3話 隕石大岩の戦い
「この重たい空気感、ピリピリと裂けるような気配・・・これが戦場の空気ってやつか」
ドクンッ!!
光黄は血流の流れが速くなっているような気持になって、いつの間にかよくわからない高揚感に包まれていた。
「・・・ちゃん、こうきちゃん、どうしたの?」
光黄は寧の声で飛びそうになった意識から回復した。
「ごめん、ねいちん、自分でもよくわからない気持ちになってたよ。それより見ろよ。右は黄の国で左は・・・青の国かな」
黄の国の旗は黄色で旗の模様に条然教の経典に乗っている印が印刷されていた。対する敵国は青の旗に農具と稲穂のような柄が印刷されていたので、青の国だろうと思った。
「ねいちん、黄の国も青の国も3つの軍で構成されているみたいだ。それで黄の国の左軍と青の国の右軍が大岩の内がわで戦っている。残りの軍団は様子を見るのかな?」
「ふ〜ん、大岩の内側で戦っているんだね」
ねいちんは戦いに興味がなかったので、とりあえず光黄に返事だけはしておいた。戦いを見るよりも、戦いを見ている光黄の姿を見る方が、寧には興味があったのだ。
光黄は、先頭の人が突撃するたびに『おお!』や『うわぁ』と叫びながら正拳や蹴りをいれていた。側で見ていると、まるで光黄自身が戦っているみたいだった。
大岩の内側で戦っている黄の国左軍と青の国右軍では、今のところ青の国右軍の方が優勢に見えた。
青の国は農業国ではあったが、青の国軍は剣技を中心とした剣士で構成されていた。しかも、今戦っている右軍は長剣重戦士隊だった。それに対して、黄の国左軍は、光黄が生まれ育った国で、もちろん、条然柔術の武闘士達だ。そして、後方には支援魔法士がいて、光弾や炎弾で青の国右軍を攻撃していた。
「ねいちん見てみろ!我らが黄の国が押されてないか!?」
「えっ!うんそうだね!」
「そうだねって簡単に言うなよ」
「だって、長剣重戦士隊と条然柔術の武闘士じゃ相性が悪いんだもん。一応、魔法士がいるけど・・・」
「魔法士がいるけどって何だよ?魔法士がいたらどうなんだよ?」
「違うよ!こうきちゃん!武闘士達を見てよ。ウチらと同じくらいの年齢でまだ若いんだよ!それに、魔法士がいるのは、若年武闘士達だから混成部隊になってるんだよ!こうきちゃん勉強たりないよ!いっつも寝てるからだよ!」
「ごめん、ねいちん」
「私も言い過ぎたね。ごめんなさい。でも、このままじゃ。黄の国左軍負けちゃうよぉ」
寧は怒っていた訳では無かった。若年武闘士達と魔法士達の混成部隊でも、相手が長剣重戦士達じゃなければ勝機もあった。しかし・・・この後の展開を考えると恐ろしかったのだ。
「こうきちゃん。ごめん、死んじゃうよ。いっぱい人が死んじゃう。どうしたらいい?どうしたらいいの?・・・っう、っうぷっ」
寧は溢れてくる感情を抑えきれなくて、泣きながら光黄に気持ちをぶつけていた。そうしているうちに、胃から込み上げてくるものを感じて、奥の茂みに向かって走りだしていた。
「ねいちん。ごめん。おれ、俺、戦いがこんなものだと思わなかった・・・」
光黄は自分の拳を地面に何度も何度も叩きつけていた。鍛え上げられていた光黄の拳であったが、最初は赤くなり、皮がむけて、次第に地面を赤く染めていった。
寧は少し気持ちが落ち着くのを感じて、光黄の方を向くと自分を責めている姿が目に入ってきた。寧は慌てて光黄の所まで行き、血まみれの光黄の拳を抑えた。
「だめだよ。こうきちゃん!大事な拳だよ!これから、黄の国を守っていく大事な、大事な拳だよ。・・・それに、いつかは私もあそこに行くことになるんだよ。だから、今のうちに、体を慣らすことが出来て良かったんだよ。ねっ、だから、こうきちゃん。自分を責めるのはやめよう!」
寧はいつものこうきちゃんとはあまりにも豹変している姿に何をどうしたらいいかわからなくなり、とにかく、真っ赤に染まった拳を体全体で必死に守ることにした。しばらくは激しく緊張した腕も、緩やかに緩んでいき、光黄も落ち着きをとりもどした。