第二話
妹にはどこのメンチカツか全く分らない。
しかし、歯を立てる度に恍惚なる音色を奏で、肉と玉ねぎの味が脂の旨味と共に舌から脳を介して全身へと駆け巡ってゆく。
この極上の旨味を身体で受け止めることに精一杯だった妹はメンチカツを食べていた手を流れてきたニュースに遮られた。
「傍らに惣菜?各地で行方不明者が増加ーーー」
若い行方不明者が増加し警察が手こずっている。ただ一つの手がかりとなるのは傍らに置かれたにしては不自然な惣菜ーーー揚げたてかのようなまだ温かいメンチカツが一つ転がっていた事だけである。
妹は視線を手の内に落とし、一つの疑念が浮かぶ。
そんなはずはない、考えたくない。
妹の震える手から兄とおぼわしき欠片が床に転がる。高層ビルと変わらない衝撃を兄は数センチの高さからさらに小さくなった身体に受けた。
だが、内臓だった箇所は火が通り固くなった具となっていた為か衣がサクリと辺りに軽く飛び散る程度であまり痛くはない。
妹と精神的に繋がる。
妹の口内の温かみ、舌の優しい柔らかさは、背徳的ではあるが、どこか抗いがたき快楽、全てを包容する愛を感じる程であった。
あのまま妹の歯に砕かれ、舌で転がされながら溶かされ、ゆっくりと吸収され、妹と一つになる。
食べられる愛。
僅かに残る体と意識に遥か彼方から妹の嗚咽が聞こえてくる。
だがメンチカツとなったこの身に、どうしろというのか。妹の嗚咽はやがて悲痛な叫びへと変わってゆくのを、涙一つも流すことも出来ない身で痛切に感じる事しか出来なかった。
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作:セキム
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