第三話 電光石火
「ここだ・・・!」
「檻が引き飛ばされてる・・・」
見張りの兵士が駆けつけた時には、すでにユウ達の姿はなかった。一体どうやってこの檻を破壊したのだろうか。
ガセア鉱山の地下につくられた地下牢の檻はかなり頑丈につくられている。それを吹き飛ばすなど、奴隷にできるはずがない。
「まさか、魔法を使ったのか・・・?」
「奴隷が魔法を使えるはずがない!」
捕らえた王国の人間の中で魔法を使うことができる者は、別の場所へ連れて行かれたはずだ。おそらくここよりも酷いことをされていると思うが。なのに、一体にどうやってこのようなことができたのだろうか。これは一大事だ。
「と、とにかく、本部に連絡を——————」
「その必要はない」
「っ————!!!」
後ろから掛けられた声に、兵士達は竦み上がった。まさか、この声は。どうしてこんなところに。
「レ、レイン様・・・・・・」
「ちっ、アインハードの野郎め、なんで俺がこんなとこにわざわざ来なくちゃいけねぇんだよ」
現れた青年から漂うオーラは、彼が只者ではないことを嫌でも教えてくれる。おそらく、帝国内で彼を知らない者は一人としていないだろう。
ハールヴァー帝国には、『七魔道』と呼ばれる7人の魔導師がいる。帝国の魔導師約200人分の魔力をその体に宿していると言われ、彼らと互角以上の戦いを繰り広げることができる者など、世界中を探してもそうはいないだろう。
レイン・レーグス
彼は、七魔導のNo.V。『雷帝』と呼ばれ、敵兵達から恐れられていた。
「で、これをやったのは誰だ?奴隷か?」
「は、はい、おそらくそうであるかと」
「まあ、内側から吹き飛ばされてるからそうか」
レインは面倒そうに頭をかくと、兵士達に振り返る。
「とりあえず見つけたら連絡してこい。俺のほうでも捜しておく。
脱走したバカも、それなりに強そうだ」
「な、貴様ら、どうやって外に——————」
「うっさい寝てろ」
「うぎゃっ」
うへー、俺TUEEEE。軽く殴っただけで兵士さん気絶しちゃったよ。脱走してから約20分、早くも見つかり兵士達に追いかけ回されている俺達は、それなりに順調に出口を目指して走っていた。
てか、結構走ってんのに全然しんどそうじゃないな。なんでだろ。そう思って振り返った場所には、余裕そうにあとを追ってくるアルフィンがいた。
「しんどくないの?」
そう問いかけてみた。俺はなぜか身体能力も上がっているので別にしんどくはないが(もともと陸上部だったし)、アルフィンは女の子で、更に王女様だ。王女様ってこんなに走り回ったりするもんなのか?
「ううん、しんどくないよ」
なんでしんどくないんだよ。おかしいだろ、この世界。
「まあ、そろそろ出口も見えてくる気がするから、このまま進もうぜ」
そう言ったものの、出口がどこにあるのか分からない。アルフィンも記憶力はそこまで無いらしく、普段出入りに使っている場所を覚えていなかったので、こうして適当に走っているわけだ。
「貴様ら、そこで止ま————」
「はいはいおやすみ」
「ぷべっ」
こいつら、何人いるんだよ。あと何回夢の国に案内すればいいんだよ。そんなことを考えていると、広い空間に辿りついた。そして、俺の視線の先には階段が。なるほど、あそこの上から外に出られる可能性が高そうだ。
「あ、ここだよ!ここから外に出られるはずだよ!」
アルフィンも嬉しそうに声をあげている。うむ、可愛らしい。
「よし、急いで脱出するぞ」
走っている勢いのまま階段を駆け上がろうとしたが、とてつもない魔力を感じ、俺はとっさにアルフィンを抱きかかえて後ろに跳躍した。
次の瞬間、俺達が駆けていた場所が弾け飛んだ。
ちらりと抱えたアルフィンを見ると、顔が真っ赤に染まっている。とっさだったんだから、許してくれよな。てか、俺って魔力感じたりできるのか。
「へぇ、今のを避けんのか」
アルフィンをおろし、声がした方を見ると、金髪の青年が壁にもたれかかっていた。なんだこいつ、目つき悪すぎだろ。
「あ、あなたは・・・」
「どうしたアルフィン、知り合いか?」
アルフィンは金髪目つき悪男を見て青ざめていた。どうやらやつのことを知っているようだ。
「う、ううん、知り合いじゃないけど、彼は、帝国の・・・」
「おっと、おいおい、まさかあんた、アルフィン・エル・アルファリアか?」
この金髪、アルフィンの身分まで知っているのか。それに、さっきから感じるこの魔力、ちょっとえげつなくないか。
「そういうあなたは、七魔導のレイン・レーグスね」
「はっ、王国の王女様に覚えてもらっているとは、光栄だね」
そういうと、金髪は俺のほうに顔を向けてきた。怖い怖い、ほんと目つき悪いな。完全に人殺しの目してんじゃねぇか。
「で、てめぇが檻を吹き飛ばしたってやつか」
「ん、俺?」
「てめぇ以外に誰がいるんだよ」
「アルフィン」
「ちょっ、私そんなことできないよ!?」
そんな感じでふざけていると、金髪の体が薄い光のようなものに覆われていることに気がついた。なんかバチバチいってるけど、なんだあれ?電気か?
「まあいい、とりあえずお前はぶっ殺す」
「いや、いきなりだなおい」
金髪は俺のこと殺す気マンマンなんですけど。初対面なのにまじで怖いんですけど。
「お前から感じる魔力はかなり高い。ま、楽しませてくれよ」
次の瞬間、金髪が一気に魔力を放出した。全身が電気に包まれている。あれは触れるだけでかなりのダメージをくらってしまうだろう。俺はまだ魔法の使い方がいまいち分かっていない。
今はまだ、檻を吹き飛ばした時のように、体の一部に魔力を集中し、放つことしかできない。
「アルフィン、あいつ、どんだけ強いの?」
「彼はハールヴァー帝国最強の魔導師七人のうちの一人、雷帝と呼ばれている魔導師だよ」
「へえ、それはやばそうだな」
なるほど、どこかで見たことがあると思っていたら、七魔導の一角だったか。やばくないか、この状況。ゲームをプレイしていた時も、こいつかなり強かったぞ。
魔力のコントロールは、この戦いの中で覚えるしかない。アルフィンを巻き込まないようにしないとな。
最初のボスに帝国最強の一角を持ってくるなんて、まったく、燃える展開だぜ。
「アルフィン、下がってろ」
「う、うん。その、ユウ!」
「なんだ?」
「絶対、絶対死なないで!」
「当たり前だ!」
気合いをいれる。
アルフィンのためにも、負けるわけにはいかない。
「さぁーて、ちょっとは楽しませてくれよ!!!」
俺が覚悟を決めて金髪に向き直った次の瞬間、金髪ことレインは、とてつもない速度で俺の眼前に移動してきた。
「っ————!!」
「遅えよ!」
雷を帯びた脚で強烈な蹴りが繰り出される。とっさにバックステップで回避するも、再び超スピードで距離を詰めてくる。
「おまっ、速すぎだろ!!」
「てめぇが遅いんだよ!!」
レインの放った回し蹴りが顔面目掛けて迫ってくる。避けれるか、無理だ!
とっさに腕に魔力を集中させ、蹴りを受け止めた。が、あまりの威力に壁に弾き飛ばされた。
「ぐぉぅ!」
壁に激突し、顔を上げると、すでにレインはこちらに飛びかかって来ていた。
俺はゲームの設定を思い出していた。帝国最強の七魔導達は、禁忌魔法と呼ばれる魔法を使うことができる。その破壊力と、術者にかかる負担の大きさから使うことを禁止され、封印された古の魔法。それをバンバン使ってくるのがこいつらだ。
レイン・レーグスの使う禁忌魔法は雷の魔法。全てを破壊する雷を身に纏い、戦場を雷の如く駆け抜ける。
その魔法の名は『雷霆万鈞』
「終わりだ!!」
レインが狙っているのは多分鳩尾だ。まだ魔力をコントロールできていない俺がくらえば一撃で沈む可能性がある。
どう回避する?横に避ければ即座に方向転換してきて再び追撃をくらうだろう。上に飛ぶか?
とりあえず脚に魔力を集中させ、気付いた。これなら俺もあいつと同じことできるんじゃね?地面を蹴る。尋常じゃない速度でレインの攻撃を回避し、背後に回った。
「なっ————!?」
「遅ぇよバーカ!!」
もう一度地面を蹴り、振り返ろうとしていたレインを弾き飛ばした。先程俺がいた壁にぶち当たり、軽く跳ね返ってきたやつの土手っ腹を思いっきりぶん殴る。
が、やつの雷で俺も手にダメージを負ってしまった。痛ぇなちくしょう。レインのほうを見ると、それなりに効いたみたいで、足元が少しフラついているようだ。
「はっはっは、どうよ、俺のパンチは」
「効かねぇな、とは言えねーよ」
今ので倒れてくれないか。やっぱ強ぇーな七魔導。だが、脚に魔力を集めることで、俺もやつと同じか、それ以上の速度で動けるみたいだ。勝機はある。
「もう大人しく脱出させてくれねーかな?」
「させるわけねぇだろうがボケが」
ん、これは・・・。レインの魔力が上昇していく。え、あれですか?まだ本気出してなかったパターンか?ゲームじゃこれ以上力上昇しなかった思うんだけど。
「どうやらお前はかなり強いらしい。だから遊びは終わりだ」
広い空間に稲妻が迸る。どうやら戦いはまだまだ終わらないらしい。