第四話 弾丸移動方法
「うおらぁぁぁ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
雷と衝撃波が激突し、鉱山を揺らす。地面は砕け、壁は崩壊していた。
「とっととくたばれ雷野郎!」
「てめぇがな!」
戦いが始まってそれなりに時間が経ったが、まだまだお互い魔力は残っている。いつになったら終わるんだよ、これ。
ちらりとアルフィンの様子を確認する。どうやら巻き込まれたりはしていないようだが、さすがに怯えているようだ。
早く終わせて外に連れ出してやりたいが、この金髪クソ野郎、なんで魔力上昇してんだよ!!
「どうした、さっきより動きが遅くなってるんじゃないのか?」
「うっせぇ!お前みたいに禁忌魔法覚えてるわけじゃねーんだよ!」
手のひらに魔力を集中させ、一気に放つ。発生した衝撃波が地面を抉りながら迫るが、レインは余裕でそれを躱すと、電撃を手のひらに集めていく。
「別に身にまとうだけじゃないぞ、この魔法は!!」
まずい、避けきれるか!?とりあえず全身を包み込むように魔力を纏う。
「死ね、《電除咆》!!」
放たれた電撃が迫る。これをくらうのはまずい。地面を蹴り、右に勢いよく飛んだ。
痛ぇ、少し掠った。直撃するよりかはマシだが、身を焦がす痛みは想像したよりも痛かった。
「はっ、まだ終わりじゃねぇぞ!!」
「知ってらぁ!!」
レインを見れば、再び電撃を手に集めていた。撃ってくる前に仕掛ける!
勢いよくレインに接近、吹っ飛びやがれ。
「ふん、甘いな!」
レインは地面に手を付けると、一気に纏った雷を放った。
「《雷柱》!!」
俺の拳がやつに触れる直前、地面から電撃が迸る。柱のように上へと昇ってきたそれを俺は躱せなかった。
「うぐぁぁぁっ!!」
あかん、これはあかんやつ!!飛びそうになる意識をギリギリ保ち、手から放った魔法もどきの衝撃で俺は後ろに吹っ飛んだ。
地面に打ち付けられ、ゴロゴロと転がる。だせぇな、これは。
「ユ、ユウ君!!」
アルフィンがこちらに走ってきた。危ないから離れとけって言ったのに。
「ユウ君、しっかりして!」
「いやー、あいつ強いわ」
そんな泣きそうな顔で見つめないでくれよぅ。
「大丈夫、まだやれるから」
「で、でも、怪我してるのに!」
「外に出れば勝手に治るんだ」
「そんなわけないじゃん!」
とうとうアルフィンは泣き出してしまった。ポロポロと涙が頬を伝い、砕けた地面に落ちていく。
「ここで俺が戦うの止めたら、また捕まっちまうし、罰とか多分やばいだろ。俺は別に大丈夫だけど、アルフィンにまで痛い思いをしてほしくないから」
「でもぉ・・・・・・」
ポン、と頭に手を乗せ、撫でてやった。
「まあ見てなって。俺、まだ本気じゃないから」
まだ泣き止んでないがニヤリと笑って振り返った。今はまだ戦いの最中だ。てか、待っててくれたのかよ、いいやつかよ。
「攻撃してこなかったな」
「俺は泣いている少女に容赦なく電撃を浴びせる男じゃない」
「ふーん」
ムカつくな、こいつ。俺には遠慮なく禁忌魔法ぶっ放してくるのに。
「そろそろ終わらせようか、クソ野郎」
まずいな、本気で終わらせるつもりだ。特大の一撃を撃ってくるだろう。どうする?どうやったら勝てる?
考えろ、考えるんだ、柊木勇。
「終わりだ、《死電轟裂》」
「ちょ、おま、待てよ!」
考えてんのにとんでもないの撃ってくるとか、頭おかしいだろ、こいつ!!
後ろにはアルフィンもいるのに、あ、だめだ、これは終————
————迫ってくる死の一撃が俺に触れる直前、俺の身体に変化が起きた。
「ん、あれ」
俺生きてる?前を見ると、先程の攻撃は俺の目の前で停止している。レインも技を放ったポーズ(笑)で止まっているし、アルフィンもぴくりとも動かない。
「どういうことだ?」
俺以外の全てが停止している。何が起こったんだ?
それに、さっきの倍以上に魔力が上昇しているような気がする。
あれか、俺もついに主人公として覚醒したか。ってどういうことだ。
とりあえず、この停止した皆さんはどうやったら動き出すのだ。
と、そんなことを考えていると、次の瞬間全てが動きだした。
「死ね、黒髪野郎!!」
「うおぉっ、びっくりした!!」
急に迫ってきた特大の電撃を、とっさに俺は手で弾き飛ばした。そして電撃の塊は壁に激突し、その辺り一体を消し飛ばす。
「え、は・・・・・・?」
恐らく最強の魔法だったのだろう。それを手であっさりと跳ね返されてレインは固まっていた。後ろでアルフィンも目を点にしている。
「うへぇ、まじか。俺、めっちゃ強くなっちった?」
今のは、それまでと同じようにただ手に魔力を纏わせ、軽く振っただけである。それで七魔導の一人の最強の魔法を跳ね返したのだ。俺も意味がわからん。
「こ、こいつ、さっきまでとは魔力の桁が違う・・・」
「あ、やっぱり?」
うん、これならこいつ、あっさり倒せそうだ。俺の周りの空気の流れが変わった。砕けた壁の残骸が宙に浮く。
アルフィンは目の前の少年を見て驚いていた。先程までも、レインに匹敵するほどの魔力を持っていたが、今は桁が違う。
「す、すごい」
ここまでの魔力の持ち主は、今までに数人しか見たことがない。
『俺、まだ本気じゃないから』
頭を撫でられた時を思い出す。顔が熱い。恐らく真っ赤になってしまっているだろう。この人と一緒なら、本当に王国を救うことができるかもしれない。
「頑張って、ユウ君」
私にも力があれば、彼の横に並んで戦うことができたのかもしれない。
ふと、アルフィンはそう思った。
「うおおおおおお!!」
地面を蹴り、弾丸の如く跳躍し、レインの眼前に移動する。
「っ————!!」
とっさにレインは腕を交差し、顔面を守ろうとしたが、狙いはそこじゃないんだよ。
「らあああああ!!」
膝蹴り。先程までとは比べ物にならない威力で放たれたそれが、レインの鳩尾を捉えた。
「ぐがっ・・・」
まだだ。左足に力をいれると、地面にヒビが入る。そして、右足を上に上げ、猛スピードで振り下ろした。
強烈なかかと落としは交差した腕に直撃し、レインの体勢を大きく傾けた。
「さぁーて、とどめだ」
「ぐっ、まだだ!」
諦め悪いなこいつ。襲い来る電撃を躱し、とどめを刺す体勢に入る。
「これ程の強さで、なんで捕まってたんだよてめぇは!何者なんだよクソが!!」
「目覚めたら閉じ込められてたんだよ!!」
レインの身体に手のひらを当て魔力を集中させる。技名欲しいな、これ。うーん、零距離で撃つ技だから————
『零距離魔導咆』なんてどうだろうか。
「吹っ飛べ!!」
当てられた手の先から放たれた魔力が、レインの身体に伝わり、彼を吹き飛ばす。そして、壁に勢いよく激突した彼は、そのまま倒れ込み、気絶してしまったようだ。
「ふう、終わったか」
長い戦いだった。ようやく外に出れるぜちくしょう。
「アルフィン、終わっ——————」
「ユウ君!!」
後ろを振り返り、アルフィンに声を掛けようとした時、勢いよく彼女に抱きつかれた。
「ぐぇっ・・・!」
「よかった、勝ててよかった!」
ちょ、アルフィンさん、ヤバイっす、胸、胸が当たって————。
そんな俺の心の声が聴こえたのか、アルフィンは俺の顔を見つめると、顔を真っ赤にして体から離れた。あ、ちょっと残念。
「ご、ごめん、つい・・・」
「ぇ、いや、まあ、うん」
ゴニョゴニョ言いながら彼女は顔を下に向けて照れていた。
なんだこれ、可愛いなちくしょう。
「お、おい、あそこに倒れてるのって・・・」
「まさか、レイン様か!?」
「あの男がやったのか!?」
そんなやり取りをしていると、兵士達がぞろぞろとやってきた。てか、あんだけ暴れてたのに、なんでこいつらここに来なかったんだ?・・・あれか、レインが絶対勝つと思ってたから任せてたってらことか。ざまーみろバカ兵士ども。
とりあえず、ここから脱出するか。
「アルフィン、逃げるからこっち来て」
「あ、う、うん。って、うひゃぁ!」
まだ照れていた彼女を呼び、俗に言うお姫様だっこをする。いや、この子ホントにお姫様だし、セクハラじゃないからね?俺が抱えて全力疾走した方が速いと思ったからこんなことしたんだからね!?
アルフィンは、赤くなってきた顔を更に真っ赤に染め上げて、あうあう言っていた。後でちゃんと理由説明して謝ろう。
「それじゃ、さよなら」
王女を抱え、階段を駆け上がり、鉄でできた扉を蹴破り、俺は勢いよく外に飛び出した。
「ほんと、すいませんでした!!」
「う、うん、そんなに謝らなくていいってば」
鉱山地下から脱出してから約1時間。俺達は鉱山から約30マルク(この世界でいう距離の単位で、1000m=1マルクくらい)離れた帝国領のエルスの森まで全力疾走し、数分前に辿り着くことができた。確かエルスの森には、凶悪な魔獣達が多く住んでいたはずだが、なぜか寄ってこないようだ。
ゲームやってた時は、ここで経験値稼いでたなぁ。
それで、1時間前、突然王女様をお姫様だっこするということをしてしまったので、謝罪し続け今に至る。
「変な持ち方されるより絶対良かったし、うん、気にしてないよ」
そう言う彼女の顔は真っ赤っかだった。
「そ、そうか?なら、よかった」
ふぅー、こんなの国王様(アルフィンの父)にバレたらぶっ殺されちまうぜ。
「ユウ君以外だったら、嫌だったけど・・・」
「うん?なんて?」
「なっ、なんでもないよ!」
何か言ったみたいだったが、声が小さかったので聞き取れなかった。まあいい、これからどうするかを考えなくては。
「なぁ、アルフィン。これからどこに向かうよ」
「え、うーん、ここからだとカサールが近かったと思うけど」
「カサールか」
アルフィンは一度帝国に来たことがあるっぽいな。偽名とか使った方がいいかもしれん。
「とりあえず、服とか着替えたいし、こっそりそこに行ってみるとしようか」
「う、うん、そうだね」
急いで行かないと、ここにも兵士来るかもしれないし、やっぱり移動方はさっきのか・・・?
そんなことを考え、ちらりと彼女を見ると、意思が伝わったのか、顔を真っ赤にしていた。
うん、ごめん、歩きで行こうか。