不安定……な。
「ア……アルキ?」
わたしはアルキを見やり、声をかける。
「…………………」
しかし、アルキはそれに何も返さない。
つまり無視だ。
「アルキィ……」
アルキが、わたしを無視しているのだ。
――――
アルキを救い出してから、三日が経過した。
わたしは、アルキがかつてわたしにそうしてくれたように、アルキから常に離れず看病を続けた。
まぁ……
看病している時に、ときどきアルキの唇を頂かせては貰ったが、それはその……
仕方が無かったのだ…… うん。
そんな訳で、看病のかいあってかアルキは今朝方意識が正常に回復し、今に至ると言うわけなのだが……
「………………」
アルキが、わたしを無視するのだ。
目覚めた瞬間はわたしの顔を見て、嬉しそうに微笑んでくれたのに、そのあとすぐにハッとした顔になって、プイと顔を背けわたしを無視し始めたのだ。
「アルキ……」
アルキはどこか困ったような顔をしながら、眉を少しだけ潜めている。
もしかして、これは……
「アルキ… 怒ってるの……?」
ピクリと、アルキの眉が動く。
……………どうやら正解のようだ。
「わたしが、助けに来るなって言ったのに、助けにきたから?」
ピクリと、またアルキの眉が動いた。
どうやら…… 正解のようだ。
で、でも……
それで怒っているって言うのなら…… わたしだってアルキに怒っているのに… ずるい。
「アルキ…… ねぇ、ちょっと無視するのはやめてよ」
わたしは少しだけ声を荒げてアルキを睨む。
「………」
しかし、アルキはそんな私に一瞥もせず無言を通した。
「っ………!!」
私は、そんな頑ななアルキの態度に、少し腹が立ち、軽く歯をかみ締める。
アルキだって…… アルキだって、わたしに呪いまでかけて遠ざけようとしたのに!
そりゃあ約束を破ったのは私だし、それに勝手に助けに来て、しかも自分では何も出来なかったわたしだけど……
でも…! でも、わたしは悪くはない!
わたしはアルキをただ助けたかっただけなのだから…… だから、わたしは悪くなんてないのだ!
「…………」
わたしがそんな事を思いながら、アルキの事を睨みつける。
だけど、アルキはそんなわたしの事を見ようともしない。
「っく……! あ、アルキがそんな態度をとるなら……!!」
わたしはガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。
「わたしだって……… しらないっ!!」
わたしはツカツカと歩いて、小屋から出て行った。
アルキを置いて。
――――
まったく… 本当にまったく!
アルキは、アルキは本当に…… くそぉ!!
なんでわたしが無視なんてされなきゃ…… あんな態度をとられなきゃいけないんだ!
わたしはアルキの事を大切に思っているだけなのに…… アルキを守りたいだけだったのに。
なのになんで……!! アルキは……!! わたしを……!!
わけがわからない…… わたしは何も悪くない!!
怒られるようなことは何一つしていない!!
――――
〔5分後〕
まったく!! アルキは…… まったく……
ああ、もう!
なんだか、お腹がすいてきたな…… なにか食べ物でも持ってくればよかった。
そういえばアルキ…… 起きてからまだ何も食べてないな……
まだ、とてもじゃないけど動けるような状態じゃないだろうし。
おなか…… 空かしてる……かな?
大丈夫……かな?
「ふ…… ふんっ!!」
そ、そんなの知ったことじゃない!
わたしの知ったことじゃない!!
アルキが悪いんだ!!
わたしに…… あんな態度をとるから……!!
アルキなんて…… 知らない!!
「む………」
枕元に…… なにか食べ物置いてくれば良かったなぁ……
――――
〔10分後〕
「むぅ…… むぅぅ…」
アルキ……
大丈夫かな?
よく考えたら、今一人にしちゃだめだったんじゃないかな?
まだ、目が覚めたばかりだし…… もしかしたらまた体調を悪くしてるかも…
お腹をすかせて切ない気持ちになってるかも…
のどか乾いて辛い思いをしてるかも…
体が痛んで、背中とかさすって欲しがってるかも…
アルキは寂しがりやだから、一人で悲しい気持ちになってるかも…
「うぅ…… アルキぃ……」
なんだかそわそわする…… 落ち着かない。
心がささくれ立つ……
なんだ?
なんなんだよぉ…
なんでわたしはアルキから離れてこんなとこにいるんだ?
わたしはアルキの従者なのに… アルキはわたしの…
「アルキ… アルキ…」
だ…… だめだ…… わたしは……
――――
〔11分後〕
「アルキィ!!」
バン! と扉を勢い良く開けて私は小屋へと入る。
わたしが部屋に入ると、そこにはアルキがこちらを見て驚いた顔をしたのが見えた。
よかった…… いた…… 消えてなぃ。
私はそんな事を考えながらアルキを見やる。
「アルッ ……………キ?」
アルキは驚いた顔をして…… その後に目をまた逸らす。
そして……
「アルキ……」
その目を逸らす直前に見せた、アルキの泣きそうな…… せつな過ぎる表情を……
「あるきぃ……」
私は見逃さなかった。
「ご、ごめんね……?」
私は少しだけ泣きそうになりながら… よたよたとアルキに近寄る。
「ごめんね…… 一人にしてごめん」
私はすがるようにアルキに触れる。
そっと触れて、びくりとしたアルキを……
「アルキ…… ごめん」
きゅっと…… わたしは抱きしめた。
「………ッ」
わたしが抱きしめるとアルキはぶるりと体を震わせて、目を伏せる。
少しだけ…… 体を震えさせてる。
「アルキ……」
わたしはアルキの頭を抱える、背中をさする。
「っ………ち………ちがぅ……………… 僕は…」
アルキがわたしの腕の中で小さく呟く。
やめろと言わんばかりに、声を震えさせる。
「おこって……… 君が…… 僕のいう事を聞かない……から」
やめてくれと言わんばかりに、拒絶するように体を強張らせる。
「僕は…… おこってるん…… だぞ……」
でも……
「うん…… ごめん…… 助けに行って…… ごめん…… 約束を破って…… ごめん」
彼は拒否などしなかった。
「………………」
小さくうめき声を上げて、少しだけわたしの胸元に頭を寄せるアルキ。
「うん…… ごめん」
わたしはそんな彼の頭を優しく抱きしめた、
わたしの主は…… 酷く不安定だ。
達観したように穏やかな視線をする時もあれば、まるで幼子のように無邪気に振舞うことがある。
完全にわたしを信頼しきって要るように振舞うのに、まだわたしに隠していることもある。
信頼して欲しい愛して欲しいと言った言動をするのに、まるで信用をしていないかの様にのろいをかける。
そして……
人を遠ざけようとしていながら…… あんなに寂しそうな顔をする。
一帯なんだというのだこの男は。
なんでこんなにもあいまいで不安定なのだ…… この男は。
いったい何が彼の裏にあるのかは知らないが……
「アルキ……」
アルキの全てが、こんなにも…
「あるきぃ…… わたしは……」
わたしの心を…… 掻き乱す。




