第二話 主人公になりたい
ああ、驚いた。生まれて17年経ったが、こんなに驚いたことはないだろう。だって今、目の前にいる白髪の美少女が言った言葉、
アルファリア王女王女 アルフィン・エル・アルファリア
それは、おれがかなりやりこんだ大人気RPG『メモリアハーツ』に出てくる登場人物の1人なのだから。
アルフィン王女は、王国ルートを選択し、物語を進めると、エンディングにのみ登場するキャラクターなのだ。戦いが終わり、平和に戻った王国に戻ってきた彼女は、帝国軍に捕まっていたらしい。
それだけしか登場しないキャラクターが、今俺の目の前にいるこの状況。つまり俺は、物語の裏側を見てるってことか?うーむ。
「あのぅ」
考えこんでいると、アルフィン王女が話しかけてきた。
「ああ、悪い、別に無視したわけじゃないぞ。驚いただけだから」
「そ、そう」
彼女は何日間ここにいるのだろうか。ずっとこの牢の中に閉じ込められているのか?
気になったので、聞いてみることにした。
「2週間くらいかなぁ。あ、別にこの中にずっと閉じ込められてるわけじゃないよ。ここ、鉱山だから、とれた石とかいろいろ運ばされたりしてるんだ」
「しんどいのか?」
「うん、私はきついな。結構重いし」
「そうか」
帝国め、こんな可愛らしい美少女に荷物運びさせてるだと?血も涙もないのか貴様らは。許さん、許さんぜよ。
「ユウ君が来る前は違う人がここにいたんだ」
「さっき言ってた人か」
「うん。でも、やっぱり亡くなったのかなぁ」
「亡くなった?」
「その人、運んでた鉱石を転んでぶちまけちゃってね。怒った兵士に連れていかれちゃって、それっきり」
「・・・・・・」
なるほど、つまり、俺の前にいた、ええと、なんとかさんは失敗して殺された可能性があると。えげつないな、この世界。
ん、てかなんで俺この子と喋れてんだ?日本語が共通語なのか?
まあ、日本がつくったゲームだしな。
目の前の少女が言っていることは、おそらく本当のことだろう。
ここは、メモリアハーツの世界で、彼女はアルフィン王女。そしてここは、帝国内にある鉱山で、俺たちは奴隷として働かさせられるためにここに連れてこられたと。
トラックにぶつかった衝撃で異世界まで飛んできてしまったのか?
「・・・・・」
てか、今思ったんだけど、俺、大好きなゲームの中に来ちゃったんだよな。それ、めちゃくちゃ嬉しいんだが。死んだら異世界に転生しちゃったぜひゃっほう!ってやつか。
旅して大戦を止めるために立ち上がった主人公達に会える可能性もあるわけで。
さっきまでの絶望が、全部好奇心に消し飛ばされた。やばい、俺、新しい主人公として物語に介入できんじゃねえか!
「よし、決めた」
立ち上がる俺を不思議そうに眺める少女が1人。彼女に向かって俺は手を差し出した。
「俺と一緒に来ないか?」
アルフィン・エル・アルファリアは、アルファリア王国の王女であった。しかし、王都にまで戦火がおよび、お前だけでもと逃がされ、たどり着いたキサナで起こったこの前の戦いで帝国軍に捕まってしまい、この鉱山で重労働に明け暮れていた。
だが、今日目を覚ますと、不思議な黒髪の少年が隣に。そして、その彼が今、彼女に手を差し出していた。
「俺と一緒に来ないか?」
思わず見入ってしまう笑顔でそう言われて、彼女の顔は真っ赤に染まった。
「え、ええ!?ここから出るつもりなの!?」
「ああ、そうだが」
「む、無理だよ!ここには希少な石や鉱石がたくさんあるから、奴隷もたくさん連れてこられてる。その見張り役として、帝国の兵士もいっぱいいるんだよ!」
「うん、でも俺外に用事ができたから」
ここ、ガセア鉱山には、約100人の帝国兵が寝泊まりしていた。理由は奴隷の監視と、罰を与えるため。
彼らは1人1人が強かった。帝国軍人なのだから、ぬるい鍛え方は誰一人としてされていない。
「どうやって脱出するつもりなの!」
「んー、ちょっと待ってくれ」
そう言うと彼は鉄の檻に触れた。
「なーんかいけそうな気がするんだよなぁーっと!!」
彼がそう言った瞬間、凄まじい轟音と共に檻が吹き飛んだ。
「なっ・・・・・・!?」
まさか、彼——ヒイラギユウは、魔法を使うことができるのか。
そんなことを思いながらアルフィンは呆然とユウを眺めていた。
————————やばい、まじでできた。
アルフィンの視線には気付かず、ユウは1人興奮していた。
いや、だって、俺魔法使えるとか思わないでしょ。
彼が行ったのは、自分の手のひらに魔力を集中させ、それを一気に放つというものだった。なんとなく、力のようなものを手のひらに集中させる感じでやってみると、本当に衝撃波が発生したのだ。
「うひょー、これが魔法か」
これ、脱出余裕じゃね?そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「ちょっ、ユウ君、魔法使えたの!?」
「今初めて使った」
「ええっ!?」
今のでごっそり力を持っていかれた————なんてことはなかった。まだまだ魔力は残っていそうだ。
「俺は外にでるつもりだけど、アルフィンはどうする?」
「え、わ、私は・・・・・・」
いきなり現れた黒髪の少年は魔法を使えた。この世界で魔法を使うことができる人間はかなり少ない。王国での魔法は剣などに魔力をのせて闘う『魔法剣』。
帝国は彼のような感じの魔法。
教国は『法術』と呼ばれる術を使うらしい。
とすれば、彼は帝国出身ではないのか?私の故郷を蹂躙している敵国の・・・・・・。
「俺、別に帝国出身でも何でもないからな?そのへんの話は脱出できたらするつもりだが」
そんな考えを見抜いたのか、彼は言った。
着いて行くべきなのか。
「私は・・・・・・」
彼女の脳内に故郷の姿が思い浮かんだ。穏やかな街中、白い鳥が空を羽ばたき、子供達の笑い声がひびく。住む人が皆笑顔で笑っていらる、そんな国だった。
「アルフィン、お前は、王国のためになにかしようと思わないのか?」
「・・・・・・!!」
そうだ、私はこんなところでなにをしているのか。今も戦いに巻き込まれ、悲しんでいる人達がいる。彼がいれば、もしかしたら、王国を救うことができるのではないか。
「ユウ君、私、王国を、みんなを助けたい。」
「ああ」
「だから、もし、外に出れたら、私に、力を貸してくれない・・・かな」
断る理由なんてなかった。せっかくゲームの世界に来れたんだ。いろんなことしたいし、主人公っぽく戦ってみたい。俺が世界を救うってストーリーも、悪くはないな。
それに、帝国のことが少し許せなくなった。ゲームをプレイしていても思ったが、人を奴隷として扱うのは、帝国だけなのだ。
そんなことを考えて、ユウはアルフィンの瞳を見つめた。
真っ直ぐで、本当に王国を救いたい気持ちが伝わってくる瞳だった。
そんな瞳を持つ彼女と共に戦う・・・・・・悪くない。
「ああ、一緒に戦おう」