第八話 氷煉
「ぐぅっ・・・!!」
「その程度ですかな?」
ヘインズが吹っ飛ぶ。
オーバスは余裕の表情で次々に周囲を凍らせていく。
格が違いすぎる。
自身を覆っていた氷を溶かし、フレイは何とか立ち上がった。
「はあッ!!」
「ふう、そろそろ飽きましたな」
体勢を立て直したヘインズが魔法を放つもあっさりと受け止められる。そしてオーバスは魔力を集め始めた。
「帝国の最高戦力の一人も所詮その程度・・・ということですかな。あまり調子に乗るな、小僧」
オーバスの雰囲気が変わる。とてつもない魔力が彼の周囲を渦巻き始めた。
「さあ、全てを美しき彫刻へと変えて差し上げるとしましょうか」
「出来るもんならな・・・!!」
禁忌魔法《氷煉地獄》
次の瞬間、オーバスが一瞬で氷に閉じ込められた。
ヘインズの禁忌魔法が発動したのだ。
「彫刻になるのはお前だ、ジジイ」
そう言うとヘインズはフレイの元に歩いていく。
「よう、久しぶりだなぁ」
「ふん、炎の魔導師が氷使いに何を苦戦しているんだ」
「わはは、あいつ強すぎな」
笑うフレイを見てヘインズは肩をすくめた。
その直後。
「なかなか素晴らしい魔法ですな」
「ッ!?」
勢いよく振り返るヘインズ。しかし、時すでに遅し。
砕け散った氷の欠片が彼の体を切り裂いた。
「ぐあっ・・・!?」
「しかし、これではワシの動きを止めることなど不可能ですぞ」
砕け散った氷の中から現れたオーバスの表情は怒りに満ちていた。魔法を食らわない自信でもあったのだろう。
そんな老魔導師の周囲を氷の礫が混じった風が猛スピードで渦巻く。あの中に入ればいとも簡単に体を切り刻まれるだろう。
「さあ、始めましょうか」
オーバスから魔力が放たれた。それと同時にフレイとヘインズの足が凍りつき、その場から動けなくなる。
「くっ・・・!?」
「《氷殺刃》」
そして、オーバスが魔法を放つ。刃へと形を変えた氷が次々とフレイとヘインズを切り刻む。しかし彼らはその場から動くことができない。
「ぐあああっ!!」
「ぐっ、くっそぉ!!」
フレイは全力で炎を放つがそれを通り抜けて氷は襲い来る。
「ああああああ!!」
何度も何度も切り刻まれ、体からは血が流れる。
オーバスはわざと二人を殺さずにじわじわと痛めつけていた。
「く・・・そ」
フレイの意識が遠ざかり始める。
全身の感覚も無くなってきた。
その時、隣にいるヘインズがフレイに声をかけた。
「おい、1度しか言わないから、よく聞け・・・」
「は・・・?」
「俺の残りの全魔力使って隙をつくる。お前があのジジイにトドメをさせ・・・」
ボロボロのヘインズがそう言った。何か策でもあるのだろう。フレイは迷わず頷いた。
「期待してるぜ」
「ふん、いくぞ」
ヘインズが魔力を放つ。おそらく魔力を温存していたのだろう。先程とは比べ物にならない程の魔力が周囲に満ちた。
「ほおお、何をするつもりですかな?」
そう言うオーバスを見てヘインズはニヤリと笑う。
「受けるがいい、我が最大の一撃」
次の瞬間、オーバスの魔法によって造りだされた氷全てが砕け散り、さらにオーバスの体が凍りついた。
「ッ────!?」
「《氷王絶拷牢》」
ヘインズが放った魔法は、あのオーバスの一瞬で凍りつかせた。
「こ、これは・・・!!」
オーバスは必死に脱出しようとしているが、ヘインズの魔法は砕けない。それだけ強い魔法ということだ。
「ぐ、フレイ・ライトルーガ!!」
「おう!!」
今のうちに。
フレイは全魔力を炎へと変え、その身に纏って駆け出した。
「ぬ・・・ああああ!!!」
その直後、オーバスがヘインズの魔法を粉々に砕いた。魔力を失ったヘインズはその場に倒れ込む。
「ッ─────!?」
「トドメだァ!!」
オーバスが咄嗟に魔法を放とうとするが、もう遅い。魔法さえ使わせなければフレイの炎魔法はオーバスにも通用する。
「《絶焔凰波》!!!」
放たれた超火力の劫火はオーバスを焼き、そしてフレイの前方にあるもの全てを消し飛ばした。
「ぐがあああああ!!!」
吹っ飛んだオーバスは壁にぶつかり、そして倒れて動かなくなった。フレイも魔力を使いすぎ、膝をつく。
「へ、へへ、やったぜ・・・」
そう言って振り返る。そこには倒れているヘインズとアインハードの姿が。
「大丈夫か、二人共」
「ふん、当たり前だ」
「僕はもう動けないけどね」
どうやら無事のようだ。流石は七魔導といったところか。
「・・・何をしている」
「え・・・」
「仲間はまだ戦ってるんだろう?」
倒れているヘインズがそう言う。それを聞いてフレイは立ち上がった。
「ああ、俺も行かなきゃな」
「さっさと行け」
「ありがとよ、ヘインズ」
フレイはそう言うと、痛みを堪えて駆け出した。
残されたヘインズとアインハードはその背中を見送り、そして意識を失った。
「まさか、オーバスまで倒すとは。流石はヒイラギさんの仲間・・・ですね」
その頃、バルムンク再上層には残ったネメシスのメンバーが集まっていた。
「そろそろ俺も出るか・・・」
そう言ったのは、元七魔導No.Ⅰ ゼノン。おそらくネメシスで2番目には強いであろう男だ。
「待って、あたしが先に行くよー」
そう言って1人の幼い少女が笑う。
「・・・だそうですよ、ゼノン。あなたが出るのはまだ早いのではないでしょうか」
「あぁ?いい加減退屈なんだよ、俺も」
「ごめんねー、ゼノンさん。それじゃ、行ってきまーす」
少女はものすごいスピードでその場から消えた。それを見ながらアナスタシアは笑う。
「やる気まんまん・・・ですね」
「まあ、俺はどうでもいいんだがなぁ」
ゼノンは首を鳴らし、その場を後にした。残ったのはアナスタシアと、カルバーンの魔導師ランディの二人。
「・・・」
「幼馴染みのことが心配なのですか?」
「ん、いや・・・」
突然アナスタシアに声をかけられ、ランディは顔を上げた。確かに今幼馴染みの少女のことを考えていたんだが。
「彼女は今、生き別れた妹と本気で戦っているようです。ですが、彼女ではアスナには勝てませんよ」
「・・・そうかな」
そう言うと、ランディはその場から歩き出した
「もうすぐ、全て終わる」
誰にも聞かれることのないような声量で、ランディは一人呟いた。