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4、出会い

 

 それから数日、同じようにみんなの前で姉さんをいじめる日々が続いた。

 日を追うごとに心が擦り切れていくのを感じる。姉さんをいじめることで私の心は痛む。そして、周りから向けられる視線や私を罵る言葉で私の心はさらに傷ついていく。


 しかし、そんなある日私に話しかけてくれた人がいた。その日もダンスが始まるといつものようにパーティー会場の外にある庭に出ていた。今はみんな楽しく踊っている。そんなところに1人で立っているのは苦痛以外の何でもない。


 その時後ろから誰かに声をかけられた。


「ねえ、ちょっといいかしら?」

「あなたは?」

 この会場にいる人は私のことをよく思っていない人ばかりだ。嫌がらせにでもきたのかも知れないと思い、警戒した。

「私はレナード家の三女、ルイーズ・レナードよ」

「レナードって」


 私は彼女を見た。派手ではないがいい生地を使っているのが目に見えてわかるドレス。佇まいはそこらの令嬢と比べ物にならないほどの上品さを感じる。


(間違いないこの方は)


「レナード様、先ほどは無礼な態度をとってしまい申し訳ございません」

「いいのよ、気にしないで」

「ですが、公爵家であられる方に私は」


 知らなかったとはいえ不敬罪であることに違いはない。公爵に無礼な態度をとって処刑されたものもいると耳にしたことがある。


 貴族社会では上下関係がはっきりと存在する。最下層のうちと公爵家では天と地の差があるのだ。


「ねえ、本当に気にしないで。身分なんてただの肩書きに過ぎないし、いっそなくなってしまえばいいのに」

 レナード様は驚くことを口にした。

 身分の低いものがそう言うなら納得できるけれど、何不自由なく過ごしてきたはずの公爵令嬢の発言とは思えない。


「私は公爵家の親から生まれたから公爵なだけで、私自身がすごいわけでも何でもないの。それなのに威張って好き勝手するのは間違ってると思うの」

 まるで誰かのことを言ってるような口ぶりだ。

「ああ、ごめんなさい。あなたにこんなこと言いにきたわけじゃないのよ」

 何かを思い出したかのようにそう言った。私なんかに何を言いにきたのだろう。


 彼女は改まってこちらを向いた。

「私と友達になってほしいの」

「え?」


(私と友達に? 公爵令嬢が?)


「私と友達になっても何もメリットはないと思います。私はみんなから嫌われていますから」

「知ってるわ。あなたがしてることも、周りがあなたのことをどう思っているかも」

「では、どうして?」


 知っていてなお、私と友達になりたい理由なんてあるのだろうか。

「単刀直入に言うわね。お姉さんをいじめてるのはあなたの意思ではないんでしょう?」

「ど、どうしてそう思うんですか?」


 背中から冷や汗が流れる。演技だとバレているのだろうか。

「そんなの見ればわかるわ。あなたいつも辛そうな顔してるもの。そんな顔をするくらいならいじめなければいいじゃない。でも、やめられない理由がある。そんなとこかしら」

「全部お見通しなんですね」

「ええ、公爵家にいればいやでも人を見る目は養われていくものよ」

「ですが、わざわざ私なんかと友達にならなくても」

「上部だけの関係ならたくさんいるわ。でもそんな関係じゃなくて本当に友達と呼べる人がほしいの。私もね周りが私のことをよく思っていないのはわかってる。公爵家の娘だから付き合ってくれてるだけなの」


 そういえば変わり者の公爵令嬢がいるという噂を聞いたことがある。さっきの身分が無くなればいいって発言もそう思われる要因の一つなのだろう。


「私、家族からもよく思われてなくて特にお父様には嫌われているわ。お姉様とかお兄様に比べて公爵家の自覚がないって。でもそれが何? 私はお父様の操り人形じゃないわ。私の人生だもの。私の好きなように生きるだけよ」


 彼女と私は真反対だ。私はそんな強くは生きれない。いいなりになってきた私とは違う。身分も何もかも。


「申し訳ございませんが、私とあなた様とでは生きてきた世界が違いすぎます。友達になることはできません」

「どうして? 生きてる世界が違うなんて言わないで。あなたも私なんかとは友達になりたくないのね」

「それは誤解です。ただ私はまだ死にたくないだけです」

「どう言う意味?」

「もし、私がレナード様と仲良くなったとして、レナード公爵は私をお許しになるでしょうか?」

「お父様には関係ないでしょう?」

 少し怒っているのが伝わってくる。しかし、怒らせた方が都合がいいかも知れない。


「いいえ、そうは思いません。レナード様は公爵としての自覚がないと言われたとおっしゃっていましたよね? その原因は私と仲良くしてるからだと思われて、私は処刑されるでしょう。私の命はその程度ですから」

「そんなこと」

「ないと言い切れますか?」

「そ、それは」

 彼女は口ごもった。貴族社会では身分低い私の扱いはそんなものだ。


「申し訳ございません。少し言いすぎてしまいました。ですが、どうかこれからも私に関わらないでください。それがお互いのためですから」


 最後のダンスの曲が流れ始めた。そろそろ会場に戻らなければ。

「それでは失礼致します」


 私はレナード様を残してその場を立ち去った。

 私を見てくれている人がいるのは嬉しかった。友達になってほしいなんて初めて言われたから。でも、私と公爵令嬢ではとても釣り合わない。


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