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第二十二章 赤ずきんは口を結び、銀の魔女は口をゆがめる

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 赤いレンガの街での競技が始まってすぐ、いくつもの雲を突き抜けながら落下するシャボン玉の中で、風を切る音に負けないようにおやゆび姫が叫ぶ。


「ここで逆転して優勝するのよ、赤ずきん!」


 赤ずきんは、ずきんにしがみ付くおやゆび姫に向けて、静かにつぶやく。


「ええ、もちろんよ……」


 その二人の考えは一致しているようで全く違う。


 おやゆび姫はまじめに競技で逆転しようと考えているが、赤ずきんはシンデレラを殺して優勝しようと考えているからだ。


 そんな二人の周りには、赤ずきんの炎のドラゴンだけでなく、数えきれないほどの怪物たちがいて、みんな眠って身体を丸めたまま赤いレンガの街へと落下している。


 怪物の身体は小さいものでも屋敷ほど、大きなものはお城ほどもあるから、それが無数に街へと落下する様子は、いくらおとぎの国でも滅多にない異様な光景だ。


 そのあまりにも非現実的な状況に、赤ずきんは自分が夢の中にいるような気分になる。


 もしもこれが本当に夢で、白雪姫と眠れる森の美女を殺したのも現実じゃないなら、どれほどうれしいか。


 だが街を覆う結界の中に入ると、轟音とともに複雑な図形が浮かび上がって強い衝撃がビリビリと身体に伝わり、間違いなくこれが現実だと教えられる。


 それで赤ずきんは、魔法が解けて翼を広げる炎のドラゴンに、首から下げた笛を吹いて高度を保つように指示を出す。


 同時に周りにいた怪物たちも、次々と魔法が解けて目を覚ますが、飛べるものは数が少なく、大部分がジタバタしながらそのまま街へと落ちていく。


 そして地上にそれらが激突すると、赤いレンガの建物や、道に敷かれた茶色の石畳や、まっ白なお城の石壁が砕けて飛び散り、街のいたるところで煙がもうもうと上がる


 さらに運の悪い怪物のいくつかは、落ちた場所でいきなり罠にかかってしまう。


 ある怪物は橋にぶつかって水中から突き出す巨大な鉄のトゲに串刺しにされ、またある怪物は黒いレンガの建物に接触して大量の油と火薬による爆炎に焼かれ、さらに別の怪物は大通りに落ちてそこを往復する巨大な回転ノコギリで切断される。


 しかしそれでも、すぐに死ぬような怪物はごくわずかで、生き残ったものは、罠への直撃を免れたものといっしょに街を破壊し始める。


 身体中にツノが生えた巨大なサイが建物を砕きながら走りまわり、脚が十二本もある巨大なクモが口から酸を吐きながら屋根から屋根へと移動し、硬い外殻で覆われた巨大なノミが跳んで着地するたびに地面に大穴をあけていく。


 そんな様子を上空から眺めて、おやゆび姫は口を両手で押さえる。


「うわあ……すごい…………。これだけ派手な見世物は、さすがにおとぎの国でもなかなか見られないわ……。今日の観客はきっと大喜びね…………」


 見上げると、街を覆う結界のさらに上に、観客を乗せた大きな気球がたくさん浮かんでいる。


 そのどれかに、この街を競技のために提供した王さまも乗っているはずだ。


 この光景を見て、その王さまはさぞや喜んでいるに違いない。


 もともとこの大会は、くだらない決闘なんかで騎士が死んでしまうのを減らすために、その代用として大昔に始まったらしいが、それがこんなムチャクチャな競技になるとは、その当時の人たちも思っていなかっただろう。


 そう思いながらおやゆび姫は、赤ずきんのずきんを引っぱる。


「ねえ、赤ずきん。卑怯かもしれないけれど、罠にかかって弱った怪物を倒せば、かなり効率よくポイントを稼げるはずよ。私たちは罠の場所を全て知っているし、上手くやれば怪物をそこに誘導できるわ」


 けれど赤ずきんは、シンデレラを探すのに必死で返事もしない。


 街のあちこちで発生した火災の黒煙と、建物が破壊されて舞い上がった煙とで、なかなかシンデレラが見つからず焦っていたのだ。


「赤ずきん、聞いてる?」


「……ああ、ごめんなさい…………。今、シンデレラを探しているのよ……。私の成績はものすごく低いから、逆転するには彼女の戦い方を見て、それを上回る方法を考えないといけないもの…………」


 そう言われて、まさか赤ずきんがシンデレラを殺そうとしているとは夢にも思っていないおやゆび姫は、それを簡単に信じてしまう。


「あら、確かにそうね。じゃあ私もシンデレラを探すわ」


 そして二人がそんなやり取りをしている間に、おやゆび姫の身体の中に隠れている銀の魔女は、周りを見回しながらシンデレラの事を考える。


 ひょっとしたらシンデレラは、魔法のアイテムの中で残り一つしかない、不死鳥の欠片を身に着けているかもしれない。


 そうだった場合、赤ずきんが事故に見せかけて殺しても、シンデレラはすぐに生き返ってしまうだろう。


 だから銀の魔女は、その事態にも備えておく。


 もしもシンデレラが生き返った時は、おやゆび姫の身体をすぐに乗っ取って、自分の魔法を使って殺すのだ。


 ただし今の衰えた自分の魔力では、シンデレラを包むシャボン玉のバリアは破壊できない。


 なので赤ずきんがシンデレラを殺す時は、彼女の身体を包んでいるシャボン玉も破壊してくれるように祈る。


 バリアさえなければ、シンデレラが生き返っても自分の魔法で再び殺せるし、不死鳥の欠片は残り一つなので、二回殺せば絶対に生き返れないのだ。


 もっとも、シンデレラが不死鳥の欠片を身に着けている可能性は限りなく低いから、実際には二回も殺す事はないだろう。


 なぜなら、いくらシンデレラがおとぎの国で一番の人気者でも、国を守るほどの力は持っていないからだ。


 残り一つしかない貴重なアイテムは、その国の全ての人々を守れるような、もっと重要な者のために取っておくに決まっている。


 おやゆび姫の身体の中で、銀の魔女がそんな事を考えていると、細い光が街を切り裂く。


 ビィィィィィィィィィィィィィィィィ!


 その瞬間に、光が通った場所にいた怪物が真っ二つになる。


 スパッ! スパッ! スパッ!


 それはシンデレラのドラゴンが放つレーザーだ。


 おやゆび姫が赤ずきんに、それが発射された場所を示す。


「あそこよ、赤ずきん!」


 赤ずきんがそこに顔を向けると、黒煙の向こうに羽ばたく青いガラスのドラゴンと、その近くを漂う青いシャボン玉がかすかに見える。


 ようやくシンデレラの姿を目にして、赤ずきんの身体が震える。


 これで最後だ。


 彼女を殺せば全てが終わる。


 赤ずきんは覚悟を決めて、その口をしっかりと結ぶ。


 そしておやゆび姫の中に隠れている銀の魔女も、シンデレラを見ながら気持ちを高ぶらせる。


 ついにこの時が来た。


 大勢の観客の前で、おとぎの国で一番の人気者であるシンデレラが死ねば、ものすごい悲しみが周りに満ちあふれるから、自分はこれまでにない強大な魔力を得る事ができる。


 それによって自分がおとぎの国で最強の魔女になるのだ。


 そうなったら、もう赤ずきんなど必要ない。


 おとぎの国をメチャクチャにする合間に、ゆっくりと虐めてやろう。


 銀の魔女は赤ずきんに視線を移すと、笑いで口をゆがめる。

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