寂しくない初めての夜
体が震える、関節がきしんで痛い、頭が割れるようで、呼吸が苦しい……
胸元はズクズクと痛み続けてるし、全身が熱くて燃えそうだ……
そしてさっきから何度も意識が途切れる。
頭がぼやける。
訳が解らない。
大丈夫なのだろうか……
私の体は本当に大丈夫なのだろうか……?
怖い。
寂しい。
わたしはもうこのまま死んでしまうのではないだろうか。
次に意識が途切れた時には、もう目を覚まさないのではないだろうか……
不安だ……
心細い……
いやだ……
こんなに寂しいまま死ぬなんていやだ……
苦しい…… 寂しい……
「怖い……よぉ……」
わたしは…… ひとりだ……
「大丈夫だよ」
………?
「大丈夫…… 怖くないよ」
あ……
「さぁ…… ずっと手を握ってるからね…… 安心して寝ていいよ」
また…… この人だ。
黒い髪の、黒い瞳の、春の終わりの夜みたいに……… 温かい人。
何度も何度も……
わたしが寂しくなる度にわたしを助けてくれる人。
「どこにも行かないから…… 安心していいよ」
ああ……
あぁ……
あったかいなぁ……
やさしいなぁ。
なんでこんなに優しいんだろう……
こんな風にしてもらったのは…… はじめてだ。
安心する。
心地いい。
撫でてくれる手が……
「あったかぃ……」
「そっか……」
あの人がわたしを見て微笑んでくれている。
やさしい…… なぁ。
「あ………」
「ん?」
「………ぃがとぉ………」
「………うん」
ありがとう……
————
それから……
わたしは何度も目を開け、何度も目をつむった。
そして、目を開ける度に目の前にはあの人が居て、目をつむる時にはあの人がいた。
それを何度も繰り返しても、いつも必ずあの人が側に居てくれた。
だから……
だからもう寂しくはなかった。
もし、このまま死んでしまっても……
きっとこの人がわたしの手を握っていてくれてるのだ。
きっとそうなのだ……
こんなに……
一人じゃないってことが……
生まれて初めて感じる……
今まではなかった……
一人だった……
誰かと居ても一人だった……
特別だった……
わたしは特別だった……
寂しかった……
本当はずっと寂しかった……
この人の目……
真っ黒の綺麗な目……
きれい……
安心する……
一人じゃない……
やさしい……
うれしい……
とても…… うれしい。
「さ…… また薬飲もうか」
あの人がわたしを見て微笑む。
「う……」
わたしはそれに目で答える。
「そろそろ一人で飲めるかな?」
あの人がわたしの頬を撫でてくれる。
手がとてもあったかい。
「ん……」
わたしは目を閉じて無理と伝える。
まだ体が全然動かないのだ……
くすりなんて一人じゃ飲めない。
それに……
「じゃあ…… まただけどごめんね?」
あの人が申し訳なさそうに言う。
「む…………」
わたしは目だけで気にしないでと伝える。
そう…… 気にする必要などないのだ。
だって……
「ちゅ…………ん……」
甘い……
凄く甘い……
最初は甘苦い味だったのに。
今は凄く甘く感じる。
「んむぅ………………………」
あの人の唇は柔らかくて、ひんやりと冷たくて……
優しくて、切なくて……
痺れる様に…… 甘い。
「……………ぷぁ………」
あぁ……
あの人の唇が離れてしまう……
まだ……
まだ足りないのにぃ……
「も………」
「ん? どうしたの?」
「も………………っと」
わたしは頬に触れるあの人の手を……
なんとか震える手で握りしめた。
「もういっか………ぃ」
あの人が驚いた様な顔をする。
そして困った様な顔をする。
そして……
何かに気がついた様な顔をする。
優しい顔を…… する。
「もう一回ね?」
「ん……」
あの人の唇が、また私の口に触れる。
「ちゅ……んぁ………」
唇が柔らかい。
気持ちがふわふわする。
胸が傷で痛くて、胸が苦しく切なくて、胸がふわふわ優しくて、胸が熱くてドキドキして……
だけど……
とっても幸せ……
もっと……
もっと。
もっときす…… したい。
「はむ………………」
私の唇で、あの人の唇を、食んでみる。
「んぅ………」
あの人の唇を、舌先で舐めてみる。
「ふぁ……」
あの人の息と、つばを味わってみる。
「うぅ…………」
あぁ……
くらくらする……
頭の奥と、胸の奥と、お腹の奥が……
甘く痺れて、熱くなって……
くらくらするよぉ……
「さ……… もうおやすみ?」
「うぅ……」
あぅ……
また意識が…… 遠く…な…
————
「ん……………………?」
ここは………
「お? 目が覚めたかい?」
あ……… あの人だ。
「よし…… 熱も下がったみたいだね」
うん、ありがとう。
あの人の笑顔は……
本当に癒されるなぁ。
あれ……………
でもこの笑顔……
どっかで……
「本当に良くなったみたいで、嬉しいよ」
あれ…… あれ?
「…………? どうしたの?」
これ…… あれ?
「き…… 貴様…… 人間!?」
「お…… ようやく元気が出て来たみたいだね」
————
お…… お…… 落ち着け!
本当に落ち着け!
状況を分析するんだ!
冷静になるんだわたし!
「大丈夫?」
「う…… うるさいぃ…… だまっていろぉ!」
えーと、えっと……
わたしはえーと……
まずコイツに人間にされて、コイツに看病を受けた。
うん…… そこは状況から見て間違いない。
で……
だとすれば、わたしの意識が朦朧としてた時にずっと優しくしてくれた「あの人」はつまり……
「……………どうしたの?」
間違いなくコイツと言う事だ……
「うぅ……」
て事はだ……
「き…… きさまぁ!」
「な…… なに?」
「よくもわたしのファーストキスをぉ!!!」
「へ…………?」
さぁ、いい感じにイカレてまいりました「下等種に恋した龍と呪われた勇者」こと、通称「下種恋」!
どうしようもない略称ですね!
さぁ、ちょっといい感じにはっちゃけて来たんでこのまま突っ走ろうと思います。
では!