第一話 遭遇したのは主人公
さて、出発だ。目指すは王国にあるロックスタ砦。カサール川の対岸にある砦へ行くには船に乗る必要があった。
しばらく進むと船着き場があるので、俺達はそこを目指して進んでいく。
「あ!あれだね、船着き場」
アルフィンが指を指した場所には、確かに船着き場があった。
船着き場に辿り着くと、筋肉ムキムキのおじさんが話しかけてきた。
「よう、ガキ共。舟を利用するのか?」
「ああ、二人で」
「よーし、ちょっと待てよ。お代は・・・一人800ゴルだ」
「あっ・・・!」
忘れてた!!俺達ゴル持ってないじゃん!う〇い棒一本すら買えないじゃん!!
「んん?何だ何だ、金がねぇのか?」
「その通りであります、旦那」
しまった、タダで舟に乗せて貰えるはずがないよな、そりゃ。
「ど、どうするの、ユウ君」
「うーん、どうしよう」
悩む俺達に、ムキムキさんが声を掛けてきた。
「最近、カサール川に現れた魔獣が舟を何隻かぶっ壊しちまってな。新しい舟を作るのに木材が足りねぇんだよ。そこで、エルスの森でビックウッドって魔獣を倒して、素材を回収してきてくれたら二人共タダで王国に連れてってやろう。」
「まじか!」
こいつはラッキーだぜ。サクッと狩ってサクッと舟作って貰おう。そこで、ふと疑問が思い浮かんだ。
「なあ、おっちゃん。帝国と王国って今かなり争ってる状況だろ?そんな中帝国領から王国に舟をだすなんて、大丈夫なのか?」
「まあ、バレなきゃいいんだよ」
めちゃくちゃだな、この人。バレたら絶対死刑とかだろこれ。
「こっそり行ってこの人戻ってきたらバレねーよ。それに、俺は帝国出身だが、帝国のやり方に納得してるわけじゃないからな」
「へぇ?」
「各国に戦争を仕掛けたのは帝国だ。大陸を支配するためにな。それまではどの国も平和に暮らしてたのに。皇帝は何を考えてんだよ。」
皇帝───つまり、帝国のトップだ。
ハールヴァー・フォレア・ドラッケン
それが今の帝国の皇帝である。
ゲームでも、序章でこのおっさんが王国に戦争を仕掛けたことから物語が始まるのだ。
「・・・・・・」
アルフィンは少し怒ったような顔で黙っている。平和だった自分の故郷をめちゃくちゃにされたら、そりゃ怒るわな。
「話が逸れたな。ま、とりあえず舟を利用したかったら森で素材を集めてこい」
「わかった。アルフィン、行こう」
「うん」
こうして俺達は、王国に向かうため、魔獣退治に出掛けることになった。
「おらぁっ!」
「グゲゲッ!」
勢いよくチョップすると、木の魔獣ビックウッドは真っ二つに割れた。薪割りみたいで楽しいな、これ。
「すごーい、結構集まったね」
枝や割れた本体を集めながらアルフィンが手をパチパチ叩いている。
「こんだけ集めればオーケーか」
「そうだね」
数えていなかったが、20匹ぐらい真っ二つにしたはずだ。それなりに素材も集まった。後はこれをムキムキさんの所に持って行くだけだ。
「や、やめてくださいっ!」
突然向こうの方から女の子の叫び声が聞こえ、俺達は振り返った。
「い、いまのは・・・!」
「女の子・・・?」
とにかく、声が聞こえた方へ俺は駆け出した。
「わ、私、食べても美味しくないですよぅ・・・!」
そこでは、帝国軍の兵士達数人に修道服を着た少女が囲まれていた。16,7歳ってとこか。茶髪の髪を肩ほどまで伸ばした彼女は、頭を抱えてうずくまっていた。
そんな彼女を、兵士達は気持ち悪い笑みを浮かべ、無理矢理どこかへ連れて行こうとしている。
「なあ、いいだろ、ちょっとだけだって」
「痛いことしたりするわけじゃないしさぁ」
「食べても美味しくないって、わははは!俺達魔獣じゃねぇんだからさ!!」
これは俗に言うナンパってやつか?あの子めちゃくちゃ嫌がってるけども。
「ユウ君!」
アルフィンが向こうから駆けてきた。全く疲れてなさそうなのが謎なんだが。
「どうやらナンパされてるみたいだ」
「ええっ!?助けないと!」
「ああ、分かってる」
すると、兵士達が俺の存在に気付き、こちらに顔を向けてきた。
「あーん、なんだテメーは」
「嫌がってるからやめてあげて」
極力優しくそういうと、兵士達は笑いながら、俺とアルフィンの方に寄ってきた。なんだこいつら、きめぇ。
「なんだなんだぁ?正義のヒーロー気取りか?」
「わっはっはっは、痛い目みたくなかったらとっととどっか行けよ、クソガキ」
「んん?後ろの女の子、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか」
「うへぇ、あっちの子もいいけど、この子も最高だな」
そんなことを言いながら、兵士達はアルフィンに近づこうとしたので、それを俺が手で止めると、キレた兵士に胸倉を掴まれた。
「おい、あんまり調子にのるなよ、ガキ」
「ちょ、服破れるから離せって」
金2ゴルしかないのに、これで服破れたら大変だろうが。
「うるせえ、ぶっ殺すぞ!」
そう言って勢いよく揺さぶられ、安物の服からブチブチと言う音が鳴り響いた。
「おい、まじで離せ」
「あーん、聞こえねーな。離して欲しかったら持ってる金全部ここに置いて────」
最後まで言い切る前に、俺の胸倉を掴んでいた兵士は鼻血を撒き散らしながら派手に吹っ飛んだ。俺がぶん殴ったからな。
「なっ───」
そのまま近くにいた兵士を掴み、後ろからやってきた兵士に投げ飛ばす。二人揃って木に激突した。
「こっ、こいつ!」
残った兵士は三人。全員が剣を抜いてこちらを睨みつけていた。
「はー、めんどくせぇな」
ちなみにさっきの三人を吹っ飛ばした時、俺は魔力を纏っていなかったので、全身に魔力を纏わせた。
「ひっ、ひいっ!」
突然魔力が跳ね上がった俺をみて、残った兵士達はガタガタと震え始めた。
「いいか、今すぐそこに倒れてる仲間を連れてどっか行かないと、本気で潰すぞ」
そう言って睨みつけると、兵士達はそれぞれ一人ずつ気絶した仲間を抱えて逃げ去って行った。
「ユウ君、大丈夫?」
「服がちょっと破けた」
「あらまぁ・・・」
そうだ、あの女の子は無事か?
そう思って絡まれていた女の子を見ると、まだ頭を抱えてうずくまっていた。
「あー、大丈夫か?」
「ひぃっ、大丈夫です!!」
めっちゃ怯えられてる。俺悪い人間じゃないよ、良い人間だよ。
「ご、ごめんなさい、助けてくださったのに・・・」
「いいって、あんなクズ野郎共に囲まれて怖かっただろうしな。立てるか?」
そう言って手を差し伸べてやると、修道服の少女は、躊躇いつつも、手を取って起き上がった。
「どうも、ありがとうございました。私、シスター見習いのエリナ・ハーシェルと申します」
「ん、ああ、俺は柊木勇だ」
うん、なかなか可愛らしい女の子だな────ん?
どこかで聞いたことある名前だな。そう思って俺は目の前の少女を見つめた。茶髪でシスター見習いで、名前はエリナ・・・・・・あ。
────よく見たらこの子、教国ルートの主人公、エリナ・ハーシェルじゃないか!!
「なるほど、それでエルスの森にいたのか」
エリナ・ハーシェル 16歳
教国ルートを選択すると主人公キャラとして操作できる彼女は、一人前のシスターになるため、教国のほうから帝国にやってきていたらしい。しかし、大戦が始まってしまい、教国に帰れなくなってしまったそうで、仕方なくカサールの教会でお世話になっていたそうだ。
そして、大戦で負傷した兵士を癒す薬を作るのに必要な薬草がこの森に生えているそうで、取りに来たところ、先程の兵士達に絡まれてしまったらしい。
「やっぱり、大戦の被害は大きいようだな」
「はい、カサールには被害が及んでいませんが、オルテア湖付近で起こっている戦いで、両国ともかなりの被害がでているみたいです」
オルテア湖はカサール川を北に辿って行くと現れる、巨大な湖である(琵琶湖の10倍ぐらい)。その辺にある王国、帝国の国境では、今日も戦いが行われているらしい。
「ふむ、大変だな、エリナも」
「はい、まさか帝国軍の方々にあんなことをされるとは思いませんでしたよ」
あはは、と笑うエリナちゃん。うーん、確かに可愛いから、あの兵士達みたいなやつが絡んだりするのも分かる気がする。
なーんて考えていると、何故か少し不機嫌なアルフィンと目があった。
「じーーー」
「ど、どうしたのかな?アルフィン」
「べつにー」
頬を膨らませてプイっと顔を逸らされた。なんで!?
「しかし、驚きましたよ。貴方が王国の王女様だなんて」
エリナに声を掛けられ、アルフィンは再び振り返った。
「まあ、色々あってね。今は王国に戻るために彼と行動を共にさせてもらってるの」
「そういうことだ」
エリナは別に敵ではないことを俺は知っているので、普通にこちらの情報を教えてあげた。するとなぜかアルフィンの機嫌が悪くなったのだ。
「なあ、俺なんかした?」
「別に何にもしてないよ」
「いや、怒ってるよね?」
「怒ってないもん!」
「えぇ〜」
なにがいけなかったのだろうか。女の子の考えることは、本当にわからないや。