第1話「箱庭への訪問者」
”家が燃えている”。
メラメラと。
俺はただ、逃げるしか出来なかった。
家の中には自分の両親がいたのに。
玄関前で、呆然と立ち尽くしていた。
今、自分が出て来た玄関から2つの人影が見えた。
両親が出て来れた!?
俺はパァーッと明るい顔になる。
まあ、そんな甘い考えはある訳がなく。
今、家と両親を壊し、殺したフードを被った2人組が出て来る。
俺の日常をぶっ壊した、クソ野郎ッ!!
幼い俺はその”姿と声と顔”を憎み、目に焼き付けた。
そして、2人の”力”を恐れていた...。
少年は目をゆっくり開ける。
あの日を思い出しながら今、目の前にある巨大な.....いや巨大すぎる門に目を向ける。
「・・・やっとだ」
あの日から”やっと”6年たった。
短いようで長すぎた6年。
赤と黒が混ざったような少し長い髪の少年。
風織 隆光が、睨みながら言葉を発する。
「ここが・・・《箱庭》」
弱音を吐かぬようにゴクリと唾を飲み込む。
壁に囲まれたその場所。
門をくぐれば、そこはアイツらの《箱庭》。
この箱庭に俺の敵。
次第に開いていく門。
俺の敵がいる。
ギィギィと古びた扉は道を開く。
その先には自然が広がっていた。
隆光は箱庭に向け、少しずつ歩き出す。
この先にいる。
”アイツら”が。
この箱庭に。
隆光は唇を噛み締め、忌々しいあの名を呟く。
「・・・《魔女》」
そして、箱庭へ一歩を踏み出した。
「あ、あれえぇぇー!!」
大声で嘆く、隆光の声は森の中をこだましていた。
そんな事を気にもせずまたも大声で嘆く。
呑気な鳥がホーホケキョと鳴く。
「なんで1時間歩いてんのに、いつまでたっても・・・」
隆光は肩をプルプル震わせ叫ぶ。
「木!川!森しかねーんだけど!?なんなんすか、いじめですか!!」
いやいや、おかしいでしょ。
1時間も歩いてんだぞ。
魔女達が暮らしてんだから、街とかあるはずなんだ。
なのに。
「なにもないぞぉぉぉぉ!!」
俺は今、ここにいない人に文句を言う。
たしか、金止さんが真っ直ぐ歩いてれば着くとか言ってたんだがなぁ。
はあ...と、ため息をして歩みだす。
「しゃーね、もう少し頑張るか」
俺は、気合いを入れ直す。
まあ、やっぱり。
木。
川。
葉。
小動物。
どれも門をくぐってから何回も見ている。
「うーん」
・・・。
しばらく隆光は考え込む。
すると、あっ!と言うと何かを閃いた。
「ま、まさか...ループしてる?」
よくある話だ。
本とかゲームとかで魔法使い達は自分達の住処に敵が潜入したとき、潜入者を惑わし弱らすため森をグルグルと回り続けさせる。
これの必勝法は木に印を付けるんだ、たしか。
印の付いてないとこを進むと外に出れる。
よし、これだ!
そう考え、落ちている石を拾う。
隆光は木に印を付けながら歩み出す。
「わーっはっはっはーっ!」
隆光は疲れた体にムチを打ち、大声で叫ぶ。
ついに、ついに。
約1時間30分。
周りに印がある木のなか印のない木を発見したのだ。
自分を惑わし、体力を奪っていた森をバカにするかのように叫ぶ。
「いつまでも木や川、見せやがって、このボケェ!!」
森を笑ってやった。
ここまでの長い時間、木に印を付けてた石はボロボロだ。
ところどころ、欠けていた。
出口を見つけられたのは、この石が頑張ってくれたおかげだ。
「よし、決めた」
この石は捨てずに宝物にしよう。
ありがとう石。
そうだ、名前を付けよう。
イッシーだ。
いい名前だろ?
テキトーじゃないから。
・・・うん。
俺はイッシーを握りしめ印の付いてない木に沿って走り出す。
その先は光り輝いていて、よく見えなかった。
けど、きっと街がある。
森なんか...。
「・・・」
ピカーン。
照明が何故かこっちに向いて置かれてました。
キョロキョロと周りを見ると。
木木木木木木木木木木木木。
あっ。
ここも 。
MO☆RI☆DA。
・・・。
ブチッ。
「オラ、ゴラ、ボケェー!」
意味不明なことを叫び、手に持っていた物を投げる。
投げた物は照明に当たりパリンと割れる。
散らばるガラスの破片の中には、なにか灰色の破片もあって...?
・・・。
「はっ!?」
い、い、イッシー・・・?
先ほどまで、握り締めてた石の名を呼ぶ。
それから、しばらく固まって。
さらば、イッシー。
ガックリと膝をつき、何回か右手を地面に叩きつける。
「俺、もう死ぬのかな・・・」
箱庭に入り、3時間が経過した。
絶望しかねーよ。
はあ...とため息を吐く。
手近な石を明後日の方向に投げる。
「あーあーあー」
生気のない顔と声。
俯きながら石を投げる、その姿は怨霊のようだ。
投げ続けていると。
ドンッ。
「ん?」
何かに石が当たったようだ。
俯いていた顔を上げ、音がしたところを見ると。
男の人がいた。
こちらをじーっと見ている。
俺は人に会えて喜んだ。
手を振り、向かう。
「す、すいませ...んん??」
俺は近づくにつれあることに気付く。
足が馬なのだ。
しかも4本足。
「ま、まさか」
本とかゲームでは。
ケンタウロスってこんな感じだよね。
ケンタウロスは俺目掛け、走り出す。
殺気を込めて。
「石当たったのって、アンタかよおぉぉぉぉ!!」
俺は叫びながら、ケンタウロスから必死に逃げる。
ひいぃぃ!
後ろの殺気がやばい!
「助けてえぇぇ!」
はっはっはと呼吸を整える。
なんとか逃れたが、先ほどまでの逃走劇はヤバかった。
どこから出したか知らんが、斧やら剣やら。
それらを俺に投げつけていた。
いや、地獄だった。
ガチで。
何というか。
「・・・疲れた」
まるで、ゾンビのようにトホトホと歩く隆光。
「まさか《魔獣》に出くわすなんて、最悪だ」
もう、出くわさないことを祈ろう。
がうぅぅぅる。
なんか、正面から唸るような
音が聞こえる。
なんだ、なんだと顔を上げると。
ライオンっぽいやつが、目と鼻の先にいた。
「・・・」
いや、さっきまでいなかったし、幻でも見ているのかと、ペタペタとライオンっぽいやつを触る。
ペタペタ。
ペタペタ。
ペタペタ。
あれ・・・触れる?
・・・。
もしかして、魔獣?
次第に状況を理解していく隆光の頭。
隆光の顔はブルーベリーみたいに青ざめていく。
「・・・しっ、失礼しますぅ」
一歩、二歩。
後ずさる隆光。
まあ、見た目だけに見逃してくれる訳もなく。
がおぉぉぉぉぉ!!
「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁ!」
大急ぎで逃げる。
逃げた先には、先ほどのケンタウロスが。
「ひやぁー!」
情けなく声を発しながら、道を変える隆光。
さらに。
2足歩行の猪。
羽の生えた蜘蛛。
行くてを阻む《魔獣》。
俺は情けなく助けを請いながら、逃げるしかなかった。
「俺、絶対呪われてるー!」
今も追われ続けている隆光。
さっきのやつらに、手足と顔の生えたトランプ、2本足のかかしとか加わっている。
もう悪夢でしかない。
走り続けると、井戸のようなものを見つける。
最後の力を振り絞り走る足に力を込める。
井戸の一歩手前で井戸に飛び込む。
「どおりゃぁぁぁぁああ!!」
光り輝く外と別れを告げ、深い闇の井戸の下へ落ちていった。
「いてて...」
痛めた腰をさすりながら立ち上がる隆光。
死んでません。生きてます。
「結構高かったなー」
上から、うっすらとした光が照らされる。
そこそこ高そうだ。
下は藁が大量に敷かれクッションのような役割を果たしていた。
隆光は辺りを見渡す。
井戸の下はまるで地下通路のようになっていた。
・・・コーン。
「んん!?」
また鳴き声が聞こえ、身構える隆光。
鳴き声の主を見る。
コーン?
狐だった。
「狐かーい、心配したわ!」
バタンと後ろに倒れ込む隆光。
地下通路にこだまする声。
その声に驚いたのか逃げる狐。
隆光は数分休憩することにした。
まったく疲れはとれないのだが、早く魔女の元に行かねばならない。
と、立ち上がり歩き出す。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
「迷ったぁぁぁぁぁ!」
道がない。
真っ直ぐの通路を出ると、同じところをぐるぐると円のように道があるだけだ。
「ナニコレ、無理ゲー」
だが、狐は見なかった。
つまり・・・!
「隠し通路がある!?」
なるほどな。そーゆうわけか。
めんどいわ、ボケ。
とりあえず、壁をペタペタと触る俺。
・・・。
「なんもねーじゃん!」
と壁の下らへんに蹴り。
ガタガタッ。
「あ、あれぇ?」
ボタンのような物を押したようだ。
よし、隠し通路が...!?
・・・。
・・・。
「まてまて、冗談はよしこちゃん!!開かねんだけど!!」
オワタ。
無理ゲー。
と、助けが来るのを待つかとヤケクソな気持ちになりながら、先ほどの真っ直ぐの通路に戻る俺。
「はぁ!?」
歩いてると。
先ほどまでなかった物を見つける。
「隠し通路、なんでここが開くんだよ!隣にしろよぉぉ。」
半泣きだったのは内緒である。
またも真っ直ぐな通路である。
隆光は道に沿って歩く。
・・・。
おい。
待て。
嘘だろ。
隆光は奥を見る。
まさかの行き止まりっていうね。
「バカやろおおおお!!」
ビュンッ。
叫んだ瞬間、立っていた足場がなくなる。
「え?」
当然、下に落下しますね。
「また落ちるのかよおおおお!」
泣いてたのは内緒にしてください。
ゴロンゴロン。
緩やかな坂を転がり中。
なんなんすかね、箱庭って。
魔女の国なんじゃないんすか。
テーマパークですか、ここは。
「いてっ」
やっと止まった。
「ん?」
なんと光が見えた。
つまり。
「出口!?」
俺は走り出した。
希望を目指して。
モクモク。
ちゃぽん。
「やったー脱しゅ...」
「え?」
俺は手を広げ走っていたのだが、その声に固まる。
その声は目の前。
温泉みたいなとこに。
いんじゃん。
人?女の子?
人がこんな耳生やしてないだろ。
まるで狐だ。
てことは、化け狐?
などアホなことを考え、大事なことを忘れてた。
それは少女の格好に問題があった。
裸。
そう裸だったのだ。
おそらく温泉に浸かっていたのだろう。
2人とも互いに目を見つめ合い、隆光より少し幼く感じる少女は次第に頬が赤くなっていく。
隆光も次第に状況を理解していくが。
「〜〜〜っ!!」
近場にあったタオルで身体と顔を隠すように覆う。
か、かわいい。
久方ぶりの日の光に照らされた金髪が光り輝く。
「・・・綺麗だ」
うっかり口にする。
ハッと我にかえり謝罪する。
「す、す、す、すまない!悪気はなかった。微塵もない。ガチで」
頭を下げる隆光。
「い、いえいえ!話も聞かず、隠れてしまってすいません!」
頭を下げる狐耳少女。
・・・。
・・・。
(え、えーっと)
(う、うーん)
2人は、冷や汗をかきながら同じことを思った。
【早く、なんか喋ってえー!!】
それから、さらに時間は過ぎた...。
なんだ、この状況...。
さすがに、恥ずいぞ。
「えーっと、君」
軽く言ったつもりだったのだが。
「は、はいぃ!」
声が強張る少女。
そんな自分に驚いたのか、おどおどと。
「あ、す、すいません!どうぞ」
そんな、少女に俺は。
「はっはっ。なんか面白いな君」
「え!?なにか、おかしかったですか!ご不満でしたか!すいません!」
「いちいち、謝らないでくれよ」
「あ、はい!すいません!・・・ハッ!?言ってしまいました。すいません!」
隆光はさらに笑った。
「は、恥ずかしいです...」
だんだん会話が出来てきたので、隆光は質問した。
「その耳って?」
「え...?あっ私、狐人なんです」
俺に狐人のことを言ったことで、どう言われるのか怯えたように言う少女。
狐人ーつまり、人に似た狐だ。
別の言い方をすれば、化け狐。
言い方が悪いため、そうはなったのだが。
人に化ける”魔獣”だ。
「あ、コスプレじゃないんだな」
安心させるためにも、ふざける。
「ち、違いますよ!ちゃんと生えてますよ」
「かわいいな」
ペタペタ。
「ふぇ」
なんとも力の抜ける声を出す少女。
「や、やめてくださいよ」
「わかった、わかった」
少女も少し笑ってくれたのに安堵する隆光。
「俺は風織隆光。君は?」
「わ、私は狐春です」
「よし、狐春ちゃん。頼みがある」
「は、はい?」
「よっしゃあああああ!森、脱出じゃああああ!!」
狐春に道案内を頼んだ隆光。
俺の力じゃ、街まで行けそうにないなと諦めました。
しゃーない。
うん、しゃーない...。
「ありがとね、狐春ちゃん」
「い、いえ。お力になれてよかったです」
「じゃあね、狐春ちゃん。また会おうね」
また会おうねと言う言葉が不自然で、察しがついた。
「もしかして、隆光さんって今回のいけに」
隆光は狐春の言葉を聞かずに背を向け、手を振る。
ついに来た。
俺の前にいるフードを被った女の人たち。
つまりは...。
《魔女》
俺は、深呼吸して魔女に接触を図る。
後ろを向く魔女の肩をたたく。
「あ、どうも、すいませーん」
スカッ。
え?
肩をたたこうと触れようとすると、触れられなかった。
まるで、映像や残像のような感じだった。
他の人も触ろうとしてみる。
結果は。
触れることは、できなかった。
これは、影だ。
魔女の魔法。
だが、どういうことだ。
街にいるやつら全員、影だ。
箱庭は魔女の国。
箱庭には魔女が住んでいる。
そのはずなんだ。
隆光は小さく呟いた。
「どこにいるんだ...魔女」
ん?
影の目線が一斉に隆光に向く。
怖っ!
そして、突如後ろに他の影が現れ、左右の俺の腕を掴む。
「うわっ!ちょっ待て!!」
物凄い、身動きの出来ない隆光。
さらに下から手が生え俺を地面に引きずり込まれる。
「うおおい!」
その言葉を最後に隆光は、その場から”消えた”。
やっぱり俺、呪われているわ。
目を開けると俺と同じぐらいの少女がいた。
「え...誰?」
少女は白い髪を前に垂らし、貞子のような感じになっていた。
少女は、バッと顔をあげ髪を元に戻す。
その顔は綺麗に整っていた。
その...かわいい。
少女はドンッと机を叩く。
「遅いッ!!」
凛とした声だった。
「どんだけ、待たすのよ!もう”5時”よ!ここに来るのは1時だったはずよ!」
腕につけている”ブレスレット”。
そのブレスレットは、特徴的で、ある事を意味する。
も、もしかして。
コイツが...。
「待て待て、お前が《箱庭の主》なのか?」
俺は、当然の疑問を口にした。
少女は当たり前だと言う。
「私は、箱庭の主。そして、魔女。名を那賀宮 待依と言う。貴様は?」
こ、コイツが...魔女の国、箱庭の主。
つまり、魔女の《王》。
俺は冷や汗をかいた。
今、目の前に俺が待ち続けた敵がいる。
手を伸ばせる距離に。
「お、俺は、風織 隆光です」
たとえ、無謀だ。
不可能だ。
無理だ。
と、笑われてもいい。
だが、俺は知らなきゃいけない。
「ふっ、風織 隆光か。よろしく頼むな、生贄」
だから、今は...。
「よろしくお願いします。箱庭の魔女様」
隆光と待依は。
生贄と魔女は、睨むように見つめ合う。
「お前は、これから私の所有物である。外の知識を知るため”使ってやる”」
俺はコイツらを殺す。
さあ、運命に抗おう。
不可能を変えよう。
どんな”犠牲”を払っても。
この先に待つのは、ただの犠牲なのだろうか。
それとも、意味のある犠牲なのだろうか。
全てを変えられるのだろうか。
そんなのは誰にも分からない。
俺は膝をついて、心にもない事を言う。
「どうぞ、お使いください。私は死ぬまで貴方様に仕えます」
儚く悲しい、この物語の幕が開く。
全て、ここから始まった...。
どうも。
夏ですね。暑いですね。
本作は、犠牲を払っても守る主人公–隆光の葛藤を描いています。
どんなに足掻いても、何かを守るためにたくさんの犠牲が隆光の身に降りかかります。
儚く悲しいこの物語を応援してくだされば嬉しいです。
魔女や箱庭などの紹介はわざと今回せず、次回にしています。
なので、安心してください。
では、次回予告。
箱庭の魔女である待依の生贄になった隆光。
たくさん雑用して、待依の命をどう奪うか考え過ぎて、馬鹿ばっかやっちゃいます(笑)
次回、第2話。
「生贄の仕事(仮)」
第2話は31日9時頃、投稿予定です。
では、ここで失礼します。




