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姉からの手紙 解答/解説

実を言うと、今回の話は以前ボツにした作品です。

しかしせっかく作ったのにそれを消すのは勿体ないと思って投稿しました。一応、解説の最後にその理由を載せておきます。気が向いたらご一読ください。

【解答】


送られてきた手紙は罠であり、語り手(僕)の身に危険が迫っている。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【解説】


まず、警察が積極的に姉の捜索活動に乗り出さなかった理由を説明します。


本文前半に登場した姉の書き置きは、「失踪宣告書」というものに相当します。行方不明になった人間がこれを残していた場合、警察が捜査に本格的に乗り出すことはあまりありません。


恐らく家族は姉の書き置きを警察に見せたのでしょう。書き置きが失踪宣告書であると見なされるには「事件性の否定」「自分の意思による失踪であることの表明」「帰還する意思の表明」など色々ありますが、本文中の書き置きはそれらを概ね満たしています。


また明記されていませんが、姉が姿を消す前日にストーカー被害に関する要件で警察署を訪れたのは、捜索願不受理届の提出のためだと考えることができます。

これは本人によって直々に「探さないでほしい」という意思を警察に表示するものです。


これが認められるためにも条件がありますが、最も重要なのは「失踪が正当な自己防衛を目的としていること」、すなわち「自分の身に危険が迫っており、それから身を守るために一時的に自分の位置情報を伏せる必要があること」です。

その最たる例が「ストーカー」です。ストーカーから身を守るために自分の居場所を隠す必要がある、といった場合は基本的に不受理届は承認されます。


これによって姉は家族を含むあらゆる知人に自分の居場所を悟られないようにしたのです。


そして不受理届が承認された以上、警察は捜査に乗り出すことはありません。仮に行方不明になったのが未成年者であれば話は別ですが、姉は既に成人しています。


これが警察が姉の捜索活動に消極的だった理由です。


しかし、この理由そのものは別に重要ではありません。

何より重要なのは、語り手(僕)がそれを理解していないということです。より正確に言えば、警察が姉の捜索を渋る理由を語り手(僕)が理解していないことです。


何故語り手(僕)がそれを理解していないと断言できるかと言うと、本文中を見ると中盤付近に『どういうわけか警察は姉の捜索には消極的だった』という箇所があります。上述した理由を理解していれば、『どういうわけか』なんて言葉は使いませんよね。

つまり、繰り返しになりますが、語り手(僕)は上述した理由をわかっていないということになります。


これを踏まえて次に移ります。


本文中に登場する暗号ですが、最悪の場合これは解けなくても構いません。

しかしどちらかと言えば解けた方が話が理解しやすいと思うので、一応暗号の解説はしておきます。


まず暗号の中の謎めいたアルファベットの羅列『HBCONaPSClCaScTiFeNiZnGaSeSrY』は、それぞれ元素記号を表しています。具体的には左から順に、


・H:水素(1)

・B:ホウ素(5)

・C:炭素(6)

・O:酸素(8)

・Na:ナトリウム(11)

・P:リン(15)

・S:硫黄(16)

・Cl:塩素(17)

・Ca:カルシウム(20)

・Sc:スカンジウム(21)

・Ti:チタン(22)

・Fe:鉄(26)

・Ni:ニッケル(28)

・Zn:亜鉛(30)

・Ga:ガリウム(31)

・Se:セレン(34)

・Sr:ストロンチウム(38)

・Y:イットリウム(39)


となります。カッコ内の数字は原子番号です。


そして今回の暗号は『●とえし●えのきひとまるからえのあえとぱーとぬえろにるいえるためのすとてえけてのね』の部分について、それぞれの原子番号に対応する部分の文字を抜き出して並べていくことで解くことができます。


わかりやすく言うと、原子番号は左から順に「1」、「5」、「6」、「8」、「11」、「15」……となっているので、『●とえし●えのきひとまるからえのあえとぱーとぬえろにるいえるためのすとてえけてのね』の部分の左から「1文字目」、「5文字目」、「6文字目」、「8文字目」、「11文字目」、「15文字目」……の文字を順に読んでいくわけです。


結果だけ言うと、「●●えきまえのあぱーとにいるたすけて」となります。

つまり「●●駅前のアパートにいる。助けて」という文章が浮かび上がり、本文の内容に一致します。

「監禁されている」とは明記されていませんが、実際のところ姉は何者かによって監禁されており、その助けを求める内容だと考えても支障はありません。


ただ、よく考えてみてください。


こんな暗号、解く方もそうですが、それ以上に作る方も面倒臭いです。そんな暗号を、誰かに監禁されているような状況下で思いつけるものでしょうか。


それ以前に、暗号で送っていること自体が考えてみればおかしなことなんです。ここで、姉を監禁している人物をAとしましょう。


もしこの手紙が姉がAの目を盗んで送ったものだとしたら、わざわざ暗号にする意味がありません。素直にそのまま居場所を書いて助けを求めればいいだけの話です。


また、この手紙がAを介して送られたものだった場合、すなわちAがこの手紙のことを知っていた場合にしても、このような何が書いてあるかわからない暗号めいた手紙を送ることをAが許すはずがありません。

すなわち、これはAの意思によって強制的に姉が書かされた手紙であることがわかります。


では一体、Aは何を目的としてこのような手紙を送ったのでしょうか。それを判断するには少しばかり推測が必要になります。


まず状況からして、姉を誘拐、監禁したのは十中八九姉のストーカーでしょう。さすがに本文に設定上登場していない人物が犯人であるとは考えられないので、そうなると登場人物の中で姉を誘拐する動機があるのはそのストーカーを置いて他にありません。


最初はストーカーから身を守るために本当に自分の意思で家出した姉ですが、途中で運悪くストーカーに(さら)われてしまったのでしょう。

そしてストーカー(A)は何らかの理由によって、姉が失踪宣告書及び捜索願不受理届を提出していたことを知っていた、すなわち警察が姉を捜索することはないと知っていました。


つまり、Aにとって警察は脅威でも何でもないわけです。


脅威と言えるのは、残された姉の家族です。いくら警察が動かないとは言え、家族が探偵を雇いでもすれば捜索はいくらでも継続されます。それを防ぐために、まずAは残された家族の中で最も行動力のある語り手(僕)を釣る作戦に出たのです。


結論から言えば、●●駅前のアパートには姉はいません。もし語り手(僕)が送った手紙を警察に見せて、事件性を感じた警察が実際に●●駅前のアパートへ行くようなことがあったら、それはAにとって大きなリスクになりますからね。

万が一警察が来た時のことを考えてあえて本当の監禁場所とは違う場所を指定したのでしょう。これも本文から判断することは難しく、推測の域を出ません。しかしこの部分に考えが及んでいなくとも、話を理解することは可能です。


そこで、前述した「語り手(僕)は警察が姉の捜索に消極的な理由を知らなかった」という事実が重要になってきます。


語り手(僕)は警察の消極的な態度の理由を知らないが故に、「警察には頼れない」と勝手に思い込んでいました。


しかし実際は、送られてきた手紙を警察に見せてその手紙が助けを求める内容であることを示せば、姉の失踪には事件性があると見なされて捜索活動が開始される可能性もあったのです。警察が動かないのはあくまで「姉の失踪に事件性はない」としているからであって、その認識さえ覆せば警察の捜索活動は行われます。


それ故に、語り手(僕)は自身で指定されたアパートへ向かってしまったのです。


恐らく、そこにAがいるかどうかは別としても、そのアパートへ向かえば語り手(僕)の身には何らかの危険が及ぶことが予測されます。それは前述したAが手紙を送った理由から明らかです。


つまり、Aが用意した一か八かの罠に語り手(僕)はまんまと引っ掛かってしまったわけです。


また、厳密に言えばその手紙は「姉の筆跡を真似て別の誰かが書いた悪戯の手紙」であるという可能性も否定はできません。

しかしどちらにせよ、顔も名前もわからない誰かが指定した場所へ単身乗り込むというのはあまりにも危険な行為です。語り手(僕)にとって極めて危険な状況であるということには変わりありません。


恐らく今回の話はオチだけ聞くと「ふーん」で終わるような話だったと思います。

しかし姉からの手紙が罠であることや、語り手(僕)が警察に頼らずに単身でアパートに乗り込んでしまった理由を細かく考えようとすると、少々面倒な話かもしれません。


まあ、いくら警察に頼れないとしても、自分で直接アパートに乗り込むのはさすがに愚の骨頂だと言わざるを得ませんね。


以上で今回の解説は終わります。


で、今回の話をボツにした理由ですが、今回の話にはある決定的な欠陥があったからでした。

それは、「姉のストーカーが失踪宣告書と捜索願不受理届の存在を知っていた理由」にあります。解説では「何らかの理由によって…」と誤魔化しましたが、実はその理由は本文中の情報からは説明できません。

恥ずかしいことにそれに気付いたのは解説を作っている途中でした。


というわけで、その理由が説明できないじゃん、なんてツッコミはなしでお願いします。


という言い訳をして、今回の話は終わりにしたいと思います。

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