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3.地獄の業火で揚げてやる(1)

 大きな手で掬い上げられるように意識がふわりと浮上し、みのりはゆっくりと目を開いた。

 たちまち、横から繁が「みのりちゃん!」と叫んだので、一瞬、今の状況を掴みかねる。


 自分はもしかして、風邪でも引いて倒れたのだったか。

 大学進学を機に一人暮らしを始めたものの、おざなりな食生活が原因で何度か倒れたことがあったが、またそれをやってしまったのだろうか。

 今回も、手狭なアパートに、血相を変えた繁がゼリーと米袋と卵を担いで――


(……いや、違う)


 ようやく倒れる前の記憶が蘇ってきて、みのりは内心で首を振った。

 ここはアパートの一室ではない。

 というか人間界ですらない。


 なぜなら、みのりの顔を覗き込む繁の後ろには、これまでに見たこと無いような、真っ赤な空が広がっていたからだ。

 黒い山に、ぐつぐつと泡を浮かべる血色の池。崩れた石壁の向こうには、荒れ果てた河原と、昏い色をした川が見える。


 恐らくあれは三途の川で――ここは、地獄なのだ。


 みのりは、横たえられた地面の湿り気を感じながら、ゆっくりと身を起こした。


「……繁さん。無事?」

「『無事?』じゃないよ!」

「え? 無事じゃないの!? 大丈夫!?」

「僕は無事だよ! ばか!」


 まずはと養父の安否を確かめれば、なぜか唾を飛ばして罵られる。

 つい眉を顰めると、繁は険しい表情で顔を覗き込んできた。


「無事、傷ひとつなく地獄送りになったよ。僕たち二人ともね。どうしてあんなことをしたんだ。どれだけ心配したと思う?」

「……ああ、ごめん、ちょっと想定以上に血が出ちゃったのよね。自分の大動脈の太さを見誤ってたっていうか、手が滑ったっていうか――」

「呑気にそんなこと言ってる場合じゃないだろ。いいかい、僕のためにあんな真似、二度としちゃいけない」


 繁は、いつものおっとりとした様子をかなぐり捨てて、真剣に言い募った。


「あの偉そうな鬼――宗って呼ばれてたかな、彼が血を止めてくれたから、幸い死ななかったけど。おかげで君まで一緒に地獄行きだ。僕は死んでしまって、そう裁かれたらしいから仕方ないけど、みのりちゃんはいったいどうするんだ。こんな恐ろしい場所に……」

「怒る繁さんもすっごく素敵なんだけど、ごめん、先に状況を教えてくれる? 二人とも地獄行きってどうして? あの鬼は約束を守ったの?」


 みのりが遮ると、繁はますます眉を寄せたが、たしかに説明が必要だと思ったのか、むすっとしたまま口を開いた。


「みのりちゃんの行動がなんらかの契約の役割を果たしたらしくて、僕はもう一度裁きを受け直すことになったんだ。それまでここで過ごすようにと、馬と牛の面を付けた鬼――獄卒っていうのかな? 彼らにこの地獄に連れてこられた。再審がなされるまでは一応無罪だから、責め苦を受けることはないらしい」


 いわばここは、拘置所ということだ。


 どうやら地獄は複数存在し、自分たちが連れてこられたのは、中でも一番小規模のものであるらしいこと。

 時折人影、というか亡者影を見かけるが、かなり閑散とした場所であること。

 獄卒は自分たちをこの場に連れてきた後、さっさと去っていってしまったことを、繁は説明した。


「馬と牛の面を付けた獄卒……さっき私が見たのと同じ鬼かしら。また会えるかな。ううん、会わなきゃ。もっといろいろ情報を聞き出さないと」


 みのりは唇に指を当て、思考を巡らす。

 宗というらしい冥府の長官は、こちらの懇願を聞き入れてくれたようだが、詳細がほとんど把握できていない。

 つくづく、途中で気絶してしまったことが悔やまれた。


「まずは再審がいつ行われるのか、言質を取らなきゃ。待遇についての確認も急務よね。食事は? 寝床は? こんな野ざらしの場所で繁さんを過ごさせられないよ。とにかくその獄卒たちを捕まえて、長官への面会を確保しなきゃ。それから――」

「みのりちゃん」


 が、目まぐるしく働いていた思考は、やけに低い繁の声によって中断された。

 顔を上げれば、養父は、これまで見たことのないほど厳しい表情を浮かべていた。


「もう、ここまでにしよう。僕はこのまま再審を待つ。……判決次第では、地獄に留まる。でも君は、一刻も早く地上に帰るんだ」

「繁さんたら、なに冗談――」

「冗談なんかじゃないよ。これ以上、僕のために行動する必要はない。僕はもう死んでしまって、君は生きてるんだ。それをちゃんと、わかって。僕のために、これ以上無茶をしないで」


 日頃子犬を思わせるつぶらな瞳は、今、恐ろしいほどに真剣な色を宿している。

 けっして声を荒げない、いつも通りの話しぶりだったが、そこには、勝気なみのりですら怯ませるような迫力が滲んでいた。


「…………」


 ぐ、と拳を握る。

 大好きな養父の命令。

 普段なら、「わん!」と鳴いて腹を見せにかかるところだ。

 しかしみのりは、繁の視線を真正面から受け止め、きっぱりと言い切った。


「いやよ」

「みのりちゃん!」


 叫んだ養父に、みのりは軽く肩を竦めた。


「だって、地上に帰れとは言うけど、その具体的な方策もないんでしょ? ここでの待遇を把握したり、安全を確保したりして、なにが悪いの? どのみち必要なことじゃない」

「だけどね、さっき獄卒たちに聞いたら、冥府や地獄……この世界と生者の体は、ひどく相性が悪いらしいんだ。長くいればいるほど、みのりちゃんの体に負担がかかる。手首を切る前も……ちょっと、様子がおかしかったよね?」


 細やかなのは繁の美点だが、時に細かすぎるのは困りものだ。

 しかしみのりは、その時になってふと、自身の体がかなり楽になっていることに気が付いた。

 呼吸も苦しくないし、自分の声もちゃんと聞こえる。

 それどころか、鬼が止血したという傷も、今では髪一筋ほどに細くなり、まるで痛まなかった。


(どうして……?)


 疑問に思うが、なにしろそもそも、今いる場所が場所だ。

 不思議現象を挙げていたらキリがないと割り切り、思考を元に戻した。

 今重要なのは、自分が繁のために問題なく動けるという、ただそれだけだ。


「大丈夫。鬼の手当てがよかったのか、今はすこぶる元気よ」

「だとしてもだ。僕のために閻魔大王に喧嘩を売るだなんて――」

「繁さんのためだけじゃない」


 遮ると、繁はちょっと驚いたように目を見開く。

 みのりは、そんな彼の顔を覗き込んだ。


「繁さんのためだけじゃない。私のためよ。だって、今ここで置いていかれたら、私、どうしていいかわからない。一緒に行こうって……もう一人にしないって、あの日言ったじゃない。嘘つかないでよ。もう少し一緒にいるくらい……いいじゃない」


 こうした言い方が卑怯だとは、わかっている。

 過去にまつわる出来事を持ち出せば、優しい養父は、けっしてみのりに逆らわない。

 そんな嫌らしい手段を使ってでも、みのりは繁の地獄行きを阻止したいのだった。


 三呼吸分ほどの、沈黙。

 折れたのは、やはり、繁のほうだった。


「……帰る方法が見つかるまでの間、ここに留まるのは、認める。でも、また手首を掻き切ったり、鬼に嫁入りしようだなんて真似をしたら、僕は自ら地獄に落ちるからね」

「はいはい」

「返事は一回」

「はーい」


 こうなってしまえば、もういつもの二人だ。

 みのりは、話はついたと言わんばかりに立ち上がり、ぐるりと周囲を見渡した。

 異様な色の空、ひび割れた大地、煮えたぎる池に真っ黒な山。

 いかにも、地獄だ。


「ひとまず、落ち着けそうな場所を探そう」


 しばらくはここで過ごさざるをえない、と腹をくくったみのりは、獄内の探索に乗り出す。


 一番近いスポットは、ぼこぼこと泡を立てる血の池だ。

 そこでは白装束をまとった幾人かの亡者が、苦しげに呻きながら池に浸かっている。

 みのりはきりっとした表情で、繁に向かって親指を立てた。


「私が池側を歩くから。手を繋いであげるから、繁さんは目を瞑ってて」

「いや逆でしょ!? ここ、僕がそれを言う場面でしょ!?」


 繁は顔を引き攣らせたが、みのりはさらりとそれを躱し、しげしげと池を見つめた。


「ちょ……っ、みのりちゃん! あの人たちと目を合わせちゃいけません!!」

「……なんか、この人たち、さして辛そうじゃなくない? 獄卒もいないのに自主的に浸かってるってのも妙だし」


 そんなことを言って、さっさと池に近付いていく。


「こ、こら……! 危ない!」


 繁の制止も無視して、そっと池に指先を付けると、みのりは微妙な顔つきになった。


「…………ちょっと熱めの、いい湯加減なんだけど」

「え、嘘」


 驚いた繁もちょんと指先を浸してみて、黙り込む。

 推定、四十三度。

 長く浸かるにはつらいが、江戸っ子には嬉しい温度だ。


 コメントに悩んだ二人が無言で見つめ合っていると、中に浸かっていた最年長の人物――いぶし銀、といった形容が似合いそうな、年かさの男性だ――が、こちらの姿を捉えてざばっと立ち上がった。


「おっと、新入りかぁ? ――おい、おめぇら、ちっと早ぇが、朝のお勤めはこれで終いだ。B班に交代しな! 総員退却!」

「っす!」

「っす!」


 すると、ほか数人の亡者たちも、舎弟のように返事をしながら、次々と池を上がってゆく。

 彼らは息ぴったりに、天冠で、すぱぁん! と股を払ってから、黒い山がある方向へと向かっていった。

 いぶし銀の男性に至っては、みのりの顔を認めると、粋にウインクすら決める有様だ。


「え……?」

「えええ……?」


 困惑しながら、なんとなくみのりたちは、男性陣に付いていく。

 彼らと一緒に剣の生えた山を巡り、虫の大群が這う川に足を浸し、恐ろしい形相をした獣たちの群れを横断したあたりで、二人は、どうもここは思っていたような地獄ではないという確信を得た。


 たとえば剣の山。

 罪人たちを貫くはずの剣はすっかり錆び崩れ、丸く積もった鉄くずの山へと変わってしまった結果、その上を歩くと、まるで青竹踏みをしているような塩梅になる。

 痛気持ちいい。


 続いて虫の大群。

 ここで亡者たちは椅子に腰かけ、おぞましい見た目の虫が自らの足に食らいつくのをじっと堪えるのだが、その威力があまりに弱い結果、せいぜい肌の表面を擦られるような感触しかない。

 つまりあれだ、角質を食べてくれるドクターフィッシュ。


 そして、獣たちに至っては、角も牙も鋭く、見た目は恐ろしいのに、やる気がまったく感じられず、ただ地面に蹲るのみ。

 むしろ亡者たちの側から「よーしよしよし、耳の裏か? ここなのか?」などとコミュニケーションを取る始末で、もはや触れ合い牧場かなにかのようである。


「……なんなのかしら、ここ」

「なんだか、すごく規律正しいというか、ほのぼのした空間だね。突っ込みどころは多いけど……」


 最後に、石壁が崩れたところから賽の河原に出て、川面を眺めながらおしゃべりに興じだした亡者陣を見て、みのりたちは困惑の呟きを漏らした。


 いったい何なのだ。

 これではまるで、健康ランドを巡るご老人のツアーだ。


 とその時、


「あの」


 と下から幼い声がかかる。

 視線を向けてみれば、そこにいたのは、同じく白装束をまとった十歳くらいの少年だった。

 彼のそばには、石を積み上げてできた小さな塔がある。


 ようやく「いかにも地獄らしい」光景を見て、みのりたちはなぜだか少々ほっとした。


「お姉さんたち、新入りだよね? この光景を見て、びっくりした?」


 少年は、端正な容貌に見合った利発さではきはきと話す。

 曖昧に頷いたみのりたちに、彼は大人びた仕草で肩を竦めた。


「ようこそ、等活地獄東第十六小地獄――『おんぼろ地獄』へ」

「おんぼろ地獄……?」

「そう。ここは、二七二ある地獄の中でも、最も外れにあって、最も寂れた、地獄の辺境地なんだ。まあ、本当は賽の河原(ここ)とは所轄が違うんだけど、石壁も崩れて半一体化しちゃってるんだよね。だから厳密には、僕はおんぼろ地獄の一員ではなくて、単なる『ご近所さん』なんだけど」


 彼は、「僕の名前はゆうだよ」と端的に名乗り、慣れた口ぶりで説明を続けた。


「ここも昔はね、ちゃんと血の池も熱くて、刀林処とうりんしょの剣もしゃんとしてて、獄卒や虫や獣たちも、それは立派に罪人を責め立ててたんだって。でも、先々代だったかな、閻魔様の方針でなかなか地獄行きの沙汰が下りなくて、罪人の人数が減っちゃってさ。予算が全部、大規模の獄に集約されることになったんだ」

「予算……?」

「そう。ほら、血の池みたいな施設費にせよ、獄卒の人件費にせよ、やっぱり維持にはコストがかかるからさ」

「コスト……?」


 彼の話をまとめると、こういうことだった。

 空前の罪人不足を前に、地獄は運営の合理化を試みた。即ち、予算の適正配分である。


 全一二八ある獄を、収容人数と輪廻実績をもとにランク付け。

 それに従い予算を再配分した結果、この東第十六小地獄は最低ランク――閉鎖寸前にまで追い込まれた。

 放置された獄は年々劣化、今では血の池は風呂程度にしか温まらず、罪人を苛むための生き物たちも、手入れと教育を怠られた結果、餌をくれる人物に懐く習性を持ち始めてしまう。


 が、今代になってから、閻魔の判決方針が一変。

 宴狂いの王が、罪状を深く吟味せず、手当たり次第に地獄行きの沙汰を下したため、一気に地獄に死者が溢れかえったのだという。


 そこで、実質閉鎖していた「おんぼろ地獄」も、長官の判断で再度開放。

 ほかの地獄で持て余していた獄卒――みのりたちを運んだ牛頭鬼と馬頭鬼だ――を配置したものの、彼らはこのしみったれた地獄での責務を良しとせず、拷問もすることなく怠惰に日々を過ごしている。


 おかげで死者的には大変快適な環境だが、決められた年数責め苦を受けないことには輪廻転生できない。

 そこで仕方なく、死者たちの中でも最年長で、親分肌の男性――いぶし銀の彼のことで、名をしんというらしい――を中心にいくつかの班を編成し、彼らなりに「責め苦」を全うしながら日々を送っているのだ。


「班への編入は義務じゃないけど、結局ここの全員が、どこかの班に属してるかな。真さんがきちんと締めてるから派閥争いもないし、平和なものだよ。お姉さんたちも、真さんに頼んで……あ、噂をすれば人魂かげだ」


 由を始め、死者たちが全員互いを一文字で呼び合っているのは、裁きの際に閻魔に名の一部を奪われたかららしい。

 だがそのためにかえって、彼らはまるで部活の仲間同士のような仲良しに見える。


 由が軽く手を挙げると、先ほどのいぶし銀の男性は、ひゅんと火の玉に変じてこちらへ近づき、また人の形を取った。


「おう、由坊ゆうぼう。嬢ちゃんたちに説明してくれたか?」

「したよ。もう、毎度毎度。真さんからしてくれたっていいのにさ」

「ははっ、おまえの方が口がうめえからよ。俺が説明したんじゃぁ日が暮れちまう」


 真は陽気に笑って、ばしんと由の肩を叩く。

 彼は気さくな笑みを浮かべてみのりたちに向き直ると、頼れる親分そのものの鷹揚さで頷いてみせた。


「そういうわけで、おまえさんたちも、よければ一緒にオツトメしねえか」


 ジョイナス、みたいな軽やかな口調で言われても。

 みのりたちの困惑をどう取ったのか、真はさらに補足した。


「俺んとこは男所帯だが、B班なら女もいる。間違いが起こんねえよう、俺もB班の班長もきちっと締めとくからよ。いくら拷問はねえとはいえ、たった二人で過ごすにゃぁ、この地獄生活は長すぎる。仲よくやろうぜ」

「あの、お気持ちはとてもありがたいんですけど、私たちはそもそも、地獄ここからの脱却を目指しているもので――」

「うん?」


 みのりが遠慮がちに切り出すと、真はようやく気付いたように目を瞬かせた。


「そういやお嬢ちゃん、白装束姿じゃねえな。足も、なんつーか、やけに生々しいっつか、地に着いてる感がある。……え、まさか、生きてるってわけじゃないよな?」

「生きてます」


 きっぱり言い切ると、真は驚いて顎を引き、ふわりと全身を淡く光らせた。

 どうやら感情が昂ると、人型の輪郭がぼやける仕様らしい。

 ついでに常時であっても、足元はうっすら透き通って見える。そしてそれは繁も同様だった。


 やはり彼らは死者なのだ、と変に納得しながら、みのりは自分たちの身に起こった出来事をかいつまんで説明した。

 真は「ほお」だとか「ははあ」だとか真剣に相槌を打ち、最後のほうには子分連中を呼び寄せて、車座になって話に耳を傾けていた。


「――はあ、なるほどなぁ。養父を追いかけて地獄に。閻魔一門に喧嘩を売るなんて、あんた、大したタマじゃねえか。単調な獄中生活が、にわかに華やぐ思いだよ。背中の龍が疼くぜ」

「…………」


 やはりその筋のお方か、とみのりたちは思ったが、しおらしく沈黙を選んだ。


 なんにせよ、真はみのりのことを気に入ってくれたらしい。

 ならば地獄脱出の手掛かり――具体的には、獄卒や閻魔たちに謁見する方法を、と相談を持ちかけたが、しかし彼は申し訳なさそうな顔になった。


「んー、協力したいのはやまやまだがよぉ。俺たちも、獄卒たちに自由に会えるわけじゃねえんだ。あいつら、俺たちにとことん興味がねえからよぉ」

「僕が石を積んでも、ちっとも蹴り倒しに来ないものね」


 由も困惑顔で頷く。

 なんでも、獄卒たちは放置を徹底していて、真たちが組織を編成しようが、手探りで「責め苦」を受けようが、果ては暴動を起こそうが、知らぬ存ぜぬ。

 滅多に姿を現さないらしい。


 かと思えば、何でもないときにふと現れ、憂さ晴らしのように亡者たちを嬲っていくので、彼らからは役目を帯びた獄卒というより、天災のように思われているのだとか。


 力になれず申し訳ない、と眉を下げる真に、みのりは軽く笑って首を振ると、すっとその場に立ち上がった。


「どうもありがとう。すごく為になったわ。あとは、自分でも獄卒たちに会う方法がないか、探してみる」

「おう、ここを探索するなら、うちの若いのをガイドに使っていいぜ」

「ありがとう、お言葉に甘えます」


 とにもかくにも、再審の日取りやそれまでの待遇を、獄卒を通じて聞き出さないことには始まらない。

 みのりは繁の腕を引っ張り、一歩を踏み出したが――


 ――ぶわっ!


 突然、生温かい風が辺り一面に吹き渡ったので、驚いて背後を振り返った。

 赤黒い空に突如として紫電が走り、寂れていたはずの獄内に、にわかに禍々しい雰囲気が立ち込める。


 視線の先、ひび割れた土の上に佇んでいたのは、先ほど宴の場で見かけた、美貌の女鬼だった。

明日には調理シーンにたどり着けるかと…!

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