第二話 ロックスタ砦
「さて、お別れだな」
「はい、本当にありがとうございました」
俺とアルフィンは、素材を集めて船着き場へと戻ることにした。エリナは薬草を持ってカサールへ戻って行った。
「まさか、教国主人公に会えるとは・・・」
「ん?何か言った?」
「いや、なんにも」
いやー、いい出会いだったな。礼儀正しいし、いい子だった。だが、あの子と会ってから、隣を歩くアルフィンの機嫌がどうにも悪い。なぜなんだーー!!
チラッと彼女を見ると、唇を尖らせて頬を膨らませている。なぜ怒ってるのかは分からんが、そんな顔も可愛らしい。
俺の視線に気付いた彼女は、顔を逸らしてしまった。
「ええー、なんで」
「・・・・・・」
「理由を説明したまえ、王女様」
「・・・デレデレしてたでしょ」
「ん・・・?」
ぼそぼそ喋るから聞き取れなかった。デンデケしてたって?
「デケデケ?」
「デレデレ!」
デレデレなんてしてないぞ!?いや、ちょっと可愛いと思ったけどもね!?
「してないしてない!」
「嘘つきー」
「てか、なんでそんなこと指摘するんだよ」
「うっ、それは・・・」
そうだ、別にデレデレしようがデケデケしようがアルフィンに関係ないじゃないか!
「別にデレデレしてたとしても、アルフィンのほうが可愛いって」
「ふぇぇっ!?」
そう言うとアルフィンは顔を真っ赤に染め上げた。ホントに照れ屋さんなんだから。実際アルフィンレベルに可愛い女の子なんて前の世界でもこの世界でも見たことないし。
「もっ、もう!」
なぜかアルフィン歩く速度が上がった。少し口元にやけてなかったか?まあ、気のせいだろう。
結局不機嫌になった理由はわからないまま、船着き場に到着したのだった。
「おお、持ってきたか!」
「こんだけあればいいだろガチムチさん」
「ああ、余りがでるぐらいだ──ってだれがガチムチさんだ!!俺にはガルムって名前があるんだよ!!」
ガチムチさん改めガルムさんに素材を渡す。これでようやくロックスタ砦に向かうことができる。
「ん、どうしたお嬢ちゃん。なんかえらい上機嫌じゃねぇか」
「えっ、べっ、別にそんなことは!」
さっきまで不機嫌だったのに、なんで上機嫌になってんだ。まさかあれか!?ガルムさんに恋しちゃってんのか!?こんなガチムチな人に!?
「アルフィン、目を覚ませ!こんなガチムチなんか絶対駄目だ!」
「えっ、なっ、なにが?」
「おい、何のことかしらねぇが、ガチムチ言うな!」
拳骨くらった。めっちゃ痛い。
「ま、約束通りあっち側に連れて行ってやるよ」
そう言ってガルムさんは舟を一つ動かしてきた。オールが置いてあるので、ガルムさんが漕いでくれるのだろう。
「さあ、乗った乗った」
言われて俺達は舟に乗り込んだ。意外と乗り心地は悪くない。ここからなら20分ぐらいで着くだろうか。
「そういやお前さんら、なんで王国に渡るんだ?」
「この子が王国にちょっと用があってな」
「ほう、なるほど」
ほう、とか言ってるけど、絶対何も分かってねーだろこのガチムチ。
「ま、深くは聞かねぇさ。お前さんほどの魔力の持ち主が側に付いていたらお嬢ちゃんも安全だろ」
「へぇ・・・」
俺の魔力を感じとったのか。隠してるつもりなんだが。
「なあ、俺魔力漏れてる?」
「ううん、別に何も感じないけど・・・」
「はっはっは、今まで強者を何人もこの舟に乗せて運んでんだ。ちょっと見ればそいつがどれだけ強いかぐらい分かるってもんよ」
「ただのガチムチじゃないみたいだな。」
思いっきり殴られた。そんなやりとりをしている間にも、舟はゆっくりと王国に近づいていた。
アルファリア王国
帝国に匹敵する大国である。大陸南部に位置しており、王国領の海で採れる幸は有名だ。
王都は城壁で囲まれており、簡単には攻め落とすことができないようになっている。
王国を守護する騎士団は、大陸でも最強の戦力を誇り、帝国の七魔導に匹敵する強さをもつ剣士も所属しているとか。
王都にとどまってたらアルフィンも捕まらなかったんじゃないかと思うが、恐らく理由があると思うから、それは聞かないでおこう。
普段は大型船などが行き来していたというカサール川も、大戦が始まってからガルムさんのような人達の漕ぐ舟などにしか利用されていない。
「さて、到着だ」
「ありがとうございました、ガルムさん」
「おう、いいってことよ。で、お前さんは俺に言う事ねぇのか?」
「ありがとうガチムチおじさん」
「誰がガチムチだ!!」
特大威力の拳骨をくらい、ガチムチガルムさんと別れた俺達は、すぐ近くにあるロックスタ砦を目指して歩きはじめた。
「なんか騒がしくないか?」
「確かに・・・」
砦の周りには、王国騎士団の兵士達がいた。恐らく中にもまだいるのだろう。どういうことだ?まるで大規模な戦いが始まる直前のような雰囲気だが。
その時、砦の上から大きな声が響いてきた。拡声器のようなものでも使っているのだろうか。
「ついに、反撃の時はきた!!」
男の声が辺りに反響する。
「現在、帝国軍はオルテア湖国境付近での戦闘に全戦力を集中させていると思われる!!今、国境川の対岸にある街カサールを攻め落とすことができれば、帝都攻略へ大きく前進することができるのだ!!」
「これより我々はカサール川を渡り、奇襲攻撃を仕掛ける!!」
おいおい、まじかよ。
隣のアルフィンの顔を見ると、血の気が引いて真っ青になっていた。いつも真っ赤になるのに。
ゲームではどのルートでもこんなイベントは存在しなかった。なのに、なぜこのようなことが起こっているのか。考えられるのは俺が物語に干渉してしまったことにより、本来のストーリーから少しずつ別のものに変化してしまいつつあるということだが、王国方面で何かしたわけではないし、このようなことが起きるのはおかしい。
なにが原因なんだ?さっぱりわからない。
「偉大なる英雄達よ、王国の為に命を捧げよ!!」
『うおおおおおおおおおおお!!!!!!』
とてつもない雄叫びが大気を揺るがした。まじでやる気満々じゃねーか。
「アルフィン、どうする」
「ど、どうするって・・・」
帝国方面からやってきた俺達が今砦に行くと、確実に怪しまれるだろう。いや、流石にアルフィンの顔は知っているか。王女様が訪れたとなれば、一旦この騒ぎもおさまる・・・はずだ。
それを隣のアルフィンに伝えると、名案だねと褒められた。嬉しい。
とにかく、ここの砦の責任者のとこに行かなくては。そう思って歩き出そうとした時、騎士の一人に声を掛けられた。
「貴様ら、一体何者だ」
「怪しいもんじゃない。俺達は王国に用があってここに来たんだ」
「いや、帝国方面からここに来たのだろう。スパイの可能性があるな」
「ちょ、待て待て。俺の隣にいるこの美少女をよく見てみろ」
「んん・・・?」
そう言ってやると、騎士はアルフィンの顔をまじまじと眺めはじめた。
「ま、まさか、アルフィン様・・・!?」
「あ、分かってくれましたか」
嬉しそうにアルフィンが微笑む。あれだな、天使の微笑みだなこれは。そんな天使のようなアルフィンに微笑まれ、顔を赤くした騎士は、近くにいた他の騎士に報告に向かった。
数分後、俺達は大量の騎士達に取り囲まれてしまった。なにこれ怖い。
「アルフィン様、よくぞご無事で!!」
「ああ、麗しい・・・!」
「俺、王女様が行方不明になったって聞いて、心配で心配で・・・」
「あはは、ご迷惑をおかけしました」
どうやら王国では行方不明と言われていたようだ。本当に心配されていたというのがこの人達を見ていればわかる。
「その、アルフィン様。そちらの男は?」
「彼は捕らえられていた私を連れ出してくれたお方です」
「その、恋仲というわけでは・・・?」
「ちっ、違います!!」
顔を真っ赤にして否定するアルフィン。なんか残念な気がするのはなぜだろうか。一人で悲しんでいると、騎士達に声を掛けられた。
「アルフィン様の護衛、ご苦労であった」
「いやいや、そんな大層なことしてませんって」
「だが、無事にアルフィン様をここに連れて来てくれたこと、感謝する」
深々と頭を下げられ、返答に困っていると、他の騎士とは違う鎧に身を包んだ大柄な男がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。恐らく砦の上で声を張り上げていた男だろう。
「もしかして、ザインさんですか!?」
「お、久しぶりですなぁ、アルフィン様」
ザインと言われた男は、アルフィンとの知り合いのようだ。そして、俺のほうを見てニヤリと笑みを浮かべた。
「はは、なかなか面白そうな男じゃないか。少し着いて来てくれ。アルフィン様共々話がある」
そう言われて、俺達は男に続いて砦へと入った。