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ご当地ヒーロー、ゴブリン村に行く

 森の中に、三つの驚いた顔が並んでいた。


 一つはパンチを放った俺、一つはその威力を目撃したゴルゴ、そしてもう一つは腹に風穴を開けられた熊だ。


 熊の胴体は、大砲でも直撃したかのように抉れている。

 俺が突き込んだ拳の周りにあった肉や骨は綺麗に吹き飛び、ぽっかりと大きな穴が空いていた。

 


「……まじかよ」



 軽すぎた。

 軽すぎる感触だった。


 まるで豆腐でも殴るかのように容易く、俺の拳は熊の胴体を突き抜けていた。 


 呆然と立ち尽くす俺の横に、地響きを立てて熊が倒れ込んだ。

 

 白目を剥き、長い舌をだらりと口の外に出し、ピクリとも動かない。


 死んでいる。

 

 当たり前だ。

 胴体に、直径三十センチほどの大穴が空いているのだから。

 

 その穴から、ピンクとか赤とか茶色の内蔵が、大量の血と共に流れ出してきた。

 

 むせ返るような血の臭いが辺りに広がる。


 握ったままになっている俺の拳にも、べっとりと生暖かい血がこびり付いていた。



「うわっ!」



 慌てて手を振る。

 だが、手を振ったくらいでこびり付いた熊の血は取れない。


 焦った俺は近くの木に手の甲をこすりつけた。

 

 すると……


 ゴリゴリゴリゴリッ!


 とありえない音がして、手を擦りつけた木の側面が削れた。



「…………」



 ……いや、おかしいだろ。

 力なんて、大して込めていない。

 熊に突きを放った時も、すぐに離脱できるよう体重は乗せていなかった。

 それなのに、俺の拳は熊の体を貫通し、手を擦りつけただけで木の幹が抉れた。

 

 こんな力、明らかに人間の範疇じゃない。

 いや、どんな生物でも、こんな力など持ち合わせていない。

 

 過剰すぎる力だ。



《ラヴ : マスター。肉が劣化する前に、異次元収納ストレージに回収するべきだと進言します》


 

 この世界に来てから何度目になるか分からない、常識はずれの光景を前に思考停止していた俺を、ラヴの声が呼び戻す。


 収納……収納か。

 そうだ、俺は肉を手に入れるためにここに来たんだったっけ。


 戦いに必死すぎて、元々の目的をすっかり忘れていた。

 熊の死体に手をかざし、異次元収納に回収する。


 巨大な熊の体が黒い穴に吸い込まれて消えた。

 今までの戦いが夢か幻だったかのように。

 

 熊の体が消えたことで、ゴルゴも我に返ったようだった。

 なんだかバツの悪そうな顔をしながら、てこてことこちらに歩いてくる。


 その姿をみて、俺は少し緊張した。



「スマナイ。オレ、アマリ、ヤクニタテナカッタ」



 だが、ゴルゴの言葉は、俺が想定していたものとは違った。



「……俺が、怖くないのか?」


 

 予想外の言葉に、俺は思わず聞き返していた。

 はっきり言って、化け物みたいにでかい熊を一撃で殺した俺は、熊以上の化物だ。

 

 怖がられると、思っていた。



「……? テキ、ツヨイ、コワイ。デモオマエ、テキ、チガウ。オマエ、トモダチ。トモダチツヨイ、ソンケイスル」


「……そっか。ありがとう」


 

 お礼を言われてキョトンとした顔をするゴルゴを見て、俺は胸をなでおろした。

 どうやら、この世界に来てから初めて出来た友達を、いきなり失う羽目にはならずに済んだようだ。


 

「俺も、助かった。ゴルゴは、役立たずじゃない。ゴルゴが、熊の注意を引きつけてくれた。だから、攻撃を当てられた」



 ゴルゴの目を見て、右手を差し出す。

 ゴルゴは差し出された手を見て、俺の目を見た。


 そしてニッコリと笑顔を浮かべると、俺の手をがっしりと握ってきた。


 ゴルゴの手を握りつぶさないように注意しつつ、握手をする。


 本当の意味で、俺たちは友達になれた。

 そう思えた。


 …………


 俺の手についていたクマの血がゴルゴの手にもべっとりと付き、嫌な顔をされたが。



 ◇

 

 

 その後、目的だった肉を手に入れた俺とゴルゴは、ゴブリン村に向かっていた。


 ゴブリン村は、ここから歩いて二日ほどの場所にあるらしい。

 もちろん、飢えたゴブリンたちが待っているのだから、悠長に歩いて向かったりはしない。


 俺がゴルゴの脇の下に手を入れて持ち上げ、抱えて空を飛んでいた。


 最初は背中に乗せていたのだが、俺のスーツはツルツルしていて掴む場所がなく危険だったので、抱えて飛ぶことにしたのだ。


 ……足がブラブラしてて怖くないのかな、と心配したのだが、ゴルゴはゲギャゲギャと空の旅を楽しんでいる。

 

 そして、三十分ほども飛んだところで、ゴブリン村が見えてきた。

 

 枝や倒木を組み合わせただけの、小屋とも言えない小屋が十棟ほども並んでいる。

 外を出歩いているものは見当たらないので、みんな家の中で休んでいるんだろう。


 しかし、意外だったな。


 穴とか掘ってその中で暮らしてるんじゃないかと思ってたんだけど、粗末な作りとはいえちゃんと家を建てて生活しているようだ。


 村の上空にたどり着く。


 誰も見ていないようなので、俺とゴルゴはそのまま村の真ん中に降り立った。 



「オレ、タベモノモッテキタ、ツタエテクル」



 ゴルゴはそう言うと、一番大きな家に向かって走っていった。


 俺は出てきたゴブリンたちが驚かないように、変身を解除しておく。


 ラブに色々聞いたんだが、例の三か条の制限はあるものの、基本的に変身とその解除は俺の意思で自由に出来るのだそうだ。


 変身を解除した俺は、ゴルゴが入った家をぼんやりと眺めながら待っていた。

  


 …………



 なあ、ラヴ。



《ラヴ:はい。なんでしょうか、マスター》



 ゴルゴって、いいやつだよなぁ。



《ラブ:はい。ゴルゴの行動は、道徳的に非常に優れたものであると肯定します》



 だよなぁ。

 普通、立ち寄っただけの村や、今日会ったばかりの人間のために命かけたりできないよな。


 でも、あんないいやつだというのに、ゴルゴはゴブリンなのだ。


 初めて会った時の感じからすると、この世界でもゴブリンというのはやはり人間の敵なのだろう。

 言葉が通じないのだからそれも仕方ないのかもしれないが…………


 もし……もしだ。


 世界を旅している途中だというゴルゴが、人間に出会ったりしたら……


 いや、人間だけじゃなくても、今回みたいにでかい熊とかに襲われたりしたら…… 

 


 ……………………



 …………



 なぁ、ラヴ。

 ゴルゴに、なにかしてやれないかな。



《ラヴ:なにか、とは?》



 そうだなぁ……例えば…………



 …………



 …………



 ラヴと話していたら、ゴルゴが家の中から現れた。


 やせ細った、一匹のゴブリンを伴って。


 

この半年、忙しくって放置してました。

またちょこちょこ書いていこうかと思います。

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