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異世界生活  作者: きゅーさん。
1/4

その1

隣接する家の壁と壁の間にできた隙間の中で身を潜めながら私は膝の中に顔を突っ込ませる。

異世界転生、なのか、異世界転移、なのか、わからないけど、とにかくここが「異世界」なのは間違いない。

通りを歩く人たちの服装はどう見てもよくあるファンタジーものの「中世風、だけど、なんか違う」ものだし、尻尾のある人や耳の尖った人がちらほら見える。

そもそもどうして自分がここにいるかもわからない。

トラックに跳ねられたとか、空から隕石が降ってきて正面衝突したわけでもない。

昼休みに教室で居眠りをして目が覚めたらここにいた。

それだけ。


「異世界転生?やったー!」


なんて喜ぶ余裕があると思う?

だって見える人の話声、何言ってんだか全然わかんないんだよ…。

日本語でも英語でもない、なんかもう、中東語?みたいな、全く聞いたことのない単語の羅列にしか聞こえない。

異世界転生、というより、突然いったことのない外国に放り込まれた、という方が近い。

その上で観光客に日本人がいるわけでもなく、駆け込める警察署があるわけでもない。


「ステータス?スキル?なにそれ美味しい?」


異世界転生ものにありがちな「ステータスオープン」とかって試してみたよ?

でるわけなかったけど。

口に出して沈黙しかかえって来なかった時の空しさといったらない。

異世界は異世界でも漫画のような解りやすい異世界じゃなくて、「見知らぬ世界」な異世界で、言葉も通じない、使えそうなお金も(当たり前だけど)ない。

とりあえず自分の持っている荷物といえば、学校の教科書とノートと文房具。スマホ。財布。

それと趣味のソーイングセット一式。


…どうしたらいいんだろう。


身体の震えが止まらない。

誰かに声をかけて助けを求めたい。でもできない。

見知らぬ「外国人」が良い人だなんて保証はどこにもない。

私が知っている常識がここで通じるかどうかもわからないんだ。

金目の物を取られて捨てられるか、もしかしたら、それこそダークファンタジーにありがちに人身売買の対象にされるかもしれない。


でも、だからって、このままずっとここにいてもしょうがない。


心の中で勇気と恐怖が喧嘩をしてる。

壁の間で飢え死にするまで隠れているか、イチかバチかの博打にかけて、知らない世界に助けを求めるか。

どっちにしても分の悪すぎる賭けだよね…。

壁のすき間から見える人達を見つめながらつくため息は何回目だろう。

泣きすぎてもう涙も出ない。

っていうか喉が渇いた。

乗った船が沈没して、無人島に一人だけ漂流した、ってのよりマシなのかな。

言葉が通じなくても、一応生活を営んでる文化人?ぽい人たちはいるわけだし…。

そう思ってもう一度顔を上げた時、ちらっと視界に掠めた。


「自衛隊の人!?」


オタクな私はミリオタじゃないけど、軍人キャラが好きで、自衛隊関連の動画とか偶に見る。

だからあの迷彩服は見覚えがあった。深緑色じゃくて、灰色っぽかったけど、間違いない。

他の住人が着ているモノとはデザインが違って浮き上がってるから見間違えようがない。


私は反射的に駆け出していた。

理由なんかわからない。何故そこに自衛隊員がいるかなんて考える余裕もない。

でも、それでも、私を助けてくれる人がいるかもしれない。

そう思うともう何も考えられなくなってその人の背中を追いかけた。


「あ、あのっ!!」


手を伸ばして大声で呼び止める。

周りの人たちが何事かと私を見る。

その人も足を止めて振り返る。

背の高いその人は驚いた顔で私を見下ろして、


「✖▽■※Π※★☆??」


知らない言葉が耳に飛びこんだ。

言葉がわからない……。

日本人じゃない………。

よく見たら黒髪のように見えたその人の髪は濃い茶で、目の色だって黒じゃない。灰色だ。


私はその場にへたりこんだ。

一縷の望みも絶たれて、私はもうどうしようもなくなって、私を取り囲む見知らぬ人たちの輪の中で声を上げて泣くことしかできなくなった。



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