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炎天下のサウナスーツ

 作中に出てくる地名、人名はフィクションです。

 同じ名前の地名があったとしても、パラレルワールドだと思って読み飛ばしてください。

 著者は、大空町にもそ〇っきーにも、なんの悪意も偏見も持っておりませんよ。

 本当です。

 いいよね、そ〇っきー。キャ〇パーみたいで。


 ………これだけ言っておけば大丈夫かな?

 ──大空町。


 人口約7,000人。

 名物と言える名物もなく、名所と言える名所もない。

 そんなどこにでもある田舎町だ。


 唯一の特色といえば、町の名前の由来でもある空港が存在することだけ。


 空港があるから大空町って……。

 正直ダサい。



「おい、飛んでみろよ~」



 ……。


 市町村合併前の女満別めまんべつという名前の方がまだましだった。

 たとえ他の市町村のアホな学生に『にょまんべつ・・・・・・だってよ! エロッ!』とか馬鹿にされたとしてもだ。



「なんだよ~、飛べね~のかよ~」



 ……。


 別に、この町が嫌いな訳じゃない。

 TSUTAYAも映画館もゲームセンターもショッピングモールもないが、静かでいい町だと思っている。

 まあ、他の場所で暮らしたことはないんだけれども。



「飛べよ~、飛べって言ってんだろ~」



……。


 現在気温は35度。

 8月の空気はアスファルトの照り返しに炙られ、容赦なく人々に襲いかかる。


 雲一つない青空はダイレクトに日光をお届けしてくれるし、都会にはない澄んだ空気はほどよく熱せられ、呼吸のたびに俺の肺を焼こうとしてくる。



「さっさと飛べよ~」

 ゲシゲシゲシゲシッ。


 …………。


 ………。


 ……俺の名前は藤岡和弘、21歳。

 仕事は、炎天下の国道沿いでサウナスーツを着て、子供に蹴られることだ。


 なんでこんな難儀な仕事を受ける羽目になってしまったのか。

 熱でぼやける視界の中、俺は半年前の出来事を思い出していた。



 ◇



「ご当地ヒーロー……っすか?」



 町内会の代表をしている佐々木のおっさんが、急に妙な話を持ち込んできたのは、まだ雪深い二月のある日のことだった。



「おお、ご当地ヒーローだ。うちの町、ゆるキャラとかいうのが居るには居るが、知名度無いだろ?」


「なんでしたっけ、飛行機の……なんとか君」


「そうだ。公募でデザイン募集して、作るには作ったがそれだけで終わったアレだ。俺も名前忘れたが」



 町内会の代表がそれでいいのか、というツッコミはもちろんしない。

 佐々木のおっさんには、高校卒業してから今まで、短期の仕事を斡旋してもらったり飲みに連れて行ってもらったりと、色々と世話になってる。

 それに、なんとか君の名前を覚えてる町民なんてほとんどいないだろう。



「で、なんで急にご当地ヒーローなんすか?」


「国道沿いに道の駅あるだろ?」


「ああ、なんか地元の名産品とか売ってるんでしたっけ?」



 田舎町の例に漏れず、この大空町でも過疎化が深刻な問題となっている。

 人が減ったせいで、喫茶店やケーキ屋、パン屋などの軽食店はかなりのダメージを受けていたのだが、それらを一まとめにして、土産みやげ物や地産ちさんの野菜なんかと一緒に国道沿いに並べたのが道の駅だ。



「そう、それだ。あそこがまあまあ売上よくてな。町の知名度上げる為にも、あそこで何かイベントでもするかって話になったのよ。だけどまあ、なかなかいいアイデアがでなくてな」


「アイドルとか芸人でも呼べばいいんじゃないすか?」


「そんなのは一回こっきりで終わりだし、うちで呼べるのなんざ誰も知らないローカルアイドルか、売れてない芸人くらいなもんだろうが。だからまあ、とりあえず町のイメージキャラクター的なやつを、あの辺にブラブラさせとくかってところで落ち着いたんだが、今更だろ?」


「まあ、今更っすね」



 ゆるキャラブームはとうに下火したびだ。

 そんな中、誰も知らないわが町のゆるキャラを徘徊させたところで、効果は薄いだろう。



「そんでよ、どうするか悩んどったら、町長が言い出したのよ。『ご当地ヒーロー作って、ヒーローショーするべ』ってな」


「……町長が?」



 現在の町長は、確か御年おんとし75歳。

 初代水戸黄門みたいな外見のじいさんだったはずだ。

 あの町長が?

 ご当地ヒーロー?



「まあ…いいですけど。なんで俺にその話を?」



 そう、ご当地ヒーローでもヒーローショーでも、好きにやってくれて構わない。

 正直コケる未来しか見えないけど、それは一町民である俺には関係のない話だ。



「お前、空手やってたべ」


「まあ、高校までは……」


「んで、いま無職だろ?」


「……まあ、ご存知の通り」


「なら、ちょうどいいじゃねぇか。お前、ヒーローやれや」


「はぁっ!?」



 無茶苦茶言いやがる!


 確かに、俺は中学から高校卒業まで空手漬けの日々を送ってた。

 思春期特有の熱病的なアレを、体を鍛えることのみに注いでいた。


 雨の日も雪の日も、毎日朝晩10キロずつ走り。

 2キロの重しウェイトを両手につけたまま突きを繰り返し。

 湖の中に腰まで入って蹴り上げの練習をした。


 高校三年間は、強くなることを心に誓って禁欲もした。


 その結果全国大会にも行き、優勝こそできなかったが三年連続で上位入賞を果たしたのだ。


 だがその情熱は、高校卒業と同時に一気に醒めてしまった。

 あれほど楽しかった『修行』が、途端に馬鹿らしく思えてしまったのだ。


 それ以来、俺は抜け殻だった。


 空手一筋だっただけに、進路のことなど何も考えていなかった。

 大して勉強もしてこなかったから、大学に行ける頭もない。

 やりたいことも、就きたい職業も、まるで思い浮かばなかった。


 だから、高校を卒業してからの三年間俺がやってきたことといえば、体を鍛えていた頃の惰性で一日2~3キロ走ることと、佐々木のおっさんに肉体労働系の短期バイトを紹介してもらうことくらいだった。


 流石に最近は両親の目が気になってきたので、無理矢理にでもどこかに就職しようかと仕事を探していたんだが、それにしてもご当地ヒーローは……。



「いやいや、無理っすよ。そもそも、俺に出来るのは空手の型くらいだし、ヒーローショーとかそんなアクロバティックなのはとても……」


「ああ、いや、ショーはまだ先の話だ。今年一年は、衣装を着て道の駅につっ立ってくれてるだけでいい。それで給料出るんだから、いい仕事だろ?」



 ショーは出来ない、という俺の断り文句を、佐々木のおっさんは即効で潰してきた。



「いや、俺は……ほら、いま就職活動中だし」


「安心しろ。三年間ご当地ヒーローやってくれりゃあ、役場の観光課にねじ込んでやる。ほれ、これで就職も決まりだ」


「ぐっ」


「決まりだ。なっ」



 ぽんと笑顔で肩を叩かれ、俺は頷くしかなかった。



「そうか、よしよし。じゃあ、これ渡しとっから、よろしくな」


「……? なんすか、これ」



 佐々木のおっさんが、分厚い封筒と一枚の紙切れを渡してきた。

 とりあえず渡された紙切れを見てみるが、どう見ても新聞の折込チラシだ。


 疑問の顔を向ける俺に、



「裏だ、裏」



 と、おっさんが顎で指し示す。



「裏?」



 言われるままに、紙を裏返した。

 すると、紙の裏面には、何やら絵のようなものが描かれていた。


 なんだこれ、蟻……? いや、人か?


 輪郭はがたがた、色も描きなぐったように線からはみ出しまくっている。

 明らかに子供の落書きだ。


 そして、その蟻とも人ともつかない謎の物体の横には、これまた判別の難しい文字で何かが書かれていた。


【スかイジァステイス】?


 俺がもう一度疑問を込めた顔でおっさんを見ると、おっさんはニッコリと笑みを浮かべた。


 ……嫌な予感しかしない。



「それが、お前さんが変身するヒーロー【スカイジャスティス】だ!」



 なぜか気合の入った声で告げるおっさん。

 ああ、これスカイジャスティスって書いてあったのか……って、



「はっ? 俺が変身するヒーロー?」


「そうだ。そんで、封筒には三十万入ってる」


「はあっ!?」


「それで何とかしてくれ」



 ……何言ってんだ、このおっさん。



「いや……え? 何とかしてくれって……?」


「もちろん、変身スーツだ。変身ヒーローなんだから、スーツがなけりゃ始まらんだろう?」


「そりゃそうでしょうけど……え、スーツ、俺がなんとかするんすか!?」


「ああ。その紙に描いてあるのが、スカイジャスティスの大まかな・・・・イメージだそうだ。うちの町内会、若いもんがほとんどおらんだろ? そういった方面は疎くてな。町長からは『いい感じに頼む』って言われたんだが、そのいい感じってのがどういうものかも、俺らじゃよく分からんかったのよ」


「………」


「お前はほれ、そういう友達おっただろ。よくつるんどった上田の坊主。あいつ、町の仮装大会に出場して、よく賞金攫ってただろ。コスプレだったか? まあそんな感じで、ちょちょっと作っといてくれや」


 

 ちょちょって……。

 いやいや、ちょっと待て。



「つまり……俺に丸投げってことっすか?」


「おう」


「この落書き……」


「町長のひ孫が描いたもんだ」


「………」


「えらく特撮ヒーローが好きみたいでなあ。将来はヒーローになるのが夢だそうだ」



 ……それはつまり、こういうことか?


 孫馬鹿……いや、ひ孫馬鹿の町長が、ヒーロー好きのひ孫の為に職権乱用して、ご当地ヒーロー企画を立ち上げた。

 立ち上げたはいいが、スーツを作れるやつも、着るやつもいない。

 どうしようかと悩んでたら、ちょうどいいやつがいるのを佐々木のおっさんが思い出した。


 そいつはそこそこ動けて、オタクの知り合いも居る。

 やる気も就職先もなく、佐々木のおっさんに面倒を見てもらった恩がある。


 そう、俺だ。



「じゃ、よろしく頼むわ。出来上がったら俺んとこ来て仕上がり見せてくれ」


「あっ、ちょっ……!」



 止めるまもなく、佐々木のおっさんは片手を上げて去って行ってしまった。


 残されたのは、町長のひ孫が書いた壊滅的な落書きと、現金三十万。


 ……マジか。

 まだ異世界行ってません。

 たぶん次もまだ行ってません。


 内容はその時の思いつきで書いてます。


 更新は完全に不定期です。

 他にも短編とか書いてますので、気が向いたら見てやってください。

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