海賊討伐
目的の港が、見えてきた。
太陽が中天を越えようとしている。
あのあと、僕は眠らされてしまったらしい。
熟睡だ。
前世で、脳科学者が言っていたことを思い出す。
人間の脳は寝ている間に最適化される、と。
悲しいことや辛いことがあっても、一晩ゆっくり眠れれば整理がつくのだ。
感情的にならないで済む。
論理的に物事を受け入れられるようになる。
僕もそうであるらしい。
久しぶりに気持ちよく目が覚めた。
元気が出た気がする。
朝食も美味しかったし。
その間にも、作戦と船は進んでいる。
もうじき、襲撃が始まることになる。
すでに全員が早めの昼食をとり終えていた。
近付きつつあるそれは東側に切り立った崖、西側に白い砂浜の広がる半島を有する天然の港だ。
大きさはアルテサノの倍ぐらいありそうだ。
「マリーゼがいきます」
指差された方向。
ボサダ戦闘艦船団旗艦『桐壺』が先頭に立って、港へと突っ込んでいく。
帆船でありながら、櫓を漕ぐこともできるガレー船団が速度を上げて離れていった。
それとは逆に、ブエルハーフェン水軍の船は帆を半開にして、速度を緩めている。
海賊どもに見えるようでは作戦が成り立たない。
見えないギリギリの位置で待機して、見えたところで最大船速で突入するのだ。
長かった。
ボサダ戦闘艦船団が一度見えなくなって、再び現れるまでは本当に長かった。一日千秋。まさにそんな感じだ。
それでも、確かに時間は流れていた。
味方の艦隊が見えてくる。それに続いて、海賊船も見え始めた。
「全船! 最大速度で突っ込め!」
怒号にも似たルグリオの命令で、ブエルハーフェン水軍の船が帆を全開にした。
帆が風を孕んで膨らむ。
船は一直線に港へと走り出した。
風は明らかにこちらの味方だった。
東側から港へと向かう我々にとっては追い風、西側から港に向かうことになる海賊には向かい風になる。
こちらの方が断然有利だ。
接近しながら、相手の戦力を数える。
キャラックが六隻、ナオが八隻、ガレーが二隻だ。
「南下するたびにガレーが減るのはなぜだ?」
そんな場合でないことはわかっているが、思わず疑問が口をついて出た。
「南にいけばいくほど風が強くなるからです。北の方では風を頼りにできないので手漕ぎのできる船の方が需要が高く多いですが、この辺りまで南下すると風を利用できるために運営に人手のかかるガレー船は使われません」
海賊の船団をにらんでいたルグリオが、顔にかかる髪を手で払いながら教えてくれた。
「ああ、なるほど」
納得した。
確かに、一隻動かすのに百人も必要ではコストが高すぎる。
帆だけで船を動かせるなら、ガレーよりキャラックだろう。
なんにしても、戦力はこちらが倍だ。
負ける心配はしなくていい。
すでに『初音』と『胡蝶』が、敵のキャラックに食いついている。
一隻に二隻・・・ではない。
一隻に一隻だ。
数では負けるが、質で勝つだろう。
そして、他の船は質はともかく数では絶対に負けないよう、基本二隻での挟み斬りだ。
負ける気遣いはいらない。
「あ!」
と、思っていたのは油断だっただろうか。
ザフィーリが小さく悲鳴を上げ、慌てて目を向けるとガレーが一隻燃えていた。乗っている者たちが必死に消火しようとしているが・・・。
「消えないなあれは」
火の勢いが高すぎる。
消えたとしても船は使い物にならないだろう。
「油壷を落して火を投げ入れています!」
何が起きているのか、状況をイクザームが伝えてきた。
見ると確かに、海賊船から壺が接舷したこちら側の船に投げ込まれている。そしてたいまつが、ランプが、投げつけられると甲板上に炎が立ち上がる。
船縁の低いガレーからキャラックやナオに乗り移るのは難しい。
時間がかかる。
その間、簡単に油壷を投げ込むことができる。投げるだけでいい敵と、ロープを上らなくてはならない味方。
差は歴然だ。
しかも、一度火が付けば、船に乗り移ることよりも消火に気を取られて攻撃をやめるしかなくなる。
ロープを離して、敵船から離れたあとで消火にかかりきりにならなくてはならない。
こちらの船が何隻か戦闘不能に陥った。
「戦い慣れた海賊のようです」
それを見ても、ルグリオは淡々としている。
戦闘をしていれば、こんなことはよくあることだと言うように。
いや、実際そうなのだろう。
なんの力もない市民を、脅すくらいしか能がなかった北側の海賊と違い、南側の海賊は戦い方に熟達しているわけだ。
このところ、とんとん拍子に物事が進み過ぎると思っていたが、ここにきてとうとう楽をさせてもらえない敵とぶつかったわけだ。
それでも、手数はこちらの方が多い。
単純に戦闘艦の数が違う。
サンブルート旅団が飛び込んだキャラックはすでに制圧され、甲板に少数の捕虜と一山いくらにまで価値を減らした肉の山が連なっている。
敵の他のキャラックもすべて、二隻で挟み込んでの挟撃に晒されていた。ナオも五隻までがキャラックとナオによる挟撃を受けていて、三隻はナオ二隻か三隻に囲まれている。
ガレーは言わずもがなだろう。
その様子を横目に、ボサダ戦闘艦船団が港へと向かっていった。
そのほとんどがヌットゥリーアだという輸送船の取りまとめを、マリーゼに依頼してある。マリーゼの話では船での仕事をさせる限り、喜んで働くだろうとのことなので、輸送船団は難なく手に入りそうだ。
水上戦がひと段落着いて、大公の拠点を一つ手に入れられたらフエルォルトの独立国化を進めるつもりだ。予想・・・というか期待どうりの状況なら、希望者を募って住人候補を輸送船でどんどん送り込む。
輸送船は一隻でも多い方がいい。
大公の強制収容所への攻撃を後回しにしているのもその辺に理由がある。闇雲に人間を抱え込むのは食料や住環境から言って無理だから。
戦況はすでに終息に向かいつつあるようだ。
見ていると、半分焼けたり沈んだ僚船から乗組員を救出して、定員を超えているガレーと制圧の済んだ敵のキャラック、なんかも港へ向かい始めている。
とくに、船内の戦闘を終えて暇になったサンブルート旅団を乗せたキャラックは、猫に追われるネズミのような速さで港に向かっていた。
地上戦を期待したファルレや、姉に負けたくないフファルが水夫の尻に血で濡れた剣を当てて急かしているのだろう。
全体としての勝利は揺るぐことがなさそうだ。
「ここの海賊は、なにで儲けていたのかな?」
敵船が続々と制圧されて港に向かうのを見送りながら、誰に聞くともなくつぶやいた。
答えは期待していない。
でも誰かが応えてくれるだろう。
「通行料を取っていたのではないでしょうか?」
答えたのは意外にもルグリオだ。
船団全体の責任者なのに、どこか暇そうだ。
奥の方でイクザームが部下たちに声をかけている。
通常の仕事であれば、副指令で充分。副指令の手に余るような判断が必要なときに、決断を下すのが最高司令官の役目。そんな感じなのかもしれない。
「元水運中継地なら、そういうことも可能か。でも、陸路が整備された今、水運の需要って多いのかな?」
「漁船なども通りますし。そもそも海賊は楽をして食って寝ていたい人間か、人殺しが趣味の人間がなるものです。食べて寝ていられて、たまに人殺しができて、女が抱ければいい。その程度の儲けがあればいいのなら、充分でしょう」
ちょっと評価が極端な気もするが、大方は正しいと思う。
そういうことなら、確かに充分だっただろう。
だからこそ、造船町を支配していた海賊の罠にはまらなかったのだ。無理して勢力を拡大しなくても、楽に暮らせるから。
「海賊の最後の船が降伏しました」
ザフィーリが報告してくる。
どうやら水上戦は終わったらしい。
つまり、この港も僕のものになったということだ。
でも・・・。
「今回は、さすがに無傷とはいかなかったな」
何隻か船を沈められてしまった。
「『少女』、『幻』、『雲隠』、『匂宮』、『竹河』、『椎本』が沈められました。火が着いたものの消し止めた船も何隻かあります。修理が可能かどうかで、損失はさらに増えるかもしれません。人的損失については・・・港に着いてから確認しないと何とも言えません」
僕の言葉に即座に反応して、シアが教えてくれた。
今のところ、そういうことを記憶して把握しておくのはシアの仕事になっている。いずれは秘書官をつけたいところだ。
「ガレーばかり六隻か。やはりガレーはあまり使い勝手がよくなさそうだ」
「風がなくても動かせるという利点は得難いものですが、風がある程度吹くような場面ですと、そうなりますね」
ルグリオの同意を聞いて、僕は水軍の再編成の必要性を胸に刻んだ。もっとも、それをするのは、もう一つの海賊団を潰してからだ。
「一度上陸して、状況を整理しよう。できれば明日、最悪でも明後日には次を片付ける」
「それがよいでしょう」
旗艦『朝日』が港に停泊し、上陸する。
予想はしたが、地上戦はすでに終わっていた。
ここでも血気盛んな海賊は最前線の船にいて、すでに全員死体になっていたからだ。
陸に残っていたのは、大概がそういう海賊に虐げられていた下っ端や、市民に過ぎなかったのだ。
大概以外には人殺しの得意なごろつきとか剣士とかもいたようだが、そういうのはファルレたちの大好物だ。切り刻まれて死んだらしい。
わざわざ死体改めなんてする気もないので、話でしか知らないが。
失ったガレーは十一隻にまで増えた。
新たに『常夏』と、『帚木』、『賢木』、『須磨』、『明石』が修理不能であることが分かった。
『常夏』以外はボサダ戦闘艦船団の所属だが、敵に追われているときに逃げ遅れて銛を撃ち込まれたのだそうだ。
「銛!?」
思わず叫んでしまった。
そんなものがあるとは予想していなかったからだ。
だけど考えてみれば前世世界でも、捕鯨船とかにはそういうのが付いていたことがあったはずだ。この世界の技術でも作ることは可能だろう。
長さが二メートルもある先端を鉄、残りは木材で作られているものだ。
原理は弓矢と同じ。
反発力の高い素材で弦を作り、銛を固定して引き絞る。その状態で固定しておき、タイミングを計ってレバーを引くと、銛が飛ぶ仕組みだ。
弓矢と言うより、クロスボウというべきだろうか。
中世程度の技術力と、軽く見ていたがなかなか侮れないもののようだ。
そのかわり、輸送船は倍増した。
とりあえず浮いてます。というものも含めれば二十数隻ほどあるらしいが、使用に耐えられる船は十七隻。元々あった十五隻と合わせて三十二隻になった。
結構な数が揃ったと言っていいのではないだろうか?
名付けが大変だが、そんなことは苦にもならない。
人員も手に入った。
マリーゼの指摘通り、船から離れるのが嫌でとどまっていたヌットゥリーアが四千人。中継地として華やかなりし頃に労働者として連れてこられていたが、王国滅亡時に放置されたエスクラーヴェが三千人。海賊に支配されていた船大工や商人崩れの市民が二千人。
九千人ほどが僕の支配下に入ったことになる。
港が一つ丸々手に入った割には少なすぎる数だが、中継地としての役割を失い、海賊に支配されていた割には多い。
人数的には勢力が倍になるような数だ。
船の損失は仕方がないこととあきらめがつく。
新しい船が手に入っているし、足りなければ作ればいい。
だが・・・。
「人的損耗ですが、全体で死者は三百八十四。一か月以上戦闘への復帰が不可能であろう重傷者が八十二。一か月以内に復帰可能な軽症者は今回も数えていません」
死んだ人間だけはどうにもならない。
なるべく死人が出ないようにしているつもりだが、まったくなくすことはできない。
戦っているのだ。犠牲が出るのは仕方がない。
降伏した海賊は、今回も首実検をして評判の悪すぎる者は処刑。自ら進んで協力を申し出た者たちは監視付きで迎え入れた。
八百人くらいは味方として組み込めそうだとの報告を受けている。
港湾施設はほぼ無傷だ。
海賊も自分たちの船のメンテナンスには気を使っていたらしい。
船大工たちが、きちんと使えるように維持管理を続けるのを許容していた、その程度には。
ただ、住宅―――特に金持ちや商人の家―――は廃墟と化していた。
引き剥がせるものは壁紙まではがして売り飛ばしたものだから、建物としては残っているが使い物にならない状態になっているらしい。
どこかの馬鹿が、天井から吊るされたシャンデリアを梁ごと切り落としたとかで、崩れかけている建物もあるというからひどいものだ。
そんな状態なのだ。
危険だということで、僕は視察に行かせてもらえなかった。
「明らかに使えない建物は解体して、資材に転用できるようにしてもらう。浮いてるだけとかいう輸送船の成れの果てにでも積んで、アルテサノまで曳舟で曳航すること。街の解体と縮小に応じて、人員もアルテサノに移す」
街を歩くことを禁じられたので、僕は不貞腐れながら今後のための指示を街の代表者たちに伝えておく。
ヌットゥリーアの代表団と、船大工のギルドなどが主体となって、街の住民を統率する形を作り始めているようだ。
こういうのが、いずれ派閥を産む温床になるのだろうが。
今はそれについて批判している余裕はない。
派閥の干渉や意地の張り合いなんてものは勘弁してほしいが、人間とは群れを作るものだ。今はまず、それぞれの団体の統制が取れてさえいればいい。全体をまとめるのは、国家・・・そこまでいかないまでも都市にくらいまでなってから考える。
「まぁ、ここに残るよりはましでしょう」
アルテサノに移すことを伝えたのに対する、住民たちの反応は大方そんな感じだった。
数年にわたって海賊の下でこき使われていたのだ。今より悪くはならないだろう、そう考えてくれているようだ。
本格的な査定はサティオ達待ちとして、ともかく廃墟の解体を頼んでおく。輸送船の成れの果ては一応壊れないことを確認してから、資材をのせて曳航するようにした方がいい。
これは船大工とヌットゥリーアで話し合ってもらえばいいだろう。
カナルナールのことは、とりあえずそれで良しとする。
次に水軍だが、これも本格的な再編成はもう一つの海賊を叩いてからだ。
とりあえず、奪い取ったキャラック・六隻、ナオ・八隻、ガレー・二隻に船を失った者たちをのせることにした。
船が変わることに、どれほどの影響が出るかをマリーゼに確認してみたが、漕ぎ手をしていたエスクラーヴェが船を降りることになる以外は大きな変化はないそうだ。
ヌットゥリーアの船員は、ガレーだろうとキャラックだろうと関係なく動かせるし、戦闘員は乗っているだけなのだから問題ない。
戦闘のとき、ロープを上らなくてはならないか、渡り板を渡して直接斬り込めるかの違いが出るくらい。
難しくなるのではなく、楽になるのだから大丈夫だろうというわけだ。
残ることになるエスクラーヴェには、街の解体を手伝わせればいい。
仕事はいくらでもある。
船はすぐにでもまともに動かせるというのだから、心配いらない。
ともかく、名前も付けた。
ルールは決めてある。
そのルールに則って残っている名前を割り振るだけなのだから、難しくはない。
すぐに済ませた。
船名を彫り込んだ板を張り付けるのは船大工がやってくれたので、時間もかからない。
夕暮れまでに、作業は終わった。
キャラック・六隻。『夕陽』、『仄日』、『天日』、『天道』、『日輪』、『日華』。
ナオ・八隻。『既満』、『立待月』、『居待月』、『臥待月』、『寝待月』、『更待月』、『下弦』、『朝月』。
ガレー・二隻。『野分』、『行幸』。
乗組員の編成は、ルグリオとマリーゼ、イクザームがやってくれた。
船が沈んだとはいえ、指揮系統はそのまま残っている。それを少し入れ替えたり合わせたりして編成を済ませたらしい。
実際に何をどうしたのかはわからないが、問題なく統率できるとの報告は受けた。
それで充分。
明日の昼過ぎには出港できる。
カナルナールを出港した船団は、さらに南下した。
目的の港はペスイッシュ。
かつては良質の漁港として有名だったが帝国の侵攻のときに漁船がすべて焼き尽くされたため、ほとんどの漁師が廃業した。
今やその面影はない。
水上を軽快に走る旗艦『朝日』の甲板上に、僕は立って船の行き先を見つめていた。
海藻のにおいが濃くなる。
潮の香りがする。
このまま南下し続けると、行きつく先は海だ。
流れのほとんどないこの河のこと、この辺りは一部海水が混じった汽水になっている。
それだからこそ、良質の漁港があり得たともいえる。
海水と真水、両方の魚を取れる希少な水域なのだ。
「提督。こたびの会戦の作戦を、そろそろお聞かせいただけますか?」
もうじき、港そのものが見えてくる。
それくらい進んだところで、水軍指令ルグリオが聞いてきた。
この海賊団の頭が、ライムジーア・エン・カイラドル。ラインベリオ帝国皇帝の一子にして帝位継承権18位の皇子だというのは、幹部たちしか知らないことなので皇子と呼ぶことはできない。
かといって、仮にも皇子を―――子供を―――お頭! とか呼ぶのもどうか?
ということで、彼女の中で僕の呼び方は提督に決まったらしい。
まぁ、そのあたりが妥当なところではあるだろう。
「まずは旗艦『朝日』を先頭に置き、すぐ後ろに『初音』と『胡蝶』を配して港の入り口まで船団を進める。敵船団がこちらに気付いて迎撃に出てきたなら、前線を左右に広げて包囲陣を布いてくれ。その上で、降伏を勧告する」
「降伏勧告、ですか?」
「そうだ」
現在、こちらの船団はキャラック十九隻。ナオ、二十七隻。ガレー船、二十九隻。総勢、七十五隻の大船団だ。
横に一列に並べれば相当の威圧ができるはず。
まともな思考力のある奴なら、戦おうとはしないだろう。
今なら、ここまで勢力が拡大した今なら、降伏勧告という交渉も可能なのではないか?
成功すれば、双方無傷で戦いを終わらせられる。
失敗したとしても、それが理由で不利になることなどない。
せいぜいが、一度姿を見せることになるわけだから、不意打ちの奇襲ができなくなる。そのぐらいのこと。
何ら問題はない。
「そりゃぁ、のってくれれば万々歳ですが。のらなかったらどうします?」
「そのための『初音』と『胡蝶』だよ。もし難色を示すようなら、敵の旗艦にサンブルート旅団を送り込めばいい」
降伏勧告をすれば、相手の動きで旗艦を特定できるはずだ。
そこに彼女等を送り込んで頭を潰す。正規の軍隊ではない海賊のことだ。指揮系統の円滑な継承ができるとは思えない。
各船ごとにばらばらになるだろう。
降伏する者もいれば逃げ出す者、自棄になって突撃してくる者も出る。
どうなるにしろ、圧倒的な数を有しているこちらは、落ち着いて対処できる。
「ここの海賊は、海賊と言いつつもあまり戦闘をした話を聞かないそうだしね」
そう。
ここに来るまでに、他の海賊の降伏者から情報を収集していた。
それによれば、ここの海賊は漁で食っていけなくなった漁師が大半であるらしい。
危険な犯罪者でないなら、僕の領民候補。
殺戮は避けたい。
港の入り口に『朝日』を入れた。
海賊船団がゆっくりと船着き場を離れて向かってくる。
船種はナオばかり十五隻だ。
撃破するのに難はない。
ルグリオの合図で、僚船が左右に展開していく。
『朝日』の左右に『初音』と『胡蝶』が付き、キャラックが並び、ナオが並んで、ガレーが広がる。港を完全に封鎖して見せた。
敵の船団が、微妙に崩れていく。
何隻かが、明らかに速度を落とし始める。
手旗信号が送られ、降伏勧告がなされた。
「統制が取れなくなったようですね」
ザフィーリが呟くように言った。
眼前の船団が、船団としての形を失っている。
六隻が帆を畳んで停戦した。
三隻が港に引き返していく。
六隻が速度を上げて進んできた。
その六隻のうち二隻が途中で慌てたように針路を変え、次いで、帆を畳んで停戦した。
残ったのは四隻。
「ああ。仲間割れしてますよ」
その四隻の甲板上で争いが起きているのを見て、ルグリオが頭を振った。
やがて、二隻から火が出た。
黒い煙が上り始める。
残る二隻は、なにかを振り切るかのようにさらに加速して迫ってきた。
「自棄になっているようです」
そうらしい。
「・・・仕方ないな。『初音』と『胡蝶』に信号。『攻撃を許可する』と」
信号を受け取るや否や、二隻のガレー船が突っ込んでくる敵を出迎えに行った。
勝敗が決するのに時間はかからなかった。
ただし・・・。
「チッ!」
舌打ちが出た。
勝敗がほぼ定まったところで、二隻から火の手が上がる。
巻き添えにして自沈しようというつもりらしい。
「サンブルート旅団を撤退させろ!」
怒鳴ったときには、彼女等は慌ててガレーに戻り始めていた。
そして・・・。
「仲間割れしていた船と合わせて四隻が沈んでしまいました」
ルグリオが溜息混じりに報告してくる。
僕も溜息が出た。
「降伏してきた船に兵を送って接収、港に停泊しだい面接を受けさせてくれ。危険がなさそうなら、監視付きでだけど解放していい」
降伏してきた海賊への、いつもの対応を命じた。
「了解」
ルグリオとザフィーリが異口同音に答える。
中規模海賊の討伐は、これで終了した。




