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第二十章 赤ずきんは、おやゆび姫をじっと見つめる

 おやゆび姫は、赤ずきんの補佐役として大会への出場を正式に認められたので、隠れずに堂々と自分の羽を使って、赤ずきんの肩から馬車の窓へ向かって飛ぶ。


 その羽は虫に付いているような薄い透明なもので、花の妖精の王子と結婚した時に、お祝いにもらったものだ。


 そして窓の前に浮かんだおやゆび姫は、雲のすき間からのぞく、立派なお城のある大きな街を見て思わずつぶやく。


「…………本当に、あの街でやるのね……」


 向かいに座っているシンデレラが、その言葉を聞いて肩をすくめる。


「ドラゴンを導いて怪物を倒す大会は、私が生まれる何十年も前から続いているみたいだけど、実際に人が住んでいた街をまるごと会場にするのは、今回が初めてみたいよ」


「……いくらこの国の王都が新しい街に移転されたからって、古い方の街を競技の会場に提供するなんて、絶対に異常だわ。赤ずきんもそう思うでしょう? ねえ、赤ずきん?」


 おやゆび姫がそう言いながら振り返ると、赤ずきんは相変わらずボーとしたまま生返事をする。


「…………そうね……」


 その様子を見て、代わりに答えるシンデレラ。


「何でもこの国の王さまは、人間の世界の怪獣映画が大好きで、自分たちの街でドラゴンと怪物が戦うところが見たかったらしいわ」


「ええぇ! そんな理由で? …………まさか、その王さまって、そのために王都を移転したんじゃないでしょうね?」


「さあ、どうかしら……」


「ふぅ…………もともとこの街に住んでいた人たちは、無理やり新しい王都に引っ越しさせられた訳でしょう? 迷惑な話だわ……。まぁ、ドラゴンと怪物の戦いは、森や海や砂漠なんかでやるよりも、街を壊しながらやる方が見ていて楽しいっていうのは分かるけど…………」


 そう話すおやゆび姫の身体に、肉体を失って心だけになった銀の魔女が入っている事には、おやゆび姫もシンデレラも気が付いていない。


 ちなみに、最初は赤ずきんの身体に入っていた銀の魔女が、おやゆび姫の身体に乗り換えたのは、小さくて空も飛べて万が一の時に逃げやすいからだ。


 それに、おやゆび姫の身体を使えば、こっそりと活動するのもやりやすい。


 銀の魔女が白雪姫と眠れる森の美女に、人々の心に残らない魔法を半分だけかけたのも、みんなが寝ている間に、おやゆび姫の身体を使ってやった事だ。


 もちろん、おやゆび姫の存在が黒い魔女に知られてからは、もうそんな事もできないが。


 そしておやゆび姫の中に入っている銀の魔女は、彼女たちの会話には何の興味もないので、自分の気配を消したまま、すぐそばにいるシンデレラの事を考える。


 今この瞬間におやゆび姫の身体を乗っ取れば、自分は魔法を使って、簡単にシンデレラを殺す事ができるだろう。


 そもそも、ただ殺すだけなら、大会の初日から四日目の今日までいつでも機会はあった。


 だが、ただ殺すだけでは意味がない。


 シンデレラには、大勢の人々が見ている前で死んでもらって、みんなに嘆き悲しんでもらわなければいけないのだ。


 その状況になって初めて自分は、心が満たされて強大な魔力が得られるのだから。


 もしも、こんなに人が少ないところでシンデレラを殺せば、たいした魔力は得られず、肉体が再生された瞬間に、見張りの魔女たちに簡単に捕まってしまうだろう。


 そうなったら今度こそ、自分の人生は終わりだ。


 だからどうあっても、シンデレラを大会の競技中に殺さなければいけない。


 しかし競技中のシンデレラは、シャボン玉のバリアで守られているから、今の衰えた自分の魔力では殺せない。


 他に考えられる方法としては、あらかじめシンデレラの身体に入っておいて、競技が始まった瞬間に身体を乗っ取って自殺するというものもあるが、彼女の身体にはそれを守る魔女たちによって、何らかの罠が仕掛けられているだろう。


 なので自分は、競技中に赤ずきんがシンデレラを殺してくれるのを、ただ待つしかないのだ。


 そうやって銀の魔女が考え込んでいる間も、おやゆび姫とシンデレラの会話は続く。


「ねえ、シンデレラ。あそこに見えるのは何?」


 街の上空にいくつも浮かぶ巨大な物体を指さして、おやゆび姫が尋ねる。


「ああ、あれは、灰色の魔女たちがいろんな場所で集めてきた怪物たちよ。この街はもともと王都だったから、防衛網が何重にも張り巡らされていて怪物が近くにいないから、わざわざ遠くにいる怪物を捕まえて連れて来たのよ」


「うわぁ…………。倒されるために連れて来られたなんて、あの怪物たちもかわいそうね……」


 そう言いながらおやゆび姫は、ポケットから何かを出す。


「あら、おやゆび姫。それは何なの?」


「あぁ……私、絵を描くのが好きなのよ。それで花の妖精の国に帰ったら、自分が見たものをみんなにも教えてあげようと思って、手帳に絵を描いているの」


「まぁ、すごいわ。あなた絵が描けるのね」


「そんなに上手くないわよ……。人間の世界にあるスマホみたいな便利なものを持っていたら、写真を撮れるんだけど…………」


「ねえねえ、今までに描いた絵を私にも見せて」


「いいけど……あなたの目で見えるかしら」


 おやゆび姫は、そう言って小さな手帳を広げるが、人間の親指ほどの彼女が持つ手帳は、米粒くらいの大きさしかない。


 それで、その手帳に顔を近付けて、じっと目をこらしていたシンデレラは、しばらくして目をこすりながらあきらめる。


「ダメだわ。そんなに小さくちゃ、絵かどうかも分からないわ」


「そうでしょう。いつか、あなたの身体が縮んだら、その時に見せてあげるわ」


「えぇえ……」


 そしておやゆび姫が小さな手帳に絵を描いている間も、その身体の中にいる銀の魔女は考える。


 今の自分にとって、最も警戒しなければいけないのは因果応報の魔法だ。


 もしも、その魔法の発動中に赤ずきんがシンデレラを殺してしまったら、自分の肉体が再生された瞬間に、シンデレラが生き返って、赤ずきんも自分も死んでしまう。


 そうなる事だけは、何としても避けなければいけない。


 ただ幸いその魔法には持続性がないので、それでシンデレラを守るには、見張りの魔女の誰かがそばにいて、発動させ続ける必要がある。


 けれどこの大会の競技中は、見張りの魔女たちは誰も結界の中に入れないから、そんな事はできないはずだ。


 だから、その魔法で競技中のシンデレラを守るには、どこかに魔法陣を仕込まなければいけない。


 魔法陣があれば、魔女がそばにいなくても、魔法をずっと発動させたままにできるからだ。


 だが魔法陣というものは、形が少しでも欠ければ効果がなくなる。


 つまりシンデレラの身体のどこかに魔法陣を仕込んでおいても、怪物に喰われれば、その時に魔法陣そのものが欠けてしまうので意味がないのだ。


 なので彼女を守るには、その近くにいる別の誰かに魔法陣を仕込む必要がある。


 要するに、シンデレラが殺される時に因果応報の魔法を発動させておくには、赤ずきんかおやゆび姫に魔法陣を仕込むしかない訳だ。


 しかしそんな事は絶対にさせない。


 昨日の夜も、赤ずきんとおやゆび姫が眠っている間に、その身体や持ち物を丹念に調べて、魔法陣が仕込まれてない事は確認済みだ。


 昔、黒い魔女が殺されそうになった、肌色のイレズミの罠も知っているから、そんなものが仕込まれていないかも、ちゃんと調べてある。


 何しろ黒い魔女にその罠を仕掛けたのは、この自分なのだ。


 だから見張りの魔女たちがどんなにがんばっても、この自分を罠にかけるのは不可能だ。


 銀の魔女はしばらくして、そう結論付ける。


 けれど、そんな銀の魔女が入っているおやゆび姫の様子を、いつからか赤ずきんがじっと見つめている事には、さすがの銀の魔女も気付いていなかった。

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