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開戦準備


 エリダが、レティアとともにアルテサノにやってきた。

 城門のところまで出迎えにいくと、旅行鞄一つという身軽さに驚いた。

 「ずいぶん少ない荷物だな?」

 あとから荷馬車の一団が追いかけてくるのだろうか?

 「貴族令嬢のドレス姿で側に侍らせたい、と?」

 ああ。

 なるほど。

 確かに、海賊の根城で貴族のお嬢様然とした姿で歩き回れても困る。

 服のほとんどが着られないとなると、もちろん家具も不要だろうし、宝石類も意味がない。

 こんなものなのかもしれない。

 そもそも、昔の彼女は年中病院着だったわけだし。

 とりあえず、二人のために適当な建物を用意しておいたので、そこを案内した。

 僕の居宅ともそれほど離れていない二階建ての家だ。

 警備上の都合もあって、幹部たちの生活の場は一部に集中している。

 彼女だけを近くに住まわせようとしているわけではない。

 念のため。

 「よろしくお願いするわね」

 住居を案内したあとで執務室に入ると、エリダは改めて頭を下げてきた。

 連れて来た偵察兵はライムジーアとの顔合わせが済むとすぐに、任務に戻っている。

 エリダの話では、スエルリュック州長官とはアルテサノに関して不干渉ということで話をつけてきたらしい。

 いったいどんな説得をしたのか、親子間のことなので詳しくは聞かなかったから謎のままだ。不干渉の約束が守られるのなら、その理由などどうでもいいことではある。

 「私は情報部の将校って位置づけでいいのかしら?」

 ライムジーアの執務室で、エリダはそう質問をした。

 チラッ、とレティアに視線を走らせたのは、実質的にその役目を果たしているのが彼女だからだろう。

 「いや、君には秘書官をやってもらおうと思ってるよ」

 急激に組織が膨張しているので、一人では処理しきれなくなっている。

 誰か事務処理を手伝ってくれる人が欲しかった。

 人材を探し始めていたところだったのだが、エリダになら間違いなく任務に耐えるだけの能力がある。

 秘密を要する書類などは、前世世界の文字で書いておいてもらったり書いておいたりも可能だ。他の者には絶対に解読できないのだから。

 下手な暗号より確実だ。

 「ひしょかん?」

 目を真丸くして、エリダはライムジーアをまじまじと見た。

 そのとおり、と真顔でうなずく。

 「うっわー。エロいわね」

 「なんで?!」

 秘書官にって言っただけで、エロいとか言われるとは思わなかったライムジーアが悲鳴を上げた。

 「だって、秘書官ってなんか言葉の響きからしてエロいじゃない」

 「ありとあらゆる世界の秘書に謝れ!」

 全力でツッコむ。

 「んー、保留! 考えとくわ」

 不満そうに唇を尖らせて考えていたが、そう言って手をひらひらさせた。

 機動力が備わったせいか、『夢見る国の少女』と『運命の女神の弟子』の経験が付加されたせいか、なんかひどく性格がねじ曲がってる気がする。

 純情一直線の女の子だったんだけどな。

 まぁ、それを言ってしまうと僕は本を読んでばかりの引きこもりだったわけだが。

 「じゃ、とりあえずはお望み通り情報局局長扱いにしとく。会議が始まるから移動するよ」

 「会議?」

 「僕は忙しいんだよ。君とじゃれてばかりはいられないの!」

 本当なら、四日前にしていたはずの会議だった。

 海賊討伐が済んだので、次の段階に進もうというわけだ。

 会議室に入ると、別行動をとっていた者が何人か顔を揃えて待っていた。

 「帰還しました」

 「襲撃はかわされたようで、安心しました」

 ロロホフとシャハラルが戻ったのだ。

 二人とも、リンセルが送り出した伝令で、慌てて帰還してきたのだ。兵士百名ずつを治安維持のために置いて、九百の兵と兵士に志願した市民四百ずつを連れて来ている。

 この時点で、陸上軍の兵力が二千六百ほど増えたわけだ。

 「襲撃を受けている、とのことだったので連れてきました。海賊の支配地域で畑を耕していた者たちですが、元は帝国に滅ぼされた国の兵士たちだそうなので即戦力です」

 「現地にはさらに多くの志願兵がいるのですが、輸送船に載せきれなかったのです」

 二人が報告してくる。

 兵士は一兵でも多いに越したことはないから、ありがたい。

 「寂しい思いをさせちゃったわね」

 いい子、いい子。

 頭を撫でてくるのは、もちろんエルフのサティオだ。

 制圧した二つの海賊団の根拠地を解体する目処がついたので、一緒に戻ってきたらしい。

 まぁ実際は、目処がついたのではなく、目処をつけてきたのだろうが。

 そうなると、現地に残った幹部はアストトだけ。彼だけが残って、事務的な仕事をこなすことになる。

 あとで特別手当を出してやるべきかもしれない。

 秘書官がまだいないので、忘れるかもしれないが。

 エリダの方は見ない。

 なにか、いやな予感がするので意識的に視界から外した。

 サティオの頭ナデナデに言いたいことがありそうな気がする。

 「私たちが行ったところは港湾施設がある以外は小規模な農村でしかないわ。解体しての資源調達に面倒なところもない。民家と納屋ぐらいしかないから、当然ね」

 そのことに気付いたのかどうなのか、サティオはそう報告して肩をすくめた。

 小規模な農村といっても何百年も前からあったわけではない。

 戦争で落ち延びた兵士や、被災して逃げ出した人々などが、なんとなく集まって共同で生活し始めた。いわば難民キャンプでしかない。

 なにもないのは当然だろう。

 「輸送船を送り返すころにはほぼ資源化は終えているとおもうわ。なので、戻ったばかりだけど私たちを 乗せてきた輸送船に、港で待機しているのも加えた輸送船十五隻すべてを、迎えに出すといいと思う」

 志願兵の残りと、資源を運ばせるための提案だ。

 僕はすぐに了承した。

 すぐに伝令を送って、輸送船団には準備できしだい二つに分かれて現地を目指させる。

 「志願兵は先の八百と合わせて千五百。兵とならない農民は三千ほどに達する見込みとなっているわ」

 兵と民の比率がおかしい気がするのは、逃げ延びた、生き延びた、そんな人たちばかりだからだ。年寄りや子供の数が極端に少ない。

 この二つの根拠地は正規の村ではないのだし、海賊が勝手なふるまいをしていたことからもわかるように帝国に見捨てられているような土地だ。

 そこに住み続けても未来はない。

 「農民たちはそう判断してくれたみたい。別天地での再出発をほのめかしたら、拍子抜けするほど簡単に 乗ってきてくれたの・・・とまぁ、報告は以上よ?」

 頭を撫でていたのをやめ、サティオは背もたれに身体を預けた。

 造船組合の建物を改修したライムジーアの指揮・指令所の会議室にアルテサノにいて集まれる幹部が全員顔を揃えている。

 どっしりとした長テーブルの上座にライムジーア。

 その右側にザフィーリ、ヴィルトとガゼット、リンセル、ロロホフ。左側にサティオ、エリダ、エヌンフト、ファルレ、シャハラル。

 ライムジーアの後ろにエレヴァとシア。

 エリダの後ろにはレティアが控えている。

 「さて、と」

 幹部たちとエリダの紹介を済ませ、ライムジーアは幹部たちを見渡した。

 「当面の問題だった近隣水域の安全が確保された。これで、資材と人の運搬を円滑に進められるようになる」

 「フエルォルトに住民を送り込むわけだニィ?」

 すでに住民を送っているヴィルトが、確認を取ってきた。

 彼の下にいた獣人族の年寄りや子供が、彼の父親に率いられてフエルォルトに向かったのは、もう二月ほども前のことになる。

 とっくについている頃だ。

 「そういうことだ。すでに、曳舟『花風』チームを状況確認のために派遣した。曳舟の機動力なら、半月あれば往復できる。向こうの受け入れ準備が出来しだい。移住計画を始めるつもりだ」

 いよいよか、誰の顔にも一つの山を越えたという満足感がうかがえる。

 「だが、今の時点では住民候補は未だ一万を越える程度だ。できれば十万、最低でも五万は欲しい。そこで、かねてからの目標に立ち返る。・・・大公の勢力を我々でそっくりいただこう、というあの計画にな」

 大公の支配下にある収容所と基地の全てを解放する。

 かなり早い段階で掲げた目標だが、最初に三カ所の強制収容所から人と船を奪って以来何もしていない。

 今度こそ、本格的に進めようということだ。

 「大公が支配している収容所と基地の場所は、エリダの手の者がすでに把握していた。その情報を使い、攻略作戦を練ろうと思う」

 さっと片手でエリダを示して、存在を強調しておく。

 戦場に立つことのない彼女は、こういうところでちゃんと存在意義を示しておかないと、他の幹部に侮られかねない。

 組織全体にとってそれは良いことにならないだろう。

 「地上軍の拠点は別に作る、と聞いた気がしますが?」

 久々の陸上戦、とザフィーリが身を乗り出してくる。

 あと、ファルレとフファルはとっくに前のめりだ。

 「そうだ。海賊は撃破し、スエルリュック州からは不干渉を取り付けている。敵は大公だけ。このあいだに水軍には人と物資の移動に力を傾注させたいからね。陸には陸の拠点を作る。つまり、まずは大公の勢力下にある拠点を一つ奪い取るところから始めることとする」

 「すでに候補は決めているって顔ね?」

 訳知り顔のサティオが、テーブルに頬杖をついて見上げてきた。

 よくわかっていらっしゃる。

 「ヴァスケ・ボルトの王城、とかどうだろうね?」

 ヴァスケ・ボルトは、アンセフォーア・ストロスター『先の』宰相閣下が、王であった小国だ。

 この国は攻め滅ぼされたのではなく。ラインベリオ王国の初代が、領土拡大に乗り出したとき、進んで膝を屈して臣従した国として知られる。

 それゆえに、この王城は戦火を経験しておらず、往時の美しさと堅牢さを残していることでも知られた城だった。

 帝国に吸収されて以降、人口流出に歯止めがかからない状況ではあるらしいが、城が健在なのは間違いない。

 「くっくくく。あんた、面白いわね。マジで」

 その意味を理解したファルレが、楽しげに笑い声を立てた。

 その城はもう帝国の田舎町の一つでしかない。

 大公が本拠地としているのは別の場所の砦になっている。

 それでも、かつては居城であった城を敵に奪い取られたのでは、大公の面白かろうはずがない。

 間違いなく全力で攻めてくる。

 それを迎え撃って潰せれば・・・ほぼ一撃で敵勢力は壊滅だ。

 悪辣と言ってしまえばそれまでだが、効果が高いだろうことも明白。

 そりゃ、おもしろいだろう。

 「ですが、兵力は足りるのですか?」

 冷静に指摘してきたのは、エヌンフトだ。

 ライムジーアが、心の中でわが軍の良心とも頼む常識人。

 ザフィーリが不快そうに、ファルレが軽蔑したように、目を向けるが動じる様子もなくライムジーアに顔を向けている。

 現在の地上軍の兵力は。


親衛隊(元アバハビルド王族と軍兵で構成)。

 隊長ザフィーリ・アバハビルド。

 副隊長ロロホルとシャハラル。

 現在、六十名が元海賊根拠地の治安維持に従事。二百五十人ほどがアルテサノにいる。

 

騎士団(タブロタル騎士団から分離した騎士で構成)。

 団長エヌンフト・ラソン。

 現在、百四十八人が所属。

 

 獣人部隊

 リンセル偵察隊。(収容所などから解放した獣人で構成)

 隊長リンセル・クース。

 現在、十六名が所属。

 ヴェルト隊(ボルブルカーン州クラテラタンの街の獣人で構成)。

 隊長ヴェルト・クース。

 現在、七百名が所属。

 ガゼット隊(ボルブルカーン州クラテラタンの街と海賊などから解放した獣人で構成)。

 隊長ガゼット・クース。

 現在、七百名が所属。


 サンブルート旅団(アマゾネスのサンブルート一族で構成)。

 団長ファルレ・サンブルート。

 副団長フファル・サンブルート。

 団員見習いリューリ。

 現在、二百十名ほどが所属。


 市民軍(収容所から解放された者たちで構成)。

 必要に応じて他の隊へ増援に行く部隊のため隊長はいない。

 現在、百四十名が元海賊根拠地の治安維持に従事。ロロホフらが海賊根拠地から連れて来た八百を加えた三千六百名ほどが所属。


 約五千八百名が、その戦力の全てとなる。

 一軍団を少し上回る程度。それで足りるのか? というわけだ。

 「アルテサノにも防衛のための兵が必要でございましょう?」

 「もっともな疑問だね」

 ライムジーアは朗らかに返した。

 わかっている、と頷いて見せる。

 「まず、アルテサノの防衛に関しては気にしなくていい。ボサダ戦闘艦船団に乗せるために募集していた兵士が千人ほど集まっているから、これをそのまま残せばいい。防衛責任者には、ロロホフを就かせたいがいいか?」

 上官のザフィーリと、本人に了解を求める。

 ずるいとは思うが、ザフィーリは自分を残させられない限り僕の指示に意見するはことはないし、ロロホフは内心嫌がっていても表に出す性格ではない。

 「皇子様の思いのままに」

 「問題ありません」

 うん。そうだろう。

 「募兵は、常に続けて集まり次第訓練を進めてくれ」

 「承知しております」

 外敵と向き合う危険のない拠点内で、実地に働かせながら訓練もしておく。

 大公との戦いが最終局面に近づく頃には使えるものになっているだろう。

 「総勢約五千八百は全て実戦部隊だ。支援は市民の中から作業員を募る。そうすれば二個軍団分の兵士はいる計算だ。充分とは言えないが、できない数ではない」

 「あたしたちがいるしね」

 なんなら、自分たちだけで突撃してやる。そう言いそうな顔で、ファルレが口を挟んだ。

 アマゾネスめぇ・・・・。

 頼もしすぎる!

 「それだけじゃない。以前、拠点が決まったら呼ぶと待たせていた勢力にも連絡をつけた。途中で合流することになる。兵力は定かではないけどね」

 ウルザブルンの街近郊の森で部下としたベレグリナ・ヴァンデルグ一党のことだ。

 アルテサノに一時的であるにしろ、腰を落ち着けることを決めた時点で連絡員を派遣してある。要所要所に二人から三人置いて、飛脚の要領で走らせるというものだ。

 事前に新たな連絡員をどこに置くか伝えてさえいれば、本隊がどこに移動しても連絡員はあとを追ってこれるという仕組みだ。

 僕は心の中で、『パンの屑』と呼んでいる。

 ベレグリナのもとには、あのとき百名ぐらいしかいないようだった。

 あのあと、仲間を増やしたか、そのままか、僕に付くのを嫌われて半減しているか、それはわからないが、まだ兵力は増えるという『事実』は大きい。

 一応、連絡員からの話によれば、ベレグリナは自分の知り合いに声をかけて戦力の増大を図ってはいたというから、現状維持の百か、それ以上の兵は率いてきてくれると思われる。

 「ヴァスケ・ボルトの王城は今、軍の拠点としての役割をなくしている。駐留している軍は最大でも五百を超える程度だそうだ。だから、落すだけなら造作もない」

 それこそ、サンブルート旅団だけでも落とせる。

 現在、その王城は役場や法務局などの行政、学校、病院、警察・消防本部の入った公共施設となっているとの情報がある。

 かつては五万を数えた人口が、今は八千ほど。街の各所で空き家が増えていた。そうなると、建物の維持をするには人手が足りなすぎて手が回らない。

 城などは放置されるべき建物ダントツ一位のお荷物になるわけだが、街のシンボルでもある。

なくすのは忍びない。

 なので、街の人々は詰め込めるだけの公共施設を詰め込んで、城の維持を図ったのだ。

 一つの国の首都であったヴァスケ・ボルトも、今となってはその程度の拠点でしかない。

 だから・・・。

 僕は、作戦を説明した。


次回も日曜の午前中に更新します。

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