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異世界生活  作者: きゅーさん。
4/4

その4 キサラギとユイ

「ちが、ちがうんでふっ、もぐもぐ!やきめぢ、美味しくてっ!先週食べたっ、もぐっ、焼きめしと同じ味でっ!先週食べたばっかなのに、なつがじいってんぐっ、想うの、なんかおがしいよねってんごくっ、おもっだらっ!な、なげてぎでっ。まずいとか、そんなんじゃなぐで~~」


口の中に焼きめしを突っ込みながら私は泣いている。

泣いてる癖に食べる手は止まらない。

おにーさんは私が焼きめしを食べながら泣きだしたことに驚いて(当たり前か)おろおろしてる。

口に合わない食事を我慢して食べてるわけじゃないんです、ってそんなもん、今の私じゃ説明もできないけど、なんかもう感情がぐちゃぐちゃで食べながら日本語でまくし立てているわけで。

それでも食欲を並行して満たそうとしてる自分が凄すぎる。


「☆☆☆☆―――★!」

「んがぶっ!?」


すこーんと小気味いい音が響いた瞬間、おにーさんが前のめりに突っ伏した。

後頭部に当たって跳ね返ったしゃもじが床に落ちる。


「~~~んぇ!?」


スプーンを咥えこんだままで私は眼をぱちぱち。

さっきのおばさんがカンターから現れた瞬間、猛ダッシュで駆け寄ると、ぐいいいっと力強くおにーさんの襟首を掴んで怒鳴り始めた。

あ、もしかして、これ、おにーさんが私を泣かしたと勘違いしてる?!

おにーさんは涙目で違う違うと右手を振ってるが、おばさんは意に介さず怒鳴っている。


「あ、あのっ、ち、ちがうんです!おにーさんは何もしてなくて!!私が勝手に泣いただけで!!」


私は慌てて立ち上がり、襟首を掴むおばさんの手を握って制した。

おばさんは私の方を見ると心配そうな顔を見せた。おにーさんの襟首は掴んだままだけど。


「%%&&#&??」


おにーさんを指さして何か私に言ってくる。

表情がさっきと変わらないから、多分、私の事を気遣って言葉をかけてくれてるんだ、と思う。

おにーさんを見るとやっぱり涙目で首を振っている。

だから私もそれに合わせるように首を振った。

つ、通じるかな?おにーさんの言葉に同意してるってのを表現したいんだけどっ…!


「…………~~~~~」


私とおにーさんの顔を見比べること数秒後。

おばさんは大きなため息をつくと、ぱっとおにーさんの戦闘服の襟首から手を離した。

どすんっと浮き上がっていたおにーさんの腰が椅子に着地。

そのまま、またおにーさんを指さして二言三言何かを言ってる。

おにーさんはこくこくと首を全力で上下に振り回している。

おばさんがこっちを向いた。

わたしはびくっと肩を跳ねさせたけど、おばさんはその私の肩を優しくぽんぽんと叩いてくれた…。

零れる言葉の正しい意味はわかんない。

でも、状況的に、私を気遣う言葉を言ってくれてるんだってのはすぐに理解できるよ。


「あ、あの、ありがとうございます」


頭を下げた。

おばさんはその手を私の肩に触れさせたままで、


「☆☆☆☆、%$#!&&$$□□〇!」


おにーさんにまた何か話しかけて(怒声に近いけど)から、厨房に戻って行った。

おにーさんはぴんっと背筋を伸ばして物凄く行儀のよい姿勢で坐っていたけど―――すっとおばさんの影が視界から離れたとたん、椅子の背もたれに凭れて顔を天井に向けて、「は~~」と大きな息を零す。


「……ごめんなさい……」

「?!」


起き上がるおにーさん。

右手を左右に軽く振り、苦笑しながらさっきのおばさんと同じように私の肩を軽く叩いてくれた。


―――この、いい人だなぁ…。


さっきのおばさんも肝っ玉かあちゃんぽい、人情に厚い人なんだと思う。

「息子」が連れてきた見知らぬ人間に対してすっごく親切に接してくれるんだもん。

きっとおにーさんが私の事を迷子かなにかって説明してくれてたんだよね。

チートスキルもなんにもない状態で異世界転移?して、なんでこんなに目にって、思ったけど。

もしかしたら出会い運だけはバフされてるのかもしれない。

それだけも本当にありがたい。

人情のありがたさに温かみに、鼻の奥がつんっと染みてまた目尻に涙が浮かびそうになって慌てて瞼を擦る。

ここで泣きだしたらまたおにーさんが誤解されて叩かれちゃうよ!!



「&%$#」

おにーさんがまだ半分残ってる焼きめしのお皿をちょいちょいっと指さした。

「あ、食べます!食べます!!!」


私はさっきのおにーさんのように首を大げさに上下に振ってからすぐにテーブルを回り込んで着席!

食べかけの焼きめしにブスっとスプーンを突っ込む。


「☆☆☆☆、&%$””!□%$XX」

「&%$$#”!□〇〇✖※」


もごもご咀嚼をしてるとまたおばさんの声。

カウンターから身を乗り出しておにーさんの背中に言葉を投げた。

おにーさんは身体の向きを変えて対応してる。


……なんか、さっきから、同じ音が聞こえてるんだよね。

音っていうか、単語。

それが私が良く聞く単語だったから余計に耳に残りやすくてさ。

おばさんはさっきから「キサラギ」って言葉を何度かおにーさんに言っていた。


「キサラギ」、「如月」、「卯月」


日本語でもよく聞く音。

会話の中で流れる他の音は全然知らないものばっかりなのに、これだけがなじみ深い。

―――もしかして。


「おにーさん、キサラギ…さん?」

「……?」


振り向いて周囲を見回し、自分?と指さす彼。

私はおずおずと頷いた。


「キサラギ。 キサラギカシュウス」


おにーさんが笑顔で応える。

自分の胸元に手を当てながら。


「キサラギカシュウスさん。やっぱりおにーさんの名前なんだ!

あ、あのっ、あのっ、わたし!」


がたっと椅子を揺らして立ち上がり、今度は私が私を指さす。


「わたしは那由他由衣です!」

「……ワタスィ、ハゥ…ナユ…タユィデス?」

「ち、ちがう!ナユタユイ!

 だめだ、余計な言葉を付けたら勘違いさせるっ!えっと、その。あ~~~~、ユイ!!」


自分の胸元、制服のリボンの上をバシバシ叩きながら声をワントーン高くあげ、


「ユイ!」

「……ユイ?」

「ユイ!!!」


こくこくこく。全力で首を上下運動!!

わ、解ってもらえたかな?


「ユイ。――――――ユイ」

復唱するおにーさん、じゃない、キサラギカシュウスさん。

そう、ユイ。それが私の名前。ナユタユイ。

彼はぐっと右手の親指を立てて笑顔を見せてくれた。

あぁ、すっごい良い笑顔。

この人の笑顔って花が咲いたみたいに眩しい。

私はなんだか嬉しくなって「ユイ」って自分の名前をその後5回は連呼してしまった。



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