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葬式

僧侶の読経と木魚の音が線香の香りと共に本堂を支配する。正面に設置された祭壇の上では元気だった頃の彼が遺影となって屈託のない笑顔を浮かべている。


男は思わずそこから目を逸らした。可哀想で見ていられなかった。


兄は、とても清々しい表情で死んでいった。唯一の心残りは最近産まれたという初めての孫の顔を見られずに死んでいくことだと言っていた。実際に兄の息子達が彼の孫を連れてきた時には、兄はもう息を引き取っていた。


亡き兄には一人だけ息子がおり、その妻は一人っ子である上に親は火災で亡くしていた。それ故に家族葬とは言え、参列者の少ないとても小さな葬儀だった。


交通事故とはなんと残酷な、と思いながら男は喪主である甥、すなわち兄の息子の方を見た。金銭的に貧しいながらに奮発して買ったのであろう立派な喪服の背中が見える。交通事故などではなく、せめてもう少しマシな死に方があったのではないかと思うが、自分にはどうすることもできない。


兄の妻が焼香を終えるのが見えた。彼女は目に涙を溜めながら席に戻った。自分の番だ、と思った男は立ち上がった。


焼香台の前に立ちながら、男はふと遺品整理の際に見つけた兄のメモを思い出した。



今日はいい天気

どこへ出かけようか

山にしようか川にしようか

昔は色んな所へ行ったけれど

もうこの身体ではそう遠くへは行けまい



あれは何だったのだろう。

男は軽く首を横に振った。何をしている、今考えることではないはずだ。男はそう思って抹香を摘んだ。


男は小さく溜息をついた。あと何回、こんなことが続くのだろう。

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