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水上戦

 元が付くとはいえ、正真正銘の水軍を手に入れた。

 造船所も手に入れた。

 さぁ、ここはじっくりと基礎を固めよう。

 僕はそう考えていた。

 そもそも、ここ数週間は激動過ぎた。

 戦力が雪だるま式に増えている。

 一度整理する必要があった。

 それなのに。

 「・・・もう一度、言ってくれるか?」

 「海賊が攻めてきます」

 頭を抱えたくなった。

 戦闘はまだ続くらしい。

 「どういうことか説明してもらえるかな?」

 「もちろん。と言っても大して難しい話でもありませんけどね」

 ルグリオはそう言って軽く肩をすくめると、真顔で説明してくれた。

 造船所を占領していた海賊は、もっとずっとでかい海賊団傘下の小規模海賊団だということだった。

 なるほど。

 それだけで僕は納得した。

 ブエルハーフェン水軍の残党を押さえつけていたにしては、ずいぶん不甲斐ない海賊どもだと思ってはいたが、何のことはない。

 管理を任されていただけの小物だったからなのだ。

 今回のことは、その小物どもが上から押さえつけてくる大海賊を出し抜こうとして、近場の海賊の勢力を自分たちの下に置こうと考えた結果の、暴挙であったらしい。

 造船所が稼働中であることを情報として流して、攻めてくるのを待つという罠だ。

 数と質で勝てると踏んでのものだったのだろう。

 結果としては自分たちの支配力のなさが露呈して大敗となったわけだが。

 「だから、近場の海賊が・・・どのくらいいるか知らないけど襲ってくるだろうし、元々ここを抑えてた大海賊もそのうち戻ってくるでしょうね」

 ろくなことを考えない奴らだ。

 まぁ、だからこそ下っ端海賊団だったのだろうが。

 おかげで造船所は僕のものになったわけだし。

 「って、まてよ?」

 なにか嫌な感じのイメージが浮かびかけて、僕は考え込んだ。

 なんか悪いことが起こる気配がある。

 「戦闘艦だ」

 ひび割れた呟きが漏れた。

 気配の理由に思い当たったのだ。

 「なんですか?」

 不思議そうにルグリオが小首を傾げた。

 「戦闘艦だ。我々の戦闘艦がいま、ここに向かっている。今この瞬間にも攻め込んでくる海賊がいるとしたら、鉢合わせする可能性がある」

 「それは?! ・・・まずいですね」

 「まずすぎるよ!」

 「すぐに出ましょう。迎えに行くんです!」

 ルグリオの両手が丸テーブルに叩きつけられた。

 古くなり、手入れもさしてされていなかったテーブルがきしんだ。

 「あ・・・」

 いや、折れた。

 支柱が折れて、天板が倒れる。

 大袈裟な音が響いた。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 数秒の沈黙。

 バタン! 勢いよく扉が開いて、エレヴァとシアが駆け込んできた。

 寸鉄も帯びないメイド服。スカートの裾をつまんでいるだけに見えるが、僕とルグリオが争っていたなら、すかさず刃物が飛び出しているところだろう。

 メイドドレスのスカートの下には、巨大な秘密が隠れているのだ。

 問題ない、と。

 片手で制して、ルグリオに視線を戻す。

 「行けるのか?」

 一晩中陸戦を繰り広げたばかりだが。

 「これでも軍人ですよ?」

 愚問だったようだ。

 「僕も行こう」

 そう言って、シアに顔を向ける。

 「ザフィーリとリンセル、ヴェルトとガゼットを呼んでくれ。船で出撃だ。シア、君もだよ」

 エレヴァには視線ひとつで、掃除と居残り組の兵たちの内情偵察を頼んでおく。

 サティオには施設の状況把握の仕事がある。

 すでに稼働しているもの、軽く整備すればすぐに使えるもの、補修が必要なもの、どうしようもないもの、その見極めをして効率よく作業にかかれるようにする。

 文官の彼女には今こそが戦闘中だ。

 「はい。すぐに」

 シアが一礼している間に、ルグリオが部屋を出て行った。

 部下を集め、船の出港準備を整えるのだろう。

 

 「まだ敵がいるらしい。僕はルグリオたちとマリーゼたちの迎えに出る。ザフィーリとリンセル、シアには僕の護衛としてついてきてもらうよ」

 幹部が集まったところで簡単に事情を説明した。

 「承知しました」

 「わかったのにゃん」

 この二人についてはついてくるだけだから特に指示はいらない。

 問題は、残りの二人だ。

 「ヴェルトとガゼットは造船所を頼む。陸上からの攻撃もないとは言えないから防御をしっかりね。と同時にできるだけ施設の整備も進めておいてほしい」

 ちょっと無茶ぶりかもしれないと思いつつ頼む。

 彼等は役人でも軍経験者でもない。

 一介の市民指導者とその弟でしかないのだ。

 戦闘種族の獣人という特性はあるにしても。

 「わかってるニィよ。ちゃんとやっておくニィ」

 「任せるがいいにゃぁよ」

 簡単に引き受けすぎてるところに、若干の不安があるがしかたない。

 「頼む」

 言葉少なに指示をして、波止場に向かった。

 ルグリオが出港の準備を整えて待っていた。

 ブエルハーフェン水軍の船は、さすが軍船と言うべきか大きかった。

 キャラック級というところだろうか。マストも三本ついているし、威容を誇ってる感が半端ない。

 それが五隻。

 あとはそれより一回り小さい船・・・ナオ級が八隻だ。

 数は少ないが大きい。

 ガレー船を駆逐艦としたなら、ナオが巡航艦、キャラックが戦艦というところだろう。

 乗せられる戦闘員の数はキャラックが二百八十、ナオ百六十ほどだろうか。

 「すぐに出ます。乗って」

 ルグリオが手を振っている船に駆けつけて乗り込んだ。

 乗り込むとすぐに渡り板が外されて、錨があげられる。

 水夫たちが鎖を引くと鉄の軋む音に混じって、鉄錆びの臭いが辺りに広がった。

 船が帆に風を受けて湾内を移動していく。

 曳舟の全チームもついてくるつもりのようだ。

 ブエルハーフェン水軍の船団の左右に分かれて、速度を合わせて移動している。

 乗せられるだけの兵員も乗せているようだ。

 湾の外から見る造船所は、上流を短い半島、下流を長く上流側に沿った形の半島に挟まれた入り江に作られているのが分った。

 もし、伊能忠敬的な人がこの世界にいて、正確な地図が作られたなら左を向いたカブトムシの頭のような地形が描かれるだろう。

 「いたにゃん!」

 リンセルが叫んだのは、そのカブトムシの角を左舷に見ながら本流へと下ろうというところだった。

指差された方向を見るが、水平線の上に黒いごみが浮いているようにしか見えない。

 「間違いないのか?」

 「間違いないにゃん。でも、おかしいにゃん。先頭にいるの『桐壺』じゃにゃくて、『鈴虫』にゃん」

 ・・・うちの戦闘艦だと見極められるだけじゃなくて、この距離で船名まで見分けがつくのか?!

 どんだけ目がいいんだよ。

 でも、助かる。

 「『桐壺』というのはなんですか?」

 「うちの戦闘艦船団の旗艦だよ。普通なら先頭にいるはずだ。どうして『鈴虫』なんだろう?」

 ルグリオが聞いてくるので、何気なく答えたのだが、その答えを聞いた途端。ルグリオが顔色を変えた。

 「すでに、戦闘状態にいると見た方がよさそうです。船団の責任者なら、乗艦を最後尾につけて敵の攻撃から僚艦を守ろうとします」

 「そういうことなのか!?」

 つまり、後方から追われているのだということになる。

 ・・・くそっ!

 「でも、なぜ『鈴虫』なんだろ?」

 旗艦が指揮できなくなったときには『花散里』か『横笛』が代役を務めることになっていたはずなのだが・・・。

 まさか、すでにその三隻か二隻がやられていて、最後の一隻が最後尾にいるとかか?

 「『鈴虫』には獣人が乗っているのにゃん」

 そういって、リンセルが大きく手を振った。

 ヌットゥリーアの人数が足りなかったのと、ザフィーリの部下は今回全員造船所攻略に回していたので先の戦いで負傷していた獣人をのせるとは聞いていた。

 乗せた船というのが『鈴虫』だったようだ。

 「こっちに気付いたにゃん」

 なるほど。

 見張りと通信のためか。

 司令部が全滅したと決まったわけでもなさそうだ。・・・全滅しているという可能性も十分にあるわけだが。

 「リンセル。敵の船は見えるか? 船の大きさを知りたいんだが」

 「んー、よく見えにゃいにゃん。でも、一隻はこの船と同じ大きさにゃん。マストの高さが他のより高いからわかるにゃん」

 一隻は、となると他の船はガレー船とほぼ同じと見ていいだろうか?

 それなら、曳舟でもなんとか勝負になるが。

 この世界の船同士の戦いは砲撃戦ではなく、剣による斬りあいだ。

 勝敗を分けるのは船の大きさや火力ではなく。乗り込んでいる戦闘員の数になる。小さい船でも何隻か集めて、各個撃破されないように斬り込むタイミングを合わせれば、勝負できる。

 「リンセル。向こうの船の獣人はこの距離で手旗信号が見えるか?」

 「見えるにゃん!」

 自信たっぷり、両手を挙げて笑顔を見せた。

 「でも、意味は知らないと思うにゃん」

 とおもったら、しゅん、とうなだれる。

 「問題ない。ルグリオ、信号手を貸してくれるか? ・・・手旗信号って同じだよね? 種族とか所属で変えてたりする?」

 水夫の使う手旗信号は、共通のはずだ。

 そうでなければ災害時など、いざというときに意味をなさない。

 ・・・と思うんだけど?

 「軍用のは国家間で違いますよ。俗にいう暗号が入りますから。でも、基準となる信号は、仰る通り共通です」

 「よし。では、頼む」

 「わかりました」

 ルグリオの合図で、一人の水夫が僕の前に立った。

 一生懸命に手を振って、リンセルが『鈴虫』の獣人の注意を引いている。

 「進路を右に10度変えろ」

 僕がした命令を、まず信号手が手旗信号にする。

 その信号を、リンセルが即座にまねる。

 これだけではもちろん、向こうには伝わらない。

 獣人にはこの光景が見えているにしても、信号の意味が分からず、向こうの信号手にはこちらの旗が見えないから。

 でも・・・。

 数回、やっていると、向こうも理解してくれたことが分かった。

 「あっちも旗持って、まねしてるにゃん」

 そう。

 向こうの獣人が、こちらの信号手のまねをして、それを向こうの信号手が読む。

 これで、こちらの言っていることが伝わる。

 逆に向こうから何か言うときは、信号手が旗を振るのをリンセルがまねをして、こちらの信号手が読む。

 これで意思は伝わる。

 ・・・すごく面倒だけど。

 やがて、向こうの味方船団は少しずつ右に―――こちらから見て左―――に曲がり始めた。追いかけてくる敵から見れば、陸に接舷して船を捨てて逃げようとしている。

 そんな風に見えているはずだ。

 この辺りの海岸線には砂浜がない。切り立った石の崖が続いていた。

 ちょうど船縁から降りられるような高さだから、それができる。

 船底を擦るような岩場がなければ、だが。

 「・・・なんか、減ってるにゃん」

 味方の船団を見ていたリンセルが肩を落とした。

 何隻かいなくなっている船があるらしい。

 胃がキリキリと痛むが、これは仕方ない。

 「味方の損失は今はしょうがない。時間は戻らないんだから。今は、もうこれ以上減らさないことが重要だ。リンセル、敵の数は?」

 自分自身に言い聞かせるようにして、リンセルを励ます。

 「わかったにゃん」

 小さく息を吸い込んで、リンセルが敵に目を向けた。獲物に狙いを定めた猫の、少し怪しい目つきがリンセルの可愛らしい顔にダブって見える。

 「にゃっと・・・キャラック・・・三隻もいるにゃん! それとナオ・六隻、ガレー・十隻にゃん」

 こちらの戦力に比して弱い感じがするが、そもそもこの海賊は造船所にいた海賊が、ブエルハーフェン水軍の戦力で倒せると踏んで罠にかけた相手だ。

 ブエルハーフェン水軍の戦力を上回る敵であるはずはない。

 ただし、ボサダの戦闘船団を殲滅するには十分だ。

 なにしろ、今、あの戦闘艦船団には戦闘員が乗っていない。

 乗っているのは職工三百人だけだ。

 造船所での作業に有用だと思ったから、連れてくるように命じていた。

 この三百人を各船に分配して乗せ、あとは船を運営させるためのヌットゥリーア数名と、漕ぎ手のエスクラーヴェが乗っている状況。

 戦闘ができるような状態ではない。

 「勝てるかな?」

 こっちの戦力で計算するなら、こちらが断然有利になる。

 「こちらが間に合えば、そうともいえるでしょう。ですが・・・」

 敵船団と味方の船団の距離、そして自分たちの船団と敵船団との距離を見比べて、ルグリオは顔をしかめた。

 「河の流れを利用していて風向きと風力も良好・・・ですが、少しばかり遅れそうです」

 敵が先に味方の船団を捕らえて攻撃すれば、船は虐殺の場となりかねない。そうなったら船は取り戻せても、人員の多くを失う結果になるだろう。

 「できるだけ、急いでくれ」

 歯を食いしばったまま、そう頼むことしかできなかった。

 「はい」

 ルグリオの返事も短く平坦だった。

 ゆっくりと事態は進み、ついに味方の戦闘艦船団は陸に張り付くような形になった。敵の船団が押し寄せていくのが見える。

 せめて、敵がこちらの存在に気が付いてくれれば・・・。

 そうすれば、襲撃を諦めて逃げてくれるかもしれない。

 しかし、敵の見張りは目の前の無防備な獲物ばかりを見て、周囲の監視を怠っているらしい。まったく気付く様子がない。

 だが・・・。

 「船に乗っている者たちが陸に逃げ込む時間はありそうだ。船は奪われるかもしれないが、人員は助かってくれるかもしれない」

 ホッとする。

 船はまた奪えばいい。

 なんなら作ってもいい。

 でも、人員はそういうわけにいかない。

 さあ、今だ!

 みんなうまく逃げるんだ。

 出て来い!

 走れ!

 敵の船も接舷していく。

 陸や船に。

 だというのに・・・。

 「なぜだ!?」

 そう叫んだのが自分だと知って驚いた。

 声がおそろしく震えていたのだ。

 陸に接舷した味方艦から、一人も逃げ出す者がいない。

 運命を待ちわびる殉教者のように、誰も出てこない。

 船と運命を共にしようとでもいうのか?

 マリーゼが言っていた、船の上で死ぬことに固執してでもいるのだろうか?

 エスクラーヴェも道連れにして?

 ・・・よせ、馬鹿なことはするな。逃げろ。

 敵の船が重なって、味方の様子が見えなくなった。

 焦燥感で爆発しそうになる。

 だが、あそこで何が起きているかを知ることができるのは、こちらも戦場に到着したときで、それがなんであれ起きたことが終わってしまった後のことになるだろう。

 もう、僕にできることは、その時に突き付けられる事実を受け入れるために、心の準備をしておくことだけだ。

 結果は、見えている。


 「ふみゃあ!」

 あと少しで、陸に接舷した敵のケツに手が届く。

 赤い旗に、鳥のシルエットが描かれた旗がはっきりと見えてくるまで近づいたところなのだ。

 そこで、リンセルが悲鳴を上げた。

 「別の敵にゃ!」

 陸に接舷している敵のケツめがけて突き進んでいた我々を、鏡で映したように、下流側から別の海賊が進んできた。

 河が少し蛇行していたらしい。

 もう旗を、黒に髑髏が白く染め抜かれた旗を、はっきりと視認できるところにいた。

 艦数はキャラックが五隻、ナオが五隻にガレーが六だ。

 陸に寄っている船団を包囲したかったのだろう。艦隊の陣系が三日月形に湾曲していた。

 ガレーとナオが側面を固め、キャラックで押しつぶす、そんな計画だったのかもしれない。わかりやすい作戦だ。

 顔の横に視線を感じて、振り向くとルグリオと目が合った。

 無表情で僕を見ている。

 僕の判断を待つつもりでいるらしい。

 「陸に接舷している方は後回しだ。まずは目の前の敵を撃破する」

 向こうはどうせ、いまさら僕たちにできることはない。しかも、一度陸に接舷してしまえば、そこから再び動き出す間は隙ができる。

 わざわざ不利な体勢―――敵に腹を見せる体勢―――になってやることはない。

 「この船は矢戦の準備はあるのか?」

 ふと思いついて聞いてみる。

 こここまで、僕たちは弓矢の準備がなかったからずっと斬り込みだけで戦ってきた。だが、これは『水軍』だ。準備してあるのではないか?

 「もちろんです」

 当然、とうなずかれた。

 「よし。全船一列に並んで、黒い旗の艦隊を左に見る角度で進め。敵は接舷しようとしてくるだろうが、その外側をスレスレですれ違うんだ。まずは弓矢で数を減らすとしよう」

 妥当な指示だ。

 少なくとも僕は、そのつもりだった。

 それなのに、ルグリオの顔に浮かんだのは当惑だった。

 「動きながら、ですか? 通常、矢での戦いが行われるのは、お互い止まっている状態です。風が弱くて、接舷しようにも動けないような場合に行います」

 なんだそりゃ?

 今度はこっちが当惑する番だ。

 だが、その状況を想像してみて、ルグリオの言っていることが分かった。

 つまり、この世界での弓矢というのは、斬り込みに行くに行けない間の暇潰しにしか使われていないのだ。

 彼等は必死に戦っていて、暇潰しをしているつもりはないのかもしれないが、事実としてはそうなる。

 道理で、船にも拠点にも矢の貯えがないわけだ。

 「弓矢の数は? どれくらいだ?」

 だとすると『当然』と言っていても、その内容は信用ならないことになる。

 「弓は一隻につき百です。矢は五百ほどになります」

 すくな!

 期待していた半分以下だ。

 「わかった。全船左舷に弓矢隊を並べろ。狙うのはキャラック二隻だ。すれ違いざまに撃ち込んでやれ」

 「了解」

 まだ少し当惑の表情をしてたが、命令には従った。

 「リンセル、ガレー船の漕ぎ手は海賊だと思うか?」

 普通に考えれば、海賊が漕ぎ手をやっているはずはないのだが、一応確認を取った。

 「手に鎖が付いてるにゃん。奴隷だと思うにゃん」

 やはりそうか。

 うれしくて、リンセルの頭を思わず撫でてしまった。

 セクハラかパワハラだが、残念。この世界にはまだその概念がない。

 「ザフィーリ、曳舟にガレー船を攻撃するように伝えろ。ボサダでやったやつだ」

 「わかりました」

 準備を整える間に彼我の距離は縮まった。

 敵の指揮官も僕と同じ判断をしたようだ。陸地に接舷したままの船団を無視して突っ込んでくる。

 向こうはすれ違う気がなく、乗り込んでくる気満々だ。

 「往来激戦用意!」


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