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ご当地ヒーロー、ゴブリン村で一泊


 


「ワシ、カンシャ。アナタ、カミ。アガメル、アガメル」


「ノー、神ノー。俺人間。神違う」


 

 ゴルゴが連れてきたのは、このゴブリン村の村長だった。


 最初は俺のことを警戒していた村長だったが、俺が異次元収納ストレージから大量の木の実や茸、熊の死体を取り出して並べた途端、跪いて俺のことを拝み始めてしまった。


 うん、まあ、いきなり何もないところから大量の食物とか取り出されたら、神やらなんやらと勘違いしても仕方ないと思うけどさ。


 ともかく、俺はなんとかカタコトで説得して、老ゴブリンに俺のことを拝むのをやめてもらった。

 

 立ち上がった老ゴブリンを改めて観察してみるが、老いた見た目を差し引いても痩せすぎている。

 顔や体は頬骨やアバラ骨が浮き出ているし、腕は骨と皮ばかりだ。


 この村がどれだけ危機的な状況にあったのか、目の前のゴブリンの姿を見るだけで容易に理解できた。


 ちなみに、この枯れ木のような老ゴブリン。

 名前はゴッドというそうだ。

 


 ゴッド村長。



 ゴルゴといい、この村長といい、なんでゴブリンの名前は無駄にかっこいいのだろうか。


 いや、無駄にとか言っちゃいけないな。

 実際ゴルゴは行動もカッコイイし、ゴブリンという種族に対する認識を日本で得たファンタジーの知識からは切り離して考えるべきだろう。



「それで、あー……これ、どうする? 別の場所、運ぶ?」


「ハイ。ヒノヒカリ、ネツ、タベモノ、ダメニスル。スズシイホラアナ、アル。ソコニ、ハコブ」


 

 こんな広場に置いておくのはまずいかな、と思って聞いてみたら、案の定ダメなようだった。


 そりゃそうだ。

 俺も何の考えもなしにこんな所に出すんじゃなかったと反省。



「じゃ、俺が運ぶ。案内してくれ」


 

 そう言って、取り出した物をまた異次元収納にしまうと、「「オォッ!」」とゴッド村長とゴルゴが驚きの声を上げた。

 

 いやゴルゴ、お前はもう一度見てるだろ。


 

 ◇



 問題なくゴブリン村の倉庫である洞穴ほらあなに食材を運び入れると、ゴッド村長はゴルゴと共に熊を捌き始めた。


 あっという間に皮が剥かれ、肉と骨がばらされていく。


 なんでも、滋養があるが傷みやすい肉は、すぐにスープにしてしまうのだとか。


 待っているのも手持ち無沙汰なので、自分にも手伝えることがないかとゴッド村長に聞くと、最初は恐縮していたが、手伝ってくれるのなら釜に水を汲んでくれと言われた。

 

 了承すると、釜のある場所に案内される。


 釜は、予想よりもでかかった。

 熊がまるごと入るくらいの大きさだ。


 確かに、これに水を汲むのはゴブリンでは重労働だろう。


 俺は川のある場所を聞くと、釜を持ち上げて水を汲みに行った。


 そして、なみなみと水を入れて戻ってくると、ゴッド村長とゴルゴにまた驚愕された。

 

 普通は小さい桶やなんかに水を入れて、何往復もするのだという。

 

 まあ、そうだよな。

 

 こんなバスタブよりもでかい釜、水が入ってなくても普通は持ち上げられないよな。

 俺も、行けるかな? と思って持ってみたら想像よりもやたら軽くてびびったよ。 


 で、ふと気になったのでラヴに聞いてみた。


 なあ、ラヴ。



《ラヴ:なんでしょうか、マスター》


 

 俺の強さってさ、どれくらいなんだ?

 あ、変身する前の、今の強さのことな。



《ラヴ:お答えします。変身前のマスターの強さは……》


 

 あっ、ちょっと待った。


 具体的な数値とか言われても困るから、他の何かに例えて教えてくれるか?

 ほら、象とかライオンとか、強い生き物は色々いるだろ?


 そう、俺は学んだのだ。

 あらかじめこういった要望を出しておかないと、なんだか小難しい説明をされて、結局は何かに例えて説明をし直してもらうことになってしまう、ということを。


 それなら、最初から簡単に説明してくれるようにお願いしておいた方が互いに手間が省けるというものだ。



《ラヴ:了解しました。変身前のマスターの強さと比較する対象を、マスターの記憶から検索。

 最も近しい強さを持つと思われるものを提示します。

 検索中……………………

 ……………………検索終了しました。ラ〇ウです》





 ……………………





 ん? いまなんて?



《ラヴ:ラ〇ウです》




 ……………………




 ラーメン、なわけないよな。

 ってことは…………


 もしかして、あれですか。

 三兄弟の長男で、世紀末の覇者的な?



《ラヴ:ジ〇ギを含めれば四兄弟です》



 ああ……そうね。

 ジ〇ギ様を忘れちゃいけないよね…… 






 …………あのラ〇ウで間違いないようだった。

 

 

 ◇



 俺がラヴから衝撃的な事実を聞かされて、何度目になるか分からない忘我状態から回復してみると、いつの間にかゴブリン達に周りを囲まれていた。

 

 村のゴブリン達は人間を見るのが珍しいのか、興味深そうな顔で俺のことを観察している。


 …………数分でゴブリン言語を解読したラヴには及ばないが、今日一日でゴブリンの表情を読み取れるようになった俺もなにげに凄いんじゃないだろうか。


 

「…………カミサマ?」


「…………違うよ」


 

 多分ゴッド村長が何か言ったんだろう。

 一匹のゴブリンがそんなことを聞いてきたので、しっかり否定しておく。



「ニンゲン?」


 

 すると、別のゴブリンがまた質問をしてきた。



「そう、人間」


「ニンゲン、ナンデ、タスケテクレル?」



 …………なんで、と言われてもなぁ。

 

 正直返答に困る。

 

 ゴルゴの話を聞いて、辛い状況にあるゴブリンたちに同情する気持ちがあったのは確かだ。


 でもそれだけじゃないと思う。


 ゴルゴを手伝おう、ゴブリンを助けよう。

 自然に湧いてきたその気持ちの根底にあったのは、やらなければならない・・・・・・・・・・という使命感だったような気がするのだ。


 だから、強いて言うなら…………



「ヒーローだから、かなぁ」

 

「ヒーロー…………」



 ゴブリン達にヒーローという言葉の意味はわからないだろう。

 それでも、ゴブリン達は何故か嬉しそうに「ヒーロー! ヒーロー!」と騒いでいた。


 その姿を見ていると、何気なく言った自分の言葉が胸にすとん落ちてきた。

 

 俺は訳も分からずこの世界に来て、理解不能な力を手に入れた。

 ラヴという超性能な相棒ができ、ドラゴンやゴブリンといったファンタジーな存在にも出会った。


 そんなわからないことだらけの環境の中で、俺が自分のための情報収集よりもゴルゴを手伝うことを優先したのは、俺が【スカイジャスティス】というヒーローだからなんじゃないか?


 俺は、俺自身は、元の世界の俺と変わらないつもりだった。


 だけど、元の俺ならゴブリンを助けるために命懸けで熊と戦うなんてことができただろうか?

 

 いや、できなかったと思う。

 

 あの時、胸の奥底から湧き上がってきた熱い何か。

 あれは今までに経験したことがない感覚であり、感情だった。


 やらなければ、戦わなければ、守らなければ。


 自分でも理解できないその衝動が俺を突き動かし、熊に立ち向かわせたのだ。


 ジャスティススーツやラヴが現実になったように、俺自身にも変化があったのだとしたら……?



「ナベ! デキタゾーーー!!」



 何かを掴めそうな気がしていたのだが、その思考はゴルゴの大声によって中断されてしまった。

 



 ◇

 


 

 熊スープが完成した。


 でかい鍋の前には、やせ細ったゴブリンたちが器をもって並んでいる。


 うーん…………


 ゴルゴとゴッド村長はなんとなくわかるんだけど、後は全員同じに見える。


 違いがわかるのは、獣の皮を腰巻きにしてるのがオスで体全体を隠しているのがメスかな、というくらい。

 おそらく素っ裸だったら、全く見分けが付かないと思う。


 なんて失礼なことを考えていたら、お椀を二つ抱えたゴルゴがニコニコしながら近づいてきた。



「クエ、トモダチ」



 そして、一つのお椀をと木のスプーンを俺に突き出す。 


 正直、色んなことがありすぎたせいか、胸がいっぱいでお腹は空いてない。


 でもまあ、せっかく勧められたんだし飲んでみるか、熊スープ。

 同じものを食べると仲良くなれるってナスDも言ってたし。



「ありがとう」



 ゴルゴからお椀とスプーンを受け取り、湯気が立ち上るスープを口元に運んだ。



 どれ……


 ゴクリ



 …………




 …………




 …………

 



 うん。


 塩とかの調味料は一切入ってないので、味はまんま獣味。


 血抜きをされていない熊の肉から出た出汁は当然のように血生臭く、それを誤魔化すための香辛料やなんかもまるで入ってないのが致命的だ。


 骨や内臓も一緒に煮込んであるので、獣臭さはさらに倍ドン!


 一言で言えば、ちょうマズイ!



 これ大丈夫なの?

 本当に食べて大丈夫なの?


 体の内側から温まっているはずなのに、お椀とスプーンを持つ手が小刻みに震える。


 周りの様子を確認してみるが、ゴブリン村の住人たちは皆美味しそうにスープを啜っていた。


 そして俺を見上げるゴルゴの笑顔。



 …………




 …………




 ガツガツガツ! ズルズルズル! ごくん!


 俺は嗅覚と味覚を意識しないようにして、一気にかき込んだ。


 そして湧き上がる震えを抑えながら、ゴルゴに歪んだ笑顔を向ける。



「オカワリ、イルカ?」



 もちろん、丁重にお断りした。



 その後、ゴブリン達の『オカワリ、イルカ?』コールを何とか躱しながら夜は更けて行き、結局俺はゴブリン村に一泊することになったのだった。


 

熊カレーを食べたことがあります。

なんならアザラシの缶詰も食べたことがあります。



美味しい!


というものではありませんでした。



捕れたてだと美味しいのでしょうか?



まあ、山に入って熊と戦う勇気はありませんが。


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