捏造の王国 その17 ロシア様大激怒!失言、暴言、炎上上等のメイジの党はどうします?
10連休にアメリカ行きにと忙しさが一段落し、一息つこうとするガース長官だったが、またも一服を邪魔される。今度はジコウ党ではなく、秘かに協力関係にあるメイジの党の若手議員マンマルが北方領土問題で島民、ロシアを激怒させる言動をしたというのだ!なんとかコトを収めたいガース長官らにロシア側の要求は…
初夏のような暑さの後には、梅雨入りかという肌寒さ。気温も株価も乱高下の連休明け、ガース長官は官邸で、ようやくたまった仕事を終わらせつつあった。
「ふうう、十連休の後はアメリカ様へのご機嫌取りにも行ったし、本当に忙しかった。しかし、あれもこれも私の次のステップへの下準備。いろいろあったとはいえ(地獄行きの悪夢もみたが)、なんとか来年、いや再来年には」
と、春先の警告じみた夢のお告げなど忘れたかのように茶の準備をすすめていた。
「さて、今回は薔薇のお茶か。女子高生のファンからか、ふふふカイゲンおじさんの効果がが…」
ガース長官はピンク色のかわいらしい包装紙を眺めながら、いそいそとティーポットを用意した。
「このようなお茶にふさわしいのは、やはりボーンチャイナの白か、それとも薔薇模様がついた金縁のこれか」
と楽し気に隠し戸棚から取り出した茶器を眺めていたところに、いつものごとく恐怖のスマートフォンの振動音。
「な、なんだね、シモシモダ君」
「ガース長官、例のメイジの党のドアホ議員マンマル・ボボダカがまたしても」
「なんだ、またツィッターで一般人に絡んだのか、それとも飲酒事故でも。そんなもの適当に処理してくれ。なにしろメイジの党はアベノ総理の裏の手下カイケン勢力なのだ。野党を分裂させ、威勢のいい言動に騙されやすいリベラルを分断させるための手ごまなのだ。迂闊に処分は」
「それがその、“戦争してロシアから北方領土を取り返すべき”ともとれる発言をしたとの抗議が。しかも酒を飲んで島民代表に絡んだと」
「なんだとー」
あやうく高価なボーンチャイナのティーセットを落としそうになるガース長官であった。
「つまりなんだな。ロシア領となっている北方領土の例の島へ、元島民とともに訪問するはずだったが」
貧相で陰険そうと陰口をたたかれるガース長官の表情は普段の3割りましほど不機嫌である。これまた苦虫を噛みつぶしたような顔で続けるシモシモダ副長官。
「その前夜に酒を飲み、元島民に“島を取り戻すには戦争しかないでしょ!”としつこく迫ったそうです。本人は意見を聞いただけと言ってますが」
「何を言ってるんだ、動画をみれば、一目瞭然。よりにもよって新聞のインタビュー中に乱入して島民たちに絡むとは。領土問題の平和的解決をぶち壊しかねないと元島民代表から抗議もきているではないか」
「野党、メディア、ネットで大炎上です。もちろんロシアの政治家は大激怒です。幸か不幸か閣僚どころか与党議員ですらないので、政府に正式な抗議はきていませんが」
「まあいろいろとつながりはあるとはいえ、あくまでメイジの党は野党だからな。ジコウ党ソンカ派を追い出して奴等を引き入れようと我々が画策しているとはいえ」
「ソンカ派はなんのかんのいっても支持者が改憲に反対ですから。まあメイジの党は大日本帝国憲法に近いものに戻したがってる点において我々に近いですし。しかし、その辺の事情は国内外にバレバレなので、その」
「ま、まさかプータン大統領が何か言ってきたのか」
ガース長官の顔から血の気が引く。
「いえ、まあ、そうです。表立っては上院のゴザーチョフ委員長が批判をしているだけなのですが」
「や、やはり裏でいろいろいわれているのかー」
不機嫌顔から眼を見開いたムンクの白い“叫び”表情に変化したガース長官の顔。気のせいか頭髪もさらに薄くなっているようだ。ガース長官の百面相にシモシモダ副長官は思わず笑いだしそうになるのをこらえて言葉を続ける。
「プータン大統領は側近たちに“戦争しろというか。それなら柔道の試合でもやるか、お互い大将は党首で。むろんアベノ総理がでてくれても構わんぞ。ああ、怪我をしても後遺症は自己責任でな。私もそうだが熱くなるとつい、加減を忘れてな、そのマンマルとかいうやつの首の骨を折りそうだ”とか、“いっそG20は欠席するか、私や高官たちがメイジの党に拉致されて人質にされ”島を返せ“などといわれたら困るからな。もちろん私ならマツイダやらハシゲンなどは軽く叩きのめせるが。その後、報復措置としてオーサカを火の海にするのか、ドートン掘りを血で染めるのがよいかな。どちらがいいかぐらいはオーサカ市長であるメイジの党の党首とやらに聞いてやらねばな“などと言われているようです」
「ひょええええ」
叫びを通り越し、アニメごとく顔が伸びたガース長官。女子高生たちがみたら“カイゲンおじさん”の七変化としてさぞかしウケるだろう。しかし今見ているのは渋い顔のシモシモダ副長官だけだ。
青ざめた顔をなんとかいつものサイズに戻し、頭髪の数をかぞえながらガース長官は考えた。(な、なんてことだ。あのパカセガワといいマンマルといい、あまりにバカ。いや死んでも治りそうにないアホなのか。野党への攻撃に使えるかもと思って見逃していたが、これでは狂犬だ。だいたいマンマルは有名な政治塾の出身で優秀官僚という触れ込みだったが、ペーパーテストと書類仕事と上に媚びることができるだけのバカだったのか。論理的思考皆無、哲学的思索ゼロ、倫理も良識も憲法順守の精神もないアホなのか!アイツ、まさか憲法が何であるかもわからないで、改憲といってたのか、なんと間抜けな)メイジの党の問題議員を放置していたことを悔しがるガース長官。
しかし、これも自業自得。野党やらリベラル勢力の力をそごうと、偽野党、ゆ党と呼ばれるメイジの党をいいように利用したのだ。口だけは改革を叫びつつ、裏では昭和の男尊女卑、差別意識丸出しで金大好きオヤジとその予備軍の集団メイジの党。実はオッサン社長やら地域の世話役へのあいさつ回りと配りものという利権バリバリのやり方でのしあがったメイジの党を裏で援助していたのはほかならぬアベノ総理とガース長官ら。カンボー機密費を秘かに拠出するわ、予算を複雑にして一見関係なさそうな品目を作り資金を回し、メイジの党を陰で応援しまくったのだ。この金の誤魔化し方は“桜を愛でる会”他、いろいろな表にできない使い道に金を出す時に頻繁に行っているのだが。
(ううう、カンボー機密費が領収書なしでいろいろ使いまくっているということを、共産ニッポン他マンゲツらにも指摘されつつあるし。これ以上の予算を捻出するのは無理だ)
カイゲンの連休の浮かれぶりとは裏腹に株は下がり続け、不況感はでまくり。庶民の財布の紐はきつく締めた蛇口よりも固い。それを払しょくしようと幼児教育無償化だの、大学進学援助だの耳障りのいい政策を打ち出した。しかし実際は逆に庶民がよい教育を受けようとするのを阻むことがすぐにバレた。小手先の目くらましで国民を騙し続けることはもう限界に近い。
「と、とにかくマンマルはメイジの党から追い出せ。党首のマツイダには」
「すでにタニタニダ副長官が打診し、マツイダ党首も了承していますが、ロシアがその」
「追い出しただけではダメか、マツイダも辞任か、それはできれば避けたいのだが」
「ニシニシムラ副長官が秘かにロシア大使館に連絡をとったところ、ロシア側はコトを荒立てない条件として」
「北方領土はもう諦めか」
と放心状態でつぶやくガース長官。
「それが第一条件でして、もちろん経済協力の資金の追加と、技術協力が前提でして」
「第一?ひょっとして、まだあるのか」
「第二はG20でのプータン大統領への最高級のもてなし、米のドランプ大統領より好待遇を受けさせろと。第三はオーサカに建設予定のカジノの運営権を無条件でロシア企業に譲ることと」
「何だと、もてなしはともかく、カジノの運営権はトーキョー・ヨコハマあたりに作るカジノのものはすでに米国企業にカタにとられているんだ(カタにとられた経緯を知りたい方は“捏造の王国 その4”をご参照ください)。そのうえオーサカもとられたら」
「ニホン企業の取り分はなくなりそうです。アトウダ大臣の地元は中国が狙っていると言いますし。最近不仲の朝鮮半島の国々との仲を取り持つ代わりに九州地方のカジノ利権をよこせといっているとの情報も」
「ああ、カジノ作る意味がなくなる!これではニホンの富はすべて米中ロのものに」
嘆くガース長官。ただでさえ、グローバル化を叫びつつニホン政府に頼りまくった大手企業は下がり気味で技術も人でも諸外国に流出しまくり。なんとか外面はたもっているが、実際はシロアリにくわれて倒壊寸前の巨大木造家屋も同然。安定雇用の正社員を減らし、実質賃金を下げまくり、最後に残った唯一の取り柄である終身雇用と退職金制度も消滅寸前の今、優秀な人材はニホンから出ていくのは時間の問題だ。むろん彼らの知識、技術、能力は他国のものとなってしまう。しかも年金資金をつぎこんでなんとか維持してきたニホン企業の株価も下落。株をかいすぎてニホンの大手企業は国営企業になったと揶揄されるほど、すでにグローバル社会でやっていけるほどの力はないのだ。ニホンを代表する企業でさえその体たらく。そのうえカジノで巻き上げたなけなしの庶民の金も外国にもっていかれたら…。
「カジノ利権も渡したらニホンはどうなるんだ」
「しかし、長官、他に手はありません。それともメイジの党を解党させ、党首マツイダや顧問であり創始者のハシゲンもロシアに引き渡しますか、“奴らにモスクワで討論会でもさせるか、もちろんロシア語で”という高官もいるそうです。“市民らがどうでるかはわからんな、警備が及ぶかどうか”とも」
「討論会と言ってもロシア側が主導。奴等がしどろもどろになったりすれば揶揄し、こきおろして全世界の笑いものにする。マツイダたちが逆ギレすれば、それに怒った市民につるし上げられ、最悪、殴り殺されるのも想定のうちというわけか。ロシア国民の不満をプータン政権から逸らすための娯楽にされるのか、彼奴等は」
いっそ、そうしたほうが後腐れもないのかもしれない。だが、…
(しかし、奴らがアベノ総理や私との密約をばらしたりしたら、どうなる。ニホン語しか話せないとはいえ、ロシア人も言葉がわかるものがいるだろう。ましてや録画や録音などされ、マツイダやハシゲンが助かりたさにあることないことしゃべったり、なんらかの証拠になるようなものを保存していたとしたらどうする?)
メイジの党とのやりとりについては外部に漏れぬよう十二分に注意していたつもりだ。とはいえ、抜け目なく勝ち組についてきたハシゲンのことだ、いざというとき使える画像や音声データ、アベノ総理直筆の書類などの保管しているかもしれない。
(モリモリ学園のこともある、ここはなんとかメイジの党をまもってやるしかないのか)
ガース長官はため息をついた。
「仕方ない。ロシア側と何とか交渉しろ。むろんロシア側の条件をすべて飲むわけにはいかないから、なんとか落としどころを見つけるんだ。ニシニシムラ副長官だけでは心もとないから、君も交渉に加わってくれ、シモシモダ副長官。場合によっては私も」
「わかりました、しかし…」
「なんだね」
シモシモダ副長官は口元を少し歪ませ
「“バカな味方は敵より悪い”と誰かが言ってましたが、アホを味方に引き入れると身の破滅ということなんですかねえ」
皮肉っぽくつぶやいた。
ガース長官は黙ってシモシモダ副長官を見送った。
結局、ガース長官もロシアと交渉する羽目になり、自室に戻ったのはかなり遅くなってからだった。
「はあ、まったく、優雅な気分が台無しだな」
お茶の時間には大分ずれたが、ガース長官は再び高級陶磁器ティーセットを机の上にひろげた。
「ふふふ、湯沸かしポットも購入し、ペットボトルに硬水も軟水も常備。これで紅茶だろうが、緑茶だろうが、いつでもお茶を楽しめる」
とにやけながら薔薇模様の包み紙をはがして、箱をあけると
「ぎゃああああ」
入っていたのは“耳”と真っ赤な液体。
「ひいいいい、な、なんだ!これは!」
よくみると耳そっくりのマシュマロと瓶に入った血液ににせて色付けされた濃縮薔薇茶。
“カイゲンおじさん、びっくりしたあ?今流行ってるドッキリお茶セットだよ。難しいカオばっかりしてないで、これみて笑ってねえ”
と丸いたどたどしい字でかかれたメッセージが入っていた。
「あー、びっくりした。なんだ、子供の冗談、ちょっとした悪戯というわけか。しかし…」
女子高生が軽いノリで良かれと思って贈ったものとはいえ
(成人の、しかも自分の父親以上の年齢の男性にこんなものを贈るなんて。しかもこのメッセージ。確かに友人同士ならいいのだろうが、このノリで社会に出てやっていけるのか。マンマルやハシゲンといいニホンの教育は大丈夫か。実は自分がやっていることの意味もよく分からず、深く考えもせず、まともに議論もせず、テストとノリとウケがいいだけのアホばかりではないのか)
そういった人間ばかりを自分の側に引き込み、利用してきたことも忘れ、思い悩むガース長官であった。
酒は飲んでも飲まれるなというお言葉がありましたね。来年は国際的イベントもあることですし、十分気をつけたいものです。
ところで、バラは花びらもお茶にしたり食べたりしますが、実(種や綿毛などを取り出した後のもの)をジャムやお茶にすることが多いようです。