嗚呼、俺のウィザード様。(アールモンド&アーサー)2
アールモンドが言う
「余計な気使ってんじゃねぇよ アーサー」
アールモンドが思う
(大体そんな事より俺は…)
アーサーが言う
「そうだよね?ごめーん アーリィー」
アールモンドが思う
(俺は…)
アーサーが言う
「けど今日の方が 俺 上手く暖められたと思うから!食べよう!アーリィー?」
アールモンドが思う
(俺は…)
アールモンドが言う
「…おう」
アールモンドが食事に手を付ける アーサーが言う
「どう?アーリィー?」
アールモンドが言う
「普通だ」
アーサーが言う
「良かった!じゃ 俺も 頂きまーす!」
アールモンドがアーサーを見る アーサーがスープを飲んで言う
「うん!おいしい!やっぱりスープはこれ位 あったかい方が美味しいね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…ああ」
アーサーが料理を食べている アールモンドが思う
(…で?お前は?…今日は何処に 行ってたんだよ?アーサー?…俺に 何も言わずに… 勝手に)
アールモンドが言う
「…良く食うな?お前…?」
アーサーが言う
「うん!今日も俺 お腹空いちゃって!」
アールモンドが言う
「そうかよ…」
アールモンドが思う
(俺は 昨日も今日も 全然空いてねぇけどな… 寝てばかり居たからよ… なのに 何でお前は?お前は…)
アールモンドが沈黙してから言う
「なら こいつも食えよ?アーサー」
アールモンドが料理の皿をひとつアーサーの方へ置く アーサーが反応すると言う
「え?良いの?アーリィー?」
アールモンドが言う
「俺はそんなに 腹減ってねぇから…」
アールモンドが思う
(それで お前は…?今日は…)
アーサーが思い出して言う
「あ、けど アーリィー?アーリィーは 昨日もあまり食べて無かったよね?大丈夫?何処か調子が悪いんじゃ?」
アールモンドが言う
「そっちの心配はねぇよ 休暇のせいで 灯魔作業もやってねぇから 腹も減らねぇってだけだ」
アーサーが言う
「そう?そう言う事なら 良いんだけど」
アールモンドが言う
「残すと 嫌いなモンと勘違いされる だから 代わりに食えよ アーサー?」
アーサーが言う
「あ、そうだね?それじゃ 俺 貰っちゃうね?ありがと アーリィー!」
アールモンドが言う
「おう…」
アーサーが料理を受け取り食べ始める アールモンドがアーサーを見てから肩の力を抜き食事を進める
アールモンドが思う
(…それで?お前は?今日は… いや なら もう良い)
お湯が流れる音が響く
浴室
アーサーが言う
「湯加減はどう?アーリィー?」
アールモンドが言う
「普通だ」
アーサーが言う
「良かった けど 熱かったら言ってね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ…」
アールモンドが思う
(それよか 休暇は3日って言ってたよな?なら 明日は…)
アールモンドが言う
「アーサー 明日は」
アーサーが洗面器に泡を立てながら言う
「うん!明日は どうする?アーリィー?明日も俺 朝、アーリィーを起こしに行った方が良いかな?」
アールモンドが言う
「おう 明日は」
アールモンドが思う
(もう 休暇は終わりだぜ だから いつもの通りに…)
アールモンドが言う
「いつも通りに 起こしに来いよ アーサー それで 今日と同じで…」
アーサーが言う
「あ!今日と同じで良い?アーリィー?」
アールモンドが言う
「おう 今日と同じで…」
アールモンドが思う
(うん?今日と同じ?…それじゃ?)
アールモンドがアーサーへ向くと同時にアーサーが言う
「丁度良かった!」
アールモンドが言う
「は?丁度良かったって…?何がだよ?アーサー?」
アーサーが言う
「うん 実は俺 アーリィーにお願いしようと思ってたんだけど」
アールモンドが言う
「お願い?お前が?」
アールモンドが思う
(珍しいな?お前が俺に?そんな事 今までにあったか?)
アーサーが言う
「でも どっちでも良かったんだけどね 出来れば明日の午前中だけでも 休暇を貰えるかなって?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「きゅ…休暇かよ」
アーサーが言う
「うん!」
アールモンドが言う
「そうかよ…」
アールモンドが思う
(なら 理由を… 休暇が欲しいってンなら その理由を聞いても 良いよな?)
アールモンドが言い掛ける
「なら、何で…?」
アーサーがスポンジを絞って言う
「けど 今日と同じって事は 俺一日居なくても良いって事だもんね?だから 丁度良かったなって?」
アールモンドが衝撃を受けてから平静を装って言う
「お、おう… そうかよ」
アールモンドが思う
(今日と同じ… なら 明日休暇が欲しいって その理由も)
アールモンドが視線をそらして言う
「同じ… なのか?」
アーサーが言う
「え?何か言った?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…ンでもねぇよ」
アーサーが言う
「そう?なら良いんだけど?」
アールモンドが湯から上がる
翌朝
アーサーがカーテンを開くと言う
「おはよう!アーリィー!今日も良い天気だよ!」
アールモンドが眠そうに目を開くと言う
「だから 俺は 雨が良いって…」
アールモンドが思う
(眠い…)
アーサーが近くへ来てアールモンドの顔を覗き込んで言う
「アーリィー?」
アールモンドが言う
「おう…」
アーサーが言う
「アーリィー 今日は随分と眠そうだね?もう少し休む?今日までは休暇なんだし」
アールモンドが思う
(休暇か… 今日も休暇 昨日も… その前も… …結局 休暇ってぇのは…)
アールモンドが閉じていた目を開くと アーサーが心配そうに見つめている アールモンドが言う
「アーサー…」
アールモンドが思う
(そう言やぁ… 何か用があるみてぇだったな?休暇が欲しいとかって… なら…)
アールモンドが言う
「行けよ…」
アーサーが言う
「え?」
アールモンドがアーサーに背を向けて思う
(お前には何かあるんだろ?俺には何もねぇし… 休暇なんてもんは もう…)
アーサーの声が聞こえる
「俺は アーリィーの傍に居るよ」
アールモンドが驚き閉じていた目を開き アーサーの方へ視線を向ける アーサーが微笑んで言う
「まだ眠いのなら もう少し眠って アーリィー?俺、もう一度声をかけに来るから それで目が覚めたら いつもの様に過ごしたら良いんじゃなあい?アーリィー?」
アールモンドが言う
「もう一度…?」
アールモンドが思う
(その時も お前が…?)
アーサーが言う
「うん!アーリィーは慣れない休暇で ちょっと調子が狂っちゃってるみたいだから?俺はいつもと同じに過ごしていたから 変わらないけど アーリィーはこの2日間 いつも夕方に眠っちゃってたからね?あははっ」
アールモンドが言う
「そうか…」
アーサーが言う
「だから 少し眠って?後で俺が ちゃんと起こすから 大丈夫だよ アーリィー」
アールモンドが思う
(お前が起こしに来るのかよ… アーサー… けど お前… 休暇で… 何処か… …行くんじゃ)
アールモンドが眠りに着く アーサー微笑し アールモンドに毛布を掛け直す
≪次に声を掛けられて 俺が目を覚ました時にも アーサーは居た≫
アールモンドが目を覚ますとアーサーが近くで言う
「おはよう アーリィー 今度は目が覚めた?」
アールモンドが思う
(居たのかよ アーサー …本当に)
アールモンドが言う
「ああ」
アールモンドが右手を向けると アーサーがその手を引いて アールモンドが起きるのを助ける
≪部屋に入る日の角度は いつもとは違うが 他はいつもと同じだ≫
アーサーが手際よくアールモンドの体に法魔帯を巻いて行く アールモンドが無言で見つめ 顔を逸らすと アーサーが作業を一区切りさせてアールモンドを見上げ 微笑する アールモンドが左手を向けるとアーサーが法魔帯を巻き始める 法魔帯を巻き終え インナーを着せると アーサーがクローゼットへ向かう アールモンドが追って向かうと アーサーが法衣を手に言う
「あ、法衣はどうする?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…ああ」
アーサーが微笑すると アールモンドに法衣を着せる
≪…多少は違っても≫
アーサーが帽子を手に首をかしげる アールモンドが無言でアーサーの手から帽子を取り頭にのせる アーサーが微笑すると言う
「明日からは いつも通りになるね?アーリィー?初日はどうしようか?最初は調子を見る為にも 魔力供給にする?それとも?」
アールモンドが言う
「そうだな…」
アールモンドが考えてから言う
「そいつの答えは 後でも良いかよ?アーサー?多分問題ねぇと思うけど あんまりにも休み過ぎたからな?」
アーサーが軽く笑って言う
「あっははっ そうだね アーリィー それじゃ また後で!」
アールモンドが微笑して言う
「おう」
アールモンドが思う
(よし この感じだ これで良いぜ これが―)
アーサーが微笑して言う
「俺 戻ったら アーリィーに聞きに来るから」
アールモンドが反応する アーサーが言う
「多分 5時前には戻れると思うから 奉者協会への予定報告も ギリギリ間に合うと思うんだよね?それに もし 間に合わなくても 明日の朝一番に連絡すれば 灯魔台の確認も間に合うらしいから」
アールモンドが沈黙する アーサーが時計を確認すると言う
「それじゃ アーリィーも行ってらっしゃい!俺も 何とか間に合いそうだし また夕方に会おうね!アーリィー!」
アーサーが走って部屋を出て行く アールモンドが沈黙してから 部屋の窓へ向かう
窓の向こうエントランスから続く正門への道をアーサーが荷物を背負って走り去って行く
アールモンドが窓から離れると視線をそらして言う
「…チッ」
アールモンドが思う
(ンだよ… やっぱり 行くのかよ…っ)
アールモンドが再び窓の外を見て言う
「あんなに急いで…」
アールモンドが思う
(…お前は何処へ行きてぇんだよ?)
≪アーサー…≫
アールモンドが悔しそうに歯を食いしばると言う
「…クソッ」
アールモンドが踵を返して部屋を出て行く
土手
アールモンドが魔力を収集しようとして止める 数歩坂を下りそこを見下ろすと 幻想のアーサーがしゃがんで風を感じて居る アールモンドが思う
(そういや 考えた事も無かったな…)
アールモンドが顔を上げて風景を見ながら思う
(俺がいつも ここでウィザードとして… 魔力者として 修行をしている間 アイツは何をしている?)
アールモンドが振り返り視線を向けて思う
(アイツは俺の奉者だ だったら 俺がウィザードとして修行をしているなら アイツも奉者としての仕事をしている …と思っていたが)
アーサーが言う
『俺が普段やる事は それこそ 他の奉者の子たちからすれば 休暇みたいなものだし?あれ?それじゃ 俺っていつも休暇してるのかな?一日一回の奉者の電話以外はね?あははっ』
アールモンドが言う
「なら…?」
アールモンドが思う
(それこそお前は…?今…?)
アールモンドが言う
「何やってんだよ?」
≪アーサー…≫
アールモンドが考えてから溜息を吐き言う
「…チッ」
アールモンドが思う
(分かる訳ねぇだろっ)
アールモンドが言う
「クソッ…」
アールモンドが杖を掲げると風に消える
レイモンド邸
アールモンドが風魔法で現れるとエントランスへ向かう
アールモンドが思う
(今日こそ戻って来たら聞いてやるっ)
アールモンドが言う
「アーサーの奴…っ」
アールモンドが思う
(これで本当に クソ下らねぇ用だったら ただじゃ置かねぇぞ…!)
アールモンドが立ち止まり思う
(…てぇ)
アールモンドが肩の力を抜いて思う
(これから そのアイツが戻るまで また不貞寝しようかってぇ 俺が言うのもどうかと思うが…)
アールモンドが思わず苦笑してから気付くと思う
(…うん?今日もか…?)
アールモンドが周囲を一瞥すると思う
(アーサーが居ねぇのはともかく 他の連中は?)
アールモンドが言う
「客でも来たらどうするよ?」
アールモンドが思う
(まぁ 来ねぇだろうが)
アールモンドが溜息を吐くと言う
「どいつもこいつも…」
アールモンドが思う
(仕事しろってンだ)
アールモンドがぷいっと顔を背けて立ち去ろうとすると遠くからメイドたちの声がする
「アーサー様ぁー!」 「アーサー様ぁ~ 頑張って~!」
アールモンドが足を止めると呆気に取られて言う
「アーサー?」
アールモンドが声のした方へ顔を向け 向かう
アールモンドがやって来ると 控室のドアが開いていて メイド2人が控室でTVを見ているのが見える アールモンドが疑問すると メイド2人がハッと息を飲む アールモンドが疑問すると 次の瞬間2人が喜びの悲鳴を上げて言う
「「やったわーっ!!」」 「アーサー様ぁ!」 「アーサー様ー!素敵ー!」
アールモンドが思わずビクッと驚き思う
(な、何だ?)
メイドたちがアールモンドに気付かないまま言う
「はぁ~ 結果の分かってる午前試合のダイジェストだって分かってても叫んじゃうわ~!」 「んもぉ~ これを現地で見てるハミネが羨ましいわよねぇ?」
アールモンドが思う
(午前試合?現地で見てる…って?)
メイドたちが言う
「ホントよぉ アーサー様ったら 自信はともかく全試合は出場出来ないと思うから なんて言われるからぁ~!」
アールモンドが思う
(アーサーが?…出場?)
メイドたちが言う
「でも、さっきのハミネからの電話だと ホントに後少しでアーサー様 今日の午前の試合に間に合わなくて 不戦敗になる所だったらしいわよ?」
アールモンドが思わず一歩踏み出す ドアが軋むが メイドたちは興奮に気付かず話を続ける
「まぁっ!?そうなの?勿体無い この調子なら この後の決勝戦も勝てちゃうんじゃない?」
「ええ!アーサー様なら きっと優勝よっ!!」
アールモンドが言う
「おい」
メイド2人が驚いて飛び上がると慌てて振り返って言う
「アールモンド様っ!」 「坊ちゃまっ!」
アールモンドが言う
「アーサーが何だ?試合って どう言う事だ?」
アールモンドがメイド2人を交互に見て問うと メイド2人が呆気に取られて顔を見合わせてから言う
「は、はい そちらは もちろん…?」 「アーサー様が ただいま出場中の…」
メイド2人が顔を見合わせてから 声が重なる
「「世界フェンシング大会の…っ!」」
アールモンドが疑問して言う
「…フェンシング大会?」
アールモンドがTVへ向くと画面にはフェンシングの試合が映されている アールモンドがTVへ近づくと メイドが言う
「私共も普段はあまり見ないのですが」 「今回はアーサー様がご出場なさるとの事でしたので!」
アールモンドが思う
(フェンシング大会…?何だよそいつは?しかも 俺が知りもしねぇ ンなモンに アーサーが…?)
アールモンドがTVを睨む メイド2人が顔を見合わせる TVの中では試合に勝利した選手が観覧席へ礼をしている アールモンドの意識の中 灯魔作業を終えたアールモンドがアーサーへ帽子を押し付けて立ち去ると アーサーが帽子を手に礼をしている姿が思い出される アールモンドが気付くと同時にTVから歓声が上がり ファンたちの黄色い悲鳴が聞こえる
『キャァー!アーサー様ぁー!』 『アーサー様ぁー!!』
アールモンドが反応してTVを見ると 映像に観覧席の様子が映る メイドが言う
「アーサー様の人気は凄いのですよ?」 「そうですよ?何と言っても この試合がライブ中継されるのだって アーサー様の人気のお陰なんですからっ」
アールモンドが言う
「ライブ中継?この試合 …今 やってンのかよっ!?」
メイドたちが言う
「そうですよぉ!もう直ぐ 決勝戦!アーサー様が映りますよ!?」 「アールモンド様も どうか応援して下さいまし!?」
メイドたちが画面へ向く アールモンドが画面を見ると そこに映し出されている 闘技場の風景で思い出す
幼い魔法使いのアールモンドが見る先 闘技場でフェンシングの試合が行われている 周囲の客席が賑わっている アールモンドが欠伸をしてから横を向くとアールモンド父が微笑して試合を観戦している アールモンドが父の様子に微笑してから正面へ向き直ると再び欠伸をする 周囲がワッと盛り上がりアールモンドが驚き父へ向く 父が満足げに拍手をしている アールモンドが疑問すると 幼いアーサーの興奮した声が聞こえる
『やったあ!父さんっ!父さんがっ!!』
アールモンドが言う
『アーサー?』
アールモンドの声に アーサーが振り返ると 興奮のままに言う
『アーリィー!父さんが!俺の父さんが勝ったよ!俺の父さんが 世界一のフェンサーだよ!アーリィー!』
アールモンドが言う
『世界一の…?』
拍手が高鳴るアールモンドが驚くと アールモンド父が立ち上がり拍手をしている アールモンドが父の視線の先を見ると 1人のフェンサーがアールモンド父へ微笑してから礼をする アールモンド父が頷く アールモンドが顔を向ける アーサーの声が聞こえる
『とーさーん!』
アールモンドの脳裏にアーサーの声が聞こえる
≪アーリィー…≫
アールモンドが悔しさに手を握り締めて言う
「…ンの馬鹿っ!」
メイド2人が振り返ると同時に アールモンドが部屋を飛び出して行く メイド2人が驚き言う
「坊ちゃまっ?」 「アールモンド様ー?」
メイド2人の視線の先 アールモンドの帽子がふわりと落ちる
試合会場
アーサーが目を閉じてチェーンの通された銀の指輪に言う
「アーリィー… 俺 勝つから」
アーサーが目を開く 会場からコールが掛かる
「決勝戦!両選手!ピストへ!」
アーサーが立ち上がる
レイモンド邸 メイド控室
メイド2人が言う
「来たわ!アーサー様よー!素敵ー!」 「アーサー様ぁー 本当にいつもと違って 凛々しいんだからっ!」
TVから審判の声が聞こえる
『ラッサンブレ!サリューエ!』
メイド2人が黄色い悲鳴を上げる
「キャァー 何度見ても 格好良いわ~!!」 「アーサー様ぁー!」
TVから審判の声が聞こえる
『アン・ガルド!』
試合会場 観覧席
場内がワッと盛り上がる 観覧席への通路へ強風と共にアールモンドが飛んで来て勢いのままに床にバウンドして転がる アールモンドが悲鳴を上げる
「イテェッ!!のあぁあっ!?」
到達した会場内は 凄い熱気 アールモンドが頭を抑えつつ言う
「イッテテ… クソ 風の魔力が…」
ファンたちが叫ぶ
「アーサー様ぁー!」 「アーサー様ぁあ~!!」
アールモンドがハッとする言う
「そ、そうだったぜっ」
アールモンドが思う
(今はンな事より!)
アールモンドが立ち上がると観覧席後部の手すりに駆け寄りハッとする
≪アーサー!?≫
アールモンドの視線の先 2人のフェンサーが試合をしている ファンたちが叫ぶ
「アーサー様ぁー!」 「アーサー様ぁー 頑張ってぇー!」
アールモンドが言う
「アーサーはっ!?」
アールモンドが思う
(アーサーはっ!?アーサーは…っ)
アールモンドが衝撃を受けて言う
「どっちだっ!?」
仮面の下 アーサーが真剣な面持ちで思う
(強い…っ 流石は世界大会連勝者…っ 今までの選手とは 格が違うっ)
アーサーが唇を噛締める
アールモンドが唇を嚙締めて思う
(クソッ どっちだよ!?アーサー!俺は どっちを応援したら良いんだよっ!?)
アールモンドが2人の選手を交互に見て思う
(青かっ!?白かっ!?)
ファンが叫ぶ
「アーサー様ぁー!!」
アールモンドが頭を抱えて思う
(だから どっちが アーサーだって!?っ!?)
青いマスクのフェンサーが間合いを詰めて勝負に出る アールモンドがハッとする
(アーサーっ!?)
会場内が一段と盛り上がる アールモンドが衝撃を受けて思う
(アーサーっ!?青かっ!?青なのかっ!?お前 青だろっ!?お前が 青で居ろっ!アーサー!)
アールモンドが叫ぶ
「アーサー!!」
白いマスクのフェンサーが勢いを取り戻す アールモンドが衝撃を受けて言う
「白っ!?白かっ!?」
アールモンドが思う
(どっちだっ!?どっちか分かんねぇ!周囲の魔力が邪魔でアイツらが見えねぇ!クソッ!ならもうどっちだって良い!)
アールモンドが叫ぶ
「勝て!!アーサー!!」
青いマスクのフェンサーが圧し始める アールモンドが衝撃を受けて言う
「青かっ!?」
マスクの中 アーサーが気付いて思う
(焦り始めた?彼も限界か? これなら… 後一息っ!)
アーサーが視線を強めると 顎を引き視線を強める
両フェンサーが剣を交える 周囲が興奮の坩堝 一番遠くに居るアールモンドが見入る
アーサーの視線の先 相手の剣先が向かって来るのをそらし 自身の剣先を突く 相手が再び剣を突こうとした瞬間 アーサーが思う
(勝負に来るっ!これで…っ!!)
アールモンドがハッとする 細い金属の重なる音がする 会場内が息を飲む 白いマスクが宙を舞う中 切れたユニフォームの首元から 剣先にチェーンを引かれた ネックレスの指輪が飛び出す アールモンドが呆気に取られると 機械ブザーが判定を下し 審判が言う
「有効!勝者 青!アーサー・スペイサー!!」
会場内が割れんばかりの熱狂に包まれる アールモンドが叫ぶ
「やったぜっ!アーサー!!」
アーサーが青いマスクを外し息を吐くと微笑する 首には指輪の通されたネックレスがある
アールモンドの周りでファンたちがアーサーへ叫んでいる
「アーサー様ぁー!」 「キャァー!アーサー様ぁー!」
アールモンドが喜びのままに叫ぶ
「アーサー!!」
ピストでは試合終了の挨拶をしている ファンたちが黄色い声援声援を上げる
「素敵ー!」 「アーサー様ぁー!」
アールモンドが微笑する アールモンドの視線の先 対戦者と握手を済ませたアーサーが4方の観戦席の人々へ礼をしている ファンたちが自分たちへ向かっての挨拶を待っている中 アールモンドの前に居るファンがふと振り返ると驚いて言う
「…えっ?…アールモンド様?」
アールモンドがハッとする 周囲のファンたちが反応して次々と振り返ると言う
「アールモンド様!?」 「嘘っ!?本物!?」 「アールモンド様よ!?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「あっ やべぇっ」
アールモンドが杖を引くと風に消える ファンたちが騒ぐ ピストでアーサーが挨拶をしていて 一角の騒ぎに一瞬疑問してから微笑して礼をする
レイモンド邸
アールモンドが風魔法で現れると 軽く息を吐いて思う
(最後までは見てやれなかったが…)
アールモンドが微笑して言う
「やったな?アーサー…」
アールモンドが顔を上げると メイドたちが微笑して出迎えをしている 手にはアールモンドの帽子がある アールモンドが呆気に取られ 自分が帽子をかぶっていない事に気付くと 苦笑してメイドたちの待つエントランスへ向かう
幼いアールモンドがベッドの中で欠伸をする ベッド脇で幼いアーサーが本を読み聞かせている
『…の モンド王へ ハーペンサーは言いました この世界の平和のため 我が王のため この命尽きる時まで…』
アールモンドが思う
《今日の話は詰らないな… 珍しい生き物も出てこないし… 不思議な事も起きないし…》
アーサーがページをめくって読み続ける
『王の命を受けたハーペンサーは お供の クレッセンサーと共に ローセンサーの後を追い…』
アールモンドが思う
《魔法使いも出てこない… 出てくるのは なんかサーサー付く人間ばっかりだし… …ん?サーサー?》
アールモンドが欠伸をする アーサーが気付くと微笑してページを飛ばして言う
『見事務めを果たした ハーペンサーは 今は亡き唯一無二の親友にして 永遠のライバルとした クレッセンサーとの誓いを持って モンド王へ旅の報告を行うと 夢に見た王への誓いを今一度…』
アールモンドが言う
『アーサー?』
アーサーが言う
『うん?なあに?アーリィー?』
アールモンドが言う
『アーサー お前は 何て名前なんだ?』
アーサーが衝撃を受けて言う
『え!?アーリィーが今 呼んでくれたじゃない?俺の名前はアーサーだよ!アーリィー?』
アールモンドが言う
『アーサーは知ってる けど 他は知らない 俺は アールモンド・レイモンドだぞ?アーサー?』
アーサーが微笑んで言う
『何だ そう言う事?俺びっくりしたよ アーリィー』
アールモンドが言う
『アーサーは俺の世話役だろ?だったら 俺に名前を教えろよ アーサー』
アーサーが笑顔で言う
『うん!良いよ アーリィー!俺の名前は アーサー・スペイサーって言うんだよ アーリィー』
アールモンドが言う
『また サーサーか』
アーサーが疑問して言う
『え?サーサーって なあに?アーリィー?』
アールモンドが言う
『お前も サーが付く名前だ アーサー スペイサー それも2回も付く 本の中と同じだな?』
アーサーが気付くと 微笑して言う
『ああ!それはね!アーリィー!…』
アールモンドが目を覚ますと 薄暗い室内のソファ アールモンドが寄りかかっている先で アーサーが言う
「おはよう!アーリィー!今日も良く寝てたね?」
アールモンドが微笑して言う
「おう」
アーサーが反応すると微笑して言う
「最後の休暇はどうだった?アーリィー?」
アールモンドが身を起こすと言う
「そうだな?」
アールモンドが思う
(悪くなかったぜ?お前のお陰でな?"アーサー")
アールモンドが言う
「お前はどうだよ?アーサー?」
アーサーが言う
「うん?俺?」
アールモンドが言う
「ああ」
アールモンドが思う
(さぁ どう言う気だ?アーサー?俺に黙って大会へ出ていたんだ お前の事だ また相槌の ごめんを言ってから 言うのか?それとも…)
アールモンドがアーサーへ向きながら思う
(昔のお前の様に お前の父親が優勝した あの時みたいに めい一杯喜んで俺へ報告するのか?どっちでも良いぜ アーサー?さぁ 早く言えよ そしたら 今度は俺が お前を驚かしてやるよ?アーサー 俺も お前の勝利を この目で見ていたんだって―)
アーサーが言う
「俺の休暇は いつもと同じだよ?アーリィー?」
アールモンドが呆気に取られて言う
「…え?」
アーサーが微笑して言う
「けど 今回はアーリィーが休暇で 俺も奉者の仕事に加えて 世話役としても休暇だったから 一日中 同じ事をしていたって感じかなぁ?あははっ」
アールモンドが呆気に取られて言う
「…な …ンだよ?そりゃ…?」
アーサーが言う
「あれ?俺 言わなかったっけ?俺はアーリィーの奉者だけど 食事やなんかのお世話はしないから 1日1回の奉者協会への電話以外は 休暇みたいなものだって?だから アーリィーの休暇中も 俺は 普段と同じ様なものだったよ?」
アールモンドが思う
(…何言ってンだよ アーサー?お前が俺に言うのは そんな言葉じゃねぇだろっ!?)
アーサーが言う
「それより アーリィーは 今日もお腹は空いていないの?もう直ぐ6時になるけど?」
アールモンドが思う
(何で言わねぇっ?優勝したンだろう?今度は お前が世界一のフェンサーに なったんじゃねぇのかよ!?父親の時には あんなに喜んでいたくせにっ!?)
アールモンドが言う
「…ンでっ!?」
アーサーが言う
「え?なあに?アーリィー?」
アールモンドが思う
(何で言わねぇんだっ!?アーサーっ!?)
アールモンドが俯いて言う
「…マエ 報告する事… ねぇのか…っ?」
アーサーが呆気に取られて言う
「報告?えーっと?ああ!ひょっとして!?」
アールモンドが顔を上げる アーサーが言う
「奉者協会への明日の予定報告なら 明日の午前中にすれば間に合うから 安心して?アーリィー」
アールモンドが言う
「…あぁっ!?」
アールモンドが思う
(どう言う事だ?何で…っ!?)
アールモンドが呆気に取られていると アーサーが思い出して言う
「あ、それはそうと アーリィー?今日はね?」
アールモンドが言う
「おう!今日は!」
アールモンドが思う
(お前がフェンシング大会で…っ!)
アーサーが笑顔で言う
「夕食がとっても豪華なんだよ!?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「ゆ、夕食… かよ…っ?」
アーサーが笑顔で言う
「うん!クリスマスでも無いのに ローストチキンとかあってね!?」
アールモンドが思う
(クリスマスでもねぇのに ローストチキン… ああ… なるほど?そいつはきっと)
アーサーが言う
「だからアーリィーも見に来てみてよ?きっとアーリィーもあの食卓を見れば お腹も空くと思うから!」
アーサーが立ち上がって手を差し伸べる アールモンドが沈黙して思う
(…なら そこで… って事なのか?)
アールモンドがアーサーの手に掴まる
ダイニング
アーサーが言う
「ほら!見て アーリィー!豪華でしょ!?」
アーサーの示す先 少し豪華なメニューが置かれている アールモンドが思う
(こりゃ言うまでもねぇ アーサー この料理は お前の優勝祝いだぜ?なのに お前は…)
アールモンドが言う
「そうだな アーサー お前の言う通り まるでクリスマスだな?」
アーサーが言う
「そうでしょう?プレゼントが無いのは 相変わらずだけどね?あははっ」
アールモンドが言う
「ああ 大体 ンなモン 誰が何のためにやるモンなんだよ?」
アーサーが言う
「そうだね?友人とのプレゼント交換何て言うのなら 分からないでも無いけど アーリィーと俺だとそれも難しいもんね?」
アールモンドが思う
(プレゼントか… そう言や 考えもしなかったな)
アーサーが言う
「それじゃ 俺 早速 温め直して来るから!」
アールモンドが言う
「おう… 焦がすんじゃねぇぞ アーサー?」
アーサーが言う
「うん!俺 気を付けるよ アーリィー!」
アーサーが食事を運んで行く アールモンドが思う
(…で?)
浴室
湯に浸かる音が聞こえる アーサーが石鹸を泡立てて居る アールモンドが湯に浸かっていて思う
(…何で言わねぇんだよ?アーサー?)
アーサーが言う
「夕食美味しかったね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…おう」
アールモンドが思う
(確かに半年ぶりのチキンは旨かったが…)
アーサーが言う
「明日からはいつも通りの生活に戻るから お風呂済ませて 早くベットに入らないと ごめんね アーリィー 本当は 食休みさせてあげたかったんだけど」
アールモンドが言う
「餓鬼じゃあるめぇし ンなの問題ねぇよ アーサー」
アールモンドが思う
(ンな事より… そろそろ言わねぇってンなら こっちから聞くか?)
アールモンドが言う
「アーサー」
アーサーが言う
「アーリィー」
アールモンドが衝撃を受けて思う
(…!ついに 言う気かっ!?)
アーサーが言う
「あ、ごめーん アーリィー 先に言って?」
アールモンドが言う
「いや!良いっ!お前が言えっ アーサー!」
アーサーが言う
「そお?なら 俺から言っちゃうけど?」
アールモンド言う
「おう 良いぜ?聞いてやるぜ?アーサー!」
アーサーが言う
「アーリィー 俺」
アールモンドが言う
「おう!」
アールモンドが思う
(さあ!言え!アーサー!!)
アーサーが言う
「明日の予定 奉者協会へ何て連絡したら良いかなぁ?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて思う
(って!?そっちかよっ!?)
アールモンドが脱力する アーサーが衝撃を受けて慌てて言う
「えっ!?アーリィーっ!?大丈夫!?やっぱり お腹痛くなっちゃったっ!?」
アールモンドが怒って言う
「ちがうっ!」
アーサーが言う
「そお?なら良かったけど」
アールモンドが怒りを嚙み殺して思う
(この野郎は…っ こっちが こんなに待ってやってるってぇのに…っ!)
アールモンドが湯から出る
ドライヤーの音がする アーサーがアールモンドの髪を乾かしている アールモンドが思う
(…あぁ ここまで来りゃ もう…)
アールモンドがドライヤーも風を受けて心地よく思う
(昼間のあの喜びも興奮も… 風呂の湯とドライヤーの風に流されて…)
アーサーが言う
「はい 乾いたよ?アーリィー?後はちょっと 熱を逃がそうか?風をクールにして はい!ぴゅ~!どお?涼しい?アーリィー?」
アールモンドが風を受けて言う
「ああ… もうどぉでも良くなって来たぜ アーサー」
アーサーが疑問して言う
「え?それは何の話?アーリィー?」
アールモンドが言う
「何でもねぇよ …それよか さみぃぞ?アーサー?」
アーサーが衝撃を受けて言う
「あっ!ごめーん アーリィー ちょっと当て過ぎちゃったね?それじゃ もう一度 温めとく?」
アールモンドが言う
「相変わらず お前って奴は …もう良い 寝る」
≪その後もアイツは フェンシング大会の話を 俺に話す事は無く 何時その話をされるのかと身構えている俺の方が 馬鹿らしくなるくらいに アイツはいつもの通りだった…≫
翌日 土手
アールモンドが魔力を収集している
≪ともすれば いつかの朝の様に 今度は自分の事が書かれている新聞を手に 俺を起こしに来るのかとも 考えていたが そんな事も無かった≫
アールモンドの周囲に魔力が集まっているが アールモンドが耐え切れずに欠伸をすると 集まっていた魔力が散って行く アールモンドが呆れて溜息を吐いて言う
「…眠みぃ…」
アールモンドが土手を下りて行き 程よい所で立ち止まると間を置いて 芝生の上に寝転んで言う
「あ~!もう!寝ちまえっ!はぁ~~…」
アールモンドが空を眺めながら思う
(何で言わねぇんだよ?アーサー… 嬉しくねぇのかよ?)
アールモンドが横を向いて思う
(…いや 嬉しくねぇ筈がねぇ 嬉しくねぇような大会に あんなに急いで向かうかよ?ともすれば 俺に休暇を申請してまで 向かおうとしてたんだ その大会で優勝した… 嬉しくねぇ筈がねぇ …だったら?)
アールモンドが言う
「何で言わねぇんだよ?」
アールモンドが思う
(俺に…)
アールモンドがハッと気付く 風が吹き アールモンドの目前に咲いていた花が揺れる アールモンドが言う
「なんで俺に言うんだ?」
アールモンドが思う
(そうだ アイツが嬉しくねぇ訳じゃねぇ それを俺に言う必要がねぇって?アイツは そう思っているのか?そもそも 何でアイツが 俺に言う必要がある?それは… アイツが俺に話す事って言ったら…)
アーサーが言う
『アーリィー 俺 明日の予定 奉者協会へ何て連絡したら良いかなぁ?アーリィー?』
アールモンドの前で花が風に吹かれる アールモンドが悔しがり言う
「クソッ!」
アールモンドが花を叩くと起き上がる
レイモンド邸
アールモンドがエントランスへ向け歩いている エントランスの前を箒で掃除していたメイドがハッとして道を開けて礼をして言う
「お、お帰りなさいませ ウィザード様!」
アールモンドがメイドの前を素通りする メイドが反応し顔を向ける アールモンドが立ち去って行く メイドが不満そうな顔をして言う
「…なによっ 折角 少しは良い子になったと思ったのに…」
アールモンドの耳元に風と共に魔力が過ぎてメイドの声が聞こえる
『あんな我儘お坊ちゃまの お世話係 だなんて アーサー様も お可哀そうに』
アールモンドが不満げに言う
「ふんっ 世話係?」
アールモンドが思う
(アイツは世話係なんかじゃねぇ …もし本当に ただの世話係なんかだったとしたら…っ)
アールモンドが立ち止まり顔を上げると 視線の先 アールモンドの部屋の前にアーサーが立っていて微笑して言う
「おかえり!アーリィー!」
アールモンドがアーサーを見てから苦笑して言う
「…おう」
アーサーが微笑して ドアを開ける アールモンドが部屋へ入る アーサーが追って入ると言う
「調子はどう?アーリィー?奉者協会へは 今朝アーリィーから言われた通り 今日の午後は 魔力供給を行うって 伝えて置いたけど?」
アールモンドが言う
「そうだな それで良いぜ アーサー」
アールモンドが帽子を取ると アーサーが受け取り 自分の頭に仮置きして アールモンドの法衣を脱がせる アールモンドがソファへ座る アーサーがアールモンドの帽子と法衣をポールハンガーに掛け ティーセットの用意をしている アールモンドが思う
(アーサーが俺の世話係と言う名で 俺の傍に居る様になったのは 俺が魔証印を受託した その頃からだ 対する あいつ(メイド)らは 俺が生まれる前から この屋敷で働いていたらしい …つまり 時間で言うのなら 俺とアーサーとの時間よりも 俺とあいつらの方が長いと言う事になるが)
アーサーがティーポットにお湯を注ぎながら言う
「アーリィーと一緒にお茶が飲めるのも 何だか久しぶりだね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ まったくだぜ」
アーサーが疑問して言う
「まったく?」
アールモンドがティーポットの上に手をかざして言う
「ああ 俺はこの3日間 飲んでなかったからよ?」
アーサーが言う
「そうだったの?何だか意外だけど?」
アールモンドが思う
(飲みたくても 飲めなかったんだ… とは 言えねぇが…)
ティーポットの上に淡い黄色の円がふわっと浮き上がる アーサーがそれを見て微笑して言う
「俺は この3日間も いつもと同じ様に 普段アーリィーと一緒に お茶を飲んでいる時間に 紅茶を飲んでいたんだけどね 不思議なんだよね?同じ葉を使っているのに 味が違うんだよ?」
アールモンドが紅茶を注ぎながら言う
「ったりめぇだろ アーサー?ウィザード様の紅茶を頂いておきながら 今更かよ?」
アーサーが自分の前に注がれた紅茶を取ると 笑って言う
「ごめーん アーリィー?だって 俺 アーリィーに淹れてもらう紅茶以外の紅茶なんて 今まで飲んだ事が無かったものだから?」
アールモンドが自分のカップに紅茶を注ぎながら言う
「ふんっ そうかよ」
アールモンドが思う
(まぁ そうだろう なんせ コイツは ずっと俺と一緒に居るんだ その俺と日に2回も紅茶を飲んで居りゃ それ以上には 余程でなければ 飲まねぇだろう)
アールモンドが紅茶を飲む アーサーが紅茶を飲んで言う
「うん!やっぱり アーリィーに淹れてもらった紅茶は とっても美味しいよ アーリィー!ありがと!」
アーサーが再び紅茶に口を付ける アールモンドが鼻で笑い微笑すると思う
(…ああ 美味いだろう?そもそも この茶だって 元はと言えば お前の為のものなんだぜ アーサー?魔力を込めた紅茶… これは お前に俺の魔力を分け与える為にあるンだ …俺の従者である お前に)
アーサーが紅茶を飲み干すと アールモンドが言う
「そんなに旨いなら まだあるぜ?飲めよ?アーサー?」
アーサーが言う
「え?良いの アーリィー?ウィザード様の 貴重な紅茶をいっぱいもらったら 何だか悪い気がするけど?」
アールモンドが言う
「構わねぇよ お前は 俺の… 世話役だろ?アーサー?」
アーサーが微笑して言う
「うん!それじゃ 俺 もっといっぱいアーリィーの為に 働かないとね?」
アールモンドが一瞬反応してから言う
「…っ これ以上は良いからな」
アーサーが疑問して言う
「え?これ以上って?俺 何かやったっけ?」
アールモンドが思う
(これ以上 お前の魔力を奪ったら…)
アールモンドが言う
「…いや …お前に新しい事をやらせると へまするだけだからよ?だから これ以上は良いって言ってンだよ アーサー」
アーサーが苦笑して言う
「あっははっ ごめーん アーリィー?けど 俺 何度かやれば 大丈夫だから 何かあったら また教えてね?アーリィー?俺 ちゃんと出来る様になるから!」
アールモンドが思う
(まぁ… そう言う事なら良いんだけどな…)
アールモンドが立ち上がって言う
「寝る」
夢の中
幼いアールモンドが言う
『アーサーは俺の世話役だろ?だったら 俺に名前を教えろよ アーサー』
幼いアーサーが笑顔で言う
『うん!良いよ アーリィー 俺の名前は アーサー・スペイサーって言うんだよ アーリィー』
アールモンドが言う
『また サーサーか』
アーサーが疑問して言う
『え?サーサーって なあに?アーリィー?』
アールモンドが言う
『お前も サーが付く名前だ アーサー スペイサー それも2回も付く 本の中と同じだな?』
アーサーが気付くと 微笑して言う
『ああ!それはね!アーリィー!スペイサーのサーは 騎士って言う意味なんだよ!』
アールモンドが言う
『騎士?』
アーサーが言う
『そう!だから この本に出て来るサーサーたちと同じで スペイサーも王様の騎士だったんだ!』
アールモンドが言う
『王様の騎士… なら アーサーは何だ?』
アーサーが衝撃を受けて言う
『へ?アーサーは?えっと…』
アールモンドが言う
『スペイサーが 王様の騎士なら アーサーは何の騎士なんだ?』
アーサーが言う
『えっと それは… あ!それなら!アーサーは アーリィーの騎士って意味だよ アーリィー?』
アールモンドが言う
『アーリィーの騎士… だから お前は アーサーなのか?アーサー?』
アーサーが笑顔で言う
『そうだよ アーリィー!俺はアーサーだから アーリィーを助ける騎士だよ!』
アールモンドが言う
『俺を助ける…?』
アーサーが本を読んで言う
『アーサーは言いました この世界の平和のため 我が王のため この命尽きる時まで 我が王の騎士として これからも邁進する事を誓います アーリィー王は言いました この度の働きと共に その方の誓いたるは見事なり なればその方へ 褒美として この銀の指輪を与えよう』
アールモンドが衝撃を受けて言う
『銀の指輪何て詰らない!俺は褒美なら 綺麗な宝石の付いた指輪を与えるぞ!アーサー!』
アーサーが笑って言う
『銀の指輪は 騎士の名誉なんだよ アーリィー だから 騎士がもらう指輪に 宝石は要らないんだよ』
アールモンドが言う
『銀の指輪が 騎士の名誉?』
アーサーが言う
『そうだよ!アーリィー!だから アーリィーも 俺に銀の指輪をくれる?アーリィーは俺の王様だから!』
アールモンドが言う
『銀の指輪は 褒美なんだろ?アーサーは 何か褒美をもらう事をしたのか?』
アーサーが衝撃を受けて言う
『え!?えーっと 誓いは出来るけど 褒美を貰える様な事は まだ無いかな?』
アールモンドが言う
『それじゃ 指輪はあげないぞ アーサー?銀の指輪が欲しいなら 誓いだけじゃなくて 俺の助けにならなきゃ駄目だ!』
アーサーが言う
『分かったよ アーリィー!それじゃ 俺 いっぱいアーリィーを助けて いつかアーリィーに銀の指輪をもらうよ!』
アールモンドが言う
『いっぱいだぞ!アーサー アーサーは俺の騎士なら いっぱい俺を助けなきゃ 褒美はあげないぞ』
アーサーが喜んで言う
『うん!分かったよ アーリィー!俺一杯頑張るからね!』
アールモンドが目を開くと言う
「一杯頑張る… か…」
アールモンドが寝返りを打って思う
(その結果が アレかよ…?アーサーの馬鹿が…)
アールモンドの脳裏にアーサーの瞳が思い出される アールモンドが息を吐いて言う
「頑張り過ぎだろ…」
アールモンドが思う
(…まぁ 俺も …結局 褒美を与えなかったけどよ?)
アールモンドが言う
「褒美… か…」
アールモンドが思う
(俺がアイツの王なら 褒美くれぇ 与えねぇとな…?…まさか それを待ってるのか?本当に…?アイツは俺から 銀の指輪を…?)
アールモンドが苦笑して言う
「…な 訳ねぇか?」
アールモンドが毛布に入りなおして思う
(餓鬼じゃあるめぇし…?)
アールモンドが眠る
夢の中
アールモンド父が言う
『アーリィー これをお前へ渡そう』
幼いアールモンドが父から手渡されたものを見て言う
『指輪…?黒い石の…?』
アールモンドが思う
《折角指輪に付いているのに 綺麗じゃない…》
アールモンドが言う
『父さん この宝石は?』
父が言う
『それは宝石ではなく 黒曜石と言う魔石だ』
アールモンドが言う
『魔石?それじゃ…』
アールモンドが思う
《何だ… それじゃ また魔法の…?魔力を上げる為の石 …嬉しくない》
アールモンドが言う
『今度はこの石が僕に魔力をくれるの?それでこの石が力を失ったら 父さんに報告して …また新しい魔石を?』
アールモンドが思う
《父さんに会えるのは嬉しい… けど 父さんが会いに来るのは 俺の魔力が上がった時だけ… それでまた 新しい魔法の石を渡されて それが力を失うほど 俺の魔力が上がった時に…》
父が言う
『いや、その魔石は お前の魔力を上げるのではなく お前の魔力を奪う魔石だ』
アールモンドが衝撃を受け 慌てて言う
『そ、そんなの要らない!折角 頑張って魔力を上げたのに その魔力を奪う魔石なんて!こんな指輪は要らないよ 父さん!』
アールモンドが指輪を遠ざけると 父がその手を包んで言う
『聞きなさい アーリィー お前はこれから この魔石を精製させなさい』
アールモンドが言う
『嫌だっ 魔石は精製されたら力を発揮する この魔石を精製したら 僕の魔力が取られちゃうんでしょ!?父さん!』
父が言う
『確かに 魔石は精製を行えばその力を発揮する しかし お前はこの黒曜石を精製し 出来上がったそれを お前の従者である アーサーへ渡しなさい』
アールモンドが言う
『従者?父さん?アーサーは僕の世話役だって?』
父が苦笑して言う
『…彼は 従者となった やはり世話役などでは終わらなかったな?』
父がうつ向く アールモンドが疑問して言う
『…父さん?』
父が辛そうに微笑して言う
『いや だからこそ お前に これを渡す アーリィー …必ず この黒曜石の指輪を精製し アーサーへ渡しなさい これがあれば… 万が一 彼がお前の世話役を辞め お前のもとを去ったとしても それまでの間に お前へ与えてしまった己の魔力を お前から取り戻す事が出来る』
アールモンドが思う
(アーサーが僕の世話役を辞める?アーサーは僕の騎士だから 僕から離れるなんて事は無い!こんな指輪なんて!)
アールモンドがムッとする 父が言う
『今のお前では その魔石の精製に時間が掛かるだろうが 5日… もしくは一週間 肌身離さずに持っていれば…』
≪俺は 嫌々ならがらも 親父の言う通り 黒曜石を精製した… だが 完成した あの指輪は…≫
アーサーの声が聞こえる
「…リィー!アーリィー!」
アールモンドが思う
(結局… お前には 銀の指輪も黒曜石の指輪も 俺は与えてはやれなかったな…)
アーサーの声が聞こえる
「アーリィー!アーリィー!!起きて!もう 時間だよっ!?」
アールモンドが思う
(アーサー…)
アールモンドが目を覚ますと アーサーが呼び掛けていた言葉を止めて微笑して言う
「おはよう!アーリィー!よく寝てたね?」
アールモンドが言う
「うん?あぁ…?もう 時間か…?今は何時だ?なんっか 薄暗ぇなぁ…?」
アーサーが苦笑して言う
「うん 今は午後1時 今日は午後から天気が崩れるって 予報だったんだけど この感じだと 少し強い雨が降るかもしれないね?」
アールモンドが言う
「雨か… 久しぶりだな?」
アールモンドが右腕を上げる アーサーがその手を取ってアールモンドを起き上がらせると言う
「午前中まで気温も高めだったから 作業を終えて帰る頃には ひょっとしたら 雷も鳴る様な 夕立になるかも?折角の アーリィーウィザード様の 仕事始めなのに ちょっと残念だね アーリィー?」
アールモンドが立ち上がると言う
「何言ってんだ アーサー?雷は そのアーリィーウィザード様の属性じゃねぇかよ?仕事始めには持って来いだぜ?」
アールモンドが出入り口へ向かって行く アーサーがクローゼットから法衣を取り出して苦笑して言う
「俺だって アーリィーの魔法の雷なら良いんだけど 自然に出来る雷は 落ちると停電になったりするから それは困るなぁって?」
アールモンドがアーサーに法衣を着せられ 帽子を取ると言う
「ああ そういや いつかあったっけなぁ?夕立の雷で停電して 真っ暗になった屋敷の中で 悲鳴を上げて 俺に助けを求めて来た 誰かの騎士様が?あんまりにも泣き叫んで たまんねぇから 魔法で照らしてやったっけ?」
アーサーが衝撃を受け苦笑して言う
「ごめーん アーリィー 俺 暗いのだけは どうしても苦手で」
アールモンドが帽子をかぶりつつ ベッドルームを出て言う
「いくら苦手ったってなぁ ありゃ異常だぜ?そもそも 暗いのが苦手だって言うのなら 昼ならともかく 夜寝る時には どうしてるんだよ アーサー?」
アーサーがアールモンドを追って歩きながら苦笑して言う
「夜は電気を付けたまま寝てるよ?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「はっ!?マジかよっ!?信じらんねぇ… けど、なるほどな?それでいつも 俺の部屋の電気を消し忘れるんだな?漸く理解出来たぜ アーサー?」
アーサーが言う
「だって 暗い夜に電気を消したら 何も見えなくなっちゃうでしょ?もちろん 夜は眠るだけだから 電気が必要ないのは分かっているんだけど」
アールモンドが言う
「まったくだぜ?電気代の無駄だな?」
アーサーが立ち止まり言う
「ごめんなさい…」
アールモンドが立ち止まり振り返ると アーサーがすまなそうにうつ向いている アールモンドが困ると言う
「あ…っ いや… ば、馬鹿っ!アーサー!非魔力者が ウィザードに謝るんじゃねぇよ!戒めにひっかかるじゃねぇかっ!」
アーサーがすまなそうに苦笑して言う
「けど アーリィーの言う通り 電気代の無駄なのは 俺も分かってるから だから 俺 もう少し頑張ってみるけど こればっかりは ちょっと 自信ないかも…」
アールモンドが沈黙する アーサーが怯えをこらえて言う
「真っ暗になって 何も見えなくなる… 俺は そうなるのが怖くて …俺 以前は凄く目が悪かったから」
アールモンドが思う
(そいつはきっと 代々 ウィザードに仕えてきた従者である お前の素質の現れだったんだろう スペイサー… レイモンド家の従者は 雷に目を焼かれると 言い伝えられて来たからな)
アーサーが苦笑して言う
「だから子供の頃は良く 本は読むなって怒られたんだけどね?これ以上悪くなって いつか何も見えなくなったらどうするんだ って… そう言われて 俺 怖くなっちゃって…」
アールモンドが気を取り直して言う
「…ま、まぁ …そう言う事ならしょうがねぇだろ 誰にだって 苦手の一つや二つあるってもんだぜ?」
アーサーが苦笑して言う
「そう言ってくれて ありがとう アーリィー 俺、アーリィーに助けられてばかりだね?」
アールモンドが思う
(助けられているのは 俺の方だけどな…)
アールモンドが言う
「…ま、お前は俺の奉者なんだ だったら お前のウィザード様である 俺が助けてやるのは当然だろ?」
アールモンドがアーサーに背を向けて思う
(助ける か… だったら やっぱり 銀の指輪はともかく 黒曜石の指輪は用意してやるべきか?)
アーサーが何かをひらめく アールモンドは気付かないまま思う
(そうだな?ガキの頃とは違って 今じゃ四六時中コイツと一緒に居る訳じゃねぇ… ともすれば コイツは俺が魔力を上げる修行をしている間に 俺に黙ってフェンシング大会に出場して 決勝戦へまで勝ち進む様な奴だ)
アーサーがアールモンドの近くまで来る アールモンドが考えながらアーサーの気配に気づく
(決勝戦の相手ともなれば 非魔力者であっても 世界大会で決勝戦まで上り詰めるほどの精神力の持ち手 ともすれば コイツにある 俺の残留魔力が弱められる可能性だって… いや そもそも コイツが俺から離れて一人で行動するとなれば その時点で俺の知らない間に 他のウィザードに…)
アーサーが言う
「アーリィー?」
アールモンドが思う
(…とにかく 理由はなんであれ コイツから俺の残留魔力が消されれば 黒曜石を持たないコイツは その場で…っ …なら まずは黒曜石を手に入れねぇと始まらねぇ訳だが その黒曜石はと言えばだな?)
アーサーが言う
「アーリィー?」
アールモンドが思う
(馬鹿高ぇんだよっ!アーサー!)
アーサーが言う
「アーリィー どうかした?」
アールモンドがハッとして言う
「お、おうっ あ、いや…?何も…?」
アールモンドが視線をそらして思う
(それこそ お前が欲しがってた銀の指輪の方が 遥かに楽だったのによ…っ クソ…ッ 親父からもらった あの黒曜石の指輪を 素直にお前に渡していれば…っ)
アーサーが言う
「そお?なら、あのね?アーリィー?本当は俺 今日の魔力供給を終えて 帰って来てからにしようと思ってたんだけど」
アールモンドがハッとして思う
(…てっ!?待て!アーサー!い、今 その話かよっ!?ちょっと待ってくれ アーサーっ 今はそれ所じゃねぇんだっ 優勝の祝いに銀の指輪でも 金の指輪でも 買ってやるからっ だから 今は…っ!黒曜石の指輪だけは そう簡単には買えねぇっ!あんな小っせえ魔石が 1個4億だぞ!?)
アーサーが言う
「実は」
アールモンドが悔やみながら思う
(こんな事なら 魔法使いの間に 思い直して蜀魔台の灯魔作業でも 死ぬほどやってれば良かったぜっ!その蜀魔台のン十倍の灯魔作業が出来るようになった今じゃ 蜀魔台みてぇな弱っちいモンの灯魔作業は それこそ死ぬほど出来ねぇえっ!)
アーサーが言う
「俺」
アールモンドが思う
(…となりゃ どうする!?灯魔作業だろうが 上級灯魔作業だろうが 何だろうがやるからっ!?それこそ 俺が お前らの従者になるから 4億貸してくれって 頼むかっ 奉者協会に!?)
アーサーが言う
「アーリィーに」
アールモンドが思う
(そうだぜっ!?そもそも ウィザードの灯魔作業は 4億くれぇの価値はあンだろうっ!?この世界を守ってんだぜっ!だったら そのウィザードを守ってる従者を守る 黒曜石の購入費用くれぇ 払わせてやるかっ!?それで そいつを急いで精製して…っ!?急いだとしても 今の俺でも 丸3日は掛かるだろうが…)
アールモンドがハッとして言う
「って!?まさかっ そう言う事かよっ!?」
アーサーが驚いて言う
「って え!?何?どう言う事?アーリィー!?」
アールモンドが頭を押さえて思う
(…そう言う事かよ 先輩っ 俺に…っ 俺にアーサーを守る為の 黒曜石の精製をしろってっ?それで いきなり3日間もの休暇を言い渡したのかよ…っ)
アールモンドが消沈して言う
「いくら水でも 一言くれぇ 言えってンだよ…」
アールモンドが思う
(そして 俺もっ…今頃 気付いても!…遅ぇンだよっ)
アールモンドが脱力して言う
「…積んだ」
アーサーが苦笑して言う
「えっと そろそろ良いかな?アーリィー?魔力供給の時間も迫ってるし」
アールモンドが言う
「おう… 何だよ?アーサー?」
アールモンドが思う
(もう ここまで来たら逃げも隠れもしねぇぜ アーサー そもそも、俺とお前との仲だぜ?今更 恥も何も在りはしねぇだろ?だったら!)
アーサーが言う
「実は俺アーリィーに 」
アールモンドが思う
(おう 分かってるぜ アーサー お前は俺に 言いてぇ事がある しかもその内容だって 言わなくたって 俺には もう分かって…!)
アーサーが言う
「渡したいものがあってね?」
アールモンドが疑問して言う
「…て?…あぁ?俺に… わ、渡したい物?」
アールモンドが思う
(フェンシング大会の話じゃなかったのか?しかも 銀の指輪をくれと言う所か お前が 俺に…?…大体 お前からなら もう十分に俺は…)
アーサーが言う
「これなんだけど 受け取ってもらえる?アーリィー?」
アーサーが手を開くと ブローチの宝石が煌めく アールモンドが呆気に取られて言う
「宝石…?魔石じゃねぇのか?」
アーサーが苦笑して言う
「うん 魔石はとっても高いからね?俺みたいな 普通の人間には とても手が届かなくて それで 宝石になっちゃったんだけど」
アールモンドが宝石を見ると 宝石が煌めく アールモンドが思う
(あぁ やっぱり 宝石は綺麗だぜ… キラキラ光を反射する …最もそいつが 魔力を吸収しなけりゃいけねぇ魔力者にとっては 悪ぃんだが …とは言え この宝石は)
アールモンドが言う
「ダイヤモンドでもねぇのに 色が付いてねぇんだな?」
アールモンドが思う
(一体なんって宝石だ?)
アーサーが苦笑して言う
「うん そうなんだよね 俺も最初は 色の付いた宝石にしようと思っていたんだけど アーリィーは何色が好きなんだ?って 聞かれたら 分からなくて?それで 俺が迷ってたら これが良いんじゃないかって グレーニッヒ様に お勧めされたものだから つい」
アールモンドがハッとして言う
「グレーニッヒ様?お前っ まさか それを買ったのは…っ!」
アーサーが言う
「うん!これは グレーニッヒ様のお店で買って来た物だよ アーリィー だから安心して?」
アールモンドが言う
「安心ってっ!?」
アールモンドが思う
(馬鹿言うなよっ アーサー!寄りに寄って グレーニッヒ様の!?俺より強ぇウィザードの居る店に お前が一人でっ!!)
アーサーが言う
「以前 アーリィーと一緒に あのお店に行ったとき 教えてもらったじゃない?あのお店の宝石は グレーニッヒ様が精製したもので 欲に塗れた人間の精製した宝石とは違って 波動も正方向だから 魔力の吸収を阻害する事は無いって?アーリィー あの時は魔石しか買わなかったけど」
アールモンドが視線をそらして思う
(コイツはもう洒落にならねぇぞっ 黒曜石がどうなんて事よか コイツには他のウィザードに対する 危機感ってモンがまったくねぇンだっ!だったら どうする?もう 迷ってる場合じゃねぇんじゃねぇか?従者の事を教えて とりあえず 俺以外のウィザードには近づくなとっ!?会ったら逃げろ位に脅しとかねぇとっ!?…いや けど)
アーサーが疑問して言う
「アーリィー?」
アールモンドが思う
(そうと教えた所で 相手のウィザードが本気なら 非魔力者であるアーサーが どうしようと意味がねぇ… 逃げ様が隠れようが アーサーから俺の残留魔力を奪っちまえば 俺から従者の力が無くなって それで… 黒曜石を持たねぇ アーサーも その時点で…っ なら やっぱり 黒曜石をっ!)
アーサーが苦笑して言う
「やっぱり ちょっと気に入らなかった?アーリィーの法衣は グレーニッヒ様やアイザック様と違って 割と明るめの色だから 色の付いた宝石の方が良かったよね?ごめーん アーリィー」
アールモンドが言う
「…いや そんな事よか…」
アールモンドが思う
(…どうする?とりあえず 話すか?それで 黒曜石をどうにかして手に入れて それを精製するまでの間は 俺から離れるなと言うか?…それが 一番 安全っちゃ 安全だが…)
アールモンドが頭を押さえて言う
「…そもそも…」
アールモンドが思う
(黒曜石が 手に入らねぇし…)
アールモンドがハッとすると アーサーがアールモンドの法衣にブローチを付けて居て言う
「アーリィー 最近いつも 何か悩んでいるみたいで 大変なのに 俺は助けてあげられなくて ごめんね?」
アールモンドが視線を泳がせて言う
「…あ いや…」
アールモンドが思う
(それは 俺が…)
アーサーが苦笑して アールモンドの顔を見て言う
「俺 アーリィーの世話役になって 20年も一緒に居るのに アーリィーの好きな色も知らないし アーリィーが一人で悩んで苦しい時に 何も出来ないし 新しい事やろうとすると 失敗するし 電気代も無駄遣いしちゃう 本当に駄目な奴だけど そんな俺を 傍に置いてくれて ありがとう アーリィー」
アールモンドが呆気に取られ視線をそらして言う
「な、何だよ 急に ンな事…」
アールモンドが思う
(20年…?もうンな経つのかよ?気が付かなかった…)
アールモンドが言う
「大体 ンな事言ったら 俺だって…」
アールモンドが思う
(お前の事を何も…)
アーサーが言う
「だからね?これは 俺からアーリィーへの 感謝の気持ちを込めての プレゼントなんだけど… あははっ どうやって付けるんだろ?ごめんね アーリィー?もうちょっとだけ待って?えっと…」
アールモンドが思う
(プレゼント?お前が俺に?…それこそ 俺がお前に渡すべきで)
アーサーがブローチを付けて言う
「あ、こうすれば良いんだ?出来たよ アーリィー!うーん やっぱり 色の付いた宝石の方が良かったかなぁ?」
アールモンドが振り返り 鏡に映った自分を見て言う
「…良いんじゃねぇか?あんま 目立たなくてよ」
アーサーが衝撃を受け苦笑して言う
「折角の装飾なのにね?ごめーん アーリィー」
アールモンドが言う
「良いって言ってるだろ?目立つ宝石は 見せびらかす様で気に入らねぇ… 一番でもねぇのに 頭に乗ってると思われる …だったら これ位ぇで良い」
アーサーが言う
「ありがと アーリィー やっぱり アーリィーは 優しいよね?」
アールモンドが言う
「…そうでもねぇよ」
アールモンドが思う
(お前に言えねぇ事もあるしな?20年間 散々世話になってるのに そのお前に 褒美も与えてねぇし…)
アールモンドが気付いて思う
(褒美か…)
アーサーが気を取り直して言う
「それじゃ 魔力供給に行こうか?アーリィー?大分空も暗くなって来たし 降り出す前に行っちゃった方が良いよね?」
アーサーが一度窓の外を見てからアールモンドへ向く アールモンドが思う
(なら やっぱり 銀の指輪か?いや 流石に ンな安いモンじゃな?なんせ20年間の感謝だぜ?この宝石だって きっと… それなりの金額だ なんせ あの店にあって あのグレーニッヒ様が精製したとなりゃ それだけでも…)
アールモンドがブローチを見るとふと気付いて言う
「…ん?」
アールモンドが思う
(魔力?微かではあるが… 確かに 魔力が込められている?宝石に?)
アールモンドがブローチを見ていると アーサーが思い出して言う
「あ、そうそう そう言えば その宝石ね 魔力が込められているんだって?だから 魔石ではないけど お守りになるって言ってたよ?ひょっとして 分かる?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ、宝石に魔力を込められるなンてな?流石は土属性だぜ?」
アールモンドが思う
(俺には逆立ちしたって出来ねぇな?)
アーサーが言う
「何をお願いしたかは アーリィーにも 秘密にしないと お守りの効果が消えちゃうんだって?だからアーリィーにも秘密にするけど 怒らないでね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「何をお願いしたかは秘密って… ちょっと待て!?まさかっ!この宝石に お前の魔力を込めたのかよっ!?アーサー!」
アーサーが一瞬驚いた後苦笑して言う
「うん そうだけど?」
アールモンドが思う
(馬鹿っ 唯ですら お前はもうギリギリだって言うのにっ)
アーサーが苦笑して言う
「お守りに使う魔力は 少しだから大丈夫だって言ってたよ?俺は良く分からなかったけど アーリィーはウィザードで ウィザードの杖を持っているから だから ほんの少しでも効果があるだろうって… どういう意味だろう?アーリィーには分かる?アーリィー?」
アールモンドが呆気に取られた後言う
「…あ?…いや 分かんねぇけど…」
アールモンドが思う
(あのグレーニッヒ様が そうってぇなら?)
アールモンドが言う
「死にはしねぇって事かもな?」
アールモンドが思う
(…なら 良いか?)
アーサーが苦笑して言う
「それはそうだと思うけど 魔力って そんなに危ない物なの?アーリィー?」
アールモンドが言う
「魔力は生命力と同じだ 魔力者なら使った分は自然界から取り戻せるが 通常の人間はそうはいかねぇ …だから あんま使うなよ アーサー」
アーサーが言う
「えーっと 俺は 使うなと言われても 使う方法も分からないけど じゃ お守りはもう作らない事にするね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「おう…」
アールモンドが思う
(そうだ そもそも 俺が お前にお守りを作ってやれば良いか?黒曜石とまでは言わねぇでも ちょっとしたお守りくれぇなら 俺にも作れるかもしれねぇ… それで そいつをただのアクセサリーとして お前への礼として 渡せば?…そうだな せめてそれ位のモンは用意してやるべきだろ?)
アーサーが言う
「それじゃ 行こうか?アーリィー?休暇の前は上級灯魔作業ばかりだったから 魔力供給は久しぶりだね?」
アーサーが向かおうとする アールモンドが思う
(そうだな?魔力供給程度なら それと並行して アーサーへ渡すお守りを作れるかもしれねぇ… なら まずは その土台となる アクセサリーを… 何にすっか?折角なら アイツが喜びそうなもの… アイツ何が好きなんだ?そもそも アイツはアクセサリー何て付けてねぇし…?)
アールモンドがハッとする アーサーが振り返り疑問して言う
「アーリィー?どうかした?」
アールモンドが言う
「アーサー」
アーサーが言う
「うん?なあに?アーリィー?」
アールモンドが思う
(雑念は魔力供給作業の邪魔になる だったら 先に 確認して置く)
アールモンドが言う
「お前 何か アクセサリーを付けてるよな?」
アーサーが衝撃を受けて言う
「えっ!?」
アールモンドが思う
(確かに あの時… フェンシング大会の決勝戦の時に見えた 銀色の鎖… その先に何か付いていた …何だったのかは 遠くて見えなかったが)
アールモンドがアーサーの前に向かう アーサーが後づ去りつつ言う
「えーっと…?アクセサリー?俺が?」
アールモンドがアーサーの前に立つと言う
「ああ 何か 首に掛けてるだろ?」
アーサーが首元を手で確かめて言う
「え、えっと…?」
アールモンドが言う
「別に 隠す必要はねぇだろ?何を付けてるのか 気になっただけだ」
アーサーが苦笑して言う
「た、大したものじゃないよ?ただのお守りで…」
アールモンドが言う
「お守り?」
アーサーが言う
「そう アクセサリーと言えるほどの物じゃないよ?でも 俺にとっては お守りだから それで」
アールモンドが思う
(アクセサリーと言えるほどの物じゃない …か それじゃ プレゼントの参考にはならねぇかもな?…いや けど?)
アールモンドが言う
「気に入らねぇものを お守りになんかしねぇだろ?だったら 物はともかく お前が気に入ってるんなら それで良いじゃねぇか?」
アーサーが苦笑して言う
「うん そうなんだ すごく気に入ってるから 大切にしているんだけど… けど 見せられる程のものじゃないから?」
アールモンドが言う
「すごく気に入って?…だったら 見せろよ?アーサー?」
アーサーが苦笑して言う
「だから 見せられる程の物じゃないったら アーリィー?それに どうして そんなに?あ、宝石とか付いてないよ?アーリィーはキラキラする物 好きだもんね?けど これは キラキラしてないから?」
アールモンドが思う
(宝石は付いていない… それでキラキラはしていない?なら キラキラしない宝石じゃないものが付いてるって事か?キラキラしねぇ宝石なんて…)
アールモンドの脳裏に黒曜石の指輪が思い出される アールモンドが目を見開いて思う
(…まさかっ?)
アーサーが困り苦笑で言う
「ア、アーリィー?」
アールモンドがアーサーから身を翻して思う
(まさか…!?いや 考え過ぎか?落ち着け…っ 大体 黒曜石は馬鹿高ぇ魔石だぞ?普通の人間であるコイツが手に入れられるものじゃねぇ!ウィザードで… 元貴族である 俺でさえ 手に入れられねぇ程のものだっ その上 物は魔石だ それこそ金があっても そこらで売られている物じゃ…)
アールモンドが顔を上げると鏡に映った自分が見え ブローチが光を反射する アールモンドが思う
(土属性の…っ 奴ならっ!?)
アールモンドがブローチを握り思う
(金を積まなくても 手に入れられるンじゃねぇのか?そもそも 魔力者が使う魔石を 自然界から探し出せるのも 土属性の魔力者だけだ …だったら?アーサーに 黒曜石の指輪を渡す事だって 大した事じゃねぇ!それで…!)
アールモンドがブローチを握る手を握り締めて思う
(後は 自分が魔力を与えた ウィザードへ 魔力還元の足掛かりとなる物を渡せば?例え 黒曜石の精製を別の魔力者が行ったとしても それを持つアーサーへ 俺から魔力が還元されるっ!)
アールモンドがアーサーへ向き直って思う
(アーサー!?まさか お前…っ!?)
アーサーが困って言う
「あの… アーリィー?俺… 何か アーリィーに 悪い事しちゃったかな?だとしたら ごめんなさい 俺 分かんないけど 俺に出来る事があったら 何でもするし 俺が何かしたのなら ちゃんと 謝るから だから…」
アールモンドが言う
「…だったら そいつを見せろよ アーサー」
アールモンドが手に持っている杖をアーサーの胸元へ向ける アーサーが衝撃を受け苦笑して言う
「え?えっと… そう言う事?その… 本当に これは…」
アールモンドが言う
「俺とお前の間に 秘密は無しだろ?アーサー?だったら 良いじゃねぇか?」
アールモンドが思う
(そうだ 例え そうだったとしても良い それでお前は助かる …俺が与えなかった …与えられなかったものだ …だったら お前は自分の身を守る為に それを手に入れる権利がある …けど 出来る事なら …もし …もしお前が 本当に ”アーサー”だって言うのなら 俺は今度こそ お前に)
アールモンドがアーサーを見る アーサーが困って言う
「それは そうだけど… その… 出来れば 勘弁してもらえないかな アーリィー?俺にもその… 一応 羞恥心とかも あるし…?」
アールモンドが言う
「羞恥心?」
アールモンドが思う
(何言ってやがるんだ?アーサー?それこそ お前は俺の全てを知ってるだろ?俺はお前の事は… 何一つ知らねぇが ンな事は もう!どうでも良いぜ!)
アールモンドが怒って言う
「俺とお前の間に 羞恥心も何もねぇだろ アーサー!今更 お前が何を隠して様が 俺は動じねぇ!それに お前は宝石じゃねぇと言ったが!」
アールモンドが杖を意識すると杖が薄っすらと光る アールモンドが言う
「何かの石が付いてるって事は 同じ石で出来てる コイツには分かるんだよっ それでも お前が見せねぇって言うならな!?」
アールモンドが思う
(俺の事が… ンなに信じられねぇってンなら!)
アールモンドが視線を強めると 杖が光る アーサーが驚いて言う
「…え?うわあっ!」
アーサーの胸に雷の魔法が当たり 服のボタンが外れると アーサーの身体から一瞬アールモンドの残留魔力が離れかけ アーサーが強いめまいに襲われる アーサーが目元を押さえて言う
「う…っ な、何?今の…っ?目、目が 一瞬見えなくなって… アーリィー?」
アーサーが顔を上げアールモンドを見ようとすると視界がぼやけている アーサーが呆気に取られて言う
「…あ、あれ?視力が?目が見えなく…?」
アーサーの視界の中ぼやけているアールモンドの姿 アールモンドが呆気に取られていて思う
(嘘だろ…?アーサー…)
アールモンドが手を握り締める アーサーの首元に 銀色の指輪に黒い魔石の付いたネックレスが掛けられている アールモンドがうつ向き歯を食いしばる アーサーの視界が元に戻って行く アーサーが言う
「な、治った?良かった… アーリィー?俺… 凄く怖かったよ?だって 今の… ま、魔法… だよね?アーリィー?魔力者は その… 普通の人間に 魔法は使っちゃいけないって… アーリィー だから 今のはちょっと… 駄目… だよ?いくら アーリィーでも …はぁ はぁ …俺 怖いよ…」
アーサーが息を切らし震える アールモンドの頬に涙が伝うと アーサーに背を向ける アーサーが顔を上げて言う
「…アーリィー?どうして?」
アールモンドがベッドルームへ向かって行く アーサーが言う
「アーリィー!?」
アールモンドが思う
(信じたくなかったっ 俺の勝手なのは分かってるっ 俺は 受け入れるつもりでいたンだっ!だが!)
アーサーが言う
「アーリィー!?」
アールモンドが額を押さえて思う
(俺は お前を信じてたんだよっ 馬鹿みてぇに!餓鬼の頃と変わらずに!信じてたんだっ …畜生っ!)
アールモンドが言う
「”アーサー”…っ」
アーサーがハッとして立ち上がると ふら付きながらも アールモンドの後ろへ来て言う
「アーリィー?何があったの?俺 助けられないかもしれないけど…」
アールモンドが手を握り締める アーサーがそれを見てからアールモンドの背へ言う
「俺は アーリィーの…!」
アールモンドが叫ぶ
「うるせえっ!」
アーサーが驚いて呆気に取られる アールモンドが思う
(分かっていたつもりだった コイツだって 仕事で やっていたんだ… 俺の奉者で 俺の世話役… それも全ては…っ!)
アールモンドが肩の力を抜く アーサーが言う
「…ごめんね アーリィー?俺 どうしたら良いのか 分からないんだけど …俺に出来る事は 何かないかな?何かあるなら 俺 頑張るから だから…」
アールモンドがうつ向くと涙がボロボロこぼれる アールモンドが思う
(…もう 耐えられねぇ… 俺は お前を 信じてたんだよ… アーサー…っ)
アールモンドが言う
「…てけ…っ」
アーサーが言う
「え?なあに?アーリィー?」
アールモンドが言う
「出てけ アーサー」
アーサーがハッとすると 表情を悲しめて言う
「…そう ごめんね アーリィー?俺… 何も出来ないんだね?…それじゃ 何かあったら 呼んでね?俺 すぐに来るから?」
アールモンドが言う
「…そうじゃねぇ」
アーサーが言う
「え?それじゃ?」
アールモンドが言う
「お前は クビだ アーサー…」
アーサーが呆気に取られて言う
「…え?何?…どう言う …事?アーリィー?」
アールモンドが言う
「分からねぇのか?お前は 俺の奉者としても 俺の世話役としても クビだっつってんだよっ!」
アーサーが言う
「そ、そんな?嫌だよっ!アーリィー!?どうしてっ!?俺…っ 俺はっ アーリィーの為なら 何でもするのにっ!?なのにどうしてっ!?」
アールモンドが苦笑して言う
「はっ!…何でもする?」
アーサーが言う
「そうだよ アーリィー?だって俺 アーリィーに誓ったじゃない?”我が王のため この命尽きる時まで 我が王の騎士として これからも邁進する事を誓います”って あれは 俺 本気で…」
アールモンドが一瞬反応する アーサーが苦笑して言う
「子供の頃に言った言葉だけど 俺は ずっと それをして来たつもりだよ?だから 俺 その王様である アーリィーの傍を離されたら 俺… 死んじゃうよ?アーリィー?」
アールモンドが反応する アーサーが苦笑して言う
「”アーサー”の命は… 尽きちゃうよ?」
アールモンドが言う
「…尽きねぇよ」
アーサーが困る アールモンドが肩の力を抜いて言う
「ガキの頃の話だろ?いつまでもそんな言葉 信じてる訳ねぇだろ?」
≪信じてたけどな…≫
アールモンドが思う
(俺に仕える奴は 皆… 俺を馬鹿にしてるのか?アーサー …やっぱり お前もっ!)
アールモンドがアーサーを背に思う
(お前はもう 黒曜石の指輪を持ってる 俺から離れても 命(魔力)が尽きる事はねぇっ!)
アーサーが言う
「アーリィー… 本当にもう駄目なの?俺… 何かすれば 許してもらえないかな?ねぇ?アーリィー」
アールモンドが思う
(もう これ以上は… 俺が持たねぇんだよ… アーサー… だから…)
アールモンドが言う
「何度も言わせンなよ アーサー お前の顔なんか もう2度と見たくねぇんだよ さっさと出て行け」
アーサーがうつ向いていた状態から顔を上げて言う
「アーリィー!」
アールモンドが叫ぶ
「出て行けっつってんだよっ!!」
アールモンドがアーサーへ向けて杖を振るうと 杖が光り アーサーが風魔法に吹き飛ばされ 悲鳴を上げる
「うわぁあーっ!」
アーサーがリビングの壁に叩きつけられる アーサーが悲鳴を上げて言う
「ぐうっ!」
アーサーの肩の骨が折れる音がする アールモンドがハッとする アーサーが目を見開き肩を押さえると言う
「う…っ い、痛い…っ」
アールモンドが表情を苦しめるが顔をそらすと杖が光る アーサーが肩を押さえつつ顔を上げて言う
「ア、アーリィー…」
扉が閉まる アーサーが言う
「アーリィーっ」
アールモンドが額を押さえて泣いていて思う
(クソッ… 止まらねぇ…っ 情けねぇ… 俺は… クソ…ッ クソ…ッ!)
扉の外からアーサーの声が聞こえる
「アーリィー 俺… アーリィーを 助けてあげられなくて ごめんね」
アールモンドがハッとする
アーサーがドアに手を付いてうつ向いていて言う
「アーリィーの… 力になれなくて ごめん… アーリィーの事 傷付けちゃったみたいで ごめんなさい… 俺 アーリィーと ずっと一緒に居たかった だから 何でもするつもりだったのに… アーリィーが凄く苦しんでるのに 今 傍に居られなくて ごめん…」
アールモンドが歯を食いしばって思う
(アーサー… 何でお前はいつも そう言うんだ?仕事のくせに… お前は唯 仕事として 俺に仕えているだけなんだろ?なのにどうして… あいつらみてぇに 俺の悪口を言ってくれねぇんだっ!?俺がこんなに…っ)
アーサーの声が聞こえる
「俺… 理由は分からないけど アーリィーに 嫌われちゃったんだよね?ごめんなさい… あんなに仲良くしてもらっていたのに そのアーリィーに嫌われちゃうほどの事をしたのに 俺 分からないなんて… 俺 凄く 悔しい… 自分が情けない…」
アールモンドが思う
(お前は情けなくなんかねぇよ アーサー… 俺が 餓鬼だっただけで… お前は… 年上で 大人だったってだけだろ?だから もう…)
アーサーが言う
「こんな俺じゃ 嫌われて当然だよね?だけど アーリィー?俺… アーリィーに嫌われちゃっても 俺は アーリィーの事 …大好きだよ?」
アールモンドが目を見開く アーサーの声が聞こえる
「今まで 本当にありがとう …さようならっ」
足音が聞こえる アールモンドが苦しみをこらえきれずに言う
「アーサーっ!」
アールモンドがドアを開く その視界に リビングの出入り口の扉が開かれているのが見える アールモンドが悔しみを押し殺し言う
「…畜生っ!」
雨が降り始める
強い夕立雷が轟く窓の外を アールモンドが眺めている
夢の中
幼いアールモンドが見上げると アールモンド父が沈黙している アールモンドが言う
『父さん?』
アールモンドが思う
《泣いて…?》
幼いアーサーの声が聞こえる
『父さん… 父さん… ひっく… ひっく…』
アールモンドが言う
『アーサー?』
アールモンドが向いた先 ベッドの上にアーサー父が永眠している アールモンドが疑問する
スペイサー家の墓石の前 多くの人が居た状態から アーサーとアールモンドの2人きりになる 雨が降り出す アールモンドが言う
『アーサー 雨が降って来た 帰るぞ …アーサー?』
アールモンドがアーサーの背後まで来ると気付く アーサーが雨の中涙を流していて言う
『アーリィー… 俺 一人っきりになっちゃったよ 父さんも 居なくなっちゃったんだ… 俺… どうしたら良いんだろう…?アーリィー… 俺 何処へ帰ったら良いの?何処へ行ったら…?う、うぅ…っ』
アールモンドが言う
『アーサー…』
アーサーが墓石に手を付いて言う
『父さん…っ 俺も連れて行ってよ?父さんの所に…っ!俺…っ 1人は嫌だよっ!父さん!』
アールモンドが言う
『アーサー!お前は1人じゃないだろ!俺が居る!』
アーサーが呆気に取られて言う
『…アーリィー?』
アールモンドが言う
『アーサー!お前は俺の騎士だろ!?勝手に何処かへ行くなんて駄目だ!お前は俺の世話役でもある だから帰る場所だってある!』
アーサーが言葉を失う アールモンドが背を向けて言う
『雨で寒くなった 風呂を用意しろ お前の王様の命令だぞ!アーサー!』
アーサーが泣きながら微笑んで言う
『うん!分かったよ!アーリィー!』
アーサーが立ち上がり走ってアールモンドの下へ向かう
アールモンドが目を覚ます アールモンドは窓辺に座ったまま寝ていた様子で居る アールモンドが窓の外へ視線を向けてから真下へ視線を向けると一瞬グラッと目眩がして落ちるような錯覚に驚き悲鳴を上げる
「うおっ!?うおわああっ!?」
アールモンドが咄嗟に上体を逸らすとバランスを崩して床へ落下する アールモンドが悲鳴を上げて言う
「イテェ!…っ つぅ~」
アールモンドが疑問して言う
「朝…?」
アールモンドが起き上がりながら言う
「何やってたンだ 俺は…?アーサー!おいっ!アーサー!」
アールモンドがベルを鳴らす 誰も来ない アールモンドが疑問してからハッとすると思う
(そうだっ 俺は…)
アールモンドが慌ててリビングへの扉を開けて言う
「アーサー!?」
アールモンドが思う
(俺は…っ!)
アーサーの部屋
アールモンドがドアを開けて言う
「アーサー!」
室内は無人 アールモンドが呆気に取られて言う
「なら あれは…」
アールモンドが思う
(夢じゃ… なかったのかよ…)
アールモンドが言う
「何 やってんだよ」
アールモンドが思う
(俺は…)
アールモンドが顔を上げ額を押さえて笑うと 徐々にから笑いが消える アールモンドが溜息と共に思う
(俺は… アイツに何を求めていたんだ?)
アールモンドが室内へ向くと部屋の中へ向かい周囲を見渡しながら思う
(アイツは俺の世話役という名の従者だった…)
アールモンドが部屋の中へ歩いて来ると言う
「アイツの部屋か… そういや 入ったのは初めてだったな?」
アールモンドが思う
(随分狭いんだな?アイツは俺より背も体もデカいのに…)
アールモンドが息を吐いて言う
「息が詰まりそうだぜ?」
アールモンドが思う
(こんな狭い部屋で… 窮屈じゃ無かったのか?)
アールモンドが言う
「一言言ってくれりゃ もっと良い部屋に移してやったのによ?」
アールモンドが思う
(必要もねぇ空いてる客室なんて いくらでもアンだろ?手入れだって あのメイドどもがやって…)
アールモンドがふと気付いて思う
(ん?けど そうだな?アイツはそれこそ 俺の世話役… つまり アイツ(メイド)らと同じって事になるンだよな?だったら…)
アールモンドが立ち止まり 周囲を見て言う
「このぐれぇが普通なのか…」
アールモンドが思う
(そうだ… アイツも仕事で俺に仕えていただけなんだ そんなアイツに俺は何を期待していた?仕事として… では無くって事か?仕事としてではなく 俺に仕えて欲しい… そう思っていたのか?だとしたら…)
アールモンドが苦笑して言う
「はっ!…それこそ餓鬼かよ?」
アールモンドがたどり着いた先 シングルベッドと机があるだけの空間 小さな窓から入る光が照らしている 椅子に掛かっている上着 アールモンドが一瞬辛い表情を見せるが視線をそらして ベッドにある目覚まし時計を見て思う
(アイツにだって 生活があるんだ 仕事が無けりゃ 生きて行けねぇ …だったら 俺の世話役と言う仕事をするのが当然だろう?それにアイツは不器用ではあったが それでも俺が満足する様に努力をしていた …だったら 良いじゃねぇか?なのに俺はっ?アイツにそれ以上の 何を求めていたって言うんだ!?)
アールモンドが悔しさを振り払う様に振り返ると 机の壁際に新聞の束が積んである アールモンドが呆気に取られて言う
「…新聞?」
アールモンドが一番上の一部を取って一面を見るとハッとして思う
(っ!)
アールモンドが慌てて他の5つを確認すると 涙をこらえて言う
「アイツ…っ!本当に…っ」
新聞は全てアールモンド上級灯魔作業の記事 アールモンドが顔をそらして言う
「畜生っ!」
アールモンドが壁に背を預けて思う
(そうだ アイツはこういう奴だ …だから アイツらと同じだとは思いたくなかった…っ 俺に言わずにフェンシング大会になんか 出て欲しくなかった…っ 俺に言わずに 黒曜石の指輪を手に入れて欲しくなかったんだよっ!)
アールモンドが言う
「アーサー…っ」
アールモンドが手を握り締め 涙を流す
アールモンドが自室へ戻ると溜息を吐き思う
(…さて どうすっか?)
アールモンドが何となく首を搔き法魔帯に気付いて言う
「…ん?」
アールモンドが腕に巻かれている法魔帯を見て思う
(そういや…)
アールモンドが肩の力を抜いて言う
「…風呂でも入るか」
浴室
アールモンドが扉を開けると気付いて思う
(…そうだよな いつもはアイツが…)
アールモンドが視線をそらして言う
「…なら誰か呼ぶか?」
アールモンドが浴室外へ視線を向けると思い出して思う
(けどな…)
アールモンドの意識に記憶がよみがえる
アールモンドの耳元に風と共に魔力が過ぎてメイドの声が聞こえる
『あんな我儘お坊ちゃまの お世話係 だなんて アーサー様も お可哀そうに』
『今度の休暇は何時かしら?今月はお手当てが良かったから!』
『お坊ちゃまのご機嫌さえ取っておけばボーナスが付くんだから お屋敷付きは辞められないわよね!』
メイドたちが笑っている
アールモンドがムッとして言う
「気に入らねぇ…っ」
アールモンドが向き直って思う
(だったら!)
アールモンドがお湯の栓を開いて思う
(風呂ぐれぇ 自分でやりゃ良いだろ!魔法を使わなくったって 栓を開けりゃ 湯が出るんだ!)
アールモンドが言う
「へっ!こんくれぇ楽勝だぜ?」
アールモンドが栓を閉めて言う
「よし これで後は…」
アールモンドが服を脱ぐと 法魔帯を取ろうとして衝撃を受けて言う
「…どぉやって取るんだ?コレ…?」
アールモンドが思う
(巻く時も外す時も いつもアイツに任せっきりだったから 分かんねぇ…っ)
アールモンドが言う
「大体どこでどうやって止めてんだよ?」
アールモンドが体中探して怒って言う
「だあぁああっ!分かんねぇえ!アーサー!!」
アールモンドがハッとすると 肩の力を抜く
ウィザードの杖が一瞬光る アールモンドの身体から法魔帯が切り刻まれ床に落ちる アールモンドが言う
「良し」
アールモンドが思う
(法魔帯が切れた瞬間に 魔証印が焼かれるんじゃねぇか… なんて ビビッてたが…)
アールモンドが腕をさすって言う
「思いの外上手く行ったぜ」
アールモンドが浴室へ向かいながら思う
(案外やってみりゃ 出来るもんだ…)
アールモンドが手を見ながら言う
「魔力の繊細な操作なんて 苦手だと思ってたんだがな?」
アールモンドが浴槽の湯を見て向かいながら思う
(いつの間にか 精神力が上がってたみてぇだ…)
アールモンドが溜息を吐いて言う
「これなら作れただろうにな?お守りの1つくれぇ…」
言い終えると共ににハッとして言う
「チッ… またアイツの事を…」
アールモンドが苛立たしげに言う
「あぁああっ!もうっ!忘れてやる!風呂に入って お前の事も何もかも全部 スッキリ洗い流してやるぜ!!」
アールモンドが勢い良く浴槽に入ると飛び上がって叫ぶ
「あちぃいいーー!!!」
アールモンドが慌ててシャワーの水を出すと叫ぶ
「冷てえぇええーー!!!」
アールモンドが怒って言う
「あぁあ!!もう!何もかも!!…クソッ!!」
アールモンドが壁を殴る
ベッドルーム
アールモンドがベッドに横たわると思う
(…何とか風呂は済ませたが…)
アールモンドが言う
「疲れた… 」
アールモンドが体の向きを変えて思う
(これから毎日これが続くのか?…いや 次は流石に もう少しは上手く行くだろうが…)
アールモンドが言う
「やりたくねぇ…」
アールモンドが息を吐き 再び仰向けになると思う
(やっぱ次からは 家の奴らにやらせるか?そもそもアイツらは こう言う事をやらせるために居ンだろ?それで…)
アールモンドが言う
「それをやったら 褒美を…」
アールモンドが思う
(ボーナスを 上げてやらなけりゃいけねぇのかよ…?)
アールモンドが不満げに言う
「…クソッ」
アールモンドが間を置いて思う
(けどな?考えて見りゃ今まではアイツにやらせてて それをアイツらへやらせるって事は 単純に アイツの給料がアイツらへ割り振られるって事か?)
アールモンドが横を向いて言う
「…だったら良いか?」
アールモンドが思う
(あんな面倒くせぇ事を自分でやるくれぇなら…)
アールモンドが溜息を吐こうとすると ノックの音が聞こえ メイドの声がする
「失礼致します あの… ウィザード様?メイドのハミネですが… こちらのドアを お開けしても宜しいでしょうか…?」
アールモンドが疑問して思う
(アイツか?珍しいな… 何か用があるって事か?出来れば 今は 誰にも会いたくねぇんだが… さて、どうする?)
メイドの声がする
「あの… 奉者協会から奉者様がお越しなのですが」
アールモンドが反応して思う
(奉者協会からの奉者ってぇと…?)
ミレイの声がする
「お久し振りで御座います アールモンド・レイモンド ウィザード様 奉者のミレイ・クレシアです」
アールモンドが反応して思う
(ミレイ・クレシア… あぁ アイツか… なら)
アールモンドが言う
「…ああ アンタか 勝手に入ってくれ」
ミレイの声がする
「では お言葉に甘えまして 失礼させていただきます」
ドアが開かれ ミレイが入って来る ミレイの気配を感じつつアールモンドが思う
(コイツが来た理由は… 有り過ぎて見当も付かねぇが)
ミレイがアールモンドの近くに立つと アールモンドが苦笑して言う
「俺に何か用かよ?」
アールモンドが思う
(大方 昨日すっぽかした 魔力供給の話か?それとも… 俺がクビにした アイツ(アーサー)の事か?)
ミレイが言う
「はい、アールモンド・レイモンド ウィザード様とは 以前にも数日の間 限定的に奉者として随行をお許し頂きましたが 本日より 正式に わたくしが貴方様の奉者となりました 改めまして 宜しくお願い致します」
ミレイが深くお辞儀をする アールモンドが呆気に取られて起き上がって言う
「っ!?本日よりアンタが…って?…アイツはっ!?」
アールモンドが思わず口を次いで出た言葉にハッとすると ミレイがすまなそうに言う
「先日まで アールモンド ウィザード様のお傍付きをお許し頂いておりました アーサー・スペイサー奉者の無礼に関しましては 同じ奉者として わたくしからもお詫びを申し上げます」
ミレイが深く礼をする アールモンドが言う
「どういう意味だ?それにアイツは…」
アールモンドが思う
(アイツは アンタに代わりの礼をさせる様な 関係じゃ…っ)
ミレイが言う
「アーサー・スペイサー奉者は 奉者としての職務の怠慢に加えて 自身のお仕えするウィザード様へのご奉仕さえ 無為にしたと言う事ですので 奉者協会は 彼はウィザード様へお仕えする奉者として相応しく無いと判断をし 無期限の停職処分と致しました」
アールモンドが驚き呆気に取られて言う
「無期限の停職処分…?」
アールモンドが思う
(アイツが…?)
アールモンドが視線をそらして言う
「そ、そうかよ…」
ミレイが言う
「この度の アーサー・スペイサー奉者の不始末に関しましては わたくし及び 奉者協会の方で対処を致しますので アールモンド ウィザード様へは どうか御気分の程を お納め頂けます様 慎んでお願いを申し上げます」
アールモンドが視線をそらしたまま歯を食いしばって言う
「…っ」
アールモンドが思う
(だから…っ 何でお前らがっ!?)
アールモンドが怒って言う
「アーサーは 俺のっ!!…っ」
アールモンドが思う
(俺の…?俺が… アイツをクビにしたんだ …だってぇのに 俺は 今… 何を言おうとした?)
アールモンドが肩の力を抜いて言う
「…もう良い …分かった」
ミレイが微笑すると言う
「有難う御座います アールモンド ウィザード様」
アールモンドが言う
「後 その 長げぇ呼び方止めてくれ」
ミレイが言う
「はい それでは アールモンド様とお呼びしても 宜しいでしょうか?」
アールモンドが言う
「ああ それで良い」
ミレイが言う
「光栄で御座います」
アールモンドが視線をそらして言う
「…そうかよ」
アールモンドが思う
(ならアイツは… どう思ってたんだろうな…?)
ミレイが言う
「では アールモンド様?」
アールモンドがハッとしてミレイを見る ミレイが言う
「本日のご予定は如何しましょう?」
アールモンドが言う
「うん?…ああ」
アールモンドが思う
(そういや 何も考えてなかった… 風呂に入るだけで 精一杯でよ?…とは言えねぇがな?)
アールモンドが言う
「特に考えてねぇよ」
ミレイが言う
「ではもし御気分が乗られる様でしたら 昨日行う予定に御座いました ライス村の灯魔台への魔力供給のご公務を 行っては頂けませんでしょうか?」
アールモンドが思う
(魔力供給か… ま、それくれぇなら)
アールモンドが言う
「ああ、なら それで…」
ミレイが言う
「有難う御座います では 早速 灯魔神館 並びに 奉者協会へ連絡を行って参ります」
アールモンドが言う
「ああ」
アールモンドの返事を聞くとミレイが退室に向かう アールモンドが軽く息を吐くとふと気付いて言う
「あ…っ おいっ?」
ミレイが立ち止まると向き直って言う
「はい 何か?」
アールモンドが言う
「お前 奉者なら 法魔帯… 巻けるンだよな?」
ミレイが言う
「はい 講習を受けておりますので」
アールモンドが思う
(講習を受けている… か、まぁ アイツも言ってたっけ?講習会で講師の奴に褒められた とか?…なら 同じか?)
アールモンドが言う
「さっき風呂に入った時に 外しちまったんだよ …新しいのソコに入ってンと思うから…」
アールモンドが思う
(…巻いてくれ ってぇ言うしかねぇよな?俺は自分じゃ巻けねぇし… そもそも外す事すら出来なかったんだ ソイツをやるだなんて 確実に無理だ)
ミレイがクローゼットを見ると言う
「はい では失礼をして 中を確認をさせて頂きます」
ミレイがクローゼットを開けて中を確認している アールモンドが思う
(…と、言ったは良いが…)
ミレイが言う
「はい 御座いました」
ミレイが法魔帯を手にアールモンドへ向く アールモンドが言う
「ああ…」
アールモンドが思う
(…で、ソイツを巻いて貰いてぇ訳だが…)
アールモンドが視線をそらすと ミレイがアールモンドの前に来て言う
「では 法魔帯を巻かせて頂きます」
アールモンドがミレイを見て言う
「…ああ」
アールモンドが思う
(同性のアイツだから 今までは気にならなかったが…)
ミレイが言う
「お洋服を失礼いたします」
アールモンドが沈黙しているとミレイがアールモンドの上着の止めへ手を掛ける アールモンドが思う
(そもそも この服だって こうやって相手に脱がされる為の構造みてぇだし… 奉者ってぇのは 基本は女で ウィザードは男だ …だったら)
ミレイがアールモンドから上着を取ると 膝を付き言う
「こちらも失礼致します」
アールモンドが視線をそらして思う
(これも… 普通なんだろうけど… …なんだかなぁ?)
ミレイがアールモンドの腰にタオルを掛けズボンを取る アールモンドが沈黙して思う
(…へぇ?普通はそうやるのか… ある意味 逆に気になるっちゃ 気になるが 無けりゃお互い気まずいもんな?…アイツの時はどっちも無かったけどよ…)
ミレイが法魔帯を手に言う
「では お足元より巻かせて頂きます」
アールモンドが言う
「ああ」
ミレイがアールモンドの左足へ法魔帯を持って行く アールモンドが思う
(左足から… そこは同じなんだな?なら その後もきっと…)
ミレイがアールモンドの足に法魔帯を当て 片手をアールモンドの足に添えて巻き始めようとすると アールモンドが一瞬ビクッと反応する ミレイがハッとして言う
「あ…っ 申し訳御座いません」
アールモンドが言う
「いや… 悪い 続けてくれ」
ミレイが言う
「はい 畏まりました では…」
アールモンドが沈黙して思う
(…冷てぇ手なんだな?思わず身体が反応しちまった… ついいつもの感覚で 安心しちまってたから それで… うん?)
ミレイが法魔帯を巻いて行く アールモンドが言う
「…もう少し強く巻いてくれねぇか?」
ミレイが反応すると言う
「はい 畏まりました」
アールモンドが思う
(巻き方はともかく 緩いのはマジで困るからな?隙間でもあった日には…)
アールモンドが視線をそらして思う
(想像もしたくねぇ… …で、出来ればその巻き方も… それが普通なのか?)
アールモンドが言う
「法魔帯ってぇのは…」
ミレイが手を止めアールモンドの顔を見上げる アールモンドが言う
「そうやって巻くのが普通なのか?」
ミレイが一瞬呆気に取られると 自分の手元を持手から言う
「あ… はい ウィザード様の左足から始め 外から内へ向けて巻く様にと その様に学びましたが?」
アールモンドが言う
「…そうか」
アールモンドが思う
(ならやっぱ これが普通なのか… アイツの巻き方が間違ってたって?…けどな 俺的にはアッチの方が… 良かったンだが…)
ミレイが言う
「あの… お続けしても宜しいでしょうか?」
アールモンドが言う
「ああ 続けてくれ …後出来れば もっとキツク巻いてくれ 魔証印はあっても 別に怪我してる訳じゃねぇンだから」
ミレイが言う
「はい 失礼致しました それではもう少々キツめに 巻かせて頂きます」
アールモンドが言う
「ああ」
ミレイが法魔帯を伸ばす様にして強く巻き始めて言う
「如何で御座いましょう?」
アールモンドが言う
「…ああ 良くはなった」
アールモンドが思う
(けどなぁ…)
ミレイがホッとして微笑すると 作業に専念する アールモンドが思う
(巻き付ける力の加減は 悪くは無くなったけど… 何かその… 外から内へ …だっけ?そりゃまぁ… 逆にされるよか良いんだが… ホントに巻かれてますって感じだな?これが普通なのか?だとしたら ウィザードってぇのは… いや?魔力者ってぇのは)
アールモンドがハッとする ミレイがアールモンドの太股の手前まで到達している アールモンドが視線をそらして思う
(…って 忘れてた …それこそ どうすんだよ?そこは?…普通は?)
ミレイが目を瞑り手探りで続きを巻いて行く アールモンドが思う
(ああ なるほど… そうやるのか)
アールモンドが視線をそらして思う
(お互い大変だよな?異性だと… いや?よく考えりゃ 同性でも?アイツじゃ無かったら?…どうなンだろうな?)
ミレイがアールモンドの腰までを巻き終えると手探りのままタオルを直して目を開ける アールモンドが思う
(良し これで次はもう一度 今度は右足から… …うん?)
アールモンドが疑問する ミレイが作業を続けアールモンドの腰から腹へと法魔帯を巻き続ける アールモンドが思う
(左足を終えたら右足じゃねぇのか…?ま、いっか?巻いてさえ貰えりゃ…?)
ミレイが作業を続け肩で固定して 左腕を巻き 右腕に巻こうとすると疑問して言う
「…?あ…っ」
ミレイが言う
「申し訳御座いません アールモンド様 巻き方を間違えてしまいました様です」
アールモンドが言う
「ああ…」
アールモンドが思う
(あぁ… やっぱ忘れてたのか?右足…)
アールモンドが言う
「別に順番なんかは どうでも良い」
アールモンドが思う
(そんな事よか…)
ミレイが苦笑して言う
「お心遣いを有難う御座います それでは お言葉に甘えまして 巻き忘れてしまいました 右足の方を巻かせて頂きます」
アールモンドが言う
「ああ…」
アールモンドが思う
(別に… いちいち礼を言ってくれなくても… ンな事よか…)
アールモンドがミレイの手元を見て思う
(巻き加減がよ… また弱くなってンだけど…)
ミレイが薄っすらと汗をかいて作業を続けている アールモンドが視線をそらして思う
(やっぱ大変だよな?それでも努力してンだし… 俺は出来ねぇし… 言えねぇ… これだってアイツだったら… 何も構わず何度でも言ってただろうけど…)
アールモンドが視線をそらす ミレイが一度アールモンドの顔を見上げてから息を吐き額を拭って作業を続ける
ミレイが法魔帯を結び言う
「如何で御座いましょう?」
アールモンドが言う
「ああ…」
アールモンドが思う
(率直に巻かれた …て感じだな?これだと灯魔作業に行こうとか 魔力供給をしよう だなんて言うよか このまま怪我人としてでも ベッドに寝ててぇ気分だが…)
アールモンドが言う
「ありがとう 助かった」
アールモンドが思う
(そうも行かねぇしな…)
ミレイが一瞬呆気に取られてから 微笑して言う
「滅相も御座いません ウィザード様へ法魔帯を巻かせて頂きますのは 奉者の務めで御座いますので」
アールモンドが思う
(そうなのか… だったらもう少し… …いや)
アールモンドが視線を自分の横に置かれている服へ向けて思う
(それよか 終わったなら さっさと着せて欲しいんだが… 冷てぇ手で触られたお陰で 何だか肌寒ぃし… 何より 女のお前の前で 落ち着かねぇ…っ)
ミレイが残った法魔帯を片付ける アールモンドが思う
(それなら もう自分で着ちまうか?…けどな?この状態で このタオルを取っちまう訳にも行かねぇし… 上着を自分で着て ズボンを任せるってぇのも可笑しいし… 参ったな…?言っちまうか?…けど そっちを片付けねぇ訳にも 行かねぇンだろうし…)
アールモンドが反応してくしゃみをして言う
「ハックシッ!」
アールモンドが思う
(!?何だ?くしゃみ?…俺 がくしゃみしたの何て 一体何時振りだ?ウィザードになってから… いや?魔力者になってから した事なんか無かったぜ!?)
アールモンドが困惑していると ミレイがハッとして言う
「も、申し訳御座いません アールモンド様っ お身体を冷やしてしまいました すぐにお洋服を お着せ致しますのでっ」
アールモンドが言う
「…ん ああ… 悪い 自分でも驚いた…」
アールモンドの身体にズボンが履かされ タオルが取られ 上着を着せられる ミレイが言う
「では すぐに連絡を済ませて参りますので 少々お待ち下さいませ」
ミレイが礼をして部屋を出て行く アールモンドが思う
(いつもならリビングまで行ってから アイツは連絡をしに出て行くンだが…)
アールモンドが視線を向けると ドアの隙間から風の魔力が流れて来て ミレイの声が聞こえる
「アールモンド・レイモンド ウィザード様の奉者を任されました ミレイ・クレシアです 連絡が遅くなりまして申し訳ありません …いえ その様な事は …はい …はい 予定通りライス村の…」
アールモンドが視線をそらして言う
「…そこで連絡されるんじゃなぁ」
アールモンドが思う
(お前の居る その場所にあるソファで 俺が寛ごうなんて出来ねぇし …なら仕方ねぇ 言われた通り ここで少し待つか… …にしても 今は何時だ?何か薄暗ぇな?)
アールモンドが窓へ向くと窓の外は曇っている アールモンドが思う
(朝起きた時は晴れてたが 雲が出て来てたのか…)
アールモンドが立ち上がり窓辺へ向かうと 窓を開け空気を感じて言う
「…今日も雨か」
アールモンドが思う
(見た感じは今にも降りそうだが 空気中の水の魔力が足りてねぇ 降り出すのはまだ先だな…)
アールモンドが苦笑して言う
「まだ足りてねぇくせに 今にも降り出しそうな顔しやがって?」
アールモンドが思う
(お前の今のツラはまるで…)
アールモンドが言う
「俺の気分みてぇだぜ…」
ドアがノックされ ミレイが言って入室する
「失礼致します アールモンド様」
ミレイが言う
「お待たせを致しました 灯魔神館並びに奉者協会への連絡を行いました 灯魔台の点検整備は完了しているとの事ですので ご都合の宜しい時に お越し下さいとの事です」
アールモンドが言う
「そうか なら…」
アールモンドが思う
(3時の茶の後にするか?それとも…?)
アールモンドがリビングへ向け歩いてから言う
「すぐに行く」
アールモンドが思う
(じっとしている分には大丈夫そうだが 動いてみたらやっぱ この法魔帯はヤバそうだ のんびり茶の時間を過ごしていたりしたら 何処か緩んで 作業中に隙間でも空いたら 洒落にならねぇ)
レイモンド邸 外
アールモンドがやって来ていつもの場所に立ち止まると振り返り思う
(…と、一応 聞いて置くか…)
アールモンドが言う
「アンタも来るのか?」
ミレイが言う
「はい わたくしもお供をさせて頂きます」
アールモンドが言う
「そうか なら…」
アールモンドが思う
(やっぱここは 連れて行かねぇ訳には 行かねぇよな?)
アールモンドが言う
「一緒に行くか?」
ミレイが微笑して言う
「はい ウィザード様の移動魔法に ご一緒させて頂けます事は 奉者の名誉に御座いますので」
アールモンドが思う
(名誉か… そこまで言われちゃ 断れねぇな)
アールモンドが言う
「じゃあ…」
ミレイが言う
「はい アールモンド様の 魔法の範囲へ わたくしもお邪魔をさせて頂きます」
アールモンドが言う
「ああ…」
ミレイがアールモンドの近くへ来て問う様にアールモンドの顔色を伺う アールモンドが思う
(まぁ 実際にはその辺りでも 移動の風に乗せる ってだけなら 問題はねぇんだが…)
アールモンドが言う
「大丈夫だとは思うけど 一応 どっかに掴まっといてくれ」
ミレイが言う
「はい それでは 失礼をさせて頂きます」
ミレイがアールモンドの腕の法衣を握る アールモンドが思う
(…それって掴まるって言うのかよ?…まぁ掴まってはいるのかもしれねぇけど)
アールモンドが言う
「えっと… そうじゃなくて」
アールモンドが思う
(何って言ったら良いんだろうな?もっとアイツみてぇに…?)
アールモンドの脳裏にアーサーの姿が思い出されている アールモンドがミレイを見て思う
(…って よく考えたら コイツはアイツと違って女だから 俺の肩に腕を回す事は出来ねぇか?身長も俺の方が高ぇし ガタイだって… …なら?)
アールモンドが言う
「服じゃなくて… その… 体の方に掴まってくんねぇか?それだと なんかあった時 離れちまうだろ?」
ミレイが言う
「あ そうですね?畏まりました それでは…」
アールモンドが思う
(…これで合ってたよな?何かあった事なんか正直ねぇけど …無いって事も言い切れねぇし?)
アールモンドが一瞬ドキッとする ミレイが少し照れながら言う
「こ… こちらで宜しいでしょうか?」
ミレイがアールモンドの身体に腕を回して掴まっている アールモンドが視線をそらして言う
「あ、ああ それなら…っ」
アールモンドが思う
(い、良いんじゃ… って いや 良いはマズイだろう?だからっ)
アールモンドが言う
「…だ、大丈夫なンじゃねぇ?」
ミレイが羞恥に視線をそらして言う
「は、はいっ その…っ ソニア副会長が いつも この様にされていらっしゃるので…っ そちらに倣ったつもりなのですが…っ ア、アールモンド様は 動き辛くは御座いませんか?」
アールモンドが思う
(動き辛くねぇか?って聞かれりゃ 動き辛いと言うより う、動けねぇけど…っ)
アールモンドが言う
「べ、別に… 杖を持ってる 右腕が動かせりゃ 良いだけだから…っ」
アールモンドが思う
(女を連れて移動魔法をするってぇのは 正直 すげぇ精神力の修行なんだな…っ?ハッキリ言って 俺にはキツイぜ…っ だってよ?)
ミレイの身体がアールモンドの身体に接触している アールモンドが言う
「じゃ 行くけど… 俺は正直 風の移動魔法は …そんなに得意じゃねぇから」
ミレイが言う
「は、はいっ ではっ」
ミレイがアールモンドの身体に掴まる腕に力を込める ミレイの胸がアールモンドの身体に押し付けられる アールモンドが驚き思う
(や、やべぇ… これ以上 続けていたら…っ …俺が持たねぇっ)
アールモンドが言う
「…ライス村 …だったよな?」
アールモンドが思う
(ライス村 …ライス村ってぇと …どっちだっけっ?)
ミレイが言う
「はいっ 南東アウターサイドのライス村ですっ」
アールモンドが思う
(南東の… ああっ そうだ!あそこか!思い出したぜっ それなら!)
アールモンドが杖を持つ手に力を込めると周囲に風の魔力が集まる ミレイが驚き周囲を見る アールモンドが閉じていた目を開くと共に杖を掲げる 風の魔力が吹き上がり 2人が風に消える
ライス村 灯魔台神館
アールモンドとミレイが風に現れる アールモンドが思う
(良し …何とか無事に着けたぜ)
ミレイがアールモンドにしがみ付いていた状態から顔を上げ 周囲を伺い言う
「い、移動した…?」
アールモンドが言う
「ああ、もう着いたから 離れても …あっ!悪いっ!」
ミレイが疑問して言う
「え?」
アールモンドがミレイの身体を抱いていた状態から慌てて手を放して思う
(つ、つい いつもの癖で 移動の瞬間に腕を回しちまったっ …相手は女だってぇのにっ これじゃ 俺が抱き寄せたみてぇじゃねぇかっ!?)
アールモンドが顔をそらして言う
「い、移動が終わった瞬間に 体が離れてっとっ 到着した時の離立魔力で ふっ飛ばしちまう事があるからっ それで…っ」
ミレイが呆気に取られた状態から微笑して言う
「お気遣いを有難う御座います アールモンド様 わたくしの方こそ 何時までも失礼を致しました」
ミレイが離れて微笑む アールモンドが言う
「いや… まぁ とりあえず 行くか」
ミレイが言う
「はい 参りましょう」
アールモンドが歩き始めて思う
(あぁ… 何か変に疲れちまった 心臓もまだドクドク言ってっし… 他のウィザードの連中は 良く毎回こんな変な緊張に耐えられるな?…ひょっとすっと それで連中の精神力は 俺より高けぇのかよ?)
アールモンドが溜息を吐く ミレイが微笑して続いている
神館内
アールモンドとミレイが通り過ぎた通路の壁に 張り紙がある
”本日 当神館にて ウィザード様による 魔力供給が行われます 尚 そちらの際には…”
アールモンドとミレイが灯魔台の下へ向かう 周囲に居合わせた観覧者たちが顔を向ける中 アールモンドが灯魔台の下へ到着して灯魔を見上げて思う
(状態は… 悪くはねぇみてぇだ ここは確か…)
アールモンドが補助灯魔台へ視線を向ける 周囲では子供たちがアールモンドに興味を示している アールモンドが補助灯魔台を見て思う
(補助灯魔台はギリギリか… あと少し遅ければ あっちは消えてたかもな?補助灯魔台が消えちまってっと 魔力供給より灯魔作業をやり直した方が良いけど)
子供が言う
「ウィザード!ウィザードー!」
ミレイが子供に顔を向けると 子供の親が子供に近付きミレイを見て苦笑して頭を下げる ミレイが微笑し会釈を返す アールモンドが思う
(逆を言えば 補助灯魔台がギリギリの状態で 灯魔台の灯魔にも異常がねぇなら 魔力供給のタイミングとしては 最高だぜ)
アールモンドが灯魔台へ向き直り 杖を向けて思う
(これなら ここでメイいっぱいの魔力を込めてやりゃぁ 1年は余裕 …ひょっとすっと 1年半はイケるかもな?良しっ!)
アールモンドが杖で床を突くと 手を放して意識を向ける 杖が浮かび上がる 観覧者と子供たちが息を飲む 子供が杖を指さして母親に言う
「ママー!?」
母親が子供へ向いて同意するように微笑んでうなずく ミレイが見ている アールモンドが目を閉じたまま魔力を送ると 灯魔台の灯魔が反応して 補助灯魔台の灯魔が出力を高める 大人たちが驚きの声を漏らしアールモンドを見ると驚く アールモンドの周囲に魔力の光が集まって見える 大人たちが感銘の声を上げ 母親たちが言う
「まぁ… 綺麗ねぇ?」 「素敵だわ~」 「アールモンド様がいらっしゃるのだから この町なら安全ね?」 「ホントねぇ~?」
母親たちが談笑している ミレイが視線を向け不満の表情を見せる 子供たちが呆気に取られていた状態から喜び アールモンドの周りの魔力に遊び始める 母親たちが和やかに見守る ミレイが表情を険しく見つめていた状態から軽く息を吐く アールモンドが目を閉じたまま思う
(…良し 問題ねぇ 灯魔台の状態も悪くねぇし 灯魔も… 何だろうな?この魔力は?何だか懐かしいな?)
子供の声が聞こえる
「ウィザードのお兄ちゃん?何やってるのー?魔法使ってー?」
アールモンドが苦笑して思う
(魔法?使ってンだろ?…つっても 分かんねぇよな?こんな地味な 魔力供給なんかじゃ… 灯魔作業だったら 普通の人間や 子供にも 分かるだろうが …そういや この灯魔台は 俺がウィザードになって 初めて灯した 灯魔台だったっけ?なるほどな?通りで… この懐かしい魔力は…)
アールモンドの脳裏に 初めての灯魔作業時の状況が思い出される アールモンドが思う
(俺は この神館の巡礼者席を占める連中にビビッて 不安で一杯だった… けど)
アールモンドの脳裏で 過去の様子が思い出される
若いアールモンドが手を握り締めると 若いアーサーが抱きしめて言う
『大丈夫だよ アーリィー アーリィーは凄いウィザード様なんだから アイツらに見せつけちゃいなよ?』
アールモンドがアーサーを見上げる アーサーが言う
『アーリィーなら 出来るよ 俺には分かるから!』
アールモンドが言う
『ウィザードでも 魔法使いでも無い お前が 分かるかよっ』
アーサーが言う
『分かるよ 俺はどっちでも無いけど どっちも見て来たから』
アールモンドが反応する アーサーが言う
『だから安心して アーリィー アーリィーなら大丈夫!それに 何かあったら 俺が助けるから』
アールモンドが呆気に取られた後 アーサーから離れてプイッと顔を背けて言う
『き… 期待してねぇよ!』
アーサーが笑って言う
『あっはは またまた~?アーリィーったら 素直じゃないんだから?』
アールモンドが言う
『うるせぇよ!アーサー!』
アールモンドが灯魔台へ向かう アーサーが微笑している
アールモンドが目を開き灯魔台を見上げて思う
(…お陰で俺は 巡礼者連中の前でも 物怖じせず 灯魔作業を出来た… アイツが言ってくれた言葉に 支えられた …この弱々しい魔力の中でも 雷の魔力を従える力… これは 紛れもなくアイツに支えられた力だ アーサー…)
灯魔台に灯っている雷の魔力が威力を増す アールモンドが苦笑して 目を閉じて意識を正し思う
(…そういや 初めての灯魔作業で 雷の灯魔を灯したってぇ?ちっとは話題になったらしいな?あの巡礼者連中の驚きっぷりにも笑えたが… それよりも 俺は…)
若いアールモンドが平静を装って控え口へ戻って来ると 若いアーサーが言う
『やったね アーリィー!』
アールモンドが顔を上げると アーサーが飛びついて来る アールモンドが安堵と共に微笑すると アーサーがアールモンドの身体に触れた瞬間悲鳴を上げる
『ひぎゃああっ!?』
周囲に雷の放雷が舞うアールモンドが驚き ハッとして思う
《しまったっ!?まだ俺の身体に 雷の魔力がっ!》
アールモンドが焦って言う
『アーサー!!』
アールモンドが思う
《雷の法撃を 普通の人間が受けちまったらっ!》
アーサーが自分の身体に纏った雷の放雷に呆気に取られ 喜んで言う
『わぁ… わぁ凄い!見て見て!アーリィー!俺も 魔法使いみたいー!』
アーサーが手を向けると 放雷が煌めく アールモンドが呆気に取られて思う
《…あ そっか?いくら俺の身体に 雷の魔力が残ってても そいつらはもう 俺が従えた魔力… あの灯魔台に灯った 灯魔力と同じだ 人を守っても 人を傷付けるなんて事はねぇ》
アールモンドが肩の力を抜くと苦笑して言う
『それは 魔法じゃなくて 灯魔力だ アーサー』
アーサーが言う
『灯魔力?そっか… それじゃ あの灯魔台に灯っている力と同じ力なんだね?』
アールモンドが言う
『そうだな?』
アーサーが言う
『それじゃ これが世界を守る力… アーリィーウィザード様の魔法だね!優しくて楽しい 俺 アーリィーの魔法 大好きだよ!アーリィー!』
アールモンドが呆気に取られてから苦笑して言う
『…おう』
アーサーが微笑し アールモンドが歩くと続く
アールモンドが思う
(…そうだったな アーサー 俺は… お前が大好きだと言ってくれた 俺の魔法で…)
アールモンドが視線を強めると 杖が光る アーサーが驚いて言う
『…え?うわあっ!』
アーサーの胸に雷の魔法が当たり 服のボタンが外れる アーサーが言う
『アーリィー?俺… 凄く怖かったよ?だって 今の… ま、魔法… だよね?アーリィー?魔力者は その… 普通の人間に 魔法は使っちゃいけないって… アーリィー だから 今のはちょっと… 駄目… だよ?いくら アーリィーでも …はぁ はぁ …俺 怖いよ…』
アーサーが息を切らし震える
アールモンドが思う
(お前を怯えさせた…)
アールモンドが叫ぶ
『出て行けっつってんだよっ!!』
アールモンドがアーサーへ向けて杖を振るうと 杖が光り アーサーが風魔法に吹き飛ばされ アーサーが悲鳴を上げる
『うわぁあーっ!』
アーサーがリビングの壁に叩きつけられる アーサーが悲鳴を上げて言う
『ぐうっ!』
アーサーの肩の骨が折れる音がする アールモンドがハッとする アーサーが目を見開き肩を押さえると言う
『う…っ い、痛い…っ』
アールモンドが思う
(お前を傷付けた…)
アールモンドが表情を苦しめるが顔をそらすと杖が光る アーサーが肩を押さえつつ顔を上げて言う
『ア、アーリィー…』
扉が閉まる アーサーが言う
『アーリィーっ』
アールモンドが思う
(俺は唯 お前を ドアの外までふっ飛ばしてやろうと 思っていただけだったのに)
アールモンドが額を押さえて泣いていて思う
《クソッ… 止まらねぇ…っ 情けねぇ… 俺は… クソ…ッ クソ…ッ!》
アールモンドが思う
(自分の苦しみに耐え切れなくて お前にぶつけちまった… 肩… 折れちまってただろうな… …だってぇのに お前は…)
扉の外からアーサーの声が聞こえる
『アーリィー 俺… アーリィーを 助けてあげられなくて ごめんね』
アールモンドがハッとする
アールモンドが思う
(お前は…)
アーサーの声が聞こえる
『アーリィーの… 力になれなくて ごめん… アーリィーの事 傷付けちゃったみたいで ごめんなさい… 俺 アーリィーと ずっと一緒に居たかった だから 何でもするつもりだったのに… アーリィーが凄く苦しんでるのに 今 傍に居られなくて ごめん…』
アールモンドが思う
(俺の心配をするんだよ?アーサー …痛ぇだろ?腕一本動かす要の骨だぜ 痛ぇなんてもんじゃねぇだろ?俺は… すぐに回復魔法を掛けてやりたかった… 自分でやっときながら 馬鹿だよな?俺は…)
アールモンドが歯を食いしばって思う
《アーサー… 何でお前はいつも そう言うんだ?仕事のくせに… お前は唯 仕事として 俺に仕えているだけなんだろう?なのにどうして… あいつらみてぇに 俺の悪口を言ってくれねぇんだっ!?俺がこんなに…っ》
アールモンドが思う
(お前に悪口を言ってもらって この苦しみから逃れたいと思ったんだ …俺は 本当に餓鬼のままで… お前に頼ってばかりで… 非魔力者に魔法を放っておいて その相手に助けを求めてるなんてな?アーサー… お前は今 どうしてる…?)
アーサーの声が聞こえる
『俺… 理由は分からないけど アーリィーに 嫌われちゃったんだよね?ごめんなさい… あんなに仲良くしてもらっていたのに そのアーリィーに嫌われちゃうほどの事をしたのに 俺 分からないなんて… 俺 凄く 悔しい… 自分が情けない…』
アールモンドが思う
(どんな理由があったって 非魔力者に魔法を放った魔力者は極刑だ お前がその事実を誰かに伝えれば 俺は… けど お前は)
アーサーが言う
『こんな俺じゃ 嫌われて当然だよね?だけど アーリィー?俺… アーリィーに嫌われちゃっても 俺は アーリィーの事 …大好きだよ?』
アールモンドが目を見開く
アールモンドが思う
(お前がそう言ってくれる事を 俺は分かっていた …だから 正直言っちまえば お前がその事実を明るみにする様な事はしねぇ …それが分かっているから 俺は今もこうして 堂々と魔力供給なんかしていられるんだ …アーサー)
アーサーの声が聞こえる
『今まで 本当にありがとう』
アールモンドが思う
(俺の方こそ… それに 悪かった… 肩… 大丈夫かよ?ちゃんと病院行ったか?治療費の請求くらい… して来いよな?慰謝料だって払う… だから アーサー…)
アーサーの声が聞こえる
『さようなら』
アールモンドが思う
(…ンな事…っ)
アールモンドが手を握り締める 子供がアールモンドを見上げていて 法衣を掴もうとすると その手が掴まれる 子供が顔を向けると ミレイが微笑し顔を左右に振る 子供が疑問すると母親がやって来て 子供を回収する ミレイが肩の力を抜いて下がる 子供が母親を見上げて言う
「ママー?お兄ちゃん 何処か痛いのー?」
母親が呆気に取られて言う
「え?」
子供がアールモンドを指さす 母親が苦笑して言う
「あれは 何処か痛いんじゃなくて 神様にお祈りしているのよ?シュウ君やママの居る この世界が平和でありますようにーって?」
子供が呆気に取られて言う
「神様にお祈りー?」
母親が言う
「そう だから シュウ君もお兄ちゃんと一緒に 神様にお祈りしましょうか?」
子供が言う
「でも お兄ちゃん 泣いてるよー?」
母親が言う
「え…?泣いて…?」
母親がアールモンドを見る 母親からはアールモンドの顔は帽子のつばに隠れて見えない 子供の身長からの視界では帽子のつばの下が見える アールモンドはうつ向いたまま涙を流している
レイモンド邸
アールモンドとミレイが風に現れる ミレイが閉じていた目を開いて周囲を見てから微笑してアールモンドを見上げると アールモンドが冷淡に言う
「着いたぜ もう 離れてくれ」
ミレイがハッとして急いでアールモンドの身体に回していた手を放して言う
「あ、はいっ 失礼致しました…」
アールモンドが歩き始める ミレイが困って言う
「あ、あの… アールモンド様…っ」
アールモンドが去って行く ミレイが表情を困らせうつ向く
回想
アールモンドが魔力供給を終え 構えを解除する ミレイが微笑してアールモンドの様子をうかがっている アールモンドが一度灯魔台を見上げてから何かに気付き周囲を見渡す ミレイが気付き近くへ向かって言う
「お疲れ様で御座いました アールモンド様」
アールモンドが言う
「…ンだ?連中の様子が可笑しいが 何かあったのか?」
アールモンドがミレイへ向く ミレイが微笑して言う
「いえ?特に 何も御座いませんが?」
アールモンドが言う
「特に何も?… …お前?何か言ったんじゃねぇのか?」
ミレイが一瞬反応して言う
「い、いえ?大した事は 申しておりません ウィザード様の魔力供給のお邪魔は なさらないようにと その程度で」
アールモンドが言う
「その程度の事で 連中から 畏怖の魔力を感じる事はねぇ 魔力供給は灯魔作業と違って 危険な事は何もねぇンだ だから 通常の開館時に行う 折角 灯魔台に興味を持って 見物に来た連中に お前は 何言ったんだ って 聞いてンだよっ」
ミレイが困って言う
「そ、その…」
アールモンドが言う
「俺に言えねぇ様な事を言ったのか?」
ミレイが黙る アールモンドが溜息を吐き 見学者たちへ向いて言う
「うちの新米奉者が 何か言ったみてぇだが 全て忘れてくれ 悪かった」
アールモンドが頭を下げる ミレイが驚き慌てて言う
「ウィザード様っ!?」
見学者たちが顔を見合わせた後 微笑して言う
「滅相も御座いません ウィザード様」 「どうかお顔を上げてください」
ミレイが困り 見学者らへ頭を下げて言う
「も、申し訳御座いませんでしたっ」
ミレイの後ろをアールモンドが立ち去って行く ミレイがハッとして慌てて追いかけて言う
「お、お待ち下さい ウィザード様…っ」
見学者たちが肩の力を抜き 苦笑を合わせている 子供たちが疑問している
アールモンドの部屋
ミレイが扉を開いて アールモンドが通過すると ミレイが入りドアを閉め 表情を困らせたまま畏まっていると アールモンドが帽子を取り ミレイの様子をうかがってから 顔を背け帽子を放ると 帽子が魔法でポールハンガーに掛かる アールモンドがそのまま法衣を脱いでソファに腰かける ミレイが言う
「あ、あの…」
アールモンドが言う
「失敗は誰にだってある」
ミレイが反応する アールモンドが続けて言う
「お前が俺の奉者で 何かやっちまったってンなら 俺が謝るのは当然だ」
ミレイが安堵の表情を見せる アールモンドが言う
「そんなのは構わねぇ けど 俺は 隠し事をされるってぇのが嫌ぇなんだよ」
ミレイがハッとする アールモンドが言う
「俺に隠すって事は 俺にはそいつを許容出来ねぇだろ って事だろ?」
ミレイが慌てて言う
「い、いえっ わたくしは 決して…っ アールモンド様を蔑む様な事はっ」
アールモンドが言う
「ふんっ …そうかよ」
ミレイが表情を困らせてから言う
「す… 少し 過剰表現をしてしまいました… ウィザード様の魔法のお邪魔をすると この世界を守る力が失われてしまうと… 貴方方はその重大さが分かっていないと… その… 余りにも 周囲の皆さまが 呑気になさっているようにと 見受けられてしまったもので…」
アールモンドが言う
「連中が呑気にして居られるって事は そンだけ連中が 俺を信用しているって事じゃねぇのかよ?」
ミレイがハッとする アールモンドが言う
「ウィザードの灯す 灯魔台の力で アウターからの異常魔力を防いでいる それくれぇ 灯魔台に興味があって あの場所に居た連中なら知ってンだろ?」
ミレイが言う
「し、しかし あちらの方々は それほどのお方であるウィザード様へ対し…っ アールモンド様へ対する 礼節がなっておりませんでしたもので…っ わたくしは… アールモンド様が 虐げられているようにと… その様にと… それで…」
アールモンドが肩の力を抜いて言う
「俺は元々レイモンド家のお坊ちゃまだからよ?そう言うのはもう十分なンだ」
ミレイがハッとしてアールモンドを見る アールモンドが苦笑して言う
「そンなよか 普通に接してくれる方が良い 餓鬼どもにウィザード様の帽子を取られて 遊ばれたってな?文句は言わねぇよ?」
ミレイが微笑して言う
「わたくしが間違っておりました」
アールモンドが微笑する
テーブルに使われたティーセットがある
ドアがノックされ ミレイが入室して来て言う
「奉者協会への本日の報告と明日の魔力供給の連絡は終わりました それとソニア副会長から 再び 事前告知の公開上級灯魔作業を行って頂けないかと言う事なのですが 如何で御座いましょうか アールモンド様?…アールモンド様?」
ミレイが疑問してアールモンドの顔をうかがうと呆気に取られる アールモンドがソファに座ったまま転寝をしている ミレイが微笑して ソファの背もたれに掛けてあった法衣をアールモンドの身体にかけると ブローチの宝石が煌めく ミレイが気付き微笑して言う
「随分と優しいお色の宝石ですね?アールモンド様に とてもお似合いです」
アールモンドは眠っている ミレイがテーブルに何か置くと礼をして部屋を出て行く
夕日が差し込む室内 アールモンドが倒れる直前の状態から脱力し ソファのひじ掛けに頭をヒットさせると悲鳴を上げて起きる
「イテェッ!」
アールモンドが頭を押さえて起き上がりつつ言う
「ン…?」
アールモンドが思う
(寝ちまってたのか…?今は?何時だよ?)
アールモンドが言いながら横を向く
「アーサー?…っ」
アールモンドの振り向いた先 一瞬アーサーの面影が見えるが誰も居ない アールモンドが表情を落とすと気付き 首を押さえながら悲鳴を上げる
「イテッ… イテテッ… く、首…っ 筋やった…っ イッテェ~…」
アールモンドが視線を向けると気付いて言う
「ん?」
アールモンドがテーブルに置かれているメモを手に取る
” 奉者協会への報告並びに連絡は済ませました 明日は午前中にお伺いします ミレイ ”
アールモンドが言う
「…ンだよ 帰ったのかよ?起こしてくれりゃ良いのに… 大体 俺は お前に…」
風呂場
アールモンドが扉を開き思う
(やってもらいてぇ事が いくつかあったんだよ)
アールモンドが言う
「クソ… しょうがねぇ 今日も自分でやるか?」
アールモンドが入って来て言う
「飯食った後に 働きたくはねぇからな?」
アールモンドが思う
(先に湯を張って 食った後にすぐに入れる様にしときゃ良いだろ?)
アールモンドがウィザードの杖を手に言う
「何てったって 今日は魔法でやってやるからな?こいつなら湯加減だって ばっちりだぜ?」
アールモンドが思う
(昨日は無駄に水を消費しちまった いくら優しい水の魔力だって あんまやってっと 自然の力を収めるウィザードが その自然の力を怒らせちまう)
アールモンドが構えて言う
「良し!一丁やるかっ!?」
アールモンドが浴槽を見ると アーサーの面影が見える アールモンドが気付くと思い出す
幼いアールモンドが言う
『おい アーサー?何やってるんだ?』
幼いアーサーが言う
『うん アーリィ― 俺は今 アーリィーの入る お風呂を洗ってるんだよ?』
アールモンドが言う
『そんなの アイツらにやらせればいいだろ?掃除とかそう言うのは アイツらの仕事だ』
アールモンドが思う
《だから アーサーは もっと俺と…》
アーサーが言う
『そうだね?確かに ハミネさんたちの方が上手かもしれないけど 俺は アーリィーに関する事は 出来るだけ 俺の手でやりたいんだよ アーリィー』
アールモンドが言う
『俺に関する事を お前の手でって?何でだ?』
アーサーが反応して言う
『え?えーっと?何でかって聞かれると どう答えたら良いのか分からないんだけど …けど 俺は 明日もアーリィーに気持ち良く お風呂に入ってもらいたいなーって?そう思ったから 俺の手で洗ってたんだけど?』
アールモンドが言う
『ふーん そうなのか…』
アールモンドが思う
《良く分かんないけど 何か嬉しい… だったら 良っか?》
アールモンドが言う
『良し それじゃ アーサー お前に俺の入る風呂の掃除を許してやる だから 早く終わらせろよ?それで… それで本を読め!昨日の続きが気になる』
アーサーが軽く笑って言う
『あっははっ 有難う アーリィー それじゃ 急いで終わらせるね?けど アーリィー?サーサーたちの冒険は サーサーしか出てこないから詰らないって言ってなかったっけ?』
アールモンドが衝撃を受けて言う
『き、気が変わったんだっ だから…っ』
アーサーが言う
『うん!分かったよ アーリィー!それじゃ もう少しだけ待っててね?後ちょっとだけ…』
アールモンドが思う
(俺に気持ち良く入ってもらいてぇから… だから お前が入れた風呂は いつも心地良かったのかもな…?)
アールモンドが視線をそらして言う
「…そういや 風呂って 洗わなきゃいけねぇんだったか?」
アールモンドが思う
(クソ… 流石にそこまでは やりたくねぇ…)
アールモンドが言う
「かと言って 入らねぇのは もっと嫌だし…」
アールモンドが思う
(この時間じゃ もう アイツらも居ねぇだろうし…)
アールモンドが言う
「こんな時 お前が居りゃ…」
≪アーサー…≫
アールモンドが衝撃を受け慌てて言う
「ってっ!?俺はお前の事 アイツらみてぇに 考えた事はねぇよ!」
アールモンドが気付いて思う
(…って事は 俺は?アイツの事を…?)
アールモンドが言う
「…何だって …思ってたんだろうな?」
アールモンドが浴槽を見る そこには誰も居ない アールモンドが視線を落とす
ダイニング
アールモンドが現れると思う
(考えるのは後にして 先に食う事にしてみたが…)
アールモンドが席に座って思う
(食えば 頭も回るかもしれねぇし…)
アールモンドが視線を向けると 食卓の上に大きな蓋が置かれている アールモンドが思う
(…何か 自分で外すのって 馬鹿みてぇだな?…けど 外さねぇと食えねぇ)
アールモンドが溜息を吐くと 蓋を外す 蓋の下には食事が用意されている アールモンドが思う
(いつもよか時間が遅ぇから 全部冷めちまってるだろうな… 温めるか?魔法で…?)
アールモンドが杖を見てから料理を見て思う
(…けどな 風呂の水ぐれぇなら 上手く行くだろうが …料理を温めるとか?そんな繊細な火加減なんか出来るか?よく考えて見りゃ)
アールモンドがスープの皿を持ち上げて言う
「蜀魔台より脆そうだよな?」
アールモンドが思う
(こいつは 確実に失敗する 断言出来るぜ?だとしたら…)
アールモンドが間を置いて 一気にスープを飲み干す アールモンドが衝撃を受けて言う
「不味っ!?」
アールモンドが思う
(温いを超えて冷てぇ… しかも 何か ザラザラするし… ただ冷てぇだけだと思っても 冷静スープとは違げぇか…)
アールモンドが不満げに言う
「まぁ しょうがねぇ…」
アールモンドが思う
(明日からは 変な時間に寝たりしねぇで ちゃんと いつもの時間に食いにくれば…)
アールモンドがパンをかじると ふにゃっとしぼむ アールモンドが呆れて思う
(パンもまじぃ… けど これくれぇなら)
アールモンドが気を引き締めて 立ち上がり杖を構えて言う
「一瞬でキメればイケるっ!」
アールモンドが思う
(…かもしれねぇ!?)
アールモンドの前で一瞬炎が上がると パンが黒焦げになる アールモンドが衝撃を受けて言う
「…って 駄目かよ…」
アールモンドが肩を落とす
風呂場
浴槽に溜められた湯から程よく湯気が上がっている
脱衣所
粉々の法魔帯が床に落ちている先で アールモンドが法魔帯を引っ張るとスルスルと外れる アールモンドが言う
「あぁ やっぱりか…」
アールモンドが思う
(こんなに緩いのかよ… これなら 指一本でも外せそうだ… と言うより)
アールモンドが溜息を吐いて言う
「魔力供給中や 移動魔法中に外れなくて助かったぜ?」
アールモンドが次々に法魔帯を外しながら思う
(明日からは もう少し しっかりと巻いてくれ って言わねぇと…)
アールモンドが法魔帯の束を手に持って言う
「けどなぁ?アイツ力弱ぇし…」
アールモンドが思う
(女に強要するってぇのも 何だか気が引けるし…)
アールモンドが言う
「どうすっか…?」
アールモンドが浴室への扉を開いて入って行く
浴室
アールモンドが浴槽に浸かると息を吐いて言う
「…ふぅ 湯加減は上手く行ったな」
アールモンドが思う
(パンとは違って…)
アールモンドが頭をかくと 浴槽を見て思う
(1回くれぇ 洗わなくても良いと決めて 湯を張ってみたは良いが…)
アールモンドが言う
「やっぱ あんま 気持ち良くはねぇな?」
アールモンドが思う
(少し温まったら すぐに出るか… 後は…)
アールモンドが体を洗っていて背中へ手を回して表情を困らせて思う
(1人で洗う時って… 背中はどうやって洗うんだ?)
アールモンドが言う
「考えた事も無かった… 大体」
アールモンドが思う
(何で 腕は 前にはいくらでも動かせるのに 後ろでは動かせねぇんだろうな?)
アールモンドが言う
「ひょっとして 俺の身体が 変なのか?」
アールモンドが思う
(いつもアイツに洗わせてたから?)
アールモンドが考えてから首を傾げて言う
「…分かんねぇ …もう いっか?届かねぇ所はしょうがねぇ!」
アールモンドがお湯をかぶる
寝室
アールモンドがタオルで頭を吹きながらやって来て思う
(風呂はともかく 頭と体を洗ったから 気分は良くなった…)
アールモンドが言う
「明日は アイツに頼んで 風呂を洗ってもらうか?」
アールモンドが思う
(そもそも 奉者ってぇのは そう言う事をやる為に居るんだろ?掃除やら飯の支度やらって そう言うのをやるのが普通の奉者だ …従者とは違って)
アールモンドがハッとして言う
「従者…」
アールモンドが視線を向けると 法衣に付けてあるブローチが目に入る アールモンドが思う
(従者… 黒曜石の指輪…)
アールモンドがブローチの下へ向かいながら思う
(アーサーが俺から離れて どれくらい経った?俺の魔力から アイツに還元されるとして …俺の魔力はどれ位落ちるんだ?)
アールモンドがブローチを見て言う
「…きっともう 上級灯魔作業なんか 出来ねぇんだろうな…?」
アールモンドが視線をそらして思う
(とりあえず 明日も 魔力供給をやるって事にしておいたが… 残留魔力が相手から離れるのは 2日から3日… アイツはずっと長い事 俺と居たから 3日は持つだろう それで… それで3日を過ぎたら アイツの身体に移っていた俺の魔力は消えて 俺に残っていたアイツの魔力も消える その上)
アールモンドがブローチへ視線を向けて言う
「俺の基礎魔力から アイツの魔力(生命力)が還元される…」
アールモンドが思う
(そうしたら?…まさか 通常の灯魔作業さえ出来ねぇ… なんて事はねぇよな?)
アールモンドが頭を押さえて言う
「流石に そこまではねぇか?」
アールモンドが思う
(大体 通常の灯魔作業が出来ねぇだなんて言ったら そいつはもう ウィザードじゃねぇ …それに 俺は確かに精神力の低い 元貴族のお坊ちゃまかも知れねぇが この20年間の修行は嘘じゃねぇンだ だったら…っ)
アールモンドが軽く息を吐き ベッドへ寝転んで言う
「これからは お前とじゃなくて アイツと…」
アールモンドの脳裏に ミレイの置手紙が思い出される アールモンドが言う
「もう一度… ウィザードの最初の灯魔作業修行から…」
アールモンドが薄れる意識の中思う
(やり直しかもな…?)
≪アーサー…≫
アールモンドが眠りに着く
朝
眩しい朝日が差し込んでいる アールモンドが顔をそらして思う
(…ン …眩しい?)
アーサーの声が聞こえる
「おはよう!アーリィー!今日も良い天気だよ!」
アールモンドがハッとして飛び起きて言う
「アーサー!?」
室内には誰も居ない アールモンドが呆気に取られた後頭を押さえ ベッドへ脱力して言う
「…また 夢かよ…?」
アールモンドが窓へ顔を向ける 窓から眩しい朝日が差し込んでいる アールモンドが溜息を吐いて思う
(あぁ… カーテン… 閉めるの 忘れてたせいか…)
アールモンドが言う
「…自分で閉めた事なんてねぇよ」
アールモンドが溜息を吐くと間を置いて言う
「…これからは 閉めるか…」
アールモンドが起き上がる
洗面所
アールモンドが顔を洗っていて思う
(ンで… 起きるのも 自分で… か?)
アールモンドが呆れた様子で言う
「大体 午前中って いつ来るンだよ?」
アールモンドが鏡を見ながら言い掛ける
「俺の奉者殿… は… …っ!?」
アールモンドが驚きに目を見開いて思う
(まさか…っ …ンなっ!?)
アールモンドの視線の先 鏡には髪の色と目の色が元の色に戻りつつあるアールモンドの姿が映っている アールモンドが自分の髪を握って言う
「…ここまでかよ…っ!?」
アールモンドが自分の髪を見ていた状態から鏡へ視線を戻し 言葉を失う
寝室 前
ドアがノックされ ミレイが言う
「お早う御座います アールモンド様 ミレイです」
寝室 内
カーテンの閉められた薄暗い室内 室外からミレイの声が聞こえる
「こちらのドアをお開けしても 宜しいでしょうか?… …アールモンド様?」
少し間を置いて ミレイの声が聞こえる
「アールモンド様?失礼致します」
少し間を置いて ドアが開かれ ミレイが入室して周囲を見渡してから ベッドを見て言う
「アールモンド様?」
ミレイがベッドの横へ来ると 毛布をかぶっているアールモンドへ言う
「アールモンド様?そろそろ お目覚めになられた方が よろしいかと?」
アールモンドが言う
「目なら覚めてっけど…」
ミレイが一瞬呆気に取られると苦笑して言う
「では お茶になさいませんか?そろそろ10時の お茶のお時間となります」
アールモンドは沈黙している ミレイが微笑して言う
「お茶を召し上がれば 眠気も覚められると思われますので?」
アールモンドが言う
「目なら覚めてるって言ってンだろ?…出来る事なら コイツが夢であって欲しいぜ」
ミレイが疑問して言う
「夢であって欲しい… とは?何か御座いましたでしょうか?アールモンド様 僭越では御座いますが わたくしに何か出来る事が御座いましたら 何なりと お申し付け下さいませ?」
アールモンドが言う
「…そうか …そうだな アンタはアールモンドウィザード様の奉者だもんな?」
ミレイが微笑して言う
「はい 左様に御座いますので どうぞ 何なりと?」
アールモンドが言う
「なら 連絡してくれ …奉者協会に」
ミレイが疑問して言う
「奉者協会に 連絡を… ですか?では どちらのご用件で?」
アールモンドが言う
「アールモンドウィザード様は ウィザードをクビになったってよ?」
ミレイが呆気に取られて言う
「ウィザードを… クビになった…?…とは?そちらは一体?」
アールモンドが言う
「なら ウィザードじゃなくなったって言や… 分かるだろうぜ?あの先輩になら… 神に選ばれたウィザード様にならな?」
ミレイが言う
「神に選ばれたウィザード… そちらは アイザック様の事でしょうか?」
アールモンドが言う
「ああ… それでもう アンタもここには来るな」
ミレイが驚いて言う
「…えっ?」
アールモンドが言う
「勘違いするなよ?…来る必要がねぇってだけだ 短い間だったが ありがとよ」
ミレイが困惑した後顔を上げて言う
「あ、あの… アールモンド様からの 奉者協会へのご伝言の程は わたくしが責任を持って 後ほど必ずお伝えを致しますっ しかし その前にどうか…っ そちらのお言葉の意味をわたくしにも お教え下さいっ 無知なわたくしにも理解が出来ます様にっ …どうかっ …アールモンド様っ」
アールモンドが息を吐いて言う
「…そのアールモンド様のままで 居たかったんだけどな …せめてアンタの記憶の中だけでも」
アールモンドが思う
(名誉だって… 言ってくれたもんな?今なら その 名誉 って言葉の重みが 良く分かるぜ…)
アールモンドが起き上がり 毛布を取ると言う
「これなら 分かるだろ?」
ミレイがアールモンドの変化に 驚き呆気に取られる
カーテンが開かれる アールモンドが差し込んだ光に目を細めると カーテンを開いたソニアが顔を向ける アイザックの声が聞こえる
「まさかそこまでとは 私も思いも至らなかったが」
アールモンドが苦笑して言う
「俺だってまさか 神に選ばれたウィザード様が直々に確かめに来てくれるとは 思いもしなかったぜ?先輩?」
アールモンドが顔を上げると 目の前にアイザックが立っている 扉の近くでミレイが心配げに見詰めている アールモンドが一度ミレイを見てから アイザックへ言う
「…それで?わざわざ それを確かめる為だけに 来たのかよ?」
アイザックが言う
「貴殿は 今世代に残った 最後の従者を持つウィザード 稀な雷属性のウィザードだ 失うには惜しい」
アールモンドが言う
「そいつは残念だったな 先輩 その稀な馬鹿は もう失っちまったよ」
アイザックが言う
「今ならまだ間に合う 己が愚かであったと悟ったのであれば その思いを彼へ伝え 再び貴殿の従者として従えるのであれば」
アールモンドが言う
「出来るかよっ ンな事っ!」
ミレイが表情を怯えさせる ソニアが気付き近くへ向かう アイザックが言う
「貴族のプライドか?」
アールモンドが言う
「違う」
アイザックが言う
「では 何故そこまで 彼の帰還を拒む?彼は貴殿へ尽くしていた その想い 届いていなかった訳ではあるまい?」
アールモンドが視線をそらして言う
「だからこそだ」
アイザックが沈黙する アールモンドが間を置いて言う
「大体 これは 俺とアイツとの問題だろ?いくら先輩でも 口出しする事じゃねぇと思うぜ 違うかよ?」
アイザックが言う
「…そうだな 無礼があったなら 詫びよう」
アールモンドが言う
「…いや 一応 礼は言っとく それと… 悪かったな 折角 来てもらったけどよ 馬鹿は説教しても治ンねぇよ」
アイザックが苦笑すると言う
「もうしばらく 奉者協会から 奉者を お前の近くへ控えさせる 状況はもとより 今でも貴殿は奉者協会の管理下にある者である事は変わらない …そのウィザードの杖が 貴殿の下にある限りは」
アールモンドが視線を向ける 視線の先にウィザードの杖が置かれている アールモンドが視線を戻すと言う
「…分かった」
アイザックが頷くと部屋を出て行く ソニアが気付くと ミレイへ微笑し ミレイが微笑を返し礼をする アイザックに続きソニアが退出し ドアが閉まる ミレイがアールモンドを見詰める アールモンドが視線をそのままの状態から立ち上がると窓へ向かう
窓の外
アイザックとソニアがエントランスから出てくると アールモンドがいつも移動魔法を使う場所で立ち止まる ソニアがアイザックの身体に身を寄せると アイザックが杖を持つ手でソニアを包み 2人が風に消える
窓の内
アールモンドが息を吐く ミレイが心配げに見詰めている アールモンドが苦笑しミレイへ視線を向けて言う
「アンタも大変だな?こんなウィザードだか何だか 分かんねぇ奴の奉者を任されちまってよ?」
ミレイが言う
「滅相も御座いません わたくしは アールモンド・レイモンド ウィザード様の奉者として 最後まで尽くす所存に御座います」
アールモンドが反応すると アールモンドの脳裏に記憶が映る
アーサーが言う
『そうだよ アーリィー?だって俺 アーリィーに誓ったじゃない?”我が王のため この命尽きる時まで 我が王の騎士として これからも邁進する事を誓います”って あれは 俺 本気で…』
アールモンドが言う
「そうか… ならよ 1つ頼みがあるぜ 聞いてくれるか?俺の奉者様よ?」
ミレイが言う
「はい 何なりと アールモンド様」
アールモンドが言う
「もう一度 法魔帯… 巻いてくれっか?」
ミレイが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「はいっ 奉者の名誉に尽きます ウィザード様!」
アールモンドが苦笑する
ミレイが法魔帯を手に言う
「では左足より 法魔帯を巻かせて頂きます」
アールモンドが言う
「ああ… 後 迷惑ついでに 出来るだけ強く巻いてくれ 気合入るんだ ソレ… アンタの力貸してくれねぇか?」
ミレイが一瞬呆気に取られると気合を入れて言う
「はいっ 畏まりました では 強過ぎた際には お申し付け下さいっ」
アールモンドが言う
「分かった」
ミレイが気を入れ直して アールモンドの足に触れ 法魔帯を巻き始める
ミレイが法魔帯を結び軽く息を吐いてから言う
「如何でしょう?アールモンド様」
アールモンドが言う
「ああ 大分良くなった …以前の奴とは巻き方が違ぇから 違和感ってぇのはアンだけどよ 助かったぜ」
ミレイが一瞬反応して言う
「以前の…」
アールモンドが苦笑して言う
「俺はアッチに慣れちまってたから 強く巻いてくれって言うけど 他のウィザードは違うかも知れねぇから あんま参考にしねぇ方が良い …アンタはアンタの方法でやったら良いンじゃねぇかな?」
ミレイが呆気に取られた後苦笑して言う
「お心遣いを頂き 至極恐縮に御座います アールモンド様」
アールモンドが言う
「じゃ 後は良いぜ 自分で着れっから」
アールモンドが横に置かれていた服に手を付ける ミレイが言う
「あ… はい では わたくしは あちらのお部屋にて お待ち致しておりますので 御用の際は 何なりと」
アールモンドが言う
「分かった ありがとう」
ミレイが言う
「は… はい… では 失礼致しました」
ミレイが表情を困らせつつ一度礼をして立ち去る ミレイが立ち去ると アールモンドが息を吐き タオルを取って立ち上がる
アールモンドがインナーを着た状態でクローゼットを開け 法衣を手に取りながら思う
(意地もプライドも全部捨てて 思った事を言葉にして伝えちまえば こんなに楽なモンなンだな… 今まで俺は どんだけ苦労して来たんだよ?…何であんなに 意地を張ってたンだ?今の俺なら…)
記憶の中でアーサーが疑問して言う
『ん?どうかした?アーリィー?』
アールモンドが視線をそらして言う
『…ンでもねぇよ』
アーサーが言う
『そお?なら良いんだけど?』
アールモンドが言葉を飲んで居る
アールモンドが息を吐いて言う
「お前に聞きてぇ事を 全部聞けたのにな… そしたら…」
アールモンドが思う
(今もお前は 俺の傍に居たのか?勝手に大会になンか出なかったか?勝手に… 黒曜石の指輪を手に入れたりなンか…?)
アールモンドが法衣を纏うと 止めの部分にあるブローチに反応し 視線をそらして言う
「…ンな事 関係ねぇんだよ アーサーっ」
アールモンドが思う
(お前が俺の騎士なら 何があっても俺を裏切らねぇと思ってたんだっ だから 俺は…っ)
アールモンドが悔しさにクローゼットの扉を殴りつけて言う
「クソッ!」
リビング
ドンッ と寝室から音が聞こえる ミレイが携帯へ向けていた視線を上げ 思わず立ち上がると 間を置いて扉が開き アールモンドがウィザードの杖を手にやって来てミレイに気付く ミレイが思わず声を掛けそうになり言葉に詰まる アールモンドが一度出口へ向くが 気を取り直しミレイへ言う
「…俺は 近くの川で修行してくる アンタは好きにしててくれて良いぜ?」
ミレイが言う
「はい 畏まりました 行ってらっしゃいませ アールモンド様」
アールモンドが立ち去る
道中
アールモンドが思う
(あの場所まで歩くだなんて… もう 何年振りだ?しかもその理由が… 移動魔法で行ける自信がねぇだなんて 笑えるよな?こんな豪華な杖に こんな派手な法衣を着てるのによ?…オマケに)
アールモンドが僅かに視線を後ろへ向ける 少し離れてミレイが続いて歩いている アールモンドが息を吐いて思う
(奉者まで伴ってるだなんて… ホントに笑えて仕方ねぇ… 情けねぇったらありゃしねぇぜ)
アールモンドが苦笑する
土手
アールモンドが杖を構え一度土に突いてから 両手を広げる 杖が浮び周囲に魔力が集まる ミレイが反応する アールモンドが思う
(…思っていたよか普通だ ともすりゃ もう杖さえ浮かせられねぇかと思って ビビってたが…)
アールモンドがチラッとミレイを見てから微笑して思う
(何とか 最後のタテマエ程度は保てたか… 俺のプライドも 大したもんだぜ)
レイモンド邸
アールモンドとミレイが風に現れる アールモンドが軽く息を吐くと 視線を向け苦笑して言う
「ンなに怖かったんなら 一緒に来なくても良かったンだぜ?」
アールモンドの視線の先 ミレイがハッと顔を上げると 慌ててアールモンドの身体にしがみ付いていた手を放して言う
「し、失礼致しましたっ しかし わたくしは決して アールモンド様の魔法が 怖かった訳では御座いませんのでっ!」
アールモンドが一瞬反応すると言う
「…なら」
ミレイが言う
「は、はいっ その… 事前にアールモンド様が しっかりと掴まって居る様にと その様に仰って居られたので 可能な限りを尽くそうと…っ それでつい力を込めてしまいましたっ」
アールモンドが一瞬呆気に取られると苦笑して言う
「そうか 分かった それは良いんだけど そうじゃなくて もし… その」
ミレイが疑問して言う
「は、はい?」
アールモンドが言う
「アンタが今言ってくれた 俺の魔法が怖かった訳じゃねぇって?なら もし その同じ俺の魔法で アンタを怪我させる様な事があったら アンタは… もう 俺の事は 信じられねぇか?」
ミレイが言う
「アールモンド様の魔法でわたくしが怪我を?…その様事が御座いましたとしたら… まず、わたくしは 恐ろしいよりも先に 何故その様な事が起きてしまったのかと そちらを気に致します 何かわたくしに 不手際が御座いましたのではないかと?」
アールモンドが驚きミレイを見て呆気に取られる ミレイが微笑して言う
「わたくしはアールモンド様が 故意に魔法で人を傷付ける様な方ではないと信じて居りますので」
アールモンドが一瞬呆気に取られると 視線を逸らして言う
「そ、そうかよ… まぁ 魔力者が非魔力者に魔法を使ったら お終ぇだしな?変な事聞いて悪かった 忘れてくれ」
アールモンドが歩き始める ミレイが微笑して続く
リビング
アールモンドとミレイがソファに向き合って座って居て ミレイが紅茶を入れている アールモンドが何となしに窓の外を見ていると ミレイが時計を確認してから アールモンドへ言う
「アールモンド様?わたくしが紅茶をお注ぎしても宜しいでしょうか?」
アールモンドが視線を向けないまま言う
「ああ… 注いでくれ」
ミレイが一瞬呆気に取られてから表情を落とし苦笑して言う
「畏まりました それでは…」
ミレイが紅茶をティーカップに注いで アールモンドの前のテーブルへ置く アールモンドが言う
「今日も曇って来たな?朝は眩しいくれぇだったのによ?」
ミレイが反応して言う
「あ、はい 左様に御座いますね?しかし 本日も降り出すのは 夕方以降ではないかと?その様に今朝の天気予報では申しておりましたが」
アールモンドが言う
「そうか… 夕方以降なら 空と地上の温度差も無くなっから 雷は起きねぇな …良かったぜ」
アールモンドが窓から視線を外して ティーカップを手に取る ミレイが一瞬疑問して言う
「よか…た… ので御座いますか?雷は アールモンド様の御力に 近いものでは御座いませんか?わたくしはてっきり…」
アールモンドが言う
「ああ 雷は俺の属性だから 俺は嫌ぇじゃねぇけど それで停電が起きたら… アイツが怖がるからよ…」
ミレイが言う
「アイツが怖がるから…?」
アールモンドが言う
「ああ… 今は俺も近くに居てやれねぇし… 魔法以外にも 停電の時に明るくしてやれる物があれば良いんだけど… あるか?ンなモン?」
ミレイが言う
「停電の時に明るく出来るもの… ロウソクや懐中電灯等では如何でしょうか?時間の限りは御座いますが どちらも停電の間をしのぐ程度で御座いませば?」
アールモンドが言う
「ああ そうだな?ロウソクは兎も角 懐中電灯か… ソッチなら良いかもな?一個くれぇ買っといてやれば良かったぜ …まぁ ついこの間まで 知らなかったンだけどよ…」
アールモンドが息を吐いて言う
「20年も一緒に居たのにな?」
アールモンドが思う
(こうして思い返してみれば 俺はお前の事を何も知らなかった… お前の全てが 俺への秘密だったな?アーサー…?)
アールモンドが苦笑して言う
「へっ 下らねぇ…」
アールモンドが思う
(何も聞かずに 何も知らねぇで 俺はお前の事を信用していた… これ程 滑稽な事があるかよ?アーサー?俺の騎士だって?…口では何だって言えるよなっ?お前は そいつが得意だって事 俺は十分に…っ!)
ミレイが言う
「奉者は…」
アールモンドがミレイを見る ミレイが言う
「魔法の事は何も存じません 奉者協会の講義で習う事も ウィザード様へと至るまでに どれ程のご苦難を その身に受託をされるのかと そちらを学びます ですので わたくしは 例え アールモンド様が どちらの事を どの様にお考えに有られようとも 決して それまでに乗り越えた苦しみを 不意になさる様な事は無いだろうと その様に考えます そして そちらは 奉者と呼ばれる者 全ての共通の想いではないかと」
アールモンドが呆気に取られる ミレイが言う
「ですので わたくしは… アーサー奉者の事は 今も何かの間違えでは無いかと その様に 思っております アールモンド様を 裏切る様な事は 決して…」
アールモンドが表情を落として言う
「俺だって 信じてた…っ」
ミレイがアールモンドを見る アールモンドが手を握って言う
「けどっ アイツは…っ!」
アールモンドが思う
(黒曜石の指輪を持って居たんだっ このプレゼントだって… その為のものでっ!)
アールモンドが無意識に握り締めていたブローチから手を放すと言う
「…いや もう良い アイツの事は これで終わりにする」
ミレイが言う
「アールモンド様…」
アールモンドが言う
「もしかすっと 俺は明日にでも 完全にウィザードの力を失うかもしれねぇ… けど それならそれで構わねぇ… 今度は自分の力で ウィザードになれる様にやってみる …出来るかどうかは分かんねぇけどな?っはは…」
ミレイが驚き呆気に取られてから微笑して言う
「はいっ わたくしは どちらのアールモンド様の事も お慕い致しております!」
アールモンドが苦笑して言う
「アンタはすげぇ奉者様だな?ソンケーすンぜ?」
ミレイが呆気に取られると慌てて言う
「え!?そ、そんなっ め、めめ滅相も御座いませんっ ウィザード様っ!?」
アールモンドが笑う ミレイがアールモンドの様子に呆気に取られてから微笑して笑い出す
灯魔台神館
アールモンドが杖を構えると床へ突く 周囲に居た人々が顔を向けると アールモンドが杖を手放し 目を閉じて魔力供給を開始する ミレイが後方で見守っていて回想が思い出される
アールモンドの部屋
ミレイが言う
『魔力供給を… で御座いますか?』
アールモンドが言う
『ああ どこまで出来っかは分からねぇけど 全く出来ねぇ事はねぇと思うから 今日の午後に予定してた 魔力供給をやりてぇんだけど… こんな姿じゃ許されねぇか?』
ミレイが言う
『い、いえっ そちらのご心配は ご不要と思われますが …では事前に人払いをする様にと連絡を致しますか?』
アールモンドが言う
『いや、そっちは必要ねぇ 我儘言ってンのは俺の方なんだ 奉者協会のメンツが立たねぇって事なら 無理にとは言わねぇから』
ミレイが言う
『畏まりました では 直ぐに確認を取ります』
アールモンドが言う
『ああ 宜しく頼む』
ミレイが言う一瞬間を置いて力強く言う
『はいっ』
ミレイが視線を向ける先 アールモンドが手を握り締め作業に専念している ミレイが言う
「アールモンド様…」
ミレイが目を閉じて祈りを捧げる
アールモンドが目を閉じて作業を続けていた状態から一瞬表情を苦しめて思う
(…っ 魔力を感じられなくなった… これで…)
アールモンドの前に浮いていた杖が床へ突き軽い音がすると アールモンドが目を開いて言う
「終わりか…」
アールモンドが思う
(普段の半分も出来ればと思っていたが 思いの外普通だったな?少なくとも 8割りは出来ただろう これなら何とか1年… 持つか?それなら…)
アールモンドが顔を上げると呆気に取られる 周囲には人々が祈りを捧げている アールモンドが周囲を見てから振り返ると ミレイが微笑して言う
「お疲れ様で御座いました ウィザード様」
アールモンドが呆気に取られていた状態から苦笑する
外
アールモンドとミレイが歩いて来て ミレイが言う
「わたくしも 周囲の静けさに 目を開いた時には驚きました」
アールモンドが苦笑して言う
「奉者のお前が ウィザード様の後ろで 祈ってるんじゃ 連中だって遊んじゃ居られねぇだろ?」
ミレイが言う
「軽率で御座いました 申し訳御座いません」
アールモンドが言う
「まぁ 元はと言えば その奉者を祈らせるほど 心配させた俺の責任でもある …だから 謝るなよ?ウィザードの戒めに反するじゃねぇか?」
ミレイが一瞬呆気に取られてから苦笑して言う
「しかしながら わたくしはアールモンド様の奉者で御座いますので そちらの戒めには抵触しない者とされております」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「は?そうなのか?…知らなかったぜ …そもそも 俺は奉者を従えるつもりは無かったしな?」
ミレイが言う
「では… お紅茶の事も ご存じでは?」
アールモンドが言う
「そいつはソッチの間違えだろ?そもそも奉者に ウィザードの魔力を与える必要なんかねぇンだからよ」
ミレイが言う
「左様に御座いますか…」
アールモンドが立ち止まると杖を構えようとして気付いて言う
「あ…」
ミレイが疑問して言う
「何か?」
アールモンドが思う
(忘れてた… 仕方がねぇ こうなったら)
アールモンドがミレイへ向いて言う
「なぁ アンタ 今 金とか持ってるか?」
ミレイが疑問して言う
「え?あ はい、遠方のアウターサイドへ赴く事を想定して それなりには用意しておりますが?」
アールモンドが言う
「そうか なら少し貸してくれねぇかな?移動魔法に使う魔力まで 灯魔台に突っ込んじまったから」
アールモンドが思う
(今の状態で 回復を待つとしても どれ程かかるか分からねぇし… もしかすっと その回復すらしねぇ可能性だって…っ)
アールモンドが言う
「タクシーとか電車やらで帰ろうにも 俺は金とか持ってねぇモンだから そいつを借りてぇんだけど」
アールモンドが思う
(普段の俺じゃ それこそ言えねぇ言葉だが そんな意地もプライドも こんな姿じゃ…)
ミレイがプッと笑い出す アールモンドが衝撃を受けて思う
(…こ、こんな姿じゃ 保てねぇと思って 全部捨てて言ってみたがっ)
アールモンドが表情を引きつらせて言う
「そう笑われてみっと やっぱそれなりに腹が立つってもんだぜ…っ」
ミレイが笑いを押さえながら言う
「も、申し訳御座いません…っ その…っ わたくしはアールモンド様の お言葉を笑っているわけではなく…っ その…っ そ、そちらのご様子で お帰りになっていらっしゃる アールモンド様のお姿を 想像して見ました所… ッ…っ フフフフ…ッ」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「同じだろうがっ!俺は 今から お前が笑ってる その姿で帰るんだよ!」
ミレイが言う
「そちらはどうかご安心くださいませ アールモンド様」
アールモンドが疑問して言う
「は?安心しろって?」
ミレイが言う
「本日はアールモンド様のご体調が 万全ではあられないとの事でしたので 帰りの車を手配して置きました」
アールモンドが言う
「え?あ、ああ… そうだったのか」
ミレイが携帯を取りだして言う
「近くにて待機している筈ですので 少々お待ち下さい」
ミレイが携帯を掛けている アールモンドが視線をそらす ミレイが通話を終えると言う
「直ぐに来られるとの事です」
アールモンドが言う
「そうか 助かったぜ やっぱアンタは大した奉者様だな」
アールモンドが思う
(俺がこんな馬鹿をやるだろうって?想定していたって事だろ?)
ミレイが苦笑して言う
「折角のお褒めのお言葉を頂けて恐縮なのですが 今回の手配に関しましては ソニア副会長が…」
アールモンドが言う
「ソニア副会長が?」
ミレイが言う
「はい アールモンドさんが万が一 無理をしたとしても すぐにお助けを出来る様に 可能な限りの手配をして置くようにと そちらの指示を受けて居らなければ お車の手配は致しておりませんでした」
アールモンドが言う
「あぁ なるほどな あの先輩も あぁ見えて意外と無茶すっからな?」
アールモンドが思う
(なら俺の馬鹿は 先輩と同じで …やっぱ貴族のプライドって奴なのかもな?だとしたら…)
アールモンドが苦笑して言う
「流石は先輩の奉者様だぜ」
ミレイが微笑して言う
「左様に御座いますね?」
車が到着する
ミレイが車のドアを開け アールモンドが乗り込む ドアが閉められ助手席にミレイが乗り込むと 運転手が言う
「それではお屋敷へ向け 出発させて頂きます」
アールモンドが言う
「どの位掛かるンだ?」
運転手が言う
「道路状況にもよりますが 順調にまいりまして3時間から4時間程かと」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「さ、3時間!?」
ミレイが笑いを抑えている アールモンドが言う
「…ンなに掛かるのかよ?」
運転手がすまなそうに言う
「はい… 申し訳御座いません 同じアウターサイドの村でありましても こちらの村からですと どう急ぎましても…」
ミレイが言う
「一昨日行った魔力供給の場所が この町の最も北東のライス村でしたので 本日はそちらの対に当たります 北西のブレット村へ手配を致してしまいました その為移動時間は一番長く掛かってしまうのです わたくしの配慮不足で御座います 申し訳御座いません アールモンド様」
アールモンドが言う
「あ… いや この後何かあるって訳でもねぇし 別に構わねぇんだけど …ただ そんなに掛かる物なんだなって 驚いただけだ 責めてる訳じゃねぇよ」
ミレイが微笑する 運転手がホッとして言う
「安全運転にて なるべく早く戻られる道を向かいますが 長時間で御座いますので 何か御座いました際には 何なりとお申し付け下さい」
アールモンドが言う
「分かった 宜しく頼む」
運転手が微笑して言う
「はい 畏まりました」
ミレイが微笑みミラーにてアールモンドの様子を伺う アールモンドは窓の外を見ている