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6、壊れていく日常

 

 それからも姉さんいじめる日々は続いた。


 同じようにいじめていると姉さんに一度部屋に呼び出され、生ぬるいと怒られた。だから私はもっとひどいことをしたし、ひどいことを言った。その分私に対する罵詈雑言(ばりぞうごん)もひどくなっていった。頑張れば頑張るほど、私自身は傷ついていく。


 でもそのおかげで姉さんの方は順調に進んでいるようで、伯爵家に呼ばれることも増えた。きっともう少しで2人が結ばれる。そうすれば私も幸せになれる。もう嫌な思いをしなくて済むのだ。

 しかし、順調に進んでいると思った矢先に問題が起きた。


 いつも通り姉さんをいじめてパーティーから帰ってくると、お母様は私に怒り顔で近づいてきた。姉さんの希望とはいえ、大切な娘をいじめている私に対して当たりが強くなってきていた。最初はお母様も賛成していたのに、いざいじめられている姿を目にするとかわいそうだと思ったのだろう。しかし、姉さんのためだとわかっているのでどうしようもないこともわかっている。


 だから、最近姉さんへのいじめがエスカレートしていることに怒っているのだと思った。もう少し手加減して欲しいと言われるだろうと思っていた。しかし、お母様の口から出た言葉は意外なことだった。


「あんたノエルをいじめているそうね」

 一瞬意味が分からなかった。姉さんがそう望んで、お母様は私に踏み台になれと言ったのだ。それなのに今更何を言っているのか。私が好きでやっているわけじゃないのに。


「ええ。だって姉さんが」


 バチン


 乾いた音が響いた。

 私は何が起きたか一瞬理解できなかった。


 頬が痛い。どうして? 叩かれた? なんで?

 私の頭の中はパニックだった。


「奥様!? 一体どうされたのですか?」

 マリーが私を庇うように前に出る。私は頬を押さえてお母様を見た。

「どうもしてないわよ。この子がノエルをいじめているって今自分でも認めたじゃない。私の大切なノエルにそんなことするなんて、一回叩いたくらいじゃこの怒りは消えないわ」

 何がどうなっているのかさっぱりわからない。


「奥様、一度自室に戻って休まれた方がよろしいかと」

「マリーは黙ってなさい。私は今この子と話してるの。ねえ、一体どういうこと?」


 お母様は私の胸ぐらを掴み問いかけた。

「え、その」

 私は混乱して何も言えなかった。お母様が手を挙げたのが見えた。もう一発叩かれるそう思い目を(つむ)った時姉さんの声が聞こえた。


「お母様、ここで何をされてるんですか?」


「ね、姉さん。よかっ」

「ノエル。あなた大丈夫なの?」


 ドンッ


 お母様は私を押し退けて、姉さんのところに行った。私は押された勢いで尻餅をついた。

「ジュリアナ様!」

 マリーが駆け寄って私を支えてくれた。


「お母様、大丈夫って一体なんのことです? この通り私は全然平気ですよ? 何かあったんですか?」

「あなたがジュリアナにいじめられてるって聞いて。でも、もう大丈夫。私があなたを守ってあげるから」

 お母様は大切そうに姉さんを抱きしめた。私は一度でもお母様に抱きしめられたことがあっただろうか。


 姉さんは一度こちらを見て、この状況を察したようだ。


「ええと、そのことは後で話します。ひとまず部屋に戻りましょう」

「ノエルがそういうなら」

 2人が立ち去る時、姉さんはこっそり私に話しかけてきた。


「あなたも部屋に戻ってなさい。お母様と話した後、部屋に行くから」


 混乱していた私はマリーに支えられながら部屋に戻った。

「ねえ、マリー。お母様に何かあったのかしら」

 マリーはお母様に叩かれた頬の手当てをしてくれた。

「今はノエル様にお任せするしかないかと」

「ええ、そうね」


 私は不安な気持ちで姉さんを待った。一体お母様の身に何が起こったのか。

「ジュリアナ様」


 私が不安そうな顔をしていたからか、マリーは私の手を握ってくれた。気づかないうちに私の手は震えていたようだ。しかしマリーが握ってくれたおかげで、私は少し落ち着きを取り戻した。手の震えも収まった。


 そうしてどのくらい時間が経ったのだろうか。不意に部屋の扉が開かれた。


 そして、お父様と姉さんが入ってきた。お父様もやってきたとなると只事ではなさそうだ。それに2人の表情はどこか暗い。その顔を見ると、何か嫌な予感がする。

「マリーは外に出ていなさい」

 お父様は入ってくるなりそう言った。

「し、しかし!!」


 マリーはこんな状態の私を置いていけないと思ったのだろう。だが、お父様は口答えをしようとするマリーを睨んだ。普段から無愛想でただでさえ怖い顔をさらに怖くした。

「マリー、私は大丈夫よ。少し外で待ってて」

「……。かしこまりました。失礼します」


 マリーは名残惜しそうに部屋を出て行った。

 彼女の手が離れた途端、私の手はまた震え始めた。2人にバレないように私は手を強く握りしめた。


「ジュリアナ、落ち着いて聞きなさい」

 できることなら耳を塞ぎたかった。いい話のはずがない。しかし、お父様はそんな私に構わず話を続けた。


「医者が言うにはエミリアは病気だそうだ」

「お母様が病気? それは治るのですか?」

「完治することは難しい。それからお前も見たと思うが、エミリアはノエルがお前にいじめられていると思い込んでいる。何度か、本当のことを伝えようとしたが、聞き入れないどころか物に八つ当たりしたエミリアは怪我をしてしまった」


「え?」

「無理に真実を教えようとすると、脳に負荷がかかってしまうそうだ。そのせいで暴れてしまうらしい。そうならないためには、エミリアの思い込みに合わせるのが最善の手だそうだ」


 なるほど。なんとなくお父様の言いたいことがわかってきた。


「つまり、家の中でも姉さんをいじめろということですか?」

「まあ、そういうことだ」

「いじめるのをやめると言う選択肢はないのですか?」

「やめれば私もあなたの願いを叶えてあげることはできないわよ?」

 お父様に代わり姉さんがそう言った。


 言い方は優しかったがそれは脅しだ。

 あと少し我慢すれば私は幸せになれる。もしここでやめれば私に残るのは悪い噂だけだ。私にとってもメリットはない。


「わかりました。お父様の言うとおりにします」

 お父様は特に答えることなく話を続けた。


「それからもう一つ」


 もう話は終わったと思ったのにまだ何かあるらしい。


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