嗚呼、俺のウィザード様(アールモンド&アーサー)
本編より先行upされる番外編 嗚呼、私のウィザード様たち…orz
アールモンドが灯魔作業をしている
≪俺はアールモンド… アールモンド・レイモンド 見ての通り…≫
アールモンドが杖を掲げると 灯魔台の上部に集まっていた雷の魔力が 一度跳ね上がり灯魔口へ降り 灯魔台に雷の魔力が灯る
≪…ウィザードだ≫
アールモンドの周囲に雷の残り魔力がちら付く
≪…ウィザードってぇのは≫
アールモンドが振り向くと アーサーが微笑して言う
「お見事!」
アールモンドが微笑を隠して鼻で笑って言う
「ふんっ …今更 この程度の灯魔作業を褒めたって 何も出ねえぞ?アーサー?」
アールモンドがアーサーのいる場所まで歩いて来る アーサーが軽く笑って言う
「あれぇ~?この程度の灯魔作業?ふ~ん?それなら…?」
アーサーがアールモンドの歩みに合わせて歩いていた状態から ひょいと飛び出して閉鎖されていたドアを開くと その先へ向けて愛嬌良く公表する
「お待たせしました~!皆さんー?次回は皆さんのウィザード様!アールモンド・レイモンド様による 公開灯魔作業ですよー!」
外に居た大勢のファン達が黄色い悲鳴悲鳴を上げて喜んで言う
「キャー!アールモンド様ぁー!」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「あっ!?お、おいっ!俺は そんな事っ!」
アーサーが続けて言う
「しかも!次回は本邦初公開! アールモンド・レイモンドウィザード様による 上級灯魔作業を御覧に入れますので!」
アールモンドが慌てて言う
「って!?ちょ、ちょっと待て!次の灯魔台はっ!」
アーサーが微笑して言う
「どうぞ皆さん!乞うご期待をー!」
アールモンドが怒って言う
「アーサーっ!!」
ファン達が歓声を高めて言う
「キャー!アールモンド様が 上級灯魔作業ですってー!」 「すっごーい!今はまだ アイザック様しか成功させて居ない上級灯魔作業なのにー!」 「私たちのアールモンド様がー!」 「素敵ー!」 「アールモンド様ぁー!」
アーサーが微笑をたたえて居る その後ろでアールモンドが怒りを抑えて周囲に雷の魔力がほとばしっている
2人が屋外まで来ると アールモンドが杖を地に突く アールモンドが不満を噛み殺し待っている アーサーがファンたちの相手をして居る ファンたちのが警備員に抑えられつつもアーサーへ集って居る
≪…で、ウィザードってぇのは そもそもは この世界の天変地異を抑える為に 神が遣わした天使へ仕えた人間… の事だったとか その天使に選ばれた者だったとかって… 俺も元が何だったのかなんてぇのは分からねぇけど とりあえず 今も昔もウィザードがやる事は この世界を守る結界を維持するための 灯魔作業をやる事 そしてウィザードは それが出来る数少ねぇ人間なんだ…てぇのに≫
アールモンドが怒りを押さえて閉じていた目を開くと言う
「アーサーっ 置いてくぞっ」
アーサーがファンたちへ苦笑して言う
「ごめんね~?そろそろ行かないと?次の灯魔作業の時間に遅れちゃうから ウィザード様への御奉納は この辺で~?」
≪奉納…?はっ!何言ってんだ?≫
アーサーが受け取っている沢山の手紙から内容が見える
『…と結婚出来ますように』 『~を神様にお願いして下さい』 『…ルモンド様と一緒に写真を…』
アーサーがファンたちから解放されアールモンドの下へ向っている
≪それこそ 大昔のウィザードは 人と神との間だと言われ その人々に崇拝される存在だった≫
大昔の様子が見える 人々がウィザードを崇拝している
≪…だがそれも≫
近代的な街中にアールモンドが歩いていると 道行く人が指差し陰口を言う
「何あれ?」 「どっかでイベントでもあるんじゃない?」 「イベントに行くのにアレって…」 「魔法使いか何かのつもりかな?」 「カッコ良いと思ってるのかな?」 「ダッサ…」 「クスクス…」
アールモンドがムッとして顔を逸らす
≪こーなったと思ったら…≫
ファンたちが言う
「アールモンド様ぁー!」 「次の灯魔作業 頑張ってくださーい!」
≪こーなった… まぁ どうでもいいっ≫
アーサーがファンたちへ手を振りつつ言う
「ありがとねー!皆の気持ちは アールモンド様に ちゃーんと伝わってるからね~!これからも応援宜しくね~!」
ファンたちが喜ぶ アーサーがアールモンドの横に到着すると アールモンドが杖を上げる 二人の周囲に風が舞うと次の瞬間二人の姿が風に消える
≪…で 言い忘れてたが≫
何もない敷地内に アールモンドとアーサーが肩を組んで現れる 移動魔法の残り風が アーサーの片手に抱えて居た手紙の山から数枚の手紙をさらう アーサーが気付くと言う
「おっと?」
アーサーがアールモンドと組んでいた片手を離してそれを捕まえると 微笑して言う
「危ない危ない」
アールモンドがアーサーを見ていた状態から顔を背けて言う
「どうせ 捨てるゴミだろ」
アーサーが言う
「あれぇ~?またまたぁ~?そんなこと言っちゃって~?アーリィーってば?」
アールモンドがふんっと不満の声を残して歩き始める
≪この何とも緩い奴は アーサー …俺の≫
アーサーがアールモンドを追って言う
「ホントは気になってるんじゃないのぉ?この手紙の内容?」
アールモンドが顔を向けないまま言う
「なってねぇよ …どぉせ連中の下らねぇ願望だろ?ンなもん見てたら 灯魔作業が出来なくなっちまうよ?」
≪何度も言う様だが ウィザードの役目は この世界を守る為に 灯魔作業をやる事だ そして、その灯魔作業に必要な力は 自然界の5大属性 そいつを操るのに 人の持つ雑念や煩悩は邪魔になる≫
アーサーがアールモンドの様子に苦笑すると静かに言う
「…けど 本当に 純粋で綺麗な気持ちを込めて書かれている ファンレターもあるんだよ?アーリィー 知らないでしょ?」
アールモンドが歩みを止めて顔を向ける アーサーが手紙の一つを読んで言う
「『日々偉大なる灯魔作業を行うアールモンド様!…に お仕えする 気さくで優しいアーサー奉者様!』」
アールモンドが衝撃を受ける アーサーが続けて手紙を読む
「『アールモンド様はいつも アーサー様へお叱りの御様子ですが そんな中であっても 常に優しい笑みをたたえて 私たちの御相手をして下さるアーサー奉者様を 私たちはお慕い申し上げております!どうかこれからも変わらずに…!』」
アールモンドが怒って言う
「そいつは お前に対する 純粋なファンレターだろうが!」
アールモンドが怒って立ち去る アーサーが苦笑して続きを言う
「『…無力な私たちに代わり アールモンド様の御力になって下さい 世界を守る灯魔作業のご無事とご健闘を 陰ながらお祈りしております。』…本当アーリィーは 俺が居ないと 何も出来ないんだから?」
遠くでアールモンドが叫ぶ
「アーサーっ!!」
アーサーが軽く笑って言う
「ハイハイ、今行くよ?アーリィー」
アーサーがアールモンドの下へ急いでいる アールモンドが進行方向へ顔を背けて言う
「…ったく 」
≪さっきの純粋なファンレターだとか言ってた奴にも書かれて居た様に アーサーは今 割と有名な俺の奉者だ≫
アーサーが近くまで来るとアールモンドが歩みを再開する
≪…ちなみに奉者ってぇのは ウィザードに仕える人間の事で 食事はもちろん掃除やら何やら ウィザードの身の回りの世話をする奴の事を言う …てぇのは 嘘なんだが 現代の一般常識ではそう言う事になっていて そいつをやってるのが普通だ …が≫
アールモンドがエントランスへ入ると メイドが礼をして言う
「おかえりなさいませ アールモンド様」
アールモンドが舌打ちをしてから言う
「チッ… 誰が…」
アーサーが到着して言う
「ただいま!ハミネさん!」
メイドがアーサーへ微笑して言う
「おかえりなさいませ アーサー様」
アールモンドがメイドへ言う
「誰が俺の名を 呼んで良いと言ったっ!?」
メイドがハッとすると 表情を落として言う
「…も、申し訳ございません …坊ちゃま」
アールモンドが言う
「違うっ」
アーサーが言う
「アーリィー…」
アールモンドがメイドをにらんで言う
「ウィザード様と呼べと言った筈だ 忘れたのかっ!?」
メイドが困りつつ言う
「し、しかし そちらのご指示を頂きました以前とは変わりまして 今ではウィザード様方はお名前を伏せては 居られない様ですので…」
アールモンドが言う
「…そうじゃない 俺がっ お前に名を呼ばれたくないってだけだっ!」
アールモンドが踵を返して立ち去る メイドが沈黙する アーサーがメイドを見て一瞬間を置いてから苦笑して言う
「…ごめんね ハミネさん?アーリィー 今日はちょっと 機嫌が良くないみたいで?」
メイドが顔を上げ アーサーへ微笑して言う
「いえ、アールモンド坊ちゃまが 私にお厳しいのは 昔からの事ですので」
アーサーが言う
「うん… でも もう少し優しくしてあげる様にって 今度アーリィーの機嫌の良い時にでも言って置くから 今日の所は 許してあげてもらえないかな?」
アーサーがメイドへ微笑する メイドが苦笑して言う
「ありがとうございます アーサー様 アールモンド坊ちゃまは 昔からアーサー様のご指示には従われるご様子ですので どうか宜しくお願い致します」
アーサーが言う
「俺がアーリィーに指示を出したりなんかした事は 一度も無いけどね?アーリィーは優しいから 俺のお願いを受け入れてくれているだけだよ?それじゃ?」
メイドが言う
「はい ご公務お疲れ様で御座いました アーサー様」
メイドが礼をする アーサーが立ち去ると メイドが礼を上げ肩で息を吐き立ち去る アーサーが横目にその様子を見ていて 口角を上げる
アールモンドが自室のソファの背に寄りかかって居る ドアが開かれアーサーが入室しながら言う
「ハミネさんには フォローをして置いたからね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ふんっ 余計な事を…」
アーサーが微笑んで言う
「お礼なんて良いよ アーリィー!いつもの事じゃない!?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「言ってねぇよっ」
アーサーが笑う アールモンドが溜息を吐いて言う
「…たくっ お前は何も知らねぇんだよ アーサー アイツは…っ」
アーサーが言う
「ハミネさんが?」
アールモンドが沈黙する
≪俺はウィザード… である前に この町の貴族レイモンド家の跡取りで 親父は大手コンサルタントレイモンドグループの会長だ んな訳で両親は昔から仕事に忙しく 俺はこの無駄に広い屋敷で 家の使用人らに育てられて来た …さっきのメイドもその一人で…≫
アールモンドが言う
「金の為に… ただそれだけの為に へこへこしてやがるだけなんだよ 言葉の上じゃ 俺の為なら何でもするとか言っときながら その裏じゃ…っ」
アールモンドが表情を悔しめて思う
(俺の耳に聞こえてねぇとでも思っていたのか…っ それとも…っ!?)
アールモンドの記憶の中 部屋の外でメイドたちが話している
『あ~やんなっちゃうわっ わがままお坊ちゃんの ご機嫌取りなんて?』
『適当に寝かしつけて置けば良いのよぉ?』
『それが本を読んでほしいなんて言われちゃってぇ?』
『なら、絵本でも持って行って 自分で読ませたら良いんじゃない?読んでお聞かせください!なんて言えば喜んで読むんじゃないかしら?』
『それが良いわね?それで楽しちゃおう!』
『今度の休暇は何時かしら?今月はお手当てが良かったから!』
『お坊ちゃまのご機嫌さえ取っておけばボーナスが付くんだから お屋敷付きは辞められないわよね!』
メイドたちが笑っている 扉の内側で幼いアールモンドが悔しがっている
アーサーがケロッと言う
「うん それはそうだろうね?」
アールモンドが衝撃を受けてアーサーを見る アーサーが微笑して部屋に用意されていたティーセットをテーブルへ運びながら言う
「彼女たちだって 仕事でやってるんだから 裏じゃアーリィーの事 めちゃくちゃに言ってるに決まってるじゃない?それが人間ってものだよ?」
アールモンドが沈黙する
≪…それと こいつも言い忘れていたが アーサーは俺の奉者になる以前から 俺の世話役だ
だから付き合いは長くて 俺はこいつの事は良く知ってる …と言いてぇ所だったが…≫
アーサーが言う
「それに本当に アーリィーの事 裏でも憂い慕っていて欲しい だなんて思うんなら アーリィー 今度は神様にでもならないと?」
アールモンドが言う
「神様?」
アールモンドが思う
(簡単に言ってくれる お前の言う神様が どの神様の事だかは知らねぇが その遥か手前のウィザードになるまでだって どれ程大変だったか…)
アールモンドが言う
「…知ってるくせによ?」
アーサーがアールモンドを一度見て軽く笑うと ティーケトルへ水差しの水を注ごうとする アールモンドがハッとして言う
「あ、待てっ」
アーサーが動作を止め疑問して言う
「え?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが表情を強めて言う
「…悪ぃ その水替えて来てくれ アーサー」
アーサーが疑問して水を見て言う
「うん それは構わないけど?ティーセットと一緒に 新しくしていると思うけど?」
アーサーがアールモンドを見る アールモンドが言う
「分かってる …けどそうじゃねぇ その水用意したの さっきのアイツだ …残留魔力を感じる」
アーサーが納得して言う
「ああ そういう事?分かった それなら ちょっと待ってて?すぐ行ってくるから!」
アーサーが立つと アールモンドが言う
「急がなくて良い …今日はそんなに喉乾いてねぇし?」
アーサーが笑顔で言う
「うん ありがと アーリィー でも俺は喉乾いちゃったよ?今日も不愛想な誰かさんのお陰で フォローが忙しくって?」
アールモンドが衝撃を受けると怒って言う
「なら さっさと行って来いよ!」
アーサーが笑って言う
「あっははっ それじゃ アーリィーのご機嫌が良くなりますように~!って 俺の残留魔力がこもる様に 汲んで来るからね!期待しててよ アーリィー!」
アールモンドが衝撃を受けて怒って言う
「余計な魔力 使うんじゃねぇ!」
アーサーが笑って立ち去る アールモンドが溜息を吐いて言う
「…ったく」
アーサーが出て行くと アールモンドが軽く息を吐いてソファに身を沈める
≪…俺は たまにアイツが何を考えているのか 分からなくなる時がある≫
アーサーが鼻歌交じりに機嫌よく通路を歩いている アールモンドが不満げに見上げていた視線を アーサーの居た場所へ向ける
≪俺が何処でどんな態度を取っても アイツは俺のフォローをする 俺がアイツへ何を言っても 笑って返してくる 文句を言っても怒らねぇし たまに冗談を言えば 上乗せして返して来る 何処までも底抜けに 能天気な奴なのかと思えば≫
アーサーが給湯室へ入ろうとすると中からメイドたちの声が聞こえる アーサーが立ち止まると メイドの声が聞こえる
「今日も不機嫌真っ只中だったのよ?あの我儘お坊ちゃま」 「あのお坊ちゃまが不機嫌なのは昔からじゃない?」 「ホント まったく可愛くない アールモンドさまぁー!なんて言ってる あの子たちに見せてやりたいわよ」 「ホントよね~?」 「「アッハハハハッ」」
アーサーが壁を背に溜息を吐くと 気を取り直して息を吸う
≪さっきみてぇに…≫
給湯室内のメイドたちにアーサーの声が聞こえる
「さ~て 早く戻らないと?」
メイドたちがハッとする アーサーが給湯室の出入り口にやって来て言葉を続ける
「不機嫌で我儘な お坊ちゃまに 怒られちゃうから?あ~れ~?ひょっとして 今の俺の独り言 聞かれちゃったかなぁ?」
≪俺が思いもしない様な事を… 何時もの様子で…≫
アーサーの白銀の瞳が怪しく煌めく メイドたちがゾクッとする 一瞬の後アーサーが茶目っ気のある微笑で人差し指を立てて言う
「もし聞こえちゃってたなら アーリィーには 内緒にして置いてもらえます?ね?お願い?」
メイドたちがホッとする
≪…いや やっぱり少し違う様な気が… する様な… しない様な…≫
メイドたちが苦笑して言う
「も、もちろんで御座います!アーサー様」 「アーサー様も お大変で御座いましょう?お坊ちゃまとはいつもご一緒ですから!?」「アーサー様も た、たまには… 羽目を外されませんと?」
メイドたちが作り笑いをしながら立ち去って行く アーサーがメイドたちを見送ると言う
「ま、俺には アーリィーから離れて 外さなきゃいけない羽目なんて 無いんだけど?」
アーサーが軽く肩の力を抜くと 間を置いて 自分の手にある水差しに気付き思い出して言う
「あ!忘れてたっ これじゃ本当アーリィーを 待たせちゃうじゃない?」
アーサーが急いで水差しの水を取り替えようとすると 蓋が落ちる アーサーが慌てている
≪…やっぱり 気のせいか?≫
アールモンドが言う
「…遅ぇ」
アールモンドが思う
(何かあったのか?それとも 本当に急がなくて良いと思ったのか?)
アールモンドが思い出して言う
「ん?まさか本当に…っ」
アールモンドが思う
(俺の機嫌が良くなるようにって…?)
アールモンドが言う
「魔力を込めようとしてるなんてンじゃ…」
ドアが開く音がする アールモンドが顔を向けると アーサーが水差しを手に入室しながら言う
「ごめーん アーリィー?遅くなっちゃって」
アールモンドが言う
「いや… 別に…」
アーサーがアールモンドの横に来て言う
「はいっ コレなら大丈夫?」
アールモンドがアーサーの差し出した水差しを見て 軽く息を吐いて言う
「…別に お前が汲んで来たんだったら何も… あ?おい まさか本当に?」
アーサーが一度微笑した後疑問して言う
「え?本当に って?何が?」
アールモンドが言い辛そうに視線を逸らして言う
「だから その… お前の魔力を込めてた… 何て言うンじゃ…?」
アーサーが呆気に取られて言う
「俺の魔力を?あっはははっ そんな事出来る訳ないじゃない アーリィー?俺はアーリィーと違って ウィザードでも魔法使いでも無いんだから ?魔法なんて使えないよ?」
アールモンドが言う
「魔法は使えなくても 魔力を込める事は 誰にだって出来る」
アーサーが言う
「へ?そうなの?へぇー?知らなかった」
アーサーが言い終えると 水差しの水をティーケトルへ注ぐ アールモンドが言う
「知らなかった?」
アーサーが作業を止め一度アールモンドへ向いて言う
「うん 考えた事も無かったよ?一応、奉者協会の講習会で 魔力と精神力については聞いたけど 精神力はともかく 魔力は魔法を使う人にしか 無い力だと思ってたから?」
アールモンドが言う
「それじゃぁ 全く逆だぜ アーサー?そもそも お前は…」
アールモンドがハッとして言葉を止める 作業をしていたアーサーが手を止めてアールモンドを見て言う
「俺が?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが自分へ向けられたアーサーの瞳を見つめてからバツが悪そうに視線を逸らして言う
「…ンでもねぇ」
アーサーが疑問した後言う
「え?酷いなぁ?アーリィーはアーリィーの世話役で アーリィーの奉者でもある俺に 隠し事はしないって 約束じゃない?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「う、うるせぇよっ!?大体お前はっ!?たかが 水替えるだけの事にっ どんだけ時間掛けてんだよ アーサー!?お前こそ 俺に隠し事してるんじゃ…っ!?」
アーサーが気付いて言う
「ああ!そういう事!?それならそうと聞いてくれれば!」
アールモンドが アーサーを見る アーサーがティーポットへ茶葉を入れ お湯を注ぎつつ言う
「アーリィーに頼まれて水を替えようと 給湯室へ行ったらね?先に室内に居た ハミネさんとリテルさんがアーリィーの陰口を言ってたから」
アールモンドが表情をしかめて言う
「…またかよ アイツら…」
アーサーがアールモンドへ笑顔を向けて言う
「ホント 不機嫌で我儘で可愛くないアーリィー坊ちゃまの相手は大変だよねー!って 俺も同意して置いたからね?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて叫ぶ
「同意してンじゃねぇよ アーサー!!」
アーサーが笑って言う
「あっははは!もちろん 本心なんかじゃ無いけど これで少しは彼女たちも気を使ってくれるんじゃないかな?少なくとも この屋敷内で 自分たちの雇い主の悪口は慎むようにって?」
アールモンドが言う
「はんっ どうだか…」
アールモンドがティーポットの上部へ手をかざす
≪俺だって もう餓鬼じゃねぇンだ… アーサーの言う通り アイツらが俺の生活の世話をするのも 俺に頭を下げるのも 本心から望んでいる事なんかじゃねぇ …仕事だからやっている それは分かってる 分かって…≫
淡い黄色を帯びた光の輪がふわっと浮かんで消える アールモンドがそのまま沈黙する アーサーが疑問して言う
「ん?どうかした?アーリィー?紅茶の活性魔法 失敗しちゃったとか?」
アーサーが疑問しつつ 紅茶を自分側のカップへ注ぎ 一口飲むと 微笑して言う
「うん!おいしい!今日もちゃんと美味しく出来てるよ?アーリィー?アーリィーにも 俺が注いで良い?」
アーサーがアールモンドの顔を見る アールモンドが言い掛ける
「アーサー お前も…?」
アールモンドがアーサーへ向くと2人の目が合い アールモンドがハッとする アーサーが疑問して言う
「うん?俺が何?アーリィー?」
アーサーが笑顔を向ける アールモンドがバツが悪く衝撃を受けると言う
「…いや 俺の」
アールモンドが思う
(俺の方こそ お前に)
アーサーが言う
「俺の…?」
アールモンドが一瞬辛そうな表情をしてから ムッと怒って言う
「俺の残留魔力がこもる様に汲んで来る って お前言ったじゃねぇか アーサーっ なのに魔力を込める方法が分からねぇのかよ!?」
アーサーがハッとして言う
「ああ!それ すっかり忘れてたよ !ごめーん アーリィー!実は そのハミネさんたちが居なくなってから水を替えようと 水差しの水を捨てた時に蓋が落ちちゃってね?その蓋だけ洗ってたら 今度は隣に置いてた水差しの中にまで泡が飛んじゃって?結局どっちも洗ってたら時間が掛かっちゃったんだ?やっぱり 慣れない事はやらない方が良かったかな?今度からは…」
アールモンドが思う
(お前に言えねぇ… どうしようもねぇ隠し事が 有るってぇのに…っ)
アールモンドが手を握り締める アーサーが気付きつつも平静を装ってアールモンドを心配しているアーサーが話を続けている
「やっぱり 普段からそういう事をやってるメイドさんたちにお願いした方が…?あ!でもそれじゃダメなんだっけ?その残留魔力が… って 所でその残留魔力ってなあに?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「そこからかよ!?だからさっきから言ってるじゃねぇかっ 魔力は誰でも…!」
≪俺は お前に どの面下げて訊ける?…お前のそれも 全部 …仕事なのか?…何て …聞きたくもねぇよ アーサー…≫
大雨の中雷鳴が轟いている 土手からの眺め アールモンドが思う
(うん?雨?… …いや?今朝の空気からして 雨なんか降らねぇ 増してこんな…)
幼いアールモンドが膝を抱えて涙を流しながら震えている アールモンドが思う
(あぁ… いつもの… 俺は今 夢を見ているのか… 寝ちまったのか 次の灯魔作業は?…時間は平気かよ アーサー?)
幼いアールモンドの上部に傘が当てられる
アーサーが携帯をしまいつつ入室しながら言う
「灯魔台の準備は出来てるって?それから 神館内にはアーリィーウィザード様の ファンの子たちも大勢集まって…!」
アーサーが顔を向け言葉を止めると微笑する アーサーの視線の先アールモンドが居眠りをして居る
アールモンドの夢の中 不貞腐れている幼いアールモンドが後ろから抱きしめられる 幼いアールモンドが呆気に取られる アールモンドが思う
(…ったく 変わらねぇ)
幼いアールモンドが一瞬怒ろうとするが涙が溢れる 幼いアールモンドを後ろから抱きしめている幼いアーサーが腕の力を強めて言う
『俺が助けるから』
幼いアールモンドが幼いアーサーの腕の服を握る
アールモンドにアーサーの上着が掛けられて居る アールモンドが手元にあったアーサーの上着を握ると目を覚ます アーサーが横を向いて言う
「目が覚めた?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ…」
アーサーが微笑して言う
「良かった!今日はご機嫌だね!?アーリィー!」
アールモンドが言う
「…うるせぇよ アーサー」
アーサーが笑う
「あっはははっ」
アールモンドが呆れる アールモンドの横で アールモンドに寝寄り掛かられて居たアーサーが微笑んで居る
灯魔台神館 観覧席に大勢のファンが居る アールモンドが表情を引きつらせる
≪… … …忘れてた…≫
アールモンドが思う
(何て 今更言える訳がねぇ…っ どうする!?)
アールモンドの一歩斜め後ろに居るアーサーが笑顔で言う
「わあ!凄い人気だね!?アーリィー!観覧席が満席じゃない!?」
アールモンドが沈黙する アーサーが一歩前へ進みながら観覧席を見渡して気付くと言う
「ん?あ!そっか!ほら そこ!?男の人たちが! いつものファンの女の子たちに加えて 魔法ファンの人たちも居るみたい きっとアーリィーウィザード様の上級灯魔作業を見ようと…!」
アールモンドが視線を落としたまま言う
「…ねぇよ…っ」
アーサーが疑問して言う
「え?ごめん 聞こえ無かったよ?アーリィー?」
アールモンドが力んで言う
「出来ねぇよっ アーサーっ」
アールモンドが悔しさに手を握り奥歯を噛締める アーサーが一瞬呆気に取られてから ケロッと言う
「そう?じゃあ どうしよっか?」
アールモンドがアーサーを見て言う
「ど… どうしよって…?」
アーサーが言う
「今日は通常の灯魔作業にする?それとも今日は中止にして 明日以降に上級灯魔作業をする?」
アールモンドが言う
「…連中は上級灯魔作業を見に来てるンだろ?告知もした上に その連中の前で 通常の灯魔作業なんか出来ねぇだろっ」
アーサーが軽く笑って言う
「あっははっ アーリィーは相変わらず!プライドが高いからね?それなら明日以降に…?」
アールモンドが言う
「明日以降だって 出来ねぇって言ってんだっ」
アーサーが疑問して言う
「あれぇ?そうなの?」
アールモンドが怒りを抑えて言う
「とぼけるなよっ アーサー!?お前だって知ってるンだろ?灯魔台の属性をっ!その規則性をっ!」
アーサーが苦笑して言う
「俺が分かるのは 近い場所に同じ属性の灯魔は続かない事と 後は、その属性の真逆の属性が隣り合う事も無い …って その程度だよ?アーリィー?それに 知ってる訳じゃなくて そうみたいだな~?って 思っていただけだから?」
アールモンドが言う
「それだけ分かってンなら 十分 知ってただろうっ?この灯魔台はっ!」
アーサーが言う
「午前中に雷を灯した あの灯魔台に近いと言えるし 隣りの灯魔台には 火が灯ってる 残るは 土か水か風だけど 先に雷と火が在るんだから」
アールモンドが言う
「… そこまで分かってたンなら 何であんな事 言ったンだっ!?」
アーサーが言う
「何でって…」
アールモンドが言う
「俺は今までっ 自分の属性である 雷以外で 上級灯魔作業なンかした事はねぇ!」
アーサーが笑顔で言う
「もちろん!俺、知ってるよ?アーリィー!」
アールモンドが怒って言う
「だったらっ 分かンだろうがっ!?アーサー!!」
アーサーが言う
「うん!だから 俺 アーリィーなら 出来ると思って!」
アールモンドが衝撃を受け呆気に取られて言う
「…はあ?」
アーサーが言う
「アーリィーは雷属性だけど 5大属性は大きく分けると 火系列と水系列に分かれる それでアーリィーの雷属性は 水系列に準ずる訳だから 同じ水系列の灯魔作業なら 雷じゃなくても上級灯魔作業を出来るだろうと思って?」
アールモンドが言う
「…そうだな」
アーサーが言う
「それじゃ?」
アールモンドが言う
「お前の言う通り 水系列の… 水の灯魔なら出来たかも知れねぇ けど ここは… 風の灯魔作業じゃ無理だ 風属性は最も扱いが難しい 奴らは自由で こっちの言う事なんか聞きやしねぇ… おまけに 自分たちの世界を守る灯魔作業を 面白半分に喜ぶ連中まで居たんじゃ 奴らの遊びには好都合だっ!」
アーサーが言う
「ごめん アーリィー 俺が 軽率だったよ」
アールモンドが息を吐いて言う
「…いや、お前は悪くねぇよ アーサー …分かってねぇのは 灯魔作業を面白がってやがる 連中なんだからな」
アーサーが言う
「うん そうだね けど、俺は 彼女たちの事 嫌いじゃないよ?アーリィー?」
アールモンドがアーサーを見る アーサーが言う
「だって 彼女たちはアーリィーの事が大好きで アーリィーの事を 応援してくれてるんだから!」
アールモンドが衝撃を受け バツが悪そうに視線を逸らすと言う
「だ、だからっ そう言う邪念がっ!」
アールモンドが思う
(奴ら風どもを引き付けちまうんだって…っ …クソッ この感覚だけは 魔力を扱う魔力者にしか分からねぇか…っ!?)
アーサーが言う
「それに 俺、アーリィーなら出来ると思うんだけど」
アールモンドが視線を逸らして思う
(…だからっ 魔力者じゃねぇ お前には 分からねぇンだよっ アーサーっ)
≪俺だってっ 出来る事なら…っ≫
アーサーが苦笑して言う
「けど灯魔作業に無理は禁止だもんね?それじゃ 今日の灯魔作業は中止って事で 俺、皆に謝って来るから ちょっと待っててね?アーリィー?」
≪俺に もっと 力があれば…っ ≫
アールモンドが悔しがって手を握り締める アーサーが歓声の下へ向っている
≪我儘な風の魔力を 従わせるだけの…っ 自信(精神力)があればっ!!≫
アールモンドが顔を上げると言う
「待てよ アーサーっ!」
アーサーが立ち止まり向き直って言う
「うん?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…っ その…」
≪悪い… アーサー…≫
アールモンドが視線を泳がせつつ言う
「…ンって 言うつもりだよ?」
≪俺を信じてくれた お前に…≫
アーサーが一瞬疑問してから言う
「え?ああ、うん そうだね ?とりあえず まずは…」
≪俺は…≫
アーサーが苦笑して言う
「ちゃんと事情を説明して 誠心誠意謝って来るよ?魔法を知らない俺が 勝手な事を言っちゃったって 遠いアウターサイドにある この灯魔台神館まで来させちゃった訳だから ちゃんと謝らないと」
≪俺は お前に そんな事を させたくなんか…っ≫
アールモンドが言う
「…なら 俺も行くだろ?」
アールモンドがアーサーの前に出る
≪何時もみてぇに 俺の後ろを歩けよ アーサー?俺は… ウィザードだぞ…っ≫
アーサーが驚いて言う
「え?何言ってるの?アーリィー?アーリィーは ウィザード様じゃない?」
≪いつまでも お前に…!≫
アーサーがアールモンドの横に立って言う
「心配しなくても アーリィーの失態になんて させないから!大丈夫!」
アールモンドがアーサーを見て言う
「どんな噓を言うつもりかは知らねぇが 奉者のお前が告知をしたその場所に 俺も居たんだ それを今更どう言い訳しようとっ!」
アーサーが苦笑して言う
「だから それで 俺が アーリィーの奉者を首になったって言うよ」
アールモンドが驚いて息を飲み言う
「…っ!?…な、何…っ」
アーサーが言う
「それなら 謝罪が遅くなった理由にも丁度良いし ウィザード様へ冒涜を犯した奉者は外されるって?実際それだけの罪はあるし アーリィーと俺は仲が良い思われているから その俺を切ったって事で アーリィーの評価も 上がる事はあっても下がる事はないよ?」
≪俺がお前を…っ!?≫
アールモンドが言う
「…なら お前は」
≪お前は俺を庇って…≫
アーサーが言う
「うーん 俺がどうなるかは 正直分からないけど まぁ しょうがないよ?ごめんね アーリィー」
アーサーが一歩進む
≪何で お前が…≫
アールモンドがアーサーの背へ向けて怒って言う
「何で お前が謝るんだよ?アーサーっ 悪いのは…っ!」
≪力の無い 俺が…っ!≫
アールモンドが驚き目を見開く アーサーがアールモンドを抱きしめて居て言う
「俺が助けるから だから もう少しだけここで待ってて …ごめんね アーリィー 俺はアーリィーの力にはなれないけど」
アールモンドが唇を噛んで思う
(…ったく 変わらねぇ)
≪俺は ウィザードになったってぇのにっ あの頃と何も変わっちゃいねぇっ≫
アールモンドが言う
「アーサー …っ 離せよ 苦しいだろ」
アーサーが言う
「うん ごめんね アーリィー けど 俺、やっぱりアーリィーには泣いて欲しくはないから」
アールモンドが目を見開くと涙が散る
≪俺は…っ≫
アーサーが言う
「ごめんね アーリィー プライド傷付けるような事しちゃって けど、多分大丈夫 風属性の上級灯魔作業は あのアイザック様だって公開していないから」
アールモンドが言う
「…っ そうじゃねぇ…」
アーサーが言う
「だから 今度は アーリィーのファンの子たちに 雷属性の灯魔台で アーリィーの上級灯魔作業を見せて上げてよ?きっと彼女たち アーリィーの事 惚れ直すから!」
≪俺が欲しいのは…!≫
アールモンドが言う
「…力が欲しい」
アーサーが腕を緩めアールモンドを見る アールモンドがアーサーを見上げて言う
「この風属性の灯魔台で 上級灯魔作業を出来るくれぇの 力が欲しいんだよっ アーサーっ」
アーサーが言う
「アーリィー…」
アールモンドが言う
「この灯魔台が… 風じゃなければっ 別の属性であれば 出来たかもしれなかったっ」
アーサーが言う
「別の…?火系統でも大丈夫だったって事?」
アールモンドが言う
「ああっ 火でも土でも 今の俺なら奴らを 抑えつけられたかもしれねぇっ けど風は…」
アーサーが言う
「風は試す価値は無いの?アーリィー?」
≪自信が… ねぇンだよ…≫
アールモンドの目に涙が浮かぶ アールモンドが言い掛ける
「アーサー 俺は…」
アーサーが言う
「俺は出来ると思うけど?アーリィーなら 出来るって」
アールモンドが悔しがって言う
「…クソッ」
アールモンドが手を握り締めると 抱きしめられる
≪お前に助けてもらえるだなんて 最初から思っちゃいねぇんだ… なのにっ ここに居ると落ち着いちまう…っ 俺はまだ アーサーに頼ろうとして居るのか?ウィザード(俺)が…っ 人間(こいつ)にっ≫
アールモンドが手を握り締める
灯魔台の前にアールモンドとアーサーが現れる ファンたちの歓声が上がる アーサーが立ち止まるとファンたちの歓声に手を振る
回想の中
アールモンドが言う
『お前も知ってると思うが 通常も上級も 途中までは変わらねぇ 今の俺なら 上級灯魔作業の時みてぇに 魔力放出で先に補助灯魔台に魔力が灯るから 後は…』
アーサーが言う
『うん、その後から 通常の灯魔作業の時みたいに 灯魔台に集まった風の魔法がアーリィーに向かって来るんだよね?上級の時とは違って?』
アールモンドが言う
『奴らが俺の命令通りに 黙って落ちなければな?…だから 出来るかどうかは分からねぇけど ギリギリまでは粘ってみるが… 出来なければ そういう事だ』
アーサーが言う
『うん 分かったよ アーリィー それなら俺は アーリィーは観覧席に居る皆への安全の為にも 無理はしないで 通常の灯魔作業に切り替えたんだ!って言うから!それなら皆も アーリィーは自分たちを守る為に そうしてくれたんだって アーリィーに感謝してくれるんじゃないかな?それで後は俺が』
アールモンドが言う
『ああ …じゃ 行くぜ アーサー?』
アーサーが微笑して言う
『うん!行こう アーリィー!』
アールモンドが進みアーサーが続く
アールモンドが前方へ杖を突くと思う
《俺を信じろよ アーサー》
(…なんてな 俺が あんな事 言っちまったせいだ …だからアイツは俺を信じて この風属性の灯魔台でも 上級灯魔作業を出来ると思ったんだろう …余計な言葉を言っちまった 俺が悪かった だからこれからは… お前の前では 俺はもう下手な意地は張らねぇ …約束する だから… 今回は …今回までは お前に頼っちまうけど お前に恥をかかせちまうけど 許してくれ アーサー)
アールモンドが目を開き 杖を突き 手放すと 杖がふわりと浮き上がり淡い黄色い光を帯びる アールモンドが思う
(アーサーの責任ってどうなるんだ?どうなるのかは分からねぇけど… この灯魔作業は奉者協会が仕切ってる… だったら…?いや 考えるのはもう止めだ 今は灯魔作業を)
アールモンドが顔を上げると周囲の補助灯魔台に風の灯魔が灯る 観覧席から歓声が上がる アールモンドが思う
(…そうだ 何も変わらねぇ …ウィザードにご奉仕する奉者なんて 元々奉者協会が勝手に作った言葉だ そんなモンは要らねぇっ 俺には最初から世話役のアーサーが居る!アイツは奉者を首になったって 何も変わらねぇんだ!だったら…!)
アールモンドが意を決すると 杖が力を放ち周囲に風の魔力が渦巻く アールモンドが思う
(俺がアイツを勝手に連れて 灯魔作業でも魔力供給でもやりゃぁ良いだろ!?誰にも文句は言わせねぇよ!俺はウィザードだ!人間の都合なんて知った事か!その俺らを 見ようが叫ぼうが …勝手にしやがれっ!)
風の魔力がアールモンドの高揚に反応するかの様に弾けて周囲を舞う アーサーが普段との違いに息を飲み 観覧席のファンたちが驚き周囲を見渡す アールモンドが周囲を吹きまわる風に微笑して思う
(…何だよ そうと考えちまったら こんなに気分が楽なのかよ?あぁ… アーサー… お前にも味合わせてやりたいぜ これが俺の… アーリィーウィザード様の実力だ!)
アールモンドが悪戯っぽく笑うと 灯魔台の上部へ集まった風魔力を見て思う
(これで お終いだ)
アールモンドが小さく言う
「落ちろ」
風の魔力が一度小さく跳ね上がると灯魔口へ飛び込み 灯魔台を覆って灯る 一瞬の静寂の後 アールモンドが思う
(…終わった)
アールモンドが退場の為 体の向きを変えると思う
(… … …ん?)
アールモンドが疑問して言う
「…終わった?」
アールモンドの近くに浮いていた杖が力を失い倒れ アールモンドの頭に当たる アールモンドが言う
「イテッ…」
アールモンドが思い出したように杖を持つ 会場からワッと歓声が上がる アールモンドが呆気に取られ思う
(俺は…?)
アーサーの声が聞こえる
「皆さんのウィザード様!アールモンド・レイモンド様による!風魔法の上級灯魔作業でしたー!」
ファンたちの黄色い悲鳴が聞こえる
「キャァー!アールモンド様ー!」 「アールモンドさまぁー!!」 「凄ーい!」
アールモンドが呆気に取られて言う
「…成功した?まさか?俺が?」
アールモンドが思う
(俺が出来たのか?風属性の灯魔台で?…嘘だろ?)
アーサーの声が聞こえる
「アーリィー!凄いじゃない!出来たよ!?上級灯魔作業!それも凄いっ 完ぺきだったよ アーリィー!魔法使いでも無い俺が言うのも可笑しいけど!絶対 あれは凄かった!きっと アーリィーの尊敬する アイザック様だって褒めてくれるよ!?だってアーリィー!まるで…!神様みたいだったよ!?」
アールモンドがハッと我に返ると苦笑してアーサーへ顔を向けて言い掛ける
「馬鹿… 何言ってるんだお前?俺が 神様だなんて…」
アールモンドが言葉の途中で息を飲む アーサーが笑って言う
「相変わらず アーリィーってば 素直じゃないんだから!アーリィーにだって この歓声が聞こえるでしょ!?俺と同じで魔法を使えない彼女たちだって 今日のアーリィーは凄かったって!」
アーサーが観覧席を見渡してからアールモンドへ向いて言う
「魔力者じゃなくったって 自然界の5大属性の中で生きているのは同じなんだから 本当に凄い時は分かるよ!」
アールモンドが言う
「アーサーっ お前…!」
アールモンドが顔を背ける アーサーが疑問して言う
「え?何?アーリィー?」
ファンたちの歓声が聞こえる
「アールモンド様ぁー!」 「アーサー様ぁー!」
アーサーが思い出したように気付くと ファンたちへ向き直り手を振る ファンたちが喜ぶ アールモンドが歩き出す アーサーが気付くと軽く微笑して ファンたちへ言う
「応援ありがとうー!皆さんの応援のお陰で 今日の灯魔作業も 大成功でしたー!皆さん お疲れ様ー!」
歓声が鳴り止まない中 アーサーが手を振り アールモンドを追って退場する
薄暗い控え口に アールモンドが立っている アーサーが急いで来ると明るく言う
「お待たせ!アーリィー!今日はこの後の予定はないから お屋敷に帰る?アーリィーも 今日は疲れちゃったんじゃない?あんな凄い上級灯魔作業をしたんだからっ!」
アールモンドが視線を向けないまま言う
「アーサー お前 …何を願掛けやがった?」
アーサーが疑問して言う
「え?願掛け?俺が?何の話?アーリィー?」
アールモンドがアーサーの襟首を引き言う
「よく思い出せ!一字一句 思い出して言えよっ!?今ならまだ 間に合うかもしれねぇぞっ!?あの灯魔が灯る様にって そう願掛けたのかっ!?そうだよなっ!?それならっ!」
アールモンドが思う
(それなら あの灯魔を消せばっ!?それで相殺されるか…っ!?… …いや そんな程度じゃねぇか…っ もう…っ)
アーサーがただ事じゃない様子に気付き言う
「…何?どういう事?アーリィー?願掛けって?そりゃ 俺だって あの灯魔作業が成功する事を」
アールモンドが気を取り直して言う
「それを願ったのか!?それなら…っ!」
アールモンドが思う
(その程度なら…っ)
アーサーが考えていた状態から気付いて言う
「…あ、ごめーん アーリィー?それ違った 俺 願ってなかったよ!」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「願ってなかったのかよっ!願うだろっ そこはっ!?お前は俺の…っ!」
アーサーが言う
「うん、俺は アーリィーの奉者だからね?灯魔作業に関しては 上級が出来るか出来ないかはさて置き 成功するって事は分かってたから 今更それは願わなかったよ?それより あの時俺が考えていたのは 上級灯魔作業をしますって 俺が言ってしまった事を どう言い訳をしようかなぁ~って?それを考えていたものだから?」
アールモンドが言う
「そ、そっか… そうだよな?今更 灯魔作業の無事なんて」
アールモンドが思う
(それを お前に心配させるほど… お前に願掛けさせるほど 俺は弱くはねぇ)
アールモンドが言う
「だったら 何を?」
アーサーが考えながら言う
「何をって…?」
アールモンドが言う
「灯魔作業を始める前に その… 言い訳って奴を考え始める前にでも お前は何か…?」
アーサーが気付いて言う
「う~ん…あ、ひょっとして アレかなぁ?」
アールモンドが言う
「それは!?」
アーサーが言う
「俺…」
懐中電灯を持った係員がやって来て言う
「あ…っ!失礼致しましたっ!」
アーサーが係員へ向いていて言う
「いえ こちらこそ!もう ここを閉めちゃいますよね?俺たちも すぐ出て行きますから 大丈夫ですよ」
係員が言う
「はい、有難う御座います アーサー奉者様」
アーサーが笑顔を見せると アールモンドへ向いて言う
「それじゃ 取り合えず」
係員が灯魔台への扉を閉めて 照明を付ける 薄暗さが消えたクリアな視界の中 アーサーがアールモンドへ向いて言う
「ここからは出ないと?行こう?アーリィー?」
アールモンドが平静を装いつつ言う
「…ああ そうだな アーサー…」
アールモンドが歩き始める アーサーが微笑して続く アールモンドが思う
(駄目だ… お前の願いが 何だったにしても お前の その目は もう… …間に合わねぇ)
アールモンドが落としていた視線を正面へ見据える アーサーがアールモンドの様子を気にかけてから苦笑して正面へ向く 外光が見えて来ると アーサーの瞳の色が薄まっている事が分かる
土手
草木を揺らす柔らかな風の中 アールモンドが遠くを見て立っている アーサーが言う
「懐かしいね!ここ!俺とアーリィーが 初めて会った場所!お屋敷から割と近いんだけど 意外と来ないものだね?」
アーサーが少し進み身を下してしゃがむ アールモンドが言う
「俺はいつも来てる」
アーサーが言う
「あれぇ?そうなの?」
アールモンドが少し進むと言う
「ここは吹き抜ける風を遮るものもねぇし 川の流れも自然のままだから 魔力を高めるには丁度いい …後は 雨が降っていれば 最高に良いんだがな…」
アールモンドが空を見上げる アーサーが言う
「へぇー?あ、それじゃ?アーリィーと俺が会った あの日みたいな感じが 丁度良いんだ?雷も鳴ってたもんね?」
アールモンドが言う
「ああ… そうだな…」
アーサーが軽く笑って言う
「ふふっ けど俺は今日みたいな感じが良いかな?風が気持ちいいし 雨は無いから寒くもないし?」
アールモンドが言う
「…ああ」
柔らかい風が吹き ウィザードの法衣が揺れる アーサーが心地よく一度息を吸い 体の力と共に吐く アールモンドが言う
「…それで?」
アーサーがアールモンドを振り返って言う
「ん?」
アールモンドがアーサーを見下ろしていて言う
「何を 考えていたんだよ?アーサー」
アールモンドが思う
(もう 遅ぇけど… 聞くだけ聞い置く 俺とお前の間に 隠し事は無しだ… 俺も言うぜ アーサー)
アーサーが疑問していた状態から思い出して言う
「うん?…ああ!さっきの?」
アールモンドが言う
「ああ 何を願掛けた?…願掛けは もうするなって 約束したくせによ」
アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー だって つい!…うん、やっぱり いくら約束してたって 願わずにはいられなかったよ?アーリィーに泣いて欲しくないって 俺言ったでしょ?だから!」
アールモンドが言う
「だから?」
強い風が周囲を吹き抜ける アーサーが言う
「アーリィーが 力を得られますように!って?」
アールモンドが言う
「…やっぱりそうだったのか」
アーサーが苦笑して言う
「だってアーリィーが ”力が欲しい”って そう言うから …ふふっ けど そんなの 願掛けって言うのかな?だって普通 自分が頑張れば 叶えられる範囲の事を言うでしょう?だから俺のは 願いと言うより 想いでしかないよ?アーリィー?」
強い風が吹き付ける アーサーが一瞬驚いて言う
「わっ 風強くなって来たね 雨でも降るのかな?予報じゃそんな事言ってなかったけど」
アールモンドが言う
「降らせてやるよ」
アーサーが疑問して言う
「え?」
アールモンドが言う
「雨を降らせるなんて 簡単な事だ …こんなに強ぇ力があるならな?」
アールモンドの周囲に雷がほとばしる アーサーが呆気に取られて言う
「ア、アーリィー?」
アールモンドが思う
(そうだ これだけの力があるなら もう何も 心配は要らねぇ だったら良いか?…このままでも?)
アールモンドが踵を返すと言う
「帰るぞ アーサー」
アールモンドが思う
(下手に言えば お前は…)
アーサーが疑問してから微笑して言う
「うん!帰ろう!アーリィー!」
アーサーが立ち上がり アールモンドに続いて歩いて行く アールモンドが思う
(だったら このままで良い この隠し事は ずっと… このまま… 俺が 隠し通せば そうすれば)
≪隠し通せると思っていた≫
アーサーがカーテンを開いて言う
「おはよう!アーリィー!今日も良い天気だよ!」
アールモンドがまぶしそうに目を開いて言う
「…ン だから 俺は 雨が良いって… いつも言ってンだろ アーサー」
アーサーが笑顔で言う
「またまたぁ~?アーリィーってば そんな噓言っちゃって?」
アールモンドが言う
「嘘じゃねぇ… 俺は お前に嘘なんて…」
アールモンドが右腕を上げる アーサーがその腕を掴み 引き起こすと言う
「嘘なんて言わない?それなら?」
アールモンドが寝ぼけ眼を開くと驚く アーサーがアールモンドの顔を覗き込んでいて言う
「アーリィーの方が 自分の事 分かってないんじゃなあい?だってアーリィーは 天気の良い日の方が 機嫌が良いんだよ?俺 知ってるから?」
アールモンドが沈黙した後ぷいっと顔を背けて言う
「知らねぇよっ!」
アーサーが笑う
「あっははははっ」
土手
アールモンドが杖を浮かべ魔力を集めると 周囲に雷と風が舞う アールモンドが思う
(今までと違って 風の魔力まで 勝手に俺の体に 纏わり付いて来るようになった… コレなら)
アールモンドが言う
「上級灯魔作業だって 成功して当然だぜ?」
アールモンドが魔力を収め杖を持つと思う
(魔力が有り余ってやがる… なら… どうすっか?)
アールモンドが言う
「今日は灯魔作業はねぇって言ってたよな…?なら…」
アールモンドが空を見上げて言う
「暇つぶしに 本当に雨を降らせてやろうか?」
アールモンドが思う
(コレだけの魔力があるなら… 出来るか?)
アールモンドが一度魔力を集めると強い風が向かってくる アールモンドが魔力を収めて言う
「いや…」
アールモンドが思う
(無理は禁物だ まして暇つぶしに降らせた雨が 降り止まなくなっちまったりしたら…)
アールモンドが空を見上げて言う
「本当に いい天気だな…」
アールモンドが思う
(…なら この有り余る魔力が尽きるまで この空を飛び回ってみるか?俺が風属性のウィザードなら きっと 最高の修行になるだろうな?けど…)
アールモンドが言う
「興味ねぇや… だったら…?」
アールモンドが思う
(アーサーの奴でも 連れて行ってやるか?それで…)
アールモンドが悪戯っぽく笑って思う
(空の上で 手を放してやったら?アイツも驚くだろうな?…そうだ たまにはアイツを脅かしてやるか?いつものお返しに?)
アールモンドが軽く笑う 遠くからアーサーの声が聞こえる
「アーリィ~!」
アールモンドが疑問して振り返る
奉者協会出入り口前
アールモンドとアーサーが現れる アーサーが先行して言う
「ソニア副会長から 会長室へ直接お連れする様にって言われているから 行こっか?アーリィー?」
アールモンドが言う
「会長室へ?アイザック様が 俺に用って事か?」
アーサーが言う
「どうだろう?昨日の灯魔作業に関する事で って話だったけど?」
アールモンドが言う
「そうか… まぁ良い 行くぜ アーサー」
アーサーが微笑して言う
「うん!行こう!アーリィー!」
アールモンドが向かいアーサーが続く
奉者協会 会長室内
アールモンドが言う
「レーツ町の灯魔作業を?俺が?」
アイザックが言う
「貴殿の家にとっては 縁のない町ではあるが 受け持ってもらえるだろうか?」
アールモンドが言う
「…俺は元々レイモンド家の関連がどうとかって そう言った貴族の繋がり的な事は気にしねぇが… レーツ町って 確か…?」
アーサーが言う
「レーツ町は 以前 アークの地で 大結界を張る際に アークに呼びつけられた 火属性のウィザード様の受け持ちの 名前は …そう シュイ様が ご担当されていた筈では?」
アールモンドが言う
「だよな?」
アイザックが言う
「その通りだ」
アールモンドが言う
「何か問題なのかよ?アークに認められたウィザードが 今更 普通の灯魔作業も 出来ねぇとでも言うのかよ?」
アイザックが言う
「…いや 普通の灯魔作業と言う事であるならば 問題は無いのだが…」
アールモンドが言う
「なら?」
アーサーが言う
「ひょっとして 上級灯魔作業?」
アールモンドが一度アーサーを見てから言う
「それだって アイツは火属性なんだから 簡単だろう?自分と同じ属性の灯魔台なら 火の灯魔は一番分かりやすい 最初の魔力放出で 一番魔力の低い火が灯りゃ そいつは火の灯魔台なんだから 後は 上級灯魔作業をやれば良いし 灯らなければ 別の属性って事で 普通の灯魔作業をすれば良い」
ソニアが苦笑して言う
「しかしそれでは 事前の告知などは 出来ないと言う事ですよね?」
アールモンドが気付き言う
「ああ そりゃ…」
アイザックがソニアへ頷いて見せる ソニアが頷き言う
「実は 昨日 アールモンド様が マース村の灯魔台で 上級灯魔作業を行うとの 事前告知を行った上で そちらを成功させて見せたと…」
アールモンドが衝撃を受ける アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー?」
アールモンドが言う
「もう良い …それで?だったら… そっちのレーツ町の灯魔台の属性を 先に確認して 火の灯魔台だった時に 告知をすれば…」
ソニアが言う
「告知はそれで良いとしても それでは レーツ町のウィザード様は 火の灯魔台でしか 上級灯魔作業は出来ないと 言ってしまっている事になりますから…」
アールモンドが言う
「事実だろ?大体 上級灯魔作業に拘らなくったって 灯魔台に灯魔が灯ってれば良いんだからよ?属性も合ってるなら それで上等だぜ?」
ソニアが困って言う
「ええ… そちらは 確かに…」
アイザックが言う
「しかし 貴殿であるならば」
アールモンドがアイザックを見る アイザックが言う
「どちらの場所にて どちらの属性の灯魔台であろうとも 上級灯魔作業を行えるのだろう?昨日の風属性の灯魔台の話と共に 本日 直接貴殿へ会って十分に分かった 貴殿の力は… 私を超えている」
皆が驚く アールモンドが呆気に取られていると アーサーが言う
「凄いじゃないっ アーリィー!?アイザック様にっ!アーリィーの憧れの大先輩に 自分以上だなんて言ってもらえるなんてっ!?」
アールモンドがハッとして慌てて言う
「ば、馬鹿っ アーサー!相手は 神に選ばれたウィザードだぞっ!俺を煽てているだけだっ だ、だ、だから…っ!そ、そんな事 言った所でなっ 俺は騙されねぇんだよっ!?先輩っ!」
アイザックが軽く笑う アールモンドが衝撃を受けアーサーへ向いて言う
「ほ、ほら見ろっ!余裕で笑ってンだろっ!?何処の世界に 自分より上の奴の前で笑える奴がいるかよっ!?アーサーっ!」
アーサーが笑顔で言う
「なら アーリィーも笑いなよ!?本当はアーリィーだって めちゃくちゃ嬉しいくせに!?」
アールモンドが言う
「笑うかよっ!?嬉しくもねぇ!」
アーサーが言う
「俺は凄く嬉しいよ!アーリィー!」
アールモンドが怒って言う
「何でお前が喜ぶんだよっ アーサーっ!笑ってんじゃねぇ!」
アーサーが言う
「だって しょうがないじゃない?俺は嬉しくて溜まらないよ?アーリィーの望みが叶ったんだから!」
アールモンドがハッとして言う
「そ、それは…」
アイザックが言う
「貴殿の望みが?では 貴殿は私を超える力を手に入れたいと その様に願ったのだろうか?」
アールモンドが言う
「ち、違うっ!俺は唯…っ」
アイザックが言う
「貴殿は雷属性のウィザードだ その面に置いても アーサー殿程の奉者が附いてくれているのは好ましい事ではあるが… これ以上は止めて置いた方が賢明だ」
アールモンドが言う
「分かってる だから俺も 気を付けていた… …つもりだったんだが…」
アーサーが疑問して言う
「え?俺が…?」
アールモンドが言う
「ンでもねぇよ アーサー」
アーサーが呆気に取られて言う
「…そう?俺ちょっと 調子に乗り過ぎちゃったかなぁ って思って 謝ろうと思ったんだけど?」
アールモンドが言う
「馬鹿 ウィザードに人間が謝るのはタブーだって 忘れたのk…」
アーサーがハッとして言う
「あ!そうだったね!俺、忘れてたよ ごめーん アーリィー!」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「本当に 忘れてたのかよっ!?」
アーサーが言う
「だって 俺 いつも アーリィーに謝ってるし?」
アールモンドが言う
「お前のそれは唯の相槌だろっ!本気で謝ってなんかねぇくせにっ」
アーサーが言う
「え?そんな事ないよ アーリィー?心外だなぁ?」
アイザックが苦笑して言う
「どうやら 要らぬ忠告だった様だな 先ほどのは忘れてくれ」
アールモンドが言う
「ああ」
アーサーが疑問する アイザックが言う
「それで 元の話に戻らせてもらいたいのだが」
アールモンドが言う
「アーサーの馬鹿のお陰で 冷静になれたぜ 結論として言わせてもらうが 俺はやらねぇよ 先輩」
アーサーが呆気に取られて言う
「アーリィー どうして?折角」
アールモンドが言う
「理由は簡単だ 俺だって逆の事をされれば頭に来る おまけに相手は火属性だぜ?頭に来る所じゃねぇだろう?」
アーサーが言う
「あぁ そう言う事?そっか アーリィーは 何だかんだ言っても 本心は優しいからね?相手のウィザード様の事を考えていたんだね?」
アールモンドが言う
「何でそうなるんだよ アーサーっ 俺は ただ、その火の粉が 俺に降り掛かって来たら めんどくせぇってだけだ …ましてや」
アールモンドが思う
(お前に 掛かる様な事でも あったら…っ)
アーサーが疑問している アールモンドが言う
「…ンでもねぇよ」
アーサーが言う
「…そう?それじゃ!そうと言う事みたいなので?」
ソニアが困り苦笑で言う
「そうですか… 分かりました それでは仕方がありませんね?…貴方?」
アイザックが肩の力を抜いて言う
「ふむ…」
アールモンドが周囲の雰囲気に言う
「…大体 そこまでして 物好きな連中に見せてやりてぇってぇんなら それこそ 先輩が見せてやれば良いじゃねぇかよ?」
アイザックが衝撃を受けて言う
「う…っ あ、ああ…」
アールモンドが疑問して言う
「俺だって 先輩に取られるってんなら 頭には来るが受け入れるぜ?」
アイザックが言う
「う、うむ… では そうする他には無いか… 既にレーツ町のタイタン村の灯魔作業を 公開すると告知してしまっているのだったな?」
ソニアが困り苦笑で言う
「はい… 余りにもその… メディアの方々が どうしても… と…」
アーサーが言う
「ウィザードを従える奉者協会が 人間だけのメディアに負けるのかよ?まったく情けねぇ!」
ソニアが視線を落とす アイザックが言う
「アールモンド卿 貴殿へは足労を掛けたが 打診をしたのは私だ 彼女を責めるのは止めてもらいたい」
アールモンドがハッとして言う
「あ… 悪い… そういうつもりじゃなかった ただ俺は…」
アイザックが苦笑して言う
「貴族のプライドか」
アールモンドがムッとして言う
「先輩だってっ」
アールモンドが気を取り直して言う
「別に 貴族が偉いだなんて 思ってる訳じゃねぇよ だから 俺に協力出来る事はしてぇが 他のウィザードに任された場所で そいつの納得もねぇままになんか 出来ねぇって それだけだ」
ソニアが言う
「では シュイさんの同意の上であれば 行っていただけるのでしょうか?アイザック様はその… 民衆の目前で 灯魔作業を行う事に 余り 慣れていらっしゃらないご様子ですので そこで 万が一に備え アールモンド様であればと…」
アイザックが衝撃を受け 顔を逸らして言う
「ソ、ソニア…」
アールモンドが言う
「あぁ そういう事か 先輩は水属性だからな?民衆の煩悩や雑念に 流されやすそうだもんな?」
アイザックが言いづらそうに言う
「うむ… つまり そう言う事だ 貴殿は良く慣れている様子だからな 大したものだ 正しく 私以上の力だ」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「そう言う事かよっ」
アールモンドがソニアへ言う
「なら その同意って奴は 既に取られているのか?そうならそうって 最初っから言ってくれればよ?」
ソニアが言う
「それが… シュイさんの奉者である マキさんへは連絡をしてあるのですが お返事の方がまだ…」
アールモンドが言う
「まだ…か なら 無理だろうな?今頃 頭に来て その奉者にでも 当たってるんじゃねぇのか?」
アイザックが言う
「…いや 奉者へ当たるのではなく」
ドアがノックされる ソニアが疑問して言う
「はい?」
ドアの外からマキの声が聞こえる
「あ、あの… すみませんっ シュイ…ウィザード様の奉者の マキ…」
ソニアが言う
「マキさん?良いわよ?お入りになって?」
ドアが少し開きマキが言う
「ソニアさん… すみません その…」
シュイの声が聞こえる
「もう良いっ そこを退け!マキ!」
ソニアが苦笑して言う
「あらあら…」
アールモンドがぷいっと顔を逸らして言う
「言わんこっちゃねぇ」
ドアが炎で叩き開かれる ドアノブを掴んでいたマキがドアごと室内へ吹き入れられると悲鳴を上げる
「にゃあっ!?」
開かれた敷居を シュイが周囲に魔力の炎を散らしつつ 進み入って来る アールモンドがアイザックへ向いて言う
「先輩の水魔法で 頭冷やしてやったら?」
アイザックが言う
「彼の怒りが 理解出来ると言ったのは 貴殿であろう?アールモンド卿?」
シュイがアールモンドを見下ろす アールモンドが横目にシュイを見上げる シュイがアイザックへ向い言う
「まさかとは思うが 私に代わり タイタン村の公開灯魔作業を 受け持つと言うのは」
アイザックが言う
「貴殿の許可を得た上であるのなら アールモンド卿が受け持っても良いとの事なのだが?」
シュイが再びアールモンドを見下ろす アールモンドは他方へ視線を向けている シュイが言う
「断る!」
マキが言う
「シュイっ」
シュイが言う
「私は 私を超える者の言葉には従うが それでも…」
シュイがアールモンドへ向かって言う
「私より 弱い者へ 灯魔作業を任せるなどと言う そちらの言葉を受け入れる事は出来ない!」
アールモンドが反応して言う
「はぁ?お前 何言ってンだ?俺の魔力が分からねぇのかよ?」
シュイが言う
「分からないな?私に分かるのは 貴方が私よりも 確実に弱い存在であると言う事だけだ」
アールモンドが言う
「…面白れぇ なら…っ」
アールモンドが立ち上がると周囲に雷の魔力が舞う ソニアが困り苦笑でアイザックへ言う
「あらあら… 貴方?どうしましょう?」
アイザックが言う
「ふむ… ウィザード同士の闘争に 他のウィザードは加わるなかれと…」
シュイが笑んで言う
「アイザック様のご了承は得られた」
アールモンドが言う
「はっ!餓鬼かよ?先輩のあれは大人の余裕って奴よ とりあえず その暑苦しい火を消せよ?」
シュイが言う
「貴方こそ?」
2人の周囲で魔力が暴れる アイザックが杖を軽く動かすと周囲に結界が貼られる マキが周囲を見て困って言う
「シュ、シュイっ!?駄目だよっ!こんな所で火の魔法を使ったりしたらっ 奉者協会が火事になっちゃうよっ!」
アーサーが苦笑して言う
「アーリィー?アーリィーも 程々にね~?」
マキが衝撃を受けて言う
「アーサーさんっ!?止めないんですかっ!?」
アーサーが疑問して言う
「え?止めた方が良いの?」
マキが慌てて言う
「だ、だって このままじゃっ!?下手したら 奉者協会だけじゃなくて 周りの建物まで 火とか雷の魔法で壊れちゃうんじゃ!?」
アーサーが言う
「あっははっ それは大丈夫だよ マキちゃん 2人はウィザード様だよ?ちゃんとその辺りの加減は出来るに 決まってるじゃない?」
マキが呆気に取られて言う
「そ… そうなんだ?」
アーサーとマキの視線の先 アールモンドが視線を強めると シュイが魔力を弱められ 周囲の火が消え始める シュイが表情をしかめ思う
(…クッ 魔力だけではなく 精神力も上か…っ …ッ こんな…っ こんな…っ)
シュイが悔しそうに魔力を収める アールモンドがニヤリ笑んで言う
「やっと分かったみてぇだな?わざわざ相手をしてやらねぇと 分からねぇなんてよ?手間のかかる後輩だぜ?」
シュイが言う
「…黙れ 貴族のウィザード」
アールモンドが反応し不満気に言う
「てめぇ この期に及んで まだンな事を…っ?」
シュイが言う
「雷属性のウィザードが 己のみの力で それほどの力を得られる筈がない」
アールモンドが怒って言う
「この野郎っ 言わせておけばっ いつまで吠えてやがるんだっ!負け犬っ!」
アールモンドがシュイへ立ち向かう アーサーが言う
「アーリィーっ もう それ以上はっ」
アールモンドが怒りを飲むと アーサーがアールモンドの後ろ横へ来て アールモンドを見てからシュイへ苦笑して言う
「とりあえず これで ウィザード様同士の力比べは 終わったと言う事で しかし シュイ様がやはり受け入れられないと そう言うのでしたら タイタン村の灯魔作業はアイザック様が執り行って下さるとのお話なので」
後方でアイザックが衝撃を受け顔を逸らして言う
「う、うむ… 最も 私であっても 観覧者やメディアのカメラの前で 確実に出来るとは言い難い そしてその際には中止とし 日を改め やはり アールモンド卿へ依頼をすると言う事になるが その時には …シュイ殿の同意は もはや関係はない そちらは 私からアールモンド卿への 直接の依頼と言う事になる」
シュイが不満を噛み殺す マキが呆気に取られていた状態から シュイの近くへ言って言う
「ねぇ シュイ?アタシには魔法の力の事は分からないけどさ?あのアイザック様が言うんだから アールモンドさんの魔法の力は… 凄いんだって事でしょ?だったら 今回は… お願いしちゃおうよ?その方が良いって?」
アールモンドが息を吐き言う
「…周りの連中に ここまで言われても譲れねぇとはな?そのプライドは 大したものだぜ?」
アールモンドがソファへ向かい腰を下ろすと言う
「アーサー?魔力供給の時間は?」
アーサーが反応すると腕時計を見てから言う
「えーっと とりあえず 今からなら… 3時のお茶の時間を潰すことになっちゃうけど 予定通り2か所 間に合うかなぁ?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「ゲッ マジかよっ!?今日は昼寝もしねぇで 来ちまったってぇのに…っ」
アーサーが苦笑して言う
「それなら 今日は一か所だけにしておこうか?タイタン村をやるにしても やらないにしても 魔力供給なら その前に出来ちゃうでしょう?アーリィー?」
アールモンドが言う
「そうだな?ならそれで…」
アーサーが言う
「うん、それじゃ 今日はどっちにしようか?明日の灯魔作業に備えて 風の方を終わらせて置く?それなら 明日は…」
アールモンドが言う
「どっちでもいいぜ?魔力が有り余って 邪魔なぐれぇだからよ?」
アーサーが言う
「あっははっ それは凄いね!アーリィー!」
マキが苦笑して言う
「アールモンドさんは 力が余っちゃってるみたいだしさ?」
シュイが言う
「奴の力が凄いんじゃないっ 貴族の力だっ」
マキが言う
「貴族のって… …あっ シュイ!?」
シュイがアーサーの真横へ立つ アーサーが気付きアールモンドへ向けていた顔をシュイへ向ける シュイがアーサーの目を睨み付ける アーサーが衝撃を受け苦笑して言う
「え?えーっと?」
シュイが言う
「…なるほど お前 …もはや 見えていないな?」
アーサーが呆気に取られて言う
「…え?見えていない …って?」
アールモンドがハッとして 瞬時に立ち上がり シュイとアーサーの間に割り入る アーサーが慌てて後方へ身を引くと バランスを崩し後ろへ倒れて言う
「わっ!?アーリィー!?ちょっ 急にっ …うああっ!?」
ソニアが思わず言う
「あら…っ あらあら 大丈夫?アーサーさん?」
アーサーがソニアへ苦笑して言う
「は、はい 大丈夫です ちょっと腰を打ったくらいで…」
ソニアが苦笑して手を貸そうとするが アーサーが身振りで遠慮している アールモンドがシュイへ言う
「てめぇ いい加減にしろよ?人の奉者に 何しようとしてやがるっ!?」
シュイが苦笑して言う
「まさか?知らせていないのか?その上で?」
アールモンドが表情を怒らせて言う
「てめぇには 関係ねえだろっ!?庶民のウィザードっ!…ンなんだから てめぇらは使えねえんだよっ!」
シュイが言う
「貴方の様な貴族が居たから 貴族社会は崩壊したのだ!」
アールモンドが言う
「うるせえ!俺が知るかっ!」
シュイが言う
「従者を従えて置きながらっ 何を言う!軟弱な雷属性の!貴族のウィザードがっ!」
アールモンドがぶち切れ 周囲に魔力が吹き荒れる中 アールモンドが叫ぶ
「てめええっ!!」
アーサーが叫ぶ
「アーリィー!!」
平手打ちの音が鳴り響く 皆が驚く中 シュイが呆気に取られた状態で視線を向けると マキがシュイを平手打ちした姿で言う
「もう止めようよっ シュイ!」
シュイがマキを見る 周囲に残っていた魔力が消える アーサーに抑えられていたアールモンドが肩の力を抜いて言う
「…助かったぜ マキ奉者」
アールモンドが退出へ向かう マキが言葉を言い掛ける
「… あ…っ あの…っ」
アールモンドが言う
「置いてくぞっ アーサー!」
アーサーが反応するとマキへ向いて言う
「あっ それじゃ 今日の所は これで!お疲れ様 マキちゃん!失礼します アイザック様 ソニア副会長!」
マキが言う
「お、お疲れさまでした!アーサーさん!」
ソニアが言う
「お疲れ様」
遠くからアールモンドの声が聞こえる
「アーサー!!」
アーサーが苦笑して言う
「ハイハイ 今 行くよ アーリィー!」
アーサーが走り去って行く マキが溜息を吐く ソニアが苦笑してからアイザックへ向く アイザックは沈黙している ソニアがアイザックを見てから マキを見て シュイを見る シュイが手を握り締め黙っている マキが心配すると周囲を見る ソニアが苦笑して言う
「お茶でも入れましょうか?マキさん?」
マキがハッとしてから 苦笑して言う
「は、はい… 頂きます…」
マキがソニアの下へ向かう シュイが顔を逸らす
灯魔神館
灯魔台に雷が灯っている アールモンドが杖を浮かせ魔力供給をしている 周囲にいる大人たちが興味の目で見つめる中 アールモンドは作業を続けている アーサーがアールモンドの後方にある淵に腰かけて微笑して見詰めている 周囲に子供たちが走り回っている アールモンドが作業をしながら横目にアーサーを気にして思う
(アーサー… 気付かれたか?)
アールモンドの意識の中 記憶がよみがえる
シュイが言う
『…なるほど お前 もはや …見えていないな?』
アーサーが呆気に取られて言う
『…え?見えていない …って?』
アールモンドが視線を落として思う
(…いや 分からねぇか?見えているモンが 見えてねぇだなンて言われたって 普通なら …分からねぇよな?…いや 分からねぇにしても… "分かるもの" ってぇのもあンだろう 俺が お前に…)
子供がアールモンドの法衣を引っ張って疑問している 大人が慌てて子供を回収して アーサーに謝っている アーサーが笑顔で受け答えをしている アールモンドが作業を続けながら思う
(お前に隠している事… お前にしちまった事… 話すべきか?話さねぇべきか?…俺なら?)
子供がアールモンドの帽子の先をひっぱり 帽子が取れる アールモンドは変わらず考えていて思う
(…俺なら 聞きたく… 無かった …けど 知らねぇままに 受け入れるなんて事は もっと出来なかった だったら 同じか?今度は俺が…?)
アールモンドが顔を上げ魔力供給を終了させると 軽く息を吐く 周囲で子供たちが帽子を掲げて走り回っている 大人たちが困り追いかけている アールモンドがアーサーへ向き直ると アーサーが笑顔で言う
「魔力供給 お疲れ様!アーリィー!」
アールモンドが思う
(…けど 本当に気付いてねぇのなら それなら…?)
アールモンドが言う
「戻るぜ?アーサー?」
アーサーが言う
「うん!でも ちょっと待ってね アーリィー?あの子たちが 飽きて返してくれるまで?」
アールモンドが疑問して言う
「あん?あの子たちが…?飽きてって…?」
アールモンドがアーサーの視線の先を追うと衝撃を受けて言う
「あっ!?俺のっ!?」
アールモンドが自分の頭に帽子がない事を確認してから 驚いてアーサーへ向く アーサーが笑って言う
「さっきから大人気なんだよ?アーリィー!アーリィーの帽子!」
アールモンドが言う
「アーサー!!」
子供たちが帽子を掲げて喜んで遊んでいる 大人たちが困り追いかけている
翌朝
アーサーがカーテンを開けて言う
「おはよう!アーリィー!今日も良い天気だよ!」
アールモンドが眩しそうに言う
「…アーサー …だから 俺は…」
灯魔神館
灯魔台に風が灯っている アールモンドが杖を浮かせ魔力供給をしている 周囲にいる大人たちが興味の目で見つめる中 アールモンドは作業を続けている アーサーがアールモンドの後方にある淵に腰かけて微笑して見詰めている 周囲に子供たちが走り回っている アールモンドが作業をしながら横目にアーサーを気にして思う
(…変わり無し …か … …まぁ アイツらしいと言えば アイツらしいが…)
アールモンドが正面へ向き直ると 肩の力を抜く アーサーが微笑してアールモンドを見詰めて居ていた状態から 携帯を取り出し表示を確認し 首を傾げアールモンドを見る アールモンドは作業を続けている アーサーが少し考えてから携帯をしまい元に戻る 子供たちが走り回っている
レイモンド邸
アールモンドとアーサーが風魔法で現れる アーサーが時計を確認して言う
「9時48分 今日は随分と早かったね?アーリィー!10時のお茶の時間の前に 帰って来られるなんて初めてじゃない!?」
アールモンドが不満げに言う
「昨日だって 作業を終えてすぐに帰れば 夕食の時間に間に合ってただろっ アーサー!?」
アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー ちょっとスープが冷めちゃってたよね~?だから 俺 温めてこようか?って聞いたのに~?」
アールモンドが言う
「お前に頼んでも 焦がすだけだろっ」
アーサーが苦笑して言う
「今度は 目を 離さないから 大丈夫だってぇ~?」
アールモンドが一瞬反応してから 視線を逸らし沈黙する アーサーが疑問して言う
「ん?アーリィー?どうかした?」
アールモンドが歩き始めて言う
「…ンでもねぇよっ」
アーサーが疑問して言う
「そお?なら良いんだけど?」
アーサーがアールモンドを追って歩く
エントランス
アールモンドとアーサーがやって来ると メイドが礼をして言う
「お帰りなさいませ …ウィザード様」
アールモンドがメイドの前を過ぎ様に言う
「ああ」
メイドが反応し少し驚いてアールモンドの後姿を見詰める アーサーが不思議そうに立っていると メイドがアーサーを見てから ハッとして言う
「あ、有難う御座いましたっ アーサー様!」
アーサーがハッとして言う
「へ?あ、う、うん?えっと…?」
メイドが苦笑して言う
「坊ちゃまに 仰って頂けたのですね?」
アーサーが慌てて言う
「え!?あああっ う、うんっ!?い、言いはしたけど…?…あ、あははっ きょ、今日は アーリィー き、機嫌が …い、良いのかも?」
メイドが微笑む アーサーが苦笑すると 遠くからアールモンドが叫ぶ
「アーサー!!!」
アーサーが衝撃を受け慌てて言う
「は、はあいっ!?今 行くよっ アーリィー!」
アーサーが急いで走って向かう メイドが呆気に取られている
アールモンドの部屋
アールモンドがソファに座っている アーサーが部屋に置かれているティーセットをテーブルに置き 水差しの水をティーポットに入れようとする アールモンドが言う
「水」
アーサーが反応し水差しを見てから苦笑して言う
「あ うん、また替えて来る?」
アールモンドが言う
「ああ… 悪ぃな…」
アーサーが軽く笑って言う
「気にしないでよ アーリィー?俺はアーリィーの世話役で奉者なんだし お礼なんて要らないよ?」
アールモンドが言う
「言ってねぇよ」
アーサーが気付くと言う
「あれ?あ、確かに…?けど それって同じような意味じゃない?」
アールモンドが言う
「そうか… …そうかもな?」
アーサーが微笑してから思い出して言う
「うん それじゃ 替えて来るね?すぐ戻るから!」
アールモンドが言う
「ああ… 気を付けろよ?アーサー」
アーサーが疑問して言う
「へ?あ!うん!大丈夫だよ アーリィー!今日は蓋を落とさないから!」
アールモンドが言う
「…ああ」
アーサーが疑問してから微笑し部屋を出て行く アールモンドがアーサーの姿を見送ってから肩の力を抜き ソファに身を沈める
アーサーが水差しを手に通路を歩きながらふと後ろを見てから首をかしげて言う
「…どうしたんだろう アーリィー?何か いつもと違う様な気がするんだけど?…あ!ひょっとして?」
アーサーが立ち止まると 携帯を確認して軽く息を吐いてから言う
「連絡なし か …それじゃ」
アーサーが携帯を手に歩みを再開させると 給湯室から声が聞こえる アーサーが反応して 壁に背を付けて給湯室内の様子を伺い 間を置いて微笑すると 室内へ向かう
アールモンドの部屋
アールモンドが目を閉じて休んでいるとドアの開く音と共にアーサーが入って来て言う
「お待たせ!アーリィー!」
アールモンドが目を開くと アーサーが近くへ立ち止まり 水差しを差し出して言う
「はいっ!これでも良いかな?アーリィー?」
アールモンドが疑問して言う
「これでもって…?」
アーサーが言う
「駄目なら もう一度 今度はちょっと急いで行って来るから?」
アールモンドが言う
「駄目なら?何言ってんだ アーサー?さっさと ポットへ入れろよ?時間が遅くなるだろ?」
アーサーが微笑して言う
「そお?なら入れちゃうけど?…この水入れたの ハミネさんだよ?」
アールモンドが反応しムッとして言う
「はぁ?ンだよっ!?それじゃ お前に行かせた意味がねぇじゃねぇか!?アーサーっ!」
アーサーが軽く笑って言う
「あっはは ごめーん アーリィー けど、残留魔力はどお?」
アールモンドが反応して言う
「!?…言われてみりゃ?」
アーサーがティーポットへ水を入れながら言う
「ハミネさんがね?喜んでたよ?アーリィー?」
アールモンドが軽く驚き一度視線を泳がせて言う
「なっ!?… …ンでだよ?」
アーサーが作業を止めアールモンドを見て微笑して言う
「アーリィーが 返事をしてくれたから!」
アールモンドが疑問したまま言う
「返事?」
アーサーが言う
「そう!俺だってさ?」
アーサーが作業を再開させながら言う
「例え仕事でも 自分がやった事に対して 怒られたり無視されたりしたら… 悲しいと思うだろうし もうやりたくないって 思っちゃうと思うんだ だから… アーリィー ハミネさんに もうちょっとだけ 優しくしてあげたらどうかな?そうすればさ?この水だって 今みたいに 最初から入れ替えないで済むと思うんだよね?アーリィー?」
アールモンドが沈黙する アーサーがアールモンドの顔色をうかがってから苦笑して言う
「…って?ちょっと説教臭かったかな?ごめーん?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…ああ… …説教クセェんだよ アーサー」
アーサーが苦笑して言う
「だから ごめーんてば?」
アールモンドが顔を逸らして不満そうに言う
「だから お前のそれは 本心から謝ってねぇって… 言ってんだろっ アーサー!」
アーサーが気付き苦笑して言う
「…うん …じゃぁ 本心で謝るから 許してよ?アーリィー」
アールモンドが気付き 再び視線をそらして言う
「ほ… 本心で謝るんじゃねぇよっ ウィザードの戒めに反するだろっ」
アーサーがハッとすると言う
「あっ そうだったね?それじゃ…?」
アーサーが考える アールモンドがアーサーを見てから視線を泳がせ気付くと言う
「…って もう良いっ それより茶だろっ!?」
アーサーが気付いて言う
「あ!そうだった 急がないと 折角早く 魔力供給が終わったのに これじゃ いつもより遅くなっちゃうね?アーリィー?」
アールモンドが怒って言う
「だっ!?…から お前がっ!?」
アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー?」
アールモンドが言う
「アーサー!!」
寝室
アーサーがカーテンを半分閉めて言う
「これ位で良い?あんまり暗過ぎない方が良いもんね?」
アールモンドが言う
「ああ 寝ぼけて 夜と勘違いするからな」
アーサーが微笑して言う
「ちゃんと 俺が起こしに来るから 大丈夫だよ アーリィー?」
アールモンドが言う
「まぁ そうだけどよ…」
アーサーが言う
「けどさ?夜も この位明るければ良いのにね?」
アールモンドが疑問して言う
「はぁ?…夜は暗い方が良いに決まってンだろう?何言ってんだよ アーサー?」
アーサーが疑問して言う
「え?そお?…あーそっか?普通はそうなのかも?ごめーん アーリィー?」
アールモンドが疑問して言う
「はぁ?」
アーサーがドアの前で言う
「それじゃ お休み アーリィー!また後で!」
アールモンドが言う
「… おう…」
アーサーが部屋を出て行く アールモンドが疑問しつつ 半分閉められているカーテンを見てから言う
「…変な奴」
アールモンドがベッドに横たわり 息を吐いて力を抜く
アーサーが言う
『そう!俺だってさ?』
アーサーが作業を再開させながら言う
『例え仕事でも 自分がやった事に対して 怒られたり無視されたりしたら… 悲しいと思うだろうし もうやりたくないって 思っちゃうと思うんだ だから…』
アーサーが気付き苦笑して言う
『…うん …じゃぁ 本心で謝るから 許してよ?アーリィー』
シュイが言う
『…なるほど お前 もはや …見えていないな?』
アーサーが呆気に取られて言う
『…え?見えていない …って?』
アールモンドが目を開き表情をしかめると 息を吐いてもう一度目を閉じて間を置いてから身を起こし 窓へ向く 窓にはカーテンが半分閉められている アールモンドが溜息を吐き顔を押さえると言う
「…眠れねぇ」
アールモンドが深い溜息を吐くと ベッドを出る
寝室からのドアが開かれアールモンドがリビングへやって来てソファを見る テーブルのティーセットは無くなっている アールモンドがソファへ腰かけると時計を見上げてから言う
「…まだ45分はある…」
アールモンドが横目に見ると 視線の先には呼びベルがある アールモンドが一度目を逸らしてから思う
(…こんな思いに ずっと捕われる位ぇなら…っ)
アールモンドが意を決すると 呼びベルを掴む 室内にベルの音が響く
アールモンドが目を閉じてうつ向いている しばらく間を置いてから アールモンドが顔を上げると 疑問して言う
「…アーサー?」
アールモンドが一度呼びベルを見てから言う
「…ひょっとして?」
アールモンドがソファを立つ
隣室前
アールモンドがドアの前で言う
「久しぶり過ぎて 忘れてるなんて言うんじゃねぇだろうな?…おいっ アーサー!」
アールモンドが返答を待つが返答は無い アールモンドがムッとしてから ドアノブを掴んで言う
「アーサー!…ん?」
アールモンドが開けようとしたドアは施錠されている アールモンドが気付くと言う
「鍵…?… … …居ねぇのかよ?」
アールモンドが間を置いて肩の力を抜くと隣の自室へ戻って行く
奉者協会
会長室のドアをノックする手 アーサーが顔を上げる
室内
アーサーの声が聞こえる
「失礼します アールモンド・レイモンド ウィザード様の奉者 アーサーですが」
アイザックが顔を向ける ソニアがドアを見てから一度アイザックを見て微笑すると言う
「アーサーさん?どうぞ お入りになって?」
ドアが開き アーサーが入室して言う
「お邪魔を致します ソニア副会長 アイザック様」
ソニアが微笑して言う
「いえ こちらこそ 丁度良かったわ?」
アーサーが疑問して言う
「え?丁度…?あ!ひょっとして タイタン村の?」
ソニアが言う
「ええ、そちらの事もあるけれど」
アーサーが苦笑して言う
「自分も 電話にするか 迷ったんですが…」
ソニアが微笑して言う
「電話よりも 実際に会ってお話しした方が 気持ちが伝わるものね?」
アーサーが疑問して言う
「え?気持ちが…?」
アーサーが自分の横のソファに気配を感じて顔を向けると そこに居たマキがハッとしてから 慌てて立ち上がり言う
「あっ あのっ アーサーさん!昨日は!うちのウィザード様が すみませんでしたっ!!」
マキが頭を下げる アーサーが驚き呆気に取られて言う
「へ!?え、えっと…?」
ソニアが微笑んでいる アイザックが軽く微笑う アーサーがソニアとアイザックの様子に落ち着くと苦笑して言う
「あぁ いや!昨日のアレは!ね?その?しょうがないって言うか? あ、ほら?2人ともね?まだ若いウィザード様だから ああ言う事もあると思うよ?それに その …う、うちのっ ウィザード様も?大人げ無かったって言うかな?シュイさんの挑発に ちょっと乗っちゃった所もあったし とは言っても アーリィーは いつもあんな感じだから 本気で怒ってはいないから!だから 心配し無くても大丈夫だよ!マキちゃん!」
マキが言う
「いえ!そうじゃなくてっ!?」
アーサーが言う
「違うの!?」
マキが言い辛そうに言う
「そっちの事じゃなくて… その…」
アーサーが疑問しながら言う
「そっちの事じゃない っと言うと?その…?」
マキが言う
「だからその… そっちじゃなくて その… その後の方の…」
アーサーが考えながら言う
「そっちじゃなくて その後の…?後の?後の 方…? … … えっと… 何かあったっけ?」
マキが衝撃を受けて言う
「へ?」
アーサーがいつもの調子で言う
「ごめーん 俺ちょっと 分からないかもー?」
マキが転んで言う
「にゃあっ!?」
ソニアが苦笑している アイザックが視線をそらしている アーサーがハッと思い出し 時計を見てからマキへすまなそうに言う
「あ、それはそうとっ ごめん マキちゃん ちょっと先にっ …ソニア副会長?」
アーサーがソニアへ向いて言う
「先ほどの タイタン村の灯魔作業の方は?もし うちの?…いえっ アールモンド・レイモンド ウィザード様が受け持つと言う事でしたら 日時の確認をしたいと思いまして 本当は昨日の内に確認だけはして置こうと思ったのですが 何しろ …あぁ なってしまったもので?」
アーサーが苦笑する ソニアが苦笑を返して言う
「ええ、それで 私も連絡をしようと思っていたのだけど 最終的に どうなるのかが分からなかったものだから それで 後へ後へとしていたら… ごめんなさいね?アーサーさん?」
アーサーが言う
「いえ…」
アーサーが一度マキを見てから言う
「それで…?」
アーサーがソニアを見てアイザックを見ると アイザックと目が合う アーサーが一瞬反応する アイザックがそれを見ると視線を逸らす アーサーが疑問する ソニアがその様子を見てから一度マキを見てから アーサーへ言う
「では…」
マキが勢い良く立ち上がる アーサーが一瞬驚く マキが勢いのままに頭を下げて言う
「うちのウィザード様に代わり!タイタン村の灯魔作業を!宜しくお願いします アーサーさん!!」
アーサーが勢いに押されて思わず言う
「は、はいっ!?いや!俺じゃないけどっ!?う、うちのっ!?ウィザード様が!?きっと やりますともっ!?」
マキが顔を上げて言う
「きっとっ!?」
アーサーが慌てて言う
「いえっ!?確実にっ!?」
マキがホッとして言う
「良かったぁ~!」
アーサーが言う
「よ、良かった…」
アーサーがホッと胸をなでおろす
アーサーが言う
「では 日にちは やはり本日で 時間の方は…?」
ソニアが言う
「ええ、時間は13時以降と言う事になっているから 灯魔台神館には もう人が集まり始めていると思うわね 詳しい時間は伝えていないの」
アーサーが考えて言う
「13時以降…」
アーサーが一度時間を確認してから言う
「はい、大丈夫です 今日は 午前11時には休んでいるので これから戻って話をしてからでも 14時 遅くても15時には タイタン村の灯魔台神館へ入られると思うので」
ソニアが微笑して言う
「そう 良かったわ では メディアの方々へは 14時から15時の間に 灯魔作業を開始すると 連絡をして置くから… 後は お願いね?アーサーさん?」
アーサーが言う
「はい、アーリィーにも その様に伝えて置きます」
アーサーが手帳を取り出し記入している アイザックが見詰めている ソニアが微笑して言う
「メディアの方々へは いつも通り 灯魔作業中の私語やレポートは 慎んで頂けるようにって伝えてあるけれど… その分は アーサーさんがしてくれても良いから?」
アーサーが衝撃を受けて言う
「えっ!?俺が!?」
ソニアが軽く笑う アーサーが苦笑して言う
「えーっと… さ、流石に メディアのカメラの前へは…」
ソニアが微笑んで言う
「アールモンドさんはもちろんだけど アーサーさんも女の子たちに大人気だから?」
アーサーが苦笑して言う
「い、いえ 俺の方は えっと?あ!きっと 男の奉者が 珍しいだけですよ?あはは…」
アーサーが手帳をしまう アイザックが言う
「貴殿は…」
アーサーがハッとしてアイザックを見る アイザックが言う
「いつから彼と共に居る?彼がウィザードへ転身する それ以前からである様だが?」
アーサーが言う
「あ、はいっ そうですね?彼が5歳になる頃だったから」
アイザックが言う
「5歳になる頃… と言う事は」
アーサーが言う
「はい、彼が魔法使いになる為の 魔証印を受ける前です だから …後少しで20年になります!」
マキが言う
「20年っ!?」
アーサーがマキへ向いて笑顔で言う
「うん!もう直ぐ 20年になるんだ?俺が10歳になった その後だったから?」
マキが感心して言う
「すっご~いっ それじゃ 超幼馴染みって感じ?」
アーサーが言う
「いやぁ 幼馴染みって言うより 俺はアーリィーの… …あ~ … …大親友かな?あははっ!」
マキが言う
「大親友っていうか そこまで行ったら もう 兄弟ジャンっ!?」
アーサーが言う
「そうそう!俺 アーリィーに 弟にしてあげよっか?って言った事があるんだよ!懐かしいなぁ~?」
マキが言う
「そおなんだー!やっぱ 仲っ良しぃー!」
アーサーが笑顔で言う
「うんっ そうなんだ!」
アイザックが言う
「その貴殿は…」
アーサーが衝撃を受け 緩んでいた態度を改める マキが衝撃受け縮こまる ソニアが苦笑している アイザックが言う
「従者と言う言葉は 知っているのだろうか?」
マキが言う
「従者…?」
アーサーが首をかしげつつ考えて言う
「従者 …そう言えば 昨日 …いや?俺 もっと前に聞いた事があった様な?」
アイザックがアーサーの目を見詰める アーサーが気付くと真剣に考えてから思い出して言う
「え~っと… あ!そうだっ 父さんに!」
アイザックが反応する アーサーが苦笑して言う
「父に言われた事があった気がします けど 俺はその頃は それこそ10歳の子供だったので 良く分からなくて それで 説明を聞いて …世話役の事だと?」
アイザックが言う
「世話役?」
アーサーが言う
「はい レイモンド家のお坊ちゃまの 世話役をやれと!…あ!違ったっ やるか?…って聞かれました それで 俺は」
アイザックが言う
「それをやると?貴族の息子の世話役を?」
アーサーが言う
「いえ、違うんです その時は 俺、貴族のお坊ちゃんの世話役なんて やりたくないって… そしたら父が 強制はしないから その代わり 直接会って来いと …話もしなくて良いから ただ 見て来いって言われました それで」
アーサーの意識に一瞬2人の出会いの日の風景が見える マキが疑問していた状態から言う
「…それで 結局…?」
アーサーが意識を戻し一度マキを見てから苦笑して言う
「…あ、はい それで 結局 …やっぱり やろうかなぁ?…って?そんな感じです」
アイザックが言う
「では 貴殿は 奉者となった今でも その頃の… 貴族の息子の世話をしている …と言った 意識しか持っていないのだろうか?アールモンド卿からは 何も聞いてはいないのか?もしくは 父上殿からは?それ以上の話などは?」
アーサーが言う
「えーっと アーリィーから何か言われたと言う事は特に?父からは… … …あ、そう言えば 俺 やっぱり アーリィーの世話役をやるって言ったら 何か言われたような?…何だっけ?」
アーサーが考える 周囲の皆が見詰める アーサーが不鮮明に思い出して言う
「…何か 忠告を受けたような…?何だったかな…?… …あ、思い出した 奉者協会の講習会でも言っていたみたいに 誠心誠意お仕えしろと?」
マキが苦笑して言う
「そりゃぁ 世話役って言ったらさ?そうだよね?…って 言っても アタシはやった事無いから分からないけど」
アーサーが言う
「あ、うん!でも 変なんだよ それだけじゃなくてさ ?誠心誠意お仕えするんだけど 決して …命がけで守ろうとするな って?」
マキが呆気に取られて言う
「え?命がけってぇ?それって ちょっと オーバーって言うか?」
アーサーが苦笑して言う
「うん そうだよね?まぁ うちは 元を正すとそう言う家系だったからね!父さんはそんな言い方したんだと思うよ?何か うちが最後まで残った レイモンド家の従者だからって!…あ!」
マキが言う
「従者!?」
アイザックが言う
「なるほど… それで貴殿は そちらの父上殿の忠告を?」
マキが考えて言う
「命がけで守ろうとするな… って?」
アイザックが言う
「つまり 己がどうなろうとも アールモンド卿を助けたいと… その様な思いで 何かを行った事… もしくは、彼とその想いを共有した事などは?」
アーサーが言う
「己がどうなろうとも?」
マキがアーサーの考えている様子に疑問して言う
「え?え?…己がどうなろうとも 命がけでって… そんなの 余りないですよね?いくら何でも 自分がどうなっても良いだなんて 普通は思わないって言うか?どっちかって言うと 一緒に何かしたい!とかは思うかもしれないけど?」
アーサーが気付いて言う
「あ そっか!」
マキが疑問して言う
「え?」
アーサーがいつもの調子で言う
「俺 結構 やっちゃってるかもー!」
マキが転んで言う
「にゃあっ!?」
アイザックが言う
「やはりか…」
アーサーがアイザックを見る アイザックが言う
「分かった では これ以上は アールモンド卿へ 直接話をするとしよう」
アーサーが言う
「え?あ、あのっ アイザック様っ!」
アイザックがアーサーを見る アーサーが言う
「もしその!?俺の!… いえっ 自分が何かご無礼を犯したのでしたら!どうか 自分へ直接 お知らせを下さいっ!彼は何もっ!」
マキとソニアが呆気に取られる アイザックが苦笑して言う
「貴殿はとても優秀な奉者であるから 大切にする様にと …その様にアールモンド卿へ伝えるだけだ 彼の先輩としてな?」
アーサーが呆気に取られて言う
「…え?…は、はぁ?」
奉者協会の外へアーサーとマキが出て来る その様子を会長室の窓からアイザックが見ている ソニアが気付くと一度窓の外を見てからアイザックへ言う
「随分と アーサーさんの事を 気に掛けていらっしゃるみたいですが… その… 何か?」
窓の外 アーサーとマキが向き合い話をした後 マキが携帯を鳴らしている アイザックが言う
「貴族社会が崩壊し 庶民からもウィザードとなる者が現れるようになった …しかし」
窓の外 マキの近くへシュイが現れると アーサーへ向くアーサーが衝撃を受け苦笑している マキが怒っている アイザックが見詰める先 マキに諭されシュイがアーサーから顔を背けると マキと共に風に消える アーサーがホッと溜息をつくと時計を確認する アイザックが言う
「庶民から現れるウィザードは…」
アーサーが周囲を見渡している アイザックが言う
「…いや もはや 庶民も貴族も関係ない 昨年までの 20年間 雷属性を持つウィザードが現れなかった その理由こそ」
アーサーが2か所を見たのち時計を確認してからバス停へ走る アイザックが言う
「貴族社会の崩壊と共に失われた 従者の存在だ」
ソニアが言う
「従者の存在…」
ソニアが窓の外を見る アーサーの乗り込んだバスが走り去る アイザックが言う
「ウィザードの数は 僅かづつではあるが増え始めている しかし この世界を守るには やはり 5大属性 それぞれの属性を受け持つウィザードが必要だ 今のままでは…」
ソニアが窓の外を探してから アイザックへ向いて言う
「では 従者であるアーサーさんの様な 奉者を育てる事は 出来ないのでしょうか?」
アイザックが走り去ったバスを見送ってから 歩き始めて言う
「出来ないだろうな…」
ソニアがアイザックの動向を視線で追いながら言う
「そちらは?奉者と従者とは 具体的には どの様に異なるのでしょう?その… 私の目からでは…」
アイザックが言う
「分からないか… そうだろう 元貴族の家の者であった 私であっても 実際にこの目で確認をするまでは 信じ難かったのだが… ソニア」
ソニアが言う
「はい」
アイザックが言う
「では お前の目から見て アーサー殿が… 彼の従するウィザード アールモンド卿の力にて 助けられていると言う事実が 分かるか?」
ソニアが疑問して言う
「え?アーサーさんが?何か…?」
アイザックが言う
「その様子ならば この様に言い替えれば分かるだろう アーサー殿は… 目が見えていない」
ソニアが呆気に取られる アイザックが言う
「彼の目は 物を見る力を失っている そして それは… 表に現れている部分であり 表に現れると言う事は 即ち 彼の魔力は限界に達していると言う事だ それを アールモンド卿の残留魔力にて補っている …ウィザードと従者の関係と言うのは その様なものだ」
ソニアが呆気に取られたまま言う
「そちらが ウィザードと従者の… では?従者と言うのは その様にして ウィザード様にお助けを頂く者… と言う事でしょうか?そして そちらの… お返しにと言っては失礼ですが ウィザード様へ ご奉仕をする…と?」
アイザックが言う
「いや 礼をしているのは ウィザードの方だ 従者の失われる魔力… その生命力こそ 雷属性を持つ ウィザードの力となる すなわち 雷属性のウィザードは 従者の力を己の糧とする魔力者であり 従者が居なければ 力を持つ事は出来ない」
ソニアが言う
「それでは…」
バスの中 吊革に掴まっているアーサーが 手帳を見ていた状態か顔を上げ 天井の吊り広告を見ていると その内の1つに反応して 広告の前に立つと少し考えてから 手帳へ何かを書き写している
ソニアが困っている アイザックが言う
「彼も言っていたように アーサー殿はレイモンド家に残った最後の従者… 本来ウィザード程の魔力者に たった一人の従者を付けるなどと言う事は 決して許されない 間違いなく その従者は 己が生きる為の魔力(生命力)さえも ウィザードに奪われる」
ソニアがアイザックを見る アイザックが言う
「…それが分かっていたからこそ 彼の父上殿は仰ったのだろう 決して 命がけで守ろうとはするなと だが その様な警告など 言うまでもない 権力を失った元貴族の家に 最後まで残った従者の血族 彼は無意識の内にでも ウィザードへ 己の魔力を賭してしまった」
ソニアが心配して言う
「では… どうしたら?アーサーさんの今の状態が その様なと言う事では…」
アイザックが言う
「己の魔力を奪ったウィザードの近くに居るか もしくは そこで得られた残留魔力が残る内は問題はないが 残留魔力は 他のウィザードはもちろん それに近い強い意志を持つ人間によって 搔き消される事もあると言うもの そして それをそうと知りながらも アールモンド卿は 余りにも彼へ対し 怠慢だ」
アイザックが視線を他方へ向ける ソニアが言う
「では 貴方が アールモンドさんへお話ししたいとおっしゃったのは そちらへ対する お小言と言う事でしたのですね?」
アイザックが言う
「…ああ 恐らく 我がシュテーゲル家も 過去にはその様な失態を犯したのだろう 我が家に仕える従者は… 誰一人として残らなかった」
ソニアが困り苦笑をするとアイザックの隣りへ向かい身を寄せる
アールモンド邸 寝室
アーサーがカーテンを開いて言う
「おはよう!アーリィー!時間だよ!」
アーサーがアールモンドの下へ向かい顔を覗き込む アールモンドは眠っている アーサーが疑問して言う
「アーリィー 時間だよ?起きて アーリィー!アーリィー!?…あれぇ?珍しいね アーリィー?アーリィー!起きて?もう時間だよ!?アーリィー!?」
アーサーがアールモンドの身体を抱き起すがアールモンドは熟睡している アーサーが言う
「あれー?」
シュイが言う
『…なるほど お前 もはや …見えていないな?』
アーサーが呆気に取られて言う
『…え?見えていない …って?』
アールモンドがムッとして思う
(この野郎っ また余計な事を!)
アールモンドがシュイの前に立つと思う
(しつこい奴だなっ そんなに 俺から力を奪いたいのかよ!?アーサーから 俺の残留魔力を消そうってな!?その俺の 目の前で上等だ!返り討ちにしてやるぜ!)
シュイが杖を構える アールモンドが笑んで思う
(来るなら 来やがれっ!てめぇの軟弱な火なんざ 俺の魔力で掻き消して…!!)
アールモンドに大量の水が襲い掛かる アールモンドが驚いて思う
(って!?水…っ!!?)
アールモンドが自ら顔を上げて言う
「ぷはあっ!?」
アーサーがアールモンドの顔を洗面台に張った水へ漬けていた様子で言う
「おはよう!アーリィー!やっと起きたね!?」
アールモンドが衝撃を受け表情をしかめて言う
「ア、ア…ッ!」
アールモンドの怒号が響く
「アーサぁあー!!!」
アールモンドがムッとしてソファに座っている アーサーが苦笑しながらアールモンドへドライヤーをかけていて言う
「ごめーん アーリィー だって アーリィーってば いくら呼んでも揺らしても起きないから~?」
アールモンドがぷいっと顔を逸らして言う
「…だからって」
アーサーが苦笑しながら言う
「だから ごめーんってば?アーリィー?ねぇ?機嫌直してよ?俺だって アーリィーが気分良く寝てるのを 起こしたりなんかしたくないけど 灯魔作業の時間だって迫ってるから?」
アールモンドが言う
「ふんっ 別に…っ …気分良く寝てたわけじゃねぇけど」
アールモンドが思う
(あんな夢も見ていたしな?…それに)
アーサーが疑問して言う
「あれぇ?そうだったんだ?それじゃ 俺 やっぱり アーリィーの事 起こして良かったよね?アーリィー?」
アールモンドが思う
(そもそも 俺が起きなかったのは… …お前が …お前がっ!)
アーサーが疑問してアールモンドを見詰める アールモンドがアーサーの瞳を見詰めてから間を置くとアーサーが疑問して言う
「アーリィー?」
アールモンドが言う
「熱いっ!!」
アーサーが当てっぱなしにしていたドライヤーに気付き衝撃を受けて言う
「あっ!ごめーん アーリィー 熱かったね?」
アールモンドが怒って言う
「ア~サぁ~っ!」
アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー」
灯魔台神館
アーサーが控え出口から観覧席を見て居て言う
「うっわぁ~ すごい…」
アーサーが振り返りアールモンドへ言う
「凄い観覧者の数だよ アーリィー!2階の一般観覧席だけじゃなくて 1階の巡礼者席も今日は一般の観覧者に開放してるみたいだし!」
アーサーが再び観覧席を見て言う
「メディアのカメラも いつもと違って ここから見えるだけでも 3台!…あ!4台もある!」
アールモンドが言う
「はっ 今更 上級灯魔作業なんか 珍しくねぇだろうに 暇な奴も多いもんだな?」
アーサーが言う
「そんな事無いよ アーリィー 上級灯魔作業をやるアイザック様は 基本的に普段は観覧者を入れないし メディアに公開した上級灯魔作業だって固定式の無人カメラの映像だから 正直余りおもしろくはないもの?それを今回はプロのカメラマンたちが撮るんだから きっと凄いのを撮ってくれるよ アーリィー!」
アールモンドが不関心そうに言う
「ふーん?そんなもんか?俺はそもそも 他人がやる灯魔作業なんか興味がねぇし …映像で見る灯魔作業なんて 何が面白ぇんだ?」
アーサーが苦笑して言う
「それは アーリィーの場合は 自分で灯魔作業が出来るから そう思うんじゃなあい?俺は アーリィー以外のウィザードの灯魔作業をTVで見ても それなりに面白いと思うよ?」
アールモンドが言う
「それなりに…?そうかよ… …つーか お前…」
アールモンドが思う
(俺以外の奴の灯魔作業なんか見てたのかよ?わざわざ… 映像なんかで?)
アールモンドがムッとする アーサーが気付かないまま言う
「でもさ?そんな映像で見ていても 分かるんだよね?だから 俺はアーリィーのやる灯魔作業が 一番面白いと思うんだ!」
アールモンドが言う
「分かるってぇ?何が?」
アーサーが言う
「え?えーっと?それは その灯魔作業をやっているウィザード様が 何を考えているか?って言う事かなぁ?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「はぁ?」
アーサーが苦笑して言う
「あれぇ?ちょっと違うかなぁ?上手く説明出来ないんだけど …例えば アイザック様の灯魔作業を見るとね とても規則正しくて 凄く上手なんじゃないかな~って?そんな感じはするんだよね?けど ただそれだけなんだ 何か本当に やらなくちゃいけないから まるで 仕事としてやっているって感じで?」
アールモンドが言う
「仕事として?…ああ そりゃ 確かに 詰らねぇな?」
アーサーが言う
「でしょ?だから 見ていても 凄いとは思うけど ちょっと詰らないんだ 後は 他で言うなら …それじゃ あのマリアちゃんのウィザード様は それこそ ウィザード様たちを超えるウィザード様だけど」
アールモンドが言う
「ああ、なんせアークだからな?それこそ 面白ぇだろ?俺も大灯魔台で直に見たが 桁がちげぇよ」
アーサーが言う
「あれぇ?そうなの?うーん 俺はちょっと違うかな?俺は大灯魔台でも観覧席から見てたし 今でも映像で見るけど アーリィーの言う通り 魔力が大きいんだなって言うのは 分かる気がするよ?いつも魔力を灯魔口に投下する時 凄い迫力だからね!でも やっぱりそれだけで そのせいもあってか 誰よりも簡単に終わらせちゃう だから詰らない」
アールモンドが言う
「ああ… そりゃ そうかもな?そもそも灯魔作業なんか アークのやる事じゃねぇし …何の為にやってんだかな?今は別に 手伝ってくれなくたって間に合ってンのによ」
アーサーが苦笑して言う
「それは やっぱり 世界の為かな?なんて言っても 天使様だもんね?」
アールモンドがそっぽを向いて言う
「ふんっ …らしくねぇけどな?」
アーサーが軽く笑うと言う
「あっはははっ あ!それで!アーリィーの時はね?」
アールモンドが言う
「おう」
アールモンドが視線をそらして思う
(俺が何を考えているのか… お前に分かるのかよ アーサー?いくら… 魔力を共有した 従者だからって…)
アーサーが言う
「アーリィーの時は ワクワクするんだ!」
アールモンドが軽く衝撃を受け言う
「…は?」
アーサーが言う
「アーリィーは 灯魔作業をするんじゃなくて まるでそこにある 魔力たちと 話をしているみたいだから!」
アールモンドが疑問して言う
「魔力と… 話?」
アーサーが言う
「うん!そこにある魔力たちと 話をして 話を聞いて それで 灯魔をしている!そんな感じがするんだよね だから 灯った後には 何となく 嬉しくなるんだ!皆の声援に 答えてあげているみたでさ!」
アールモンドが疑問していた状態からアーサーの言葉に衝撃を受け怒って言う
「声援に答える? …ってっ!そりゃ お前が勝手に いつも来るファンの連中の声援に 答えた気になってるだけなんじゃねえのかよっ!?アーサー!?」
アーサーが呆気に取られてから苦笑して言う
「へ?あれぇ?そう言われてみれば?そうなのかなぁ?ごめーん アーリィー?俺 良く分からなくなって来ちゃったかもぉ?」
アールモンドが怒って言う
「アーサーっ!」
アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー」
アールモンドが言う
「…ったく まぁ 良い そろそろ行くか」
アーサーが言う
「うん!それじゃ アーリィー!楽しんで来てねー!俺はここで待ってるからねー!」
アールモンドが言う
「おう …つーか お前は来ねぇのかよ?」
アーサーが苦笑して言う
「うーん 俺は流石に 今回は止めて置くよ?カメラ4台に 超満員の観覧者だよ?いくらアーリィーの奉者でも 俺の出る幕じゃないんじゃないかなぁ?」
アールモンドが笑んで言う
「何 ビビってんだよ アーサー?成功すると分かってる このアーリィーウィザード様の上級灯魔作業によ?」
アーサーが言う
「俺がビビってるのは アーリィーの魔法より 観覧席の魔力かなぁ?なんてね?えへへ」
アーサーが苦笑する アールモンドが言う
「はっ そうかよ?ならそこで待ってろよ アーサー」
アーサーが言う
「うん!俺はここで待ってるよ アーリィー!」
アールモンドが鼻で笑うと灯魔台へ向かう アーサーが微笑して見送る
アールモンドが控え口から出てくると 盛大な歓声が上がる ファンたちの黄色い歓声が響く中 他の観覧者が拍手をする アールモンドが無表情に歩きながら思う
(…なるほど?こいつは確かに いつもとは違ぇな?…同じのもあるが)
ファンたちが叫ぶ
「アールモンド様ー!」 「アールモンドウィザード様ぁー!」
ファンたちの横で 真面目そうな観覧者たちが拍手をしつつ ファンたちを横目に見る カメラ4台がアールモンドの姿を追って動く 観覧席の後方に居るアイザックがアールモンドを見ている その横でソニアがアイザックを見てから微笑してアールモンドを見る マキが拍手をしていて横を見ると シュイが沈黙している アールモンドが思う
(先輩… 来てたのかよ?控え出口では感じなかった… 観覧者の連中の魔力に 掻き消されていたのか?…って アイツ(シュイ)も居るじゃねぇか?チィ… アーサーを連れて出なかったのは正解だったな そこからなら アーサーの魔力も見えねぇだろ?灯魔作業中に 手は出させねぇよっ)
アールモンドが灯魔作業場にたどり着き 前方へ杖を突く それと共に歓声が静まり 皆が注目する アールモンドが杖を浮かせ魔力を収集すると周囲に風が渦巻き 淡い黄色い魔力の粒子が周囲に吹くと 周囲の補助灯魔台に火の灯魔が灯る アイザックが微笑する シュイが悔しさに声を漏らす
「クッ…」
マキがシュイの様子に心配する
アールモンドが思う
(チィ… ツイてねぇな?寄りに寄って この灯魔台の属性は火じゃねぇか …だったら わざわざ俺に回さなくたって アイツにやらせれば良かったものを)
アールモンドが思う
(…まぁ 最も それじゃ 今後の火の灯魔台以外では 俺に回って来る… 奴が出来るのは火の灯魔だけだって?そんな事実を隠したいんだとか 言ってたっけな?…下らねぇ プライドに拘ってるのは お前の方じゃねぇか?俺はただ…)
アールモンドが横目に控え出口を見る 控え出口ではアーサーが微笑んでいる アールモンドが苦笑して思う
(俺はただ こうやって 一緒に… お前と一緒に ウィザード様でやっていられりゃ 文句はねぇよ アーサー)
アールモンドが顔を上げると 周囲に満ちていた魔力が火の魔法に変わり周囲に渦巻く アールモンドが思う
(後はこいつらを 灯魔口へ… …ん?そういや アイツ… 言ってたな?俺の灯魔作業は面白ぇって?魔力と話をしているみてぇだって?魔力と…?)
アールモンドが意識を向けるとアールモンドの後方に居る観覧者たちの姿が意識に浮かぶ アールモンドが苦笑して思う
(ここにある魔力は 皆 好奇の魔力ばかりだぜ?上級灯魔作業を見てぇって?後は ここに集まったこいつら(火)を ただあそこへ落としてやるだけだぜ?ンなのが 見ていて面白ぇのか?俺は… 面白ぇけどな?こいつらが 俺の指示に従ってくれるんだからよ?…面白くて溜まらねぇっ)
アールモンドがふと気付き言う
「…? …なら?」
アールモンドがニヤリと口角を上げる
アイザックが反応する ソニアが疑問する マキが驚いて言う
「えっ!?何!?炎が…っ!?」
灯魔台の周囲に渦巻いていた炎の中から 巨大な炎の鳥が現れ鳴き叫ぶ 観覧者たちが驚く アールモンドが思う
(折角 楽しみに見に来たんだろう?このアーリィーウィザード様の上級灯魔作業をな!だったら いつか見せるかもしれねぇ 野郎のそれと同じで堪るかよ!?)
アールモンドが笑んで言う
「さあ… 飛べ!」
アールモンドの指示に フェニックスが飛び上がり 灯魔神館内をひとっ飛びすると 観覧者たちが歓声を上げる アールモンドが軽く笑い 魔力を放出すると フェニックスがそれに答えて灯魔台をくるりと周ってから 灯魔口へ飛び込み灯魔台に炎が灯る 観覧者たちが呆気に取られ アールモンドを見る アールモンドが満足げに笑んでから気を取り直し 杖を手に取って退場へ向かうと わっと歓声が上がる 観覧者たちがスタンディングオベーションを始める ファンたちが叫ぶ アイザックが笑う ソニアが呆気に取られアイザックを見る アイザックが苦笑して言う
「完敗だ…」
ソニアが一瞬呆気に取られてから微笑して拍手をする アイザックが微笑してアールモンドの退場を見送る マキが興奮のままに拍手をしていてシュイを見上げると シュイが悔しさに歯を食いしばってから立ち去る マキが呆気に取られてから苦笑して後を追う
アールモンドが控え出口の手前まで来ると アーサーが思わず飛び出して喜びのままに言う
「アーリィー!」
アールモンドが苦笑すると 帽子に隠していた表情を上げ 笑んで言う
「折角 ここまでキメて来たンだからな?壊すなよ?アーサー?」
アールモンドが帽子を取ると アーサーへ押し付けて立ち去る アーサーが帽子の陰で喜びを噛み殺すと 観覧席へ一度深い礼をしてから アールモンドを追って走り去る
翌朝
アーサーが叫び声が響く
「アーリィーーー!!」
アーサーがアールモンドの寝室に駆け込んで来て言う
「アーリィー!アーリィー!起きて!起きて!見て!見て!アーリィー!アーリィー!」
アーサーがアールモンドを抱き揺らし強引に起こそうとする アールモンドが起こされながら言う
「何だ?何だ!?何だよ!?分かった 起きるからっ 見るからっ!だから…っ 落ち着けってんだ!アーサー!」
アーサーが言う
「これだよ!アーリィー!見て見て!」
アールモンドが首を押さえながら言う
「あぁ?新聞…?」
アーサーが新聞を見せたまま言う
「ほらほら!見て!新聞の一面が!アーリィーの昨日の灯魔作業の記事になってるんだよ!アーリィー!」
アールモンドが言う
「はぁ?…それで?」
アーサーが衝撃を受けて言う
「えっ!?それで?って!?それはもちろん!嬉しくないの!?アーリィー!?」
アールモンドが言う
「終わった灯魔作業の事なんて どうでも良いだろ?大体…」
アールモンドが思う
(あの時の灯魔作業が あの場所に居た連中たちに喜ばれたって事は… その瞬間に 俺には十分に分かった 伝わって来ていたんだ …だから)
アーサーが笑顔で言う
「どうでも良くなんてないよ アーリィー!それはもちろん 昨日は灯魔作業を終えた瞬間に凄い歓声と拍手だったから あの場所に居た皆が喜んでくれたって言うのは分かるけど!ほら こうやって文字で見れば!」
アーサーが新聞の記事を目で追ってから微笑して言う
「あの声援や拍手が 皆のどんな気持ちをアーリィーに送ろうとしていたのかって言うのが 改めて分かるじゃない!?」
アーサーが新聞を読んでいる アールモンドがそっぽを向いて言う
「あぁ やっぱ ンな事かよ アーサー それなら尚更だぜ…」
アーサーが疑問して言う
「え?やっぱりそんな事って?どういう事?アーリィー?」
アールモンドが思う
(俺にはとっくに伝わってる… それを一晩経った今更なんて…)
アールモンドが言う
「遅ぇんだよ…」
アーサーが言う
「え…?」
アールモンドが言う
「そこに書かれてる感想なんてぇのはな?アーサー?とっくに ウィザード様には 伝わってんだよ?分かったかよ アーサー?」
アーサーが呆気に取られてから 微笑して言う
「え?そうなの?そっか それじゃ やっぱり 凄いんだね!アーリィーは!」
アールモンドが呆気に取られた後 笑んで言う
「…ふんっ 当たり前ぇだろ?俺はウィザード様だぞ アーサー?今更かよ?」
アーサーが苦笑して言う
「あははっ そうだよね?ごめーん アーリィー」
アールモンドが苦笑して思う
(それも 大分 そのお前のお陰だけどな…)
アーサーが言う
「けど 俺は そんなアーリィーとは違って 文字で読まないと分からないからね!こうして記事になっているのは嬉しいよ!アーリィー!」
アールモンドが苦笑した後言う
「…そうかよ アーサー」
アーサーが満足げに言う
「うん!」
アールモンドが思う
(…なら 良いか やっぱこのままで…)
アーサーが新聞の他のページをサラッと見て言う
「この新聞もらえるか 後でハミネさんに聞いてみないと」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「はっ!?そこまでするかよ!?」
アーサーが言う
「だって 嬉しいじゃない!?」
アールモンドが苦笑して言う
「…なら 勝手にすれば良いが 間違っても 俺が欲しがってるとか言うんじゃねぇぞ?アーサー?」
アーサーが言う
「もちろん 言わないよ アーリィー!うん?と言う事は やっぱり アーリィーも欲しいって事?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「違ぇよっ!?」
アーサーが笑って言う
「あっははっ 分かってるよ アーリィー 冗談だったら?」
アールモンドが言う
「…たくっ」
アーサーが嬉しそう微笑んで見せると 新聞を読んでいる アールモンドが一度アーサーを見てから視線を逸らす
土手
アールモンドが魔力を収集している
アールモンド邸 アーサーの部屋
アーサーが資料を見ながら手帳を確認している 隣には新聞が置かれている アーサーが言う
「昨日出来なかった魔力供給を今日に変えて… 今日の灯魔作業を明日にしたら…?うーん それだと 他の予定もどんどん後になっちゃうから 何とかしないと」
アーサーの携帯が鳴る アーサーが反応すると モニターを見て言う
「奉者協会から?予定の確認かな?」
アーサーが携帯を着信させて言う
「はい アールモンド・レイモンド ウィザード様の奉者 アーサーです …はい …はい …え?」
土手
アールモンドが周囲に満ちる魔力に苦笑して言う
「参ったぜ これじゃ 本当に空でも飛び回らねぇと…」
遠くからアーサーの声が聞こえる
「アーリィ~!」
アールモンドが疑問して言う
「うん?アーサー?」
アーサーが到着すると言う
「ごめんね アーリィー 修行中に邪魔しちゃって」
アールモンドが言う
「いや?構わねぇけど どうした?そんなに急いでよ?茶の時間じゃ間に合わねぇって事だろ?」
アーサーが言う
「間に合わない訳じゃないんだけど 早い方が良いと思って!」
アールモンドが言う
「そうか… で?」
アーサーが言う
「うん 今、奉者協会から連絡があってね?昨日のアーリィーの灯魔作業が大人気だって!」
アールモンドが呆れて言う
「は?またかよ?奉者協会まで… わざわざ連絡してくれなくったって」
アールモンドが思う
(さっきっから 俺の周りに集まる風の魔力たちが 色んな所からその噂を拾って持って来る)
アールモンドが言う
「もう十分 分かってるって 返して置けよ アーサー」
アールモンドが体の向きを変える アーサーが言う
「ごめんごめん アーリィー そうじゃなくて 本題はこっちで!」
アールモンドがアーサーへ背を向けていた状態から 振り返って言う
「あん?」
アーサーが微笑して言う
「あまりに好評で ほかの町や村からも オファーが凄いんだって?それで 奉者協会 …と言うより ソニア副会長が困っちゃってるみたいで アーリィーに助けて欲しいって!」
アールモンドが向き直って言う
「助けるったってな?俺にどうしろって言うんだよ アーサー?」
アーサーが言う
「それはもちろん?オファーを受けて 灯魔作業を!アーリィーウィザード様の上級灯魔作業を見せてあげたら良いんじゃないかな?アーリィー?」
アールモンドが言う
「そう言う事かよ?前置きが長げぇぞ アーサー」
アーサーが苦笑して言う
「ごめーん アーリィー それで どうする?アーリィー?」
アールモンドが言う
「そうだな… まぁ 面倒臭ぇと言えば 面倒臭ぇんだが…」
アールモンドが手をかざすと沢山の魔力の光がアールモンドの手に集まる アーサーが呆気に取られて言う
「わぁ 凄いね アーリィー!アーリィーの魔力が 俺の目にも見えるよ!」
アールモンドが言う
「こんなに そこ彼処から求められるンじゃ しょうがねぇ… やってやろうじゃねぇか?アーサー」
アーサーが嬉しそうに言う
「うん!それじゃ 俺 伝えて来るね!アーリィー!」
アールモンドが言う
「おう」
アーサーが嬉しそうに走り去る アールモンドが鼻で笑うと空へ浮かび上がる
数分後 同所
アールモンドが言う
「で?」
アールモンドの前で アーサーが息を切らせつつ言う
「はぁ はぁ… それでね アーリィー 奉者協会としては 出来るだけ早めに オファーを受けて灯魔作業をしてもらいたいらしくって アーリィーの体調とかを考慮した上で 何時次の上級灯魔作業をしてもらえるかの返答を欲しいっていうんだけど… はぁ はぁ… アーリィーなら」
アーサーが息を整え 微笑して言う
「アーリィーなら 俺 今日の午後にでも 出来るんじゃないかって思ったんだけど!アーリィー?」
アールモンドが言う
「おう」
数分後 同所
アーサーがアールモンドの前で息を切らせて言う
「ぜぇ ぜぇ… それでね アーリィー アーリィーがオファーを受けて 上級灯魔作業をやっている間 この町でやる予定だった アーリィーの作業を 他のウィザード様が代行するって言うんだけど 俺 予定は出していたけど そんなに急ぐ必要もないと思うし… ぜぇ ぜぇ… それに アーリィーなら」
アーサーが息を整え 微笑して言う
「アーリィーなら 俺 この町の事に 手ぇ出すんじゃねぇよ って 断ると思ったから 断っちゃったんだけど それで良かったよね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「おう」
アーサーが笑顔で言う
「うん!それじゃ 一度伝えたんだけど 改めて確認するって事になってるから 俺 奉者協会に電話してくるね アーリィー!」
数分後 同所
アーサーがアールモンドの前で息を切らせて言う
「はー はー… それでね?アーリィー やっぱり 確認してほしいって ソニア副会長からで… ヒー ヒー…」
アールモンドが言う
「ここで電話しろよ アーサー」
アーサーが苦笑して言う
「そうだよね?ごめーん アーリィー?」
アールモンドが言う
「おう」
サウス町メイディ村灯魔台神館
アールモンドとアーサーが風魔法で現れると アーサーが灯魔台神館を見て言う
「メイディ灯魔台神館だ ここで合ってるみたいだけど アーリィー?この灯魔台神館の場所を知ってたの?俺 来た事も聞いた事もなかったんだけど?」
アールモンドが言う
「俺だって同じだ だから一度この町の上空へ行った そうしたらこの場所に」
アーサーが言う
「この場所に?」
アールモンドが言う
「何時もの連中の魔力が 集まっているのが分かったんだ だから来てみたらドンピシャだったってだけだぜ」
アーサーが言う
「そっか そう言う事!?それじゃ俺 アーリィーのファンの皆に お礼を言わないとね!」
アールモンドが言う
「へぇ?今日もまた そいつら以外の連中や カメラもあるかもしれねぇぜ?その状態で言えるのかよ?アーサー?」
アーサーが言う
「あ、そうだったっ それじゃ やっぱり ちょっと難しいかなぁ」
アールモンドが歩みを始め言う
「その分も楽しませてやれれば良いんだろう?連中がお望みの灯魔作業でな?」
アーサーが言う
「うん!そうだね!アーリィー!」
アールモンドが言う
「おう」
アーサーが微笑みアールモンドを追う アールモンドが思う
(…とは言ったが 正直 どうなるかは分からねぇな?灯魔台の属性も気になる所だが… また鳥でも飛ばしてやるか?…いや、いくら何でも ワンパターンってのも 詰らねぇしな…?)
アーサーが言う
「あれ?これって」
アールモンドが言う
「うん?」
アーサーがアールモンドへ向き 石像を指さして言う
「見て見て!アーリィー!これ!マーメイディーの像だよ!アーリィー!」
アールモンドが言う
「マーメイディー?何だよ そりゃ?」
アールモンドが思う
(マーメイディー… うん?そう言やぁ なんだか聞き覚えがある様な…?)
アーサーが苦笑して言う
「あぁ アーリィーは覚えてない?昔 まだ アーリィーが魔法使いになったばかりの頃 日が落ちてすぐになんて 眠れないって言うから 俺アーリィーが眠くなるまでって 一緒に本を読んだじゃなあい?」
アールモンドが言う
「…あぁ そういやぁ」
アールモンドが思う
(お前が読んでくれたんだな アーサー… 俺は一言もお前に 頼みはしなかったのによ…)
アーサーが像へ視線を戻して言う
「その本の中にあった奴だよ!昔 雨が降らなくて 困っていた村の人たちが 川の神様にお祈りをしたら 月夜の晩に 魚と人の間の姿をした女神さまが現れて 村に雨を降らせてくれたって言う話!この像はきっと その女神さまを表したものだよ!アーリィー!」
アールモンドが言う
「ああ… そんなのもあったっけな?ふん… …で?確かこの村の名前は?」
アーサーが言う
「うん!この村の名前は メイディ村だね!アーリィー!」
アールモンドがアーサーの横へ来て像を見てから顔を逸らして言う
「はっ!ツイてねぇな?こいつは確認をしなくったって分かっちまう この灯魔台の属性は」
アーサーが言う
「きっと 水だね!アーリィー!でも それがどうしてツイてないの?アーリィー?」
アールモンドが言う
「分かんねぇかよ アーサー?この村がメイディ村で このマーメイディーの像まであるって事は この村の連中は 雨乞いには ウィザードじゃなく このマーメイディー様を仰ぐんだろ?そんなんだから 何時までたっても この町のウィザードに 灯魔作業をされねぇんだろうぜ?」
アーサーが言う
「ああ!そう言えば ソニア副会長が この町で唯一残っている灯魔のされていない灯魔台だって言ってたよ!アーリィー!」
アールモンドが言う
「これじゃ 公開灯魔作業をしてほしいって言うのは口実で その実は 唯この灯魔台に灯魔をして欲しいってだけじゃねぇのかよ?」
アーサーが苦笑して言う
「それは無いと思うけど」
アールモンドが言う
「まぁ良い ここまで来たら同じ事だぜ この村の連中はともかくとして いつもの連中まで集まってるって言うんじゃ この俺がフケる訳にもいかねぇ オマケにカメラまでまた在るかも知れねぇってんなら」
アーサーが言う
「確かにそうだね?でもさ?アーリィー 俺 思うんだけど」
アールモンドが言う
「あ?何だよ?アーサー」
アーサーが言う
「この村に昔 女神さまが雨を降らしてくれたんだとしても そのお願いをしたのは もしかしたらウィザードだったんじゃないかな?」
アールモンドが言う
「ん?ウィザードが?」
アーサーが言う
「うん だって ウィザードは人と神様との間って言われるでしょ?だから 俺みたいな普通の人間たちが ウィザードのアーリィーにお願いをして そのウィザードのアーリィーが 川の神様マーメイディー様にお願いをする それでやっと マーメイディー様へ人々の願いが届いて 雨が降ったって事なんじゃないかな?」
アールモンドが言う
「うん… そうか 言われてみりゃ この村の連中はとっくに雨乞いはしてそうだしな?それに俺は灯魔作業はするが 直接雨を降らせてやるつもりはねぇし… …そう言う事かよ?」
アーサーが言う
「それなら マーメイディーの物語の通りだね!凄く素敵じゃない!アーリィー!」
アールモンドが言う
「はっ!途中のウィザード様の出番が 端折られたってぇのは気に入らねぇがな?まぁ良い…」
アールモンドが思う
(なら この村の連中の 魔力(想い)の通りに)
アールモンドが言う
「このアーリィーウィザード様が マーメイディー女神様へ 人々の願いを届けてやろうじゃねぇか?行くぜ?アーサー!」
アーサーが言う
「うん!行こう!アーリィー!」
灯魔台
アールモンドが灯魔作業をしている 周囲の魔力が一瞬の後水に変わり周囲に渦巻く 観覧席の人々が一瞬驚き声を出すと アールモンドの周囲に魔力が集まる アールモンドが思う
(…やっぱりな?予想通り… ここに居る多くの連中の魔力(意識)が言ってる マーメイディー様ってよ?…だが良いぜ?そんなに お呼びしてぇってんなら…)
アールモンドが閉じていた目を開きニヤリと口角を上げると 渦巻いていた水たちがぱんっと弾け 水で出来たマーメイディーの姿が現れる 人々が驚き歓声を上げる 控え出口に居るアーサーが気付くと喜んで笑う アールモンドが周囲の魔力を感じ微笑すると 魔力を放出する 水で出来たマーメイディーがクルっと灯魔台を回ると 灯魔台に手をかざしてから水流になって灯魔口へ注がれ 灯魔台に水が灯る アールモンドが構えを解除して杖を手に退場へ向かうと 観覧席から盛大な歓声と拍手が響く アールモンドが帽子に隠れた表情に笑みを浮かべて思う
(ああ… 感じるぜ 連中の満足感を… こいつはまた)
アーサーが思わずアールモンドの下へ走る アールモンドがアーサーへ帽子を押し付けて立ち去る
≪また 良い新聞の記事を お前にも読ませてやれるだろうぜ?アーサー≫
アーサーが人々へ礼をすると アールモンドを追って走り去る
≪それからの5日間 俺らは毎日異なる町の村へ向かい 公開上級灯魔作業を行った≫
アールモンドが灯魔作業をしている 周囲の魔力が土に変わり 大地で営みを行う人々 争いを行う人々 喜びを分かち合う人々の様子が映る 老人たちが感銘して涙を流す中 風景を作っていた土たちが砂粒になって灯魔口へ落ちて 灯魔台に土が灯る
≪俺の作る幻想は 灯魔作業をしている間に集まる 観覧者連中の魔力から感じられたものや≫
アールモンドが灯魔作業をしている 周囲の魔力が風に変わり 館内に花吹雪や揺れる草原落ち葉が舞い雪が舞う 人々が歓声を上げると 強い風が吹き上がり 灯魔台に風が灯る
≪俺が餓鬼の頃に アーサーから読み聞かされた本の 物語にあったものを その場に集まった観覧者連中の意識(魔力)へ乗せてやっただけだが そこに集まった連中(魔力)は≫
アールモンドが灯魔作業をしている 周囲の魔力が雷に変わり 一角獣が現れ館内を走り観覧者たちが歓声を上げる ユニコーンが前足を上げ角から雷が迸ると灯魔台に雷が灯る
≪まるでそれが気に入ったかの様に 俺や観覧者や… アーサーの思う通りに 魅せてくれた≫
アールモンドが灯魔作業をしている 周囲の魔力が水に変わり オーロラを現す 人々が感銘を上げる アールモンドが閉じていた目を開き横目に見ると アーサーがオーロラを見上げ感動している アールモンドが微笑し目を閉じて意識を集中させる 風景を作っていた水たちが水流に変わり 灯魔口へ落ちて 灯魔台に水が灯る アールモンドが帽子に隠れた表情に笑みを浮かべる
≪俺は唯…≫
アールモンドが杖を手にして退場へ向かう 観覧者たちがスタンディングオベーションを行う ファンたちが叫んでいる アーサーが喜んでアールモンドを待っている アールモンドが顔を上げアーサーを見ると微笑する
≪ここに居る連中や …お前を 楽しませてやりたいと思うだけで≫
アーサーが近くへ来たアールモンドの下へ駆け寄る アールモンドがアーサーに帽子を押し付け立ち去る
≪それ以上も以下もねぇ… ここに集まる奴らの魔力(想い)は 俺に伝わって来る≫
アーサーがアールモンドの帽子を手に礼をする
≪それで 一晩遅れて≫
アーサーが礼を終えると アールモンドを追って走り去る
≪お前にも 伝わる …多少の時間差はあっても 伝わるんなら 同じ事だ 俺らの間に隠し事は… 例え有ったとしても そんなモンは関係ねぇ こんな良い気分で ずっと居られるなら… お前だって そうだよな?アーサー?≫
≪なぁ…?アーサー?≫
アールモンドが疑問して言う
「休暇?」
アーサーがカーテンの前で言う
「うん この所 公開灯魔作業が続いたから アーリィーウィザード様も お疲れなんじゃないかって?
ソニア副会長から連絡があってね?けど俺 アーリィーなら お疲れじゃないと思うって伝えたんだけど」
アールモンドが言う
「おう 別に疲れちゃいねぇよ?大体…」
アーサーがカーテンを閉め アールモンドの近くへ来る アールモンドが言う
「俺は それこそ魔法使いの頃から 毎日 灯魔作業をしてたンだぜ?…まぁ その頃は蜀魔台だったけどよ?」
アーサーが言う
「もちろん 俺 知ってるよ アーリィー!だから 俺 それも含めて ソニア副会長に言ったんだけど アーリィーの休暇は アイザック会長からの指示だって言うからさ?俺 それ以上は言えなくって」
アールモンドが言う
「あん?先輩からの?」
アーサーが言う
「うん だから 俺には分からないけど 同じウィザードのアーリィーなら分かるかな?アーリィーの先輩は 灯魔作業や魔力供給の外にも ウィザードが一人でやりたい事もあるだろうから って言う事らしいんだけど?」
アールモンドが言う
「は?灯魔作業や魔力供給の外に?ウィザードが1人でやりたい事?… … …ンだよ?そりゃ?」
アーサーが言う
「アーリィーにも 分からない?アーリィー?」
アールモンドが首をかしげながら言う
「…かンねぇよ 何だ?他には?先輩は 何か言ってなかったのかよ?アーサー?」
アーサーが言う
「俺も直接聞いた訳じゃないし ソニア副会長がそう言うから アーリィーにそのまま伝えれば 分かるのかと思っちゃったんだけど」
アールモンドが言う
「ソニア副会長経由か…」
アールモンドが思う
(まぁ 当然っちゃ 当然だが…)
アールモンドが言う
「…と言ってもな?やっぱ 分かンねぇんだが…」
アーサーが言う
「なら 俺 明日連絡を入れて 聞いてみようか?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…いや あの先輩がそう言うってンなら それで分かるモンなんだろうが…」
アールモンドが思う
(…何だ?)
アールモンドが言う
「…かンねぇ…」
アールモンドが考えている アーサーが苦笑して言う
「やっぱり 俺 明日聞いてみるよ アーリィー 折角休暇をもらっても 一日中そんな風に考えていたら 休暇にならないじゃない?それも 休暇は3日位って言ってたから」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「はっ!?3日も!?冗談じゃねぇっ 3日も休んでたら 折角 取り入れた魔力が消えちまうじゃねぇかよ!?」
アーサーが言う
「そうなんだ?それは大変だね アーリィー?それじゃ 俺 明日早くにでも聞いてみるから」
アールモンドが言う
「いや 待てよ アーサー あの先輩が わざわざ俺にそんな事させる筈がねぇし… いや?まさか逆か?灯魔作業やら魔力供給なんかやってねぇで 自分の魔力を上げろって事か?俺にもっと修行しろとでも言うのかよ?」
アーサーが呆気に取られた後 軽く笑って言う
「あっははっ まさか?いくら何でもそれは無いと思うけど?アーリィー?」
アールモンドが言う
「そりゃぁ 俺だって思わねぇけどよ?だが他には何も…」
アーサーが言う
「大体それじゃ 休暇にならなくなあい?あ、もちろん アーリィーが好きでやりたいって言うのなら そう言う事をしても良いと思うけど ソニア副会長は アーリィーはお疲れだろうからって言ってたし アイザック様の奉者であるソニア副会長がそう言っていたと言う事は 2人はアーリィーの事 そういう風に見ているって言う事なんだと思うから」
アールモンドが言う
「そうか… そうだな?先輩の奉者であるソニア副会長が そう言ったってんなら… なら 他には?」
アーサーが言う
「え?他に?俺がソニア副会長経由で聞いたのは」
アールモンドが言う
「いや そうじゃなくてよ?俺に対してじゃなくて お前に対してでも良い 先輩の奉者であるソニア副会長は 他に何か言ってなかったかよ?アーサー?」
アーサーが考えて言う
「うーん そうだね?他には… あぁ そう言えば ソニア副会長 俺にも」
アールモンドが言う
「お前にも?」
アーサーが苦笑して言う
「うん 俺にも たまには奉者の仕事をお休みして 好きな事をしてみたらどうか?って 言われたんだけど」
アールモンドが言う
「奉者の仕事を休んで 好きな事を?」
アーサーが言う
「うん、けど それこそ 俺はアーリィーの奉者としての仕事って言うのは 奉者協会への予定の提出と報告の連絡だけで それも当日分と翌日分のを一緒に済ませちゃうから 一日一回奉者協会に電話をするだけなんだけどね?だから それを休めって言われてもね?あははっ」
アールモンドが言う
「まぁ お前の場合は普通の奉者とは違うからな?」
アーサーが言う
「そうだね!あ!ひょっとしたら ソニア副会長は 俺も 他の奉者の女の子たちみたいに アーリィーの食事や そう言った事のお世話をしているんだと 思ってるのかもね?だから それを休みなさいって?」
アールモンドが言う
「なら 先輩の言った休暇も同じ事か?俺にウィザードの普段やる事を止めて それで… 好きな事をしろって?」
アールモンドが思う
(それも 1人で…?)
アーサーが苦笑して言う
「アーリィーの方は どうなんだろうね?大体それをして 折角取り入れた魔力が無くなっちゃうんじゃ 折角の休暇も本末転倒だし… あ、でも アーリィーひょっとして 1人で何かやりたい事とかあるの?」
アールモンドが呆気に取られて言う
「は?俺が?ンなモンは…」
アールモンドが思う
(何かあるか…?いや さっきっから… …それがねぇから困ってる様な)
アーサーが苦笑して言う
「だとしたら ごめーん アーリィー 俺いつも アーリィーのそれ 邪魔しちゃってたよねー?」
アールモンドが言う
「いや 待てよ アーサー 今更 俺がお前が居て出来ねぇ事なんて…」
アールモンドが思う
(無ぇ… よな?)
アールモンドが考える アーサーが言う
「なら それも含めて 少し考えてみる?」
アールモンドがアーサーを見る アーサーが微笑して言う
「休暇は3日って言うんだから たまにはのんびり 何をするか考えながら休んでみるって言うのも 良いんじゃないかなあ?」
アールモンドが言う
「まぁ… それもそうだな?3日もあるんじゃ… それに よく考えれば 休暇をどう過ごそうと 俺の勝手だよな?」
アーサーが言う
「そうだよ アーリィー!仕事を休んで 自分のやりたい事をするのが 普通の休暇じゃなあい?」
アールモンドが言う
「そうだな 別に先輩は俺に 魔法を使うなって言ってる訳でもねぇ訳だし それこそ修行をしようが寝てようが 俺の勝手にしろって事かよ?」
アーサーが笑顔で言う
「うん!それで良いんじゃないかな?アーリィー?」
アールモンドが言う
「良し なら これ以上は 明日にでも考えれば良いぜ もう疲れた 寝る」
アーサーが微笑して言う
「うん それじゃ アーリィー お休みー あ、ごめん アーリィー?その前に!」
アールモンドが言う
「あん?何だよ?アーサー?」
アーサーが言う
「それじゃさ?俺、明日はどうしようか?いつもの時間に アーリィーを 起こしに来た方が良いかな?それとも たまには アーリィーが寝たいだけ寝てみる?」
アールモンドが言う
「うん?…言われてみりゃぁ」
アーサーが苦笑して言う
「アーリィーはたまに 凄く寝起きが悪い時もあるし それは やっぱり疲れがたまっちゃってるって事かもしれないよね?」
アールモンドが言う
「あ?…あぁ…」
アールモンドが思う
(いや 言っちまえば その時ってのは …お前への事を考えてて 眠りが浅くなっちまうのが原因なんだが)
アールモンドが言う
「…なら 起こしに来なくて良いぜ アーサー」
アーサーが言う
「そう?それじゃ 俺 アーリィーを起こしに来ないけど 何かあったら ベルで呼んでね?アーリィー?」
アールモンドが思う
(ベルの事… 覚えていたのかよ アーサー)
アールモンドが気付いて言う
「…今更だろ?アーサー」
アーサーが言う
「うん そうだけど 一応 言って置こうかと思って?アーリィー 最近は すっかり使わないから もしかしたら 忘れちゃってるのかと思って?」
アールモンドが言う
「忘れてねぇよ」
アールモンドが思う
(この間使ったしな?…お前は居なかったけどよ)
アールモンドが気付いてい言う
「…っ なら お前も…?」
アーサーが言う
「え?俺が何?アーリィー?」
アールモンドが言う
「お前も その… 奉者の仕事… 休めば良いんじゃねぇかよ?アーサー?」
アールモンドが思う
(そうしたら お前は…?)
アーサーが一瞬呆気に取られると 微笑して言う
「うん!」
アールモンドがハッとする アーサーが言う
「俺は3日間 奉者の仕事は休みになるね?3日後に連絡を入れてくれって言われているから それまで 奉者協会へ電話はしないつもりだから!アーサー奉者はお休みだよ!アーリィー!あははっ」
アールモンドが思う
(そうじゃねぇよ アーサー …俺はっ)
アールモンドが視線をそらして言う
「チッ… それだけかよ?大体 お前は普段」
アールモンドがハタと気付いて思う
(うん?普段…?)
アールモンドがアーサーを見る アーサーが言う
「俺が普段やる事は それこそ 他の奉者の子たちからすれば 休暇みたいなものだし?あれ?それじゃ 俺っていつも休暇してるのかな?一日一回の奉者の電話以外はね?あははっ」
アールモンドが呆れて言う
「はぁ…?だからお前ってそんなに緩いのかもな?アーサー?」
アーサーが苦笑して言う
「え?緩いって?それって 俺 褒められているのかな?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「いや 褒めてねぇよ アーサー」
アーサーが笑って言う
「そうだよね!アーリィーが俺を褒めた事なんてないし 俺も褒められる様な事してないもんね?アーリィー?あははっ」
アールモンドが衝撃を受けると表情をしかめて言う
「…お前はよ?アーサー?なんでいつもそう…」
アールモンドが思う
(そうじゃねぇ…っ 俺がお前に聞きてぇのは…っ)
アールモンドが言う
「なら お前 明日は 来なくて良いぜ」
アーサーが言う
「うん!明日は俺 起こしに来ないから 何かあったら!…と言うより 起きたらベルで知らせてよ?アーリィー?そしたら 俺 来るから」
アールモンドが言う
「だから 来なくて良いって 言ってんだ アーサー」
アーサーが言う
「え?」
アールモンドが言う
「俺の奉者も 俺の世話役も 休暇だ お前も好きにしろよ?」
アーサーが言う
「アーリーの奉者としても アーリィーの世話役としても 休暇?えっと それじゃ 俺どうしようかな?」
アールモンドがニヤリと笑むと言う
「好きにしろって言ってんだ お前はどうするよ?アーサー?」
アーサーが言う
「えーっと その前に俺」
アールモンドが言う
「おう」
アーサーが笑顔で言う
「俺、アーリィーに呼ばれない事 無いと思うんだけど?アーリィー?」
アールモンドが衝撃を受けて言う
「なぁっ!?こ、この野郎…っ」
アーサーが言う
「だって俺 アーリィーと20年近くも一緒に居て 世話役をやってるんだよ?だから それ位分かるよ?アーリィー?」
アールモンドが言う
「そうかよっ なら 勝手にしろよっ アーサー!」
アーサーが笑って言う
「あっははっ それじゃ 俺 勝手にするね?お休み アーリィー!」
アールモンドが言う
「ああ!電気だけは忘れんなよ?アーサー」
アーサーが出口付近でハッとして言う
「あ、そうだった ごめーん アーリィー 俺 消し忘れるところだったよ!」
アールモンドが言う
「いつもの事だからな」
アーサーが苦笑して言う
「あははっ そうなんだよね それじゃ 消すよー?アーリィー?お休みー!」
アールモンドが言う
「おう」
電気が消され アーサーが部屋を出て行く アールモンドが肩の力を抜くと思う
(休み… 休暇… かよ… …どうするか?…いや 今は良いか 明日考えれば… 3日もあるんだ それなら…?)
アールモンドが目を閉じると眠りに着く
翌日
カーテンの隙間から光が差し込んでいる アールモンドが覚醒して言う
「… ン…?」
アールモンドが目を開くとぼうっとして言う
「…あ?」
アールモンドがもそもそと起き上がり思う
(何時だ…?)
アールモンドが言う
「何だか ぼうっとするぜ… アーサー?まだ 時間じゃねぇのか…?」
アールモンドがカーテンから差し込む光を見て言う
「こんなに明ぃのに…?」
アールモンドが思う
(昼…?)
アールモンドが寝ぼけて言う
「あぁ…?」
アールモンドがベッドを出る
アールモンドがリビングにやって来て言う
「おい アーサー!午後の予定は?…ん?」
アールモンドが無人の室内を見渡すと頭をかいて言う
「…だよな?」
アールモンドが思う
(今日はまだ 午前の修行はしてねぇよな?)
アールモンドが室内の時計を見ると衝撃を受けて言う
「はっ!?1時っ!?マジかよっ!?」
アールモンドが頭を抱えソファに腰を下ろすと言う
「通りで ぼーっとする訳だぜ… おいっ アーサー!何で起こさなかっ …」
アールモンドが正面の無人のソファを見て呆気に取られると 肩の力を抜いて言う
「……何やってんだよ 俺は?」
アールモンドがソファに身を沈め天井を見上げて思う
(思い出した 今日は… …休暇 だったな?)
アールモンドが言う
「…なら?」
アールモンドが寝室へ戻って来て思う
(どうすっか?…とりあえず 着替えるか?)
アールモンドがクローゼットを見て言う
「…と?」
アールモンドがクローゼットを開くと中を見渡して言う
「そういや 俺…」
アールモンドが思う
(この中 見たの…)
アールモンドが言う
「初めてだったぜ?へぇ… こうなってたのかよ…?」
アールモンドが思う
(…あぁ こんな服もあるのか… ウィザードじゃ… いや魔力者の俺じゃ 着られねぇけど…)
アールモンドが気付いてい言う
「いや そうじゃねぇよ」
アールモンドが思う
(ンなのは どうでも良いぜ それよか 今は…)
アールモンドが上着を取り出しながら言う
「これと… …ん?…あぁ あった ズボンはこっちかよ… めんどくせぇ 隣に置いとけよ アーサー」
アールモンドが言う
「よし 後は 着替えれば… …あ?」
アールモンドが法魔帯を手に得意げに笑むと思う
(はんっ?舐めんなよ?こいつは やらなくても分かるぜ?俺には)
アールモンドが言う
「出来ねぇって事がな!」
アールモンドが法魔帯を捨てぷいっと立ち去りながら思う
(確実に失敗する事は 端からやらねぇ それが 俺のポリシーだぜ!)
アールモンドが言う
「ふんっ!」
アールモンドがクローゼットを叩き閉める
リビング
アールモンドが思う
(…で?)
アールモンドが着替えた状態で再びソファに腰掛けていて言う
「…どうするよ?」
アールモンドが天井を見上げて思う
(着替えたは良いが 結局 これじゃ 魔法は使えねぇ… これで好きな事をしろ なんて言われてもな…?)
アールモンドが言う
「大体 好きな事ってなんだよ?好きな事… 普通は…?趣味… とかか?」
アールモンドが何となく時計を見ると衝撃を受けて言う
「はあっ!?もう3時かよっ!?」
アールモンドが頭を抱えて溜息をついて言う
「はぁ… 何だか逆に疲れてきたぜ… これが休暇かよ…?」
アールモンドが思う
(こままじゃ 本当に何もやらずに1日が終わっちまう …なら?どうする?何か…?)
アールモンドが周囲を見てからふと気付いて言う
(なら とりあえず…)
アールモンドが言う
「茶でも飲むか?」
アールモンドが思う
(それなら 少しは頭も 冴えるかもしれねぇ)
アールモンドが言う
「おい アーサー!…って」
アールモンドが正面の無人のソファを見て沈黙すると間を置いて言う
「…クソッ」
アールモンドが立ち上がり思う
(なら これも自分でやりゃぁ良いんだろ?ティーセットはすぐそこにあるんだ)
アールモンドがティーセットを前に言う
「なんで俺が運ばなきゃいけねぇんだよ?…ん?…いや?」
アールモンドがティーセットとテーブルを見てから思う
(良いか?運ばなくても…)
アールモンドが言う
「近くにあるなら同じ事だぜ ここで作りゃぁ訳ねぇ …来いっ」
アールモンドが手を開くとソファに立掛けていた杖がアールモンドの手に向かう アールモンドが杖を片手にティーポットへ手をかざそうとして思い出して言う
「…じゃ 無かった 先に葉だの湯だの入れねぇと… チッ めんどくせぇな…」
アールモンドが杖を手放し(杖は魔法で立っている) ティーポットに茶葉を入れ 水差しからティーケトルへ水を注ぐ アールモンドがティーポットを手に持ったまま間を置くと疑問して言う
「…で?」
アールモンドが思う
(どうしたら 湯になるんだ?)
アールモンドが言う
「確かこのボタンを押していた様な…?」
アールモンドがティーケトルのスイッチを押し間を置いて衝撃を受けて言う
「…なんで沸かねぇんだよっ?クソッ なら 魔法でっ!」
アールモンドがハッとして思う
(…って 駄目だぜ 危ねぇ所だった)
アールモンドの手元の魔証印がチリッと焼ける アールモンドが怒って言う
「もう良いっ 茶は止めたっ」
アールモンドがティーケトルを元の場所へ叩き付けると ムッとして思う
(大体 何をやってるんだ 俺はっ!?さっさと アーサーを呼び付ければ良いんだろっ?アイツは俺の世話役なんだ 休暇だからって…っ!)
アールモンドが沈黙する アールモンドが沈黙しているとティーケトルが沸いてスイッチが切れる アールモンドが衝撃を受け言う
「あ?沸いた?…」
アールモンドがティーポットへ湯を注ぎながら思う
(世話役… って事は つまり… …仕事 …か …だよな?だったら やっぱり…)
アールモンドが湯を注ぎ終えると ティーポットからカップへ注ぎながら言う
「休暇も… 必要 …だよな?」
アールモンドが思う
(アイツにだって…)
アールモンドがティーポットを置くと 間を置いてハッとして言う
「あっ!?俺 魔法掛けたか?…まぁ 良いや もう めんどくせぇ」
アールモンドが思う
(間違って 活性魔法を2度掛ける訳にはいかねぇし… どうせ飲むのは俺一人だ だったら 今日はこのままでも…)
アールモンドが紅茶を飲むと衝撃を受けて言う
「あっちいっ!?しかも 苦えっ!?」
アールモンドが口元を拭いながら思う
(クソ…ッ 情けねぇ …こんなかよっ)
アールモンドがティーセットを背にソファへ戻る
アールモンドがぼうっとして思う
(…うん?何だ?…たった今 茶の時間だったってぇのに…)
アールモンドが言う
「暗ぇな…?今ぁ… 何時だよ?アーサー…?」
アールモンドが溜息を吐いて思う
(…って 言った所で…)
アーサーの声が聞こえる
「うん!今は午後6時半だから もう真っ暗だね?アーリィー?」
アールモンドがハッと目を覚ますと傾けていた身を起こして横を見る アールモンドの視線の先 アーサーが微笑して言う
「おはよう アーリィー よく眠ってたね?」
アールモンドが言う
「アーサー?」
アーサーが言う
「うん?なあに?アーリィー?」
アールモンドが呆気に取られた後バツの悪そうに言う
「…あ、いや… な、…な、何で居るんだよ アーサーっ お前…」
アーサーが言う
「うん 俺さっき 夕食を食べようと思って ダイニングに行ったんだけど そうしたら アーリィーの分もあったから アーリィーもまだなら 一緒に食べようと思って?」
アールモンドが呆気に取られて言う
「あ… ああ… そうかよ…」
アールモンドが思う
(ンな簡単な理由で来たのかよ… 来れるのかよ お前は…)
アーサーが言う
「うん、それで 声をかけに来たんだけど そうしたら アーリィー寝てたから?折角の休暇に起こしたら悪いと思って アーリィーが起きるまで待ってたんだ!」
アールモンドが思う
(しかも 俺が起きるまでって いつもみてぇに 俺の身体を支えて…)
アールモンドが肩の力を抜くと言う
「…たく お前って奴は…」
アーサーが疑問して言う
「え?俺が何?アーリィー?」
アールモンドが思う
(お前には 意地やプライドってもんは…?)
アールモンドが言う
「…ンでもねぇ なら 食いに行くぞ アーサー」
アールモンドが立ち上がる アーサーが続いて言う
「うん!行こう!アーリィー!俺お腹空いちゃって!」
アールモンドが衝撃を受け言う
「…だったら 1人で先に食ってれば良かっただろうが?」
アーサーが言う
「え?そんなぁ 折角アーリィーも一緒に食べられるなら 一緒の方が良いに決まってるじゃない?」
アールモンドが言う
「そ… そうかよ」
アーサーが言う
「うん!もちろんだよ!アーリィー!」
アールモンドが鼻で笑うと思う
(…何てモンは ねぇんだろうな?お前にはよ アーサー)
アールモンドとアーサーが アールモンドの部屋を去って行く
翌朝
アーサーがカーテンを開けて言う
「おはよう!アーリィー!今日も良い天気だよ!」
アールモンドが目を覚ますと言う
「…あぁ?…ああ…」
アールモンドが思う
(…そうだな これで良いぜ やっぱり…)
アーサーがアールモンドの下へ向かい微笑する アールモンドがアーサーを見ると右手を差し出す アーサーがアールモンドの手を取ると 身を起こすのを手伝う アールモンドが思う
(休暇なんて 俺には 要らねぇ…)
アールモンドがあくびをしていると アーサーがクローゼットから服を取り出しながら言う
「あ、そうだった!アーリィー?」
アールモンドが言う
「あん…?」
アーサーが服と法魔帯を手に戻って来て言う
「今日は?法魔帯はどうするの?」
アールモンドが言う
「は?…ンで 今更 ンな事 聞くんだよ?アーサー」
アーサーが言う
「だって 昨日は巻いてなかったみたいだから?」
アールモンドが衝撃を受けると言う
「…レは…」
アールモンドが思う
(アレは 巻いてなかったんじゃなくて…)
アーサーが言う
「アーリィー もし今日も魔法を使う予定が無いんだったら 巻かない方が良いよね?」
アールモンドがハッとして慌てて言う
「つ、使うっ!…予定は無くとも!お、俺はウィザード様だぞっ アーサー!その… 魔法を使う必要が ある時だって あるかもしれねぇだろう!?」
アーサーが言う
「あ、そっか それに うっかり使っちゃって また 昨日みたいに火傷しちゃったら大変だもんね?」
アールモンドがギクッとして言う
「お、おう…っ」
アーサーが言う
「うん それじゃ」
アーサーが法魔帯を伸ばして アールモンドの前に跪くと手際よくアールモンドの体に法魔帯を巻いて行く アールモンドが沈黙してアーサーの作業を見ている 下半身部分が終わりアーサーが顔を上げるとアールモンドと目が合う アールモンドがハッとすると アーサーが疑問して言う
「うん?どうかした?アーリィー?」
アールモンドが言う
「あ… いや… 別に…」
アーサーがアールモンドへズボンを履かせると 微笑して言う
「そう?なら次は左腕から」
アールモンドが言う
「おう…」
アールモンドが左腕を出すとアーサーが法魔帯を広げて巻き始める アールモンドが言う
「なぁ アーサー?それってよ?」
アーサーが作業を続けながら言う
「うん?それって?法魔帯の事?アーリィー?」
アーサーが顔を上げる アールモンドが言う
「おう …よく考えたら お前 昔から… …巻いてたよな?俺に?」
アーサーが言う
「うん!そうだよ アーリィー?だって俺 アーリィーの奉者だし?」
アールモンドが言う
「お前が奉者になったのは 俺がウィザードになった時だろ?けど その前から… 俺が魔法使いの頃から お前が巻いてたじゃねぇかよ アーサー?」
アーサーが作業を続けながら言う
「そうだよ?だって 俺 アーリィーの世話役だし?はい、次 右ね?アーリィー?」
アールモンドが右腕を出して言う
「ああ… だからよ お前… 何処で習ったんだよ アーサー?ソレの巻き方…」
アールモンドが思う
(確か普通の魔法使いは 自分で巻くものだよな?ウィザードになるまでは… けど 俺は… 俺には昔から こいつが居たから… …だから 俺は自分じゃ巻けねぇ …巻ける気がしねぇ)
アーサーが言う
「習ってないよ?俺は 自分で自分に巻いて練習したんだよ?アーリィー?」
アーサーがアールモンドの胴体部分に法魔帯を巻き始める アールモンドが呆気に取られて言う
「え?そうだったのかよ?それじゃ…」
アールモンドが思う
(俺の為に…?)
アーサーがふと気付くと顔を上げて言う
「あっ けど 安心して!?アーリィー!」
アールモンドが疑問して言う
「あ?安心って…?」
アーサーが法魔帯を終わらせながら言う
「俺 奉者協会の講習の時 講師の先生に上手だって 褒められたんだよ アーリィー!間違った巻き方はしてないから 大丈夫だって!俺 実は ずっと気になってたんだよね?ちゃんと正しく 出来てるのかな?って?はいっ 終わり!キツイ所は無い?アーリィー?」
アールモンドが言う
「ああ… 聞かなくたって 大丈夫なんだろう?講師の奴に褒められたって… お前 今 自分で言っただろうがよ?アーサー?」
アーサーが苦笑して言う
「それはそうだけど 巻き方は間違ってなくても 力加減なんかは分からないじゃない?」
アールモンドが言う
「…まぁ そうかもな?」
アールモンドが思う
(その力加減だって 昔から悪くなかった… アーサー お前… 相当練習したのか?そもそもコイツは不器用な奴だから 初めてやらせる事は 大抵失敗する)
アーサーがアールモンドに服を着せると アールモンドが立ち上がる アーサークローゼットへ向かうと ふとしてアールモンドへ振り返って言う
「アーリィー?」
出口へ向かい アーサーの近くへ来ていたアールモンドが疑問して顔を向ける アーサーが言う
「法衣はどうしようか?特に外へ出かける予定が無いなら 今は良いよね?」
アールモンドが少し考えてから言う
「…ああ そうだな 今の所 何も考えちゃいねぇけど」
アールモンドが思う
(法魔帯さえ巻いてあれば…)
アールモンドが言う
「そっちは 外出する時に着れば良いぜ アーサー」
アーサーが言う
「うん そうだよね?アーリィー?」
アールモンドが満足げに鼻で笑うとアーサーの前を過行く アーサーが微笑して続く
リビング
アールモンドが思う
(…で どうする?)
アールモンドがソファへ向かい腰を掛けると思う
(アーサーには あぁ 言ったが… やっぱ いつも通り 法衣を着て午前の修行へ向かうべきか?それとも…?今日は… 今日は こいつも居るなら 何か…?)
アーサーが言う
「じゃ 俺 部屋に戻るけど」
アールモンドが衝撃を受け顔を向け思う
(ってっ!?戻るのかよっ!?)
アーサーがアールモンドの近くに立ち顔を向けると言う
「何か用があったら ベルで呼んでね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…お、おう…」
アーサーが言う
「それとも 今 何かある アーリィー?それなら 俺 ここに居るし?何処か行くって言うなら 一緒に行っても良いし?」
アールモンドが視線をそらして言う
「べ、別に…っ 何もねぇよ アーサー …お前こそっ 何かあるなら…っ」
アールモンドが思う
(何か… あるのかよ?お前にやる事 俺の世話役以外に 何か… 何処かに行くって?…それなら 俺… も… 一緒に… … …ってっ!いやっ 無理だっ!)
アールモンドがぷいっと顔を背けて言う
「俺は 俺で 休暇を過ごすんだからっ お前も何かあるってんなら そっちに行きゃ 良いだろうがよっ!?アーサー!」
アーサーが呆気に取られると言う
「え?そう?なら 俺行っちゃうけど?」
アールモンドが衝撃を受けて思う
(えっ!?行くのかよ!?何かあるのかよっ!?アーサー お前に…?)
アーサーが微笑して言う
「それじゃ 何か用があったら ベルで呼んでね?アーリィー?」
アールモンドが言う
「…お、…おう」
アーサーが立ち去る ドアが閉まると アールモンドが間を置いて言う
「…クソッ」
土手
アールモンドが魔力を収集していると 周囲に雷が迸る アールモンドが表情をしかめて言う
「…チィッ」
アールモンドが思う
(上手く行かねぇっ 精神力が乱れる…っ)
アールモンドが閉じていた目を開くと杖を持つ
アールモンド邸
アールモンドが風魔法で現れるとエントランスへ向かう
エントランス
アールモンドが入って来て立ち止まると疑問して周囲を見て思う
(…うん?何だ?今日は近くに魔力を感じねぇな…?いつもなら この辺りには誰かしら 居るはずなんだが?)
アールモンドが軽く首をかしげてから歩みを再開する
アールモンドの部屋の前
アールモンドが到着して立ち止まると 隣の部屋のドアへ目をやって思う
(…?アーサー?)
アールモンドが自室のドアと見比べてから思う
(いつもなら 午前の修行を終えて戻る 10時の茶の前 この時間に …ここで待ってるんだが?)
アールモンドが軽く息を吐くとドアを開けながら言う
「今日は誰も居ねぇのかよ…?」
アールモンドが部屋へ入って行く
室内
アールモンドが歩み入ると思う
(…少し早かった…か?今日は上手く行かねぇから 気分も乗らなかったしな?)
アールモンドが時計を見上げると言う
「…いや?そうでもねぇな?」
アールモンドが息を吐くと帽子と法衣を取りながらソファへ向かいつつ言う
「チッ… アーサーの奴 何してンだ?俺にまた…」
アールモンドがティーセットを見てから言う
「自分でやらせようってぇのか?…ふんっ」
アールモンドが思う
(ざけんなよ?もう やってやるもんかっ)
アールモンドがソファへ乱暴に腰掛けると 横目にベルを見て思う
(こんな 面倒臭ぇ休暇なんてのは もう 沢山だっ!)
アールモンドがベルを鳴らして思う
(さっさと 来い!アーサー!)
アールモンドがベルを置き 間を置くと ドアがノックされる アールモンドがドアを睨むと言う
「遅せぇぞ!」
アールモンドが思う
(アーサー!)
ドアが開かれ メイドが言う
「も、申し訳ございませんっ ヴィ、ウィザード様…っ」
アールモンドが疑問すると 言いかけていた言葉のままに言う
「アーサー…?ん?…何で?」
メイドがドアの近くで畏まって言う
「な、何か 御用で御座いましょうか?」
アールモンドが言う
「何でお前が?アーサーはっ!?」
メイドが言う
「は、はい 本日 アーサー様は お休みを… いえっ きゅ、休暇を頂いたと…っ」
アールモンドが呆気に取られて言う
「は?アーサーが?アイツが そう言ったのかよ?」
メイドが言う
「は、はいっ その様に伺いました そ、それで ウィザード様が お呼びの際は 代わりに行うようにと… それから もし わたくし共では不足の際は すぐにアーサー様へ連絡を行うようにと その様に仰せ付かっておりますので…っ」
アールモンドが沈黙する メイドが言う
「あ… そ、それでは?すぐにアーサー様へ ご連絡を…っ?」
アールモンドが言う
「いや 良い…」
メイドが言う
「は、はいっ では… わたくしが?」
アールモンドが言う
「いや お前も良い 戻ってくれ 悪かったな」
メイドがハッとして慌てて言う
「い、いえっ!お力添えになれず 申し訳ございませんっ それでは 失礼致します」
メイドが急いで部屋を出て行く アールモンドが沈黙すると怒って言う
「畜生ッ!」
アールモンドがテーブルを殴ると周囲に雷が迸る
アールモンドが閉じていた目を開くと思う
(…で?)
アーサーがアールモンドの身体を支える様に隣に座って居て言う
「おはよう!アーリィー!良く寝てたね?」
アールモンドが視線をそらして思う
(これが本当の不貞寝って奴かよ …情けねぇ)
アールモンドが身を起こすと言う
「…ああ 何時だよ?アーサー?」
アーサーが言う
「うん!今日も もう直ぐ6時半だよ アーリィー!またスープを温めないと?」
アールモンドが思う
(…なら 良いか?これで もう 面倒臭ぇ休暇は終わりだ)
アールモンドが言う
「おう… なら さっさと温めて来いよ?アーサー」
アーサーが言う
「うん!それじゃ アーリィーはゆっくり来てね?俺 先に行って 他の料理も温めて置くから!」
アーサーが立ち上がると軽く急いで部屋を出て行く アールモンドが苦笑すると立ち上がりアーサーを追って歩く
ダイニング
アールモンドが現れると アーサー料理を運んで来て言う
「今日は先に料理の方を温めて 最後にスープを温めたから 丁度良いと思うんだけど?」
アールモンドが言う
「そうかよ…」
アールモンドが席に座りながら思う
(俺が昨日 スープを残したから気にしてたのか?別に…)
アールモンドが言う
「別に 多少温くったって構わねぇよ」
アーサーが言う
「あれぇ?そうなの?俺、てっきり 昨日アーリィーが スープをあんまり飲まなかったのは 温かったからだと思って」
アールモンドが思う
(思った通りか… コイツは昔からそうだ 俺が…)
アールモンドが言う
「そうならそうと 俺は言うだろ?アーサー」
アールモンドが思う
(だから…)
アールモンドが言う
「余計な気使ってんじゃねぇよ アーサー」
アールモンドが思う
(大体そんな事より俺は…)