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ご当地ヒーロー、大地に立つ

 西暦2015年。

【大空町】の上空に、突如として巨大な【穴】が開いた。

 日本政府はこの正体を調べるために調査隊を編成するも、穴から出現した一体の【怪人】により壊滅させられてしまう。

 怪人は、自らを異次元よりの侵略者【スカイデビル】の一員だと名乗り、辺りに破壊を撒き散らすと、また穴の中に戻って行った。

 事態を重く見た日本政府は、新たな防衛機構としてBoundary Defense Organization(境界防衛機構)──通称【BDOブドー】を設立。

 スカイデビルの侵略に備えた。

 

 2016年。

 BDOは劣勢を強いられていた。

 穴から出現するスカイデビルの怪人たちは、未知の技術によって空を自由自在に飛び回り、完全に制空権を支配していたからだ。

 BDOの対空砲撃も、アメリカ空軍の戦闘機も、まるで歯が立たなかった。

 このままでは、いずれ世界中の空はスカイデビルに支配されてしまう。

 そう絶望するBDOの前に、協力者が現れた。

 スカイデビルに滅ぼされた、【別次元の地球】唯一の生存者である、【藤岡和弘】だ。

 藤岡は、スカイデビルの母艦【ヘル・スター】に忍び込み、復讐の機会を狙っていたのだ。

 そして、彼らの技術の要である、無限のエネルギーを生み出す宝珠【スカイコア】を盗み出すことに成功した藤岡は、ヘル・スターを脱出後、BDOに接触してきたのだった。

 BDOは『どんな犠牲を払ってでもスカイデビルを倒したい』という藤岡の意を受け、彼の体にスカイコアを移植した。

 そして、スカイデビルの技術と現代科学の粋を結集させ、正義の改造人間【スカイジャスティス】が誕生したのだった。


 2017年。

 スカイジャスティスは戦い続けていた。

 幾つもの出会い、幾つもの別れを経験し、何度も傷つき、倒れながら。

 だが、スカイジャスティスはその度に立ち上がり、スカイデビルの怪人たちに勝利し続けていた。

 そしてこれから先も、彼の戦いは続いていく。

 スカイデビルの野望を打ち砕くその日まで……。



─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ 



 ………ラヴの話を要約すると、こんな感じかな?

 ふーん、俺、異次元人で、しかも改造人間なんだ。

  

 っておい!


 おいおいっ!


 ラヴの記録にある現実・・の話が、あまりに突拍子もなさすぎて、俺は思わず心の中で三回もツッコミを入れてしまった。



「異世界転移と同じくらいファンタジーじゃねぇか……」

 


 俺の記憶にある現実・・とは、あまりにも大きくかけ離れすぎている。

 


「……正直、俺はラヴとかこのスーツは、この世界に来たことで現実になったんだと思ってたよ。なんの根拠もないけど、なんていうかな、全部まとめて一つの不思議な出来事なんだと思ってた」


《ラヴ:マスターの記憶を確認する限りでは、その認識で間違いないと思います》


「でも、ラヴはラヴで全く別の記憶…ていうか記録を持っているんだろ? ……ほんと、訳が分からんな」


《ラヴ:仮定することはできます。

仮定1─マスターの記憶が正しく、私やスカイジャスティスの機能は、異世界への転移とともに現実化した。

仮定2─私の記録が正しく、マスターの記憶が改竄されている。

仮定3─マスターの記憶と私の記録、どちらも正しい。マスターと私やジャスティススーツは、それぞれ別の世界に存在しており、同時に異世界に転移した結果融合し、別々の正しい・・・記憶をそれぞれ持ち合わせている。

 仮定4─……


「ああ、ストップストップ! もういいよ。どうせ全部仮定の話なんだろ?」


 

 上田辺りなら喜んで付き合うんだろうが、俺はもうお腹いっぱいだ。

 異世界転移に、スカイジャスティスの機能の現実化……


 有り得ない事態が天丼・・で起きたうえに、これ以上訳の分からない話を重ねられても消化しきれない。



「それよりも、これからどうするかって話だ。俺の記憶をラヴに見せても、結局何も分からない・・・・・・・ってことが分かっただけだし……なあ、俺は、どうしたらいいと思う?」


 

 ラヴ任せな俺。

 少々情けないが、これでいいのだ。

 物事には役割分担というものがある。


 頭脳労働はラヴの役目、肉体労働が俺の役目だ。

 ……まあ、空飛んでるのはスーツの力だけれども。



《ラヴ:この世界の情報を収集するべきかと思われます。私たちの持つ情報の信頼性が低い以上、この世界の情報を基盤として、今後の行動の指針を決めなければなりません。

 幸い、地上には知的生命体による建造物の集合体が見受けられます。

 まずは、情報収集の第一段階として、そこを目指すことを推奨します》

 

「知的生命体による建造物の集合体って……街か? もうちょっと噛み砕いた言い方をしてくれると助かるんだが」


《ラヴ:了解しました。文脈の調整を致し……頑張ります》


 

 おお、早速対応してくれている。さすがラヴ!

 一瞬言葉が詰まったのも、なんだかポイント高いぞ、ラヴ!


 

《ラヴ:…………》



 気のせいか、ラヴから無言の圧力を感じる気がする。


 ……じゃ、おふざけはこのくらいにしておいて、そろそろ下に降りるとしますかね。


 意識を下に向けると、俺の体は緩やかな速度で大地に向かって降下していった。



 ◇



 降り立ったのは、街から少し離れた位置にある森の中だった。

 さすがに、いきなり空から直接街に降りて「やぁ、こんにちは」とあいさつしても、驚かれるだけだろう。


 なので、とりあえず人目のなさそうな場所に降りることにしたんだが、早速問題が起きていた。



「ギャギャッ! ゲギャッ! グギャギャッ!」



 俺じゃないよ?

 

 もちろん、ラヴが異世界の自然に興奮してはっちゃけてる訳でもない。


 目の前で何やらこちらを威嚇しているのは、森に住んでいる原住民(?)と思われる方だ。

 子供くらいの背丈で、緑色の肌、尖った鼻と耳を持っている。


 んー……なんというか、ゴブリンによく似てるな~。

 っていうか、どう見てもゴブリンだな~。



「ギャグッ! グガグッ! ギャーギャッ!」



 そのゴブリン(仮)氏だが、あまり友好的とは思えない。

 言葉の端々に『ッ』と『!』が多いし、何より手には刃渡り20センチほどのナイフを握っておられるのだ。


 変身スーツに身を包んだヒーローと、それに対峙するゴブリン(仮)。

 なんてシュールな絵柄なんだ。


 俯瞰ふかん映像を見て、「世界観が違う……」と思わずつぶやいてしまうくらいに。



「ギャッ! ギャゴッ! ゴーギャンッ!」


 

 危害を加えるつもりはありませんよ、という意味で、両手を上げて頭の上で降ってみたりもしたが、効果はない。

 おちょくられたと思ったかな?

 

 身振り手振りボディーランゲージが通じないんじゃ、言葉で説得するしかないわけだが、ゴブリン(仮)語なんて分からんしなぁ。

 

 さて……どうしたもんだか。

 


《ラヴ:近づくなと警告しているようです》



 ……言葉、わかるの?



《ラヴ:先程から発している言語を解析しました》



 言語? あれが? 正直俺には、カラスが鳴いてるのと大差ないようにしか聞こえないんだけど……



《ラヴ:非常に原始的な言語です。少ない単語に、音の長さや強弱アクセント抑揚イントネーションを変えることによって、様々な意味を持たせているようです。

 翻訳してお伝えしますか?》



 ……ラヴの超性能は、もはや何でもありだな。


 なんて、ラヴの性能に感心していると、俺が黙って突っ立っているのに焦れたのか、ゴブリン(仮)がナイフで斬りかかってきた。

 


「あぶねっ」



 動きがやけにゆっくりだったので余裕を持って躱すことができたが、ゴブリン(仮)の雰囲気は、話し合いどころじゃなさそうだ。

 目が血走ってるし、ナイフを握る手は興奮で細かく震えている。

 

 仕方ない。


 またゴブリン(仮)が突きかかって来たのを体を開いて交わし、武器を奪うためにナイフを握っている手にチョップをしようとした……


 次の瞬間。 


 なぜかチョップが当たる寸前、俺の体が急にまばゆい光に包まれた。

異世界に来てからずっと空の上でしたが、ようやく地面に立ちました。

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