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誰かを知りたいと思う

観察1日目


男が特に変な行動を取る様子はない。


と、言うか何かをする以前にずっとわたしのそばについていてくれた。


しいて何か上げるとしたら、わたしにおかゆを食べさせてくれたのがうれ………


い、いや腹立たしかった!


そ、そうだ……


なぜならあいつは私が嫌がって〔恥ずかしがって〕いるのにも関わらず、わたしの体が動かないのをいいことに、おかゆを無理やり〔というほど抵抗はしなかったが〕食べさせてきたのだから!


しかも、食べた後には子供扱いで口元を拭いてくれるし……


それに丁寧に拭いた後に「たくさん食べたね、えらいよ」って言いながらわたしを撫でてくれたし………


ま、まったく。


腹立たしい……… なぁ………


――――


観察2日目


やっぱり、男に変な点はみられ無い。


ちなみに今日は天気が良かったので、男がわたしを外へ連れて行ってくれた。



ちなみにトイレの時とかもそうなのだが、男はわたしを運ぶときにいつもお姫様だっこをしてくれる。


しかし、このお姫様抱っこが意外と困る。


男がわたしを抱えあげるので、仕方なくわたしは男の胸元に寄り添い、男の首に手を回して密着するのだが……


これが、意外と…… その、恥ずかしいのだ……


まぁ、それいじょうに幸せなきも…… な、なんでもない……



と、とにかくそんな感じで、男はわたしを抱えながら外へ日向ぼっこをしに出た。


そとはぽかぽかしていて、そして……


それと同じくらい男の表情は…… 


むぅ………


日向が暖かい…… なぁ。


――――


観察3日目


あまり男はぼろを出しそうにないので、今日は直接男に話を聞くことにした。



男の名前はアルキ・フラットレイルと言うらしい。


何でも王国七十二皇家と呼ばれる偉い貴族の中の末席の家の子供で、そこの五男なんだとか。


いい家柄とはいえ、末席のしかも五男ではそこらへんの貴族と大差はないらしく、特に権力や力もなく普通に勇者学校を出て、今はフリーの勇者をやっているらしい。


ちなみに勇者とは、魔王を倒すことを生業とした職業であるとのこと。



そして魔王とは知性を持ち、人にあだなす魔物の総称で、性質的に知性を持たない魔物を従えていることから「魔を統べる王」という意味を持つらしい。


つまりはわたしを殺そうとした、あの雌龍共も知性を持たない竜の眷族を従えていたので、奴らの中で人間に危害を加える者がいればそれは魔王と呼ばれるものに数えられたと言うことなのだろう……


そして勇者とは、そんな魔王達を討伐する者共の総称で、人の住む場所に駐在して民を守る騎士達とは別に、自ら魔王の元へと赴き、撃って攻め入る「勇敢なる者」と言う意味を持つ職業なのだとか。


ちなみに勇者になるには、勇者専門学校を卒業して勇者資格を取り、なおかつ二年間以上の見習い期間を得た後に独立し、初めてなれるらしい。


つまり勇者とは個人経営のモンスター討伐専門家と言うことなのだろう……


と……


まぁ、そんな感じで、人間の事に結構詳しくなる位にわたしは男と…… アルキと話をした。


アルキはわたしの質問に嫌な顔一つせず親切に説明してくれた。


アルキは人間のことを全く知らなかったわたしに、とても分かりやすく、丁寧に、順序だてて、人間の暮らし方や社会の構造などを踏まえて説明してくれたのだ……



……思えば誰かとこんなに「会話」をしたのは初めてかもしれない。


いや……


考えてみれば、わたしが今までしてきたことは「命令」とそれに対する「返答」だけだ……


「会話」ではなかった。



今日わたしはアルキについて気になったこと、気付いたこと、知りたいと思った事を片っ端から聞いていった。


アルキはそんなわたしの質問に、わたしの目を見ながら、自分の経験や思い出のエピソードを交えて、笑いながら説明してくれた。


わたしは、そんなアルキの思い出話にくすりと笑ってしまったり、解説の中で出てきた疑問をさらに詳しく聞いたり、そして時にわたしの話をしたりした……


相手の… アルキの目を見ながらだ…


わたしが今日、アルキとしたのが…… これがきっと私にとって、生まれて始めての「会話」なのだろう……


――――


観察4日目


今日もアルキと一日中会話をした。


色んな事をアルキと話した。


アルキの誕生日が一月一日である事や、好きな食べ物がカレーなる物であること、好きな色は月の光のような銀色で、趣味は読書であることなど。


とにかく色々なことを話した。


アルキとの会話はとてもたの…… うん…楽しい。


誰かとこうして対等に話をすると言うことがこんなに楽しいとは思わなかった。


初めての感覚だ……


これが、人間の体ゆえの感覚なのか、それともわたし自身の変化から来るものなのか、そのどちらであるかは分からない。


だが……


こうして、相手を見ながら話をして、相手もわたしを見ながら話してくれて。


笑いあったり、顔をしかめたり、少しおこったり、だけどやっぱり笑ったり。


こうして相手を感じながら、話をするというのは……


とても満たされるものがあるのだな……


――――


観察5日目


今日はアルキの事をずっと見つめ…… 観察して一日を過ごした。


アルキは艶々していて、ちょっと長めで、少しだけ癖のある黒髪に、真っ黒で深い色合いの瞳をしている。


身長は…… えっと、わたしが多分140程だから、160台後半くらいだろうか?


体型は中肉中背、だけど良く見れば結構体は引き締まっているみたいで、着やせするタイプのようだ。


顔つきは結構整っていて、人間の醜美の基準は良く分からないが、少なくともわたしは……


えっと… その、悪くないんじゃないかと思う。



アルキは良く笑う。


と、言うか大抵は笑顔だ。


…………アルキの笑顔はとても穏やかだ。


だけど…… 今日ずっと見つめていて気がついたのだが、アルキの笑顔は……


どこか寂しそうなのだ。














なんだろう…… 目が、離せない。




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