あるき…………?
目前には殺気立って迫り来る100を超えた魔物の軍勢。
その軍勢を見ながら腕を組みたたずむ私と、そのすぐ後ろで詠唱を始めるアルキ。
「轟き振るえ、稲光る腕……」
アルキは先ほどわたしに唱えたモノと同じ詠唱を唱える。
すると同時に、わたしの両腕に凄まじい魔力が込められた雷が付与される。
たった二節の詠唱でこの威力とは……
本当に恐れ入る…
「煌き奔れ、紫電の双脚……」
ん……!?
わたしの両足にも雷の付与が?
複合呪文か?
「貫き穿て、怒づつアギト……」
ぬ……
わたしの牙にも属性付与が……?
「五体を巡りし三門の雷刃、怒れる其の観の赴くままに、心の芯より真を示せ……」
二節詠唱の三段活用の混成術式か…
すごい……!!
五体に付与された雷が、増幅して混ざり合って、わたしの体を満たして行く……
そして……
満たしたそれが、わたしの喉もとへと集まっていく。
これは……
龍である私にとっては至極当たり前に……
文字どおり呼吸をするごとく当たり前にこなして来た、龍族の基本にして最強の技……
「解き放たるは飛雷の進…… イグニス! 行くよ!!」
「わかった!!」
この属性付与は……
「あまねく怒りを束ねて穿て!! 銀星ノ龍轟!!」
龍の息吹の龍性付与か!!
「うあああああああ!!!!」
わたしは目の前の軍勢に目を向け、口を大きく開けて叫び声をあげる。
今まで龍の姿で幾度となくやってきたブレスの行動を、人の姿でやる。
羽はないし、爪もないし、牙もなければ、しっぽもない。
唸り声だって前の「グガァッァァァァァァァァァァ!!!!」に比べたら声量も小さいし、どすも利いてない。
だけどその威力は……
ズガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンッッッ!!!!!!!!!!!!
あたり一面を覆いつくす眩く青白い閃光と、つんざく様な電撃の轟音。
そして……
「いやぁ…… 後ろの山ごと吹っ飛んじゃったね……」
「ふむ…… わたしの全盛期の八割くらいの威力と言ったところか…
さすがはアルキだな! 力を八倍にも底上げするとは!」
敵は……
一瞬で殲滅されたのであった。
――――
「アルキはすごいな…… これはほぼオリジナルの術式であろう?」
「うん… まぁベースの術式は別にあるけど、ほぼイグニス専用付与にカスタムした奴だからオリジナルと言えなくもないね」
魔物の殲滅を速やかに終わらせたわたし達はそんな事を話しながら、村の方へと戻る。
「しかし、これで全部終わったのか? それともまだこんなのが何度も来たりするのか?」
「う~ん、多分だけど、この手の、本人は出撃してこないタイプの魔王なら、多分このまま逃げ出すと思うよ?」
「そうか…… どうする? 追うか?」
「ん? まぁ別に追わなくてもいいんじゃない?」
「いいのか?」
…………………と、わたし達がそんな話をしながら村のすぐ近くにまで近づいていくと、全力で走りながら近づいてくるイリヤの姿が見えた。
「すごい! すごい! すごい! アルキさん、すごいですぅ!!」
「わっ!?」
「なぁ!!」
イリヤは走った勢いのまま、アルキの首もとに飛びつく。
「あんなに強くて、それに貴族様で! アルキ様は本当にすごいんですね!!」
そしてイリヤはそんな事を言いながらアルキに顔を近づけ、少しだけ頬をそめたままそんな事を言うのであった。
「ちょ…… イリヤ!?」
そんな突然のスキンシップにアルキが照れている……!?
「ちょ…… 貴様はなれろぉ!?」
わたしはイリヤに向かって、怒鳴るようにそう言った。
『本当にすばらしい力ですねぇ』
しかしイリヤはわたしが怒っているのに、そんなのを無視するかのように無表情でそんな事を…………
…………は?
この声………… なんだ?
ざくっ…
「へ……?」
わたしの目の前でおかしな光景が広がっている。
「え?」
その光景とはイリヤがアルキの首に片腕を回し、もう片方の腕を、アルキのわき腹に押し付けている光景だ。
『ふふふ…… 素晴らしい力ですよあなた達……』
そして……
そしてその光景のなにがおかしいかと言ったら、まずおかしいのがイリヤが無表情で目が死んでること、次におかしいのがイリヤのかけているブローチが何やらまがまがしく輝いていて、そこから声も出ていること……
そして最後におかしいのが……
お… おかしいのが…
『是非我が物にしたい……』
あるきのわきばらに……
おしつけられたいりやのてに ないふ がにぎってあるということだ……
「がっ…… ぐぶぅ…」
「あ…ああああ」
あるきがちをはいた。
あるきのわきばらからちがながれてる。
あるきが…… あるきがぁ…
「あ…… アルキィぃぃぃ!!??」
アルキが刺された!!!!!!!
――――
「がっ!! ぎ、キサマァぁ!! 何をしている! 何をしてくれているぅっ!!」
アルキがアルキがアルキがアルキがアルキが!!
刺されてる血を流している痛そうな顔をしているわたしのアルキがごめんなさい守るとちかってたのになんでこんなことに!
アルキは……
アルキは回復魔法が効かないのに何てことを!!!
「キサマァあああああああああ!! アルキから離れろぉ!!!!!」
わたしはわたしは飛び掛る憎いこいつが憎いにくいにくい殺してやる!!
ズァガン!!
「ぐぁっ!?」
なんだ!? いきなり体を押さえつけられた!! なんだ!? 人間!? 人間がわたしの事を押さえつけている!? やめろ離せわたしは今そんな事をしているばあいじゃないんだ!!
『ふふ…… 完全に錯乱していますね』
「はなせはなせはなせぇぇ!! たのむ!! たのむぅ! たのむ……からぁ っ…… あ…ぅ…… アルキ!! アルキィイィ!!!!」
なんでなんでなんでだ!
なんでアルキの所へ行かせてくれない!!
行かせてよお願いだからアルキのところへ!
なんでなんで、やだよアルキがぁ……!!
ぐぅ……!!
目の前がなみだで霞む……
アルキィ……
やめて…
やめろぉ…!!
なんで…
なんでこんな酷いことをするんだ!!
『これなら簡単に眠りの魔法が聞きそうだ…… さぁ、やりなさい』
アルキ、アルキ、アルキ!!
頼む…
何でもするからアルキは……!!
アルキだけはお願いだから!!
なんでも…するか
ら…
ある…
きぉだけふぁ…
あ…
るきぃ…
『後悔、憎しみ、絶望…… それを経てこの洗脳の呪いは完成する…… 楽しみにしていますよ?
お嬢さん……』
まさかの鬱展開!!
だけど心配するな、悪いようにはしないぜ!
多分ね




