第十話 次の国
「本当にお世話になりました」
そう言って俺達はレゼンさんとクレアさんに頭を下げた。
「うふふ、可愛い娘の友人ですもの」
「ああ、そうだな」
今日俺達は王都を出発して、教国方面へ向かう予定だ。
まだナユタとの約束の日まで2週間ほど時間はある。
「アルフィン、くれぐれも無茶だけはするなよ」
「はい、わかってます」
「そうか」
そう言うとレゼンさんはアルフィンの頭に手を置き、優しく微笑んだ。
「お前は私達の誇りだ。無事に戻ってくるんだぞ」
「っ、はい!」
「はは、なんかいいなこういうの」
「そうだな」
この家族を見ていると、もう一度両親に会いたくなる。
それは叶わない夢だけど。
「アルフィン、これを」
クレアさんが宝石のようなものをアルフィンに手渡した。
「私の魔力を込めて作った魔法石です。危なくなったらその石があなたを守ってくれます」
「お母様、ありがとうございます」
アルフィンは二人との挨拶を済ませ、こちらに駆け寄ってきた。
さて、出発の時間だ。
「ユウ君、少しこちらに」
「・・・?」
クレアさんに呼ばれたので、アルフィンと入れ替わる形で俺は小走りでクレアさんの元に行った。
「ユウ君、アルフィンのことよろしくお願いしますね」
「はい、任せてください」
「ふふ、次にアルフィンと会ったとき、どれだけ大人の階段を登っているのかしら」
「な、なにを言ってるんですか」
「無理矢理はだめですよ〜」
「何もしませんから・・・」
「クレア、いい加減にしないか」
レゼンさんに引っ張られてクレアさんは俺から離された。
ほんとこの人は言うことが無茶苦茶だ。
「ユウ、手を出したらわかっているだろうな?」
「出しませんって!」
「ならいい。次に会うときには立派な男になっておけよ」
そう言ってレゼンさんはニヤリと笑った。
「了解です」
俺もニヤリと笑みを浮かべた。
そして、後ろにいたみんなの元に戻った。
「それでは、また」
「お父様、お母様、行ってきます!」
「料理美味しかったなぁ」
「フレイさん、きちんとお礼を言わないといけませんよ」
手を振る二人に手を振り返し、俺達は王城をあとにした。
「さて、これからどうしようか」
「やっぱり予定を決めておいたほうがよかったんじゃ・・・」
「予定なんざ歩きながら考えりゃいーのさ」
中央通りを歩きながら今後について話し合う。
教国方面に行くのはいいが、そこから帝国か教国のどちらに向かうのかまだ決めてはいない。
「てか、フレイはいつの間に俺達について来ることになってんだよ」
「え、ダメか?」
「いや、俺はいいけど」
「私もいいよー。王都を守ってくれたしね」
「私も構いません」
「うへぇぇい、てことでこれからよろしくぅ!」
「おう、よろしくな」
これからの旅は賑やかになりそうだ。
しかし、まさかかつて自分が操作していたキャラクターが二人も仲間になるとは。
「感動もんだな・・・」
「え、何か言った?」
「あ、いや、独り言だ」
感動をつい言葉にしてしまった。
「あ、そうだ。一度北の国境付近に行ってみない?」
アルフィンが俺にそう言ってきた。
「北の国境・・・ってあそこは今戦場になってるんじゃないのか?」
「昔からお世話になってる兵士の人に聞いたんだけどね、王都に帝国軍が攻めてきた時、北の国境付近で王国軍と戦闘を行っていた帝国軍が撤退していったんだって」
「撤退・・・?」
「うん、だからもう北の国境付近での戦いは終わってるそうだよ」
撤退したのか。
ふむ、なんでかは知らんがよかった。
「そうだな、一回行ってみるか」
次の行き先は北のほうにある王国、帝国の国境に決定だ。
まあ、一週間もかからないだろ。
「お、出口か」
喋っていると、大きな壁の前にたどり着いた。
なんとなく後ろを振り返る。
綺麗に建てられている家、行き交う人々、そびえ立つ白の王城。本当にいいところだ。
「また来よう」
俺達は王都を出発した。
「ユウさん、大変です」
王都を出てから2時間後、袋を覗いていたエリナが困った表情を浮かべて声を掛けてきた。
「どうした?」
「その、食材が尽きています」
「な、なんだと!?」
しまった、祭りをエンジョイし過ぎて食べ物買うの忘れてた。
このままでは野宿をする時に食うものがない。
「ど、どうします?」
「そうだな、あっちの方に見えてる森で自分達で集めよう」
少し遠くに見えている森の中でいろいろ見つかるはすだ。
魔獣を狩れば肉も食える。
「じゃあ、俺は魔獣狩りで!」
フレイが楽しそうにそう言った。
「私はある程度食べれる草やキノコの種類が分かるのでそういうものを探してみます」
そう言ったのはエリナだ。
「俺は川があったら釣りでもする」
俺は釣りがしたい。
「私は、うーん、どうしよう」
アルフィンはまだ何を担当するか決めていないようだ。
ここは、勇気を出して釣りに誘ってみるか?
楽しいんだぞ、釣りは。
いや、そんなことしたらなんだこいつ、私のこと狙ってんじゃないのとか思われそうで怖いな、くそぅ。
そんなことを考えていると、フレイがアルフィンに話しかけた。
「何するか決めてないならアルフィンちゃんも釣りしてこいよ」
「え、でも、一人一つ何かした方がいいと思うけど」
「まあまあ、他のことは俺らに任せとけよ、な、エリナちゃん」
「ぐっ、わざとですか?」
「ほぇ?そんなことないっすよ?」
「はあ、もう・・・。アルフィンさん、ユウさんと魚を釣ってきてください」
「え、あ、うん、わかった」
よくわからんが、アルフィンも釣りをすることに決定した。
「よし、ある程度集めれたらここに集合な」
「あいよ、行ってくるぜぃ」
「それではまだ後で」
森に入ってしばらく歩き、今いるところはやたらでかい木の下。
少し離れた場所からでも見えるので、集合場所に向いている。
「んじゃ、俺らも行くか。まずは竿を作るぞ」
「うん」
俺達は現在地から少し離れたとこに見えている小川で釣りをすることにした。
「はい、これ竿ね」
近くの枝などで作った竿をアルフィンに手渡す。
餌はミミズだ。
「ちょ、ちょっと待って、ミミズ使うの!?」
「うん、他に餌ないし」
「私、ミミズ触れない・・・」
「貸してみ、俺が付けるよ」
手渡した竿をもう一度受け取り、落ちてた鉄くずを曲げて作った針にミミズを刺す。
ちょ、痛いのはわかるけど暴れんなこら。
「はい」
「あ、ありがと」
アルフィンに竿を渡し、俺は餌を川に投げ入れた。
釣れるかはわからないが、しばらく待機しておこう。
「いい天気だなー」
「そうだねぇ」
二人横に並んで魚が掛かるのを待つ。
「ねえ、ユウ君」
「どうした?」
「北の国境に着いた後、教国に行ってみない?」
突然アルフィンがそう言ってきた。
「教国でも大戦で苦しんでる人が沢山いると思うの。だから、ナユタさんとの約束の日まで少しでも多くの人を助けたいなーって」
「うん、別にいいけど」
「ありがとう!」
「あ、掛かってるぞ」
「えっ?」
喜ぶアルフィンの仕掛けに魚が掛かったようだ。
「え、わぁっ!」
掛かった魚が水面を跳ねる。なかなか大物だ。
「よし、頑張れアルフィン!」
「ま、任せて!」
俺はアルフィンを応援する。
「それっ!」
アルフィンが勢いよく竿を後ろに持ち上げた。
その勢いで掛かった魚がこっちに飛んでくる。
「え、ちょ、ぐおわっ!」
そのまま俺の顔面に直撃した。
「ご、ごめん!」
「はは、いいって」
下に落ちてピチピチ跳ねる魚の口から刺さった針を抜いてやる。
ふむ、美味しそうだ。
「怪我してない?」
「ああ、もちろん」
「よかったぁ」
魚が顔に当たったぐらいじゃ俺は怪我しないぞ。
「この調子でどんどん釣ろうぜ」
「うん、頑張ろー!」
その数分後、再び俺の顔面に魚が直撃した。
「へえ、教国に行くんだな」
「ああ、そうすることにした」
その日の夜、今日入手した魚や肉を焼いて食べながら、俺はフレイとエリナに教国に向かうことを言った。
「教国はエリナの故郷だったっけ?」
「はい、クリアラ村という場所に私の実家があります」
「んじゃ、そこを目指すか」
俺がそう言うとエリナが驚いた表情でこちらを見てきた。
「いいんですか?」
「ああ、どうせ教国に行くんならエリナも家に戻りたいだろ?」
「それは、まあ」
「じゃあ行こう」
はい、エリナの住んでた村に行くことが決定しました。
「てことでいいよな?」
「うん、いいよー」
「教国かー、初めて行くぜ」
「楽しみだな」
さて、教国では何が起こるのか。
そんなことを思いながら俺はいい具合に焼けた魚にかじりついた。