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軽薄な笑みを浮かべた人間

『私の命も…… これでおわりか……』


私は空を見上げそんな事を呟く。


しとしとと降り注ぐ時雨が火照る体を優しく冷まし、そしてその冷たさに迫りくる死を感じた。


雨の振る夜空には雲越しの月明かりが淡く輝き、物悲しい雰囲気を醸し出している。


私はそんな夜空を虫の息で見上げた。


恐らく人生最後の風景であるそれを、しみじみと見上げたのだ。


『悪くはない…… 私にしては上等な最後か……』


胸の傷は浅くない。


深く抉られた胸元の傷はドクドクと夥しい血を流している。


この傷は心の臓に届いている。



そして……


私にはこの傷を治癒するだけの力は残っていない。


今私の周りには夥しい量の竜の死骸と八本の砕けた大剣ドラゴンスレイヤーの残骸があるだけだ。


わたしはこれらを自らの墓標とし、永遠の眠りにつこう。



わたしはそんな事を霞み行く意識の中で思い。


そしてそっと目を閉じたのだった。











そして……











自らの呼吸が遠くに聞こえ始めた頃。










「君はまだ生きてるのかい?」


と言う…


少し高い、少年の声が……


わたしの耳に小さく響いたのだった。


————


「怪我を…… しているのかな?」


わたしはその声にうっすらと目をあけ、視線だけを向ける。


そこに居たのは真っ黒な瞳と真っ黒な髪をした一人の人間だった。


「うわぁ…… これは酷い傷だね…… 良くまだ生きてるよ」


その人間は軽薄そうに笑い、自身より大きいわたしの瞳を見つめる。


わたしはそんな人間の笑顔を見て、それが酷く癪に触った。


死に瀕する物をあざ笑うかの様なその軽薄な笑みが……


そして何より龍である私にとって虫に等しき人間が、見ぬ程を知らずに声を掛けて来た事が癪であった。


『おい人間……』


私はかすれた声で、血を吐きながら言葉を紡ぐ。


「なに?」


そんな私を見てニコリと微笑みながら答える人間。


その笑顔がわたしを殊更にいらつかせる。


『今すぐここからはなれろ、わたしの死を汚すな』


わたしは殺気を込めて人間を睨みつける。


弱い存在ならこれだけで精神が崩壊する視線だ。


「え? でも離れたらこの怪我直せないよ?」


しかし、人間はそんなわたしの殺気に臆するどころか平然とした様子で困った様に微笑む。


『何を言っている! 貴様の様なゴミにこの傷を治せる訳がなかろう!』


その平気そうな様子がわたしを更に苛立たせた。


いくら力が弱まっているからと言っても、人間を怯ませるだけの力が無くなった訳ではない。


………なのだがコイツは怯む様子すら見せない。


いったいコイツは何なのだ!


「あ、そう言うことか……

大丈夫だよ、安心して? 僕ならこのくらいの傷は直せるよ」


そう言って人間は再び微笑むと、づかづかとわたしの傷口へと進んで行く。


『な!! やめろぉ!! うぐぁ…… 貴様ぁ!! ゆるさんぞぉ!!』


人間はわたしの胸元に大きく開いた傷口にずぶずぶと埋まって行く。


「ごめんねぇ、ちょっと傷が深いから、傷に入って直接治すね? 痛いと思うけどちょっと我慢してね」


人間はあっという間にわたしの傷の中へと侵入して行った。


『貴様ぁ!! 今すぐ出て行けぇ!! 貴様の様な下等生物が触れて良い者ではないぞぉ!!』


あまりにためらい無く傷口に侵入して行ったので、わたしは反応が遅れてしまった。


ここまで入られてはブレスで攻撃する事もできない。


すれば自らの身までも焼いてしまうだろう。


だが……


我が竜の血は猛毒。


この人間も間違いなくただではすむまい。


「じゃあ、ちょっと特殊な治療法するから頑張ってね?」


なっ!?


な…… なぜ…… なぜ平気なのだ!?


何なのだコイツは!!


「よーし、じゃあ行くよ!!」


『や…… やめろぉぉぉぉぉっっっっ!!』





その瞬間…





わたしの胸元に…





激しい力が流れ込む。





そして……





『うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??』





わたしの体はあっという間に縮んでいったのだった





「き…… きさま…… 私に何をした」


「うおぉ…… 龍の一番力の弱い姿って人間なんだね……」


「何をしたと聞いている!!」


「あ〜、えっとだね…… 君の怪我がすごく深かったから、君を強制的に力を一番温存出来る形態に変えて、それにより怪我のレベルも下げてそこに治癒力を流し込んで一時的に傷を塞いだんだ

つまりは一番弱い姿にして治癒魔法を通りやすくして、その上で傷を表面上は塞いだってわけだよ」


「な……」


そんな方法が……?


い……いや、理論上は可能だとは思うが……


多生物の、ましてやわたしの様な高位の竜の生態を強制的に操作するなど可能なのか!?


それには高度な魔導コントロールと、対象を圧倒するだけの魔力量が必要なはず。


コイツが…


こんな人間の様な下等生物がわたしを圧倒するだけの魔力量を持つと………… いうのか?


「しかしあれだね…… きみ子供だったんだね?」


男がわたしを見ながら頭をかいてそんな事を言う。


わたしは自分の手足に目をやり、それをまじまじと見つめる。


なるほど……


銀色の髪と、白い肌、スラリと伸びる手足、瞳の色は見えないが、恐らく龍の姿の時と同じ銀色であろう。


恐らく人間で言う所の10歳程であろうか?


少女と呼べる体型の姿体がそこにはあった。



銀星龍は1000歳でようやく成龍だ。


そしてわたしの年はおよそ500である。


まあ人間の姿になればこんなものであろう。



しかし……


「貴様…… 目的はなんだ……?」


「へ…… 目的?」


そうだ……


わたしをこんな姿にしておいて何か目的が無いとは言わせない。


まあいかな目的があろうともわたしはコイツを許さないがな……


わたしが今まであえてとった事がなかった人間形態。


下等な人間に姿を変えるこの力。


それを無理矢理とらせたこの屈辱。


貴様の命を持ってはらさせてくれる!


「目的なんて無いよ?」


「な!? 嘘をつくな嘘を!! …………っぐ!?」


「あ〜 ほらほら、無理して動かないで…… 今は人間の女の子と一緒なんだからさ……

それに怪我は表面上塞がってるだけなんだから……ね?」


そう言って人間はわたしにまた笑いかける。


「ぐっ…… その軽薄な笑みをやめろ! 不愉快だ!!」


「あはははは、ごめんね…… ちょっと笑顔は癖なんだ」


そう言って人間はわたしの体を腕に抱え上げ、歩いて行く。


「や、やめろ! わたしに触れるな! きさま! わたしをどこへ連れて行くつもりだ!」


く、くそ…… 


抵抗しようとしても体が動かん!!


「ん? そうだなぁ…… とりあえず小屋でも借りてそこで一ヶ月くらい一緒に暮らそうか?

多分そうすれば君の体も完全になおるはずだよ、そしたらあとは自由にすればいいさ」


「なぁっ!?」


なんなんだコイツは!?


わたしをどうする気だ!?


「は、はなせぇ!! わたしは高貴なる銀星龍だぞ!!」


「そっかぁ、銀星龍ってあれだよね? 確か太古では神と同等に戦ったって言うあれだよね?

すごいなぁ、そんなすごい龍なんだね」


「な!?」


こ、こいつ……


も、もう訳わからん!!



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