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一週間前

作者: 宮城時雨

一週間前から私は彼女を避け続けている。


別に彼女のことを嫌いになったわけではない。


ただ、怖いのだ。


カノジョのことが。




「ちょっと」


彼女が背後から私の肩に触れる。


私の体は強ばった。


「な、なに?」


彼女に顔を見もしないで返事をした。


見られない。彼女を。


「何よー。一緒に帰ろうよ。アンタ最近私のこと避けてるみたいだから、声かけたの」


私は無理に笑って見せた。


「避けてなんて…ごめんね。誤解させたみたい」


「あ、よかった。私

アンタになんかしたのかと思った。びっくりさせないでよ」


彼女は安心したように笑った。


同時にカノジョも笑う。


「最近良いことがあってねー。彼氏のことなんだけど」


彼女の嬉しそうな笑顔。幸せそう。


「彼氏って、出会い系の…?」


訊ねると彼女は大きく頷いた。そういえば最近不倫してるって楽しそうに話してたっけ。


「そ。彼、奥さんと別れてくれた」


私は返事をできなかった。一体なんていったらいいのか…


「奥さんには悪いけどさ。まぁ彼はあたしを選んでくれたわけだし」


どこかいい訳じみた口調で彼女は訥々と語りだす。


私はカノジョを盗み見る。嬉そうに笑っていた。


「ねぇ。それっていつの話?」


「ん? 何が?」


「彼氏さんと奥さんが別れたの」


彼女は、ああとつぶやいて、悪戯っぽく微笑んだ。


「一週間前よ」


カノジョは頷いた。


「………へぇ。それで奥さんどうしたんだろうね…」


「なんかねー、慰謝料とか全然請求してこなかったってさ。あっさり、ハンコ押してくれたみたい」


彼のこと愛してなかったのよ、彼女は勝ち誇ったように言った。


いや、奥さんは夫である“彼”を愛していたに違いない。


だって。


「分かれた後、奥さんどうしてるんだろう」


「えー? 実家に帰ったんじゃん? 連絡つかないって彼言ってたし」


連絡がつかない。


それはそうだろう。


「今日、彼と会うんでしょ?」


彼女は頬を赤らめた。


「わかる?」


「うん。だってすごく嬉しそうな顔してるもの」


彼女も。カノジョも。


「これからは何の障害もなく彼と付き合えるわ」


彼女は自分に言い聞かせるようにつぶやき、カノジョはいっそう笑みを深くした。


カノジョの笑みは不気味だったけれど不思議と今は恐ろしいと感じない。


感じるのはカノジョと彼女への哀れみ。


「あ、私、彼とあの喫茶店で待ち合わせなの」


「そっか。じゃあデート楽しんできてね」


彼女の表情は本当に幸せそうで。カノジョもその背後で微笑んだ。


「また明日」


そう言って彼女はカノジョを背負って店の中に消えていった。


「お幸せに」


カノジョの正体が分かってよかった。


それにしても彼女は一生カノジョを背負ったままなのかしら。


「まぁ、いいか」


そんなことよりもあと五分で電車がくる。


私は駅に向かって走り出した。




べたべたホラーです。読んでくださった方々に感謝です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベタではありますが、淡々とした文体がゾクリとした怖さを伝えていました。
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