自由の無い閉塞の場?


実はそれはどちらも正しいもので、どちらも違っている。というのも俺の知る魔界とは地域ごとに特色があるからだ。


現界と呼ばれる人間たちの住んでいる世界との境界が薄い場所は騒がしく、逆に魔界の深層は静寂に包まれている。

そんな魔界に俺は住んでいた。

ちなみに俺が根城にしている巣は、比較的静かな場所で、あまり誰も来ない辺鄙な地域だった。実際めちゃくちゃ寂しかった。友達がいっぱいいる悪魔達が羨ましかった。


でも、まぁそんな訳で魔界と言われても自分にとっては穏やかな場所なのだ。血肉湧き踊るような凄惨な光景ともあまり関わりがなかった。

だから友達がいないことを除けば、不便を感じることもなく、周りの同族たちが「魔王」を目指して虎視眈々と人間界に忍び込もうと努力している姿を遠目に血の神殿と呼ばれる場所で暮らしていた。もちろんだが、自分も目指そうなんて考えたことも無かった。


だって、今が最高に楽しいし。



つまり、人間界に来るのは別に俺じゃなくても良かったはずなのだ。





「な、なん…」


鏡の中の自分の姿にワナワナと震える。

魔界でのおぞましくも威厳のある姿が、矮小な人間の子供姿に変わっている。

頭を触ってもかっこいい角がない。お尻を触っても可愛いしっぽが無い。

つまり、つまるところ、何故か!悪魔である俺が!


「なんで人間なんかに変わってるんだよー!」


頭を抱えて絶叫した。



***




とにかく、今の状況を整理しよう。


この世界は魔界と比べても空気中に含まれる魔力が薄い。けれど、聖力に満たされている訳でもない。

中途半端なパワーバランスの世界。


そう、ここは人間界だ。

人間界。魔族も天使も神様も精霊もいる人間の住む世界。

いやそれにしたって、だ。


「しかし、よりにもよってなんで俺?」


魔界には人間界に行きたい奴らがゴロゴロいる。

それなのに、こんなやる気の欠けらも無い奴が気付いたらここにいるのはどう考えてもおかしい。


しかも、だ。

何の悪戯か、悪魔である俺の精神体が人間の身体に入れられている。閉じ込められてると言ってもいい。

いや、まぁ魔界と違って人間界に存在するためには精神体である魔族の姿よりこっちの方が楽だから別にいいんだけど。


「にしたって、子供。しかも男。」


自分が倒れていた場所の傍に置いてあった大きな姿見を覗き込めば、そこには重めの黒い前髪の隙間から黒い目でこちらを見つめている。


「多分これが今の俺なんだろうな。信じ難いが。」


マジマジと見てみるが、目の下にクマは出来てるわ唇は切れてるわで散々な様子だが、着ている服はノリが効いておりパッと見ただけで高級品だとわかる。


あまりにもちぐはぐな男の子、もとい自分を見ていたがこのままじゃ埒があかないと鏡から目を離した。

それから、自分のいる場所を見渡す。目が覚めた場所は1本の蝋燭だけが光源の薄暗い部屋だった。

日常的に使われている部屋ではないようで、埃っぽく、窓は無い。恐らく倉庫のようなものだろう。

床を見れば赤い絨毯が敷かれており、そこではた、と気付く。


「これは、魔法陣…?」


よく見なければ分からなかったが、赤い血で魔法陣が描かれている。しかも、見覚えがある魔法陣。

読み解くまでもなく、理解した。これは魔界から魔族を召喚するためのものだと。


恐らく、自分はこれによってこの場所に呼び出されたのだろう。

なぜ分かるのか?それはこれが「俺を指定して呼び出すための魔法陣」で、俺が作ったものだからである。けれど、これは人間には知られていないはずのもの。


「一体誰が…」


顎に手を当てて考えてみるが心当たりが見つからない。…魔界に友達いないし…悲しくなんてないし。


いやいや、落ち込んでても仕方ない!頭を振って気分を切り替える。


そもそも、だ。この魔法陣で俺が召喚されたのは確実だとして、それにしたって足りないものが多すぎる。


「まず、生贄どこだよ…」

ここで大事になってくるのが生け贄だ。実は魔法陣で悪魔を呼ぶのだってタダじゃない。帰すのもしかり。

つまり何が言いたいかと言えば、俺だってさっさと魔界に帰りたいが、このままだと帰り道を作るための生贄が足りないということだ。


恐らく俺が今使っているこの身体の持ち主の魂が、俺がこの世界に来る為の生贄だったのだろう。しかし、この部屋の中には、魔法陣の描かれた絨毯と埃を被った骨董品とそれを置く棚。それから鏡と俺しか存在しない。


「これだと、魔界に帰れない…」


本当に困った。このままだと、この魔法陣に描かれた術式の内容では俺は魔界に帰れないのだ。

いやまぁ、帰れはする。…かなりキツい条件を満たさなければいけなくなるが。


簡単に言えば、俺を召喚した奴の命を使うか、2万人の人間の命を奪うか。

…普通の人間なら、悪魔を帰すのに失敗したら大量虐殺が起きると知ったらわざわざ悪魔を呼ばないだろうと保険で付けた条件だった。

こんなことになるなら付けなかったよ。誰だよこんな最悪な魔法陣作ったの。俺だよ。馬鹿がよ。


「2万人か、俺を呼び出した奴か」

一応、前者の方が悪魔らしくはあるが、面倒臭いという気持ちが強い。それになにより後者の方法でカタをつけなければ俺のこのストレスは発散できない。


だって考えてもみてくれ。

魔法陣が発動したということは条件は満たされていたということだ。この魔法陣は生者が3人以上いなければ発動しない。

つまり、俺を呼び出した後に、この身体の持ち主以外の人間はここから逃げ出したと言うことになる。


そう、悪魔の契約を踏みにじったのだ。


「使われないと思ってたからツメが甘すぎたな」


はぁ、とため息をつく。それから何かヒントはないかと魔法陣を作った時の記憶を呼び起こす。確か、あの儀式では…そうだ!


大事なことを思い出した。袖を捲り右腕の内側を見れば蔦が絡み合ったような心臓の形の痣。

魔法陣で召喚した際に参加した証として勝手に付けたマーク。


「このマークが付いてるやつをしらみ潰しに探すか。あーあ、めんどくさいなぁ…」


この苦労に見合う分だけ、呼び出した奴を苦しめて殺してやる。

そもそも魔族の契約を踏み倒すなんてバカにしてるとしか思えないし、殺される覚悟はあっただろう。よし、


「俺を呼び出したことを後悔させてやる…」


フッフッフと一応悪魔っぽく笑いながら言ってみる。

…なんかこれ恥ずかしいな。まぁ、兎にも角にも。


最初に言った通り、俺は人間界に用事は無い。

けれど、呼んでおきながら契約不履行は頂けない。


人間界に新しくできた用事をさっさと済ませて帰るか、と楽観的に考えていた。

さっさと2万人分の魂を用意して帰ればよかった!と泣くことになるなんて、この時の俺は考えもしてなかったのである。



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