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歩み寄る二歩

「へへぇ~ イグニスぅ~♪」


今、わたしのことを後ろから抱きしめながら頬ずりをしている一人の女性がいる。


「ちょ、やめて…」


その女性は少しウェーブのかかった黒髪と、深い黒色の瞳をもつ美少女であった。


「いいじゃないか、だって今は女同士なんだよ?」


朗らかな笑顔で、わたしに楽しそうにじゃれているこの女。


「っく! あてつけのように胸をあてるな、アルキ!」


その女の名前はアルキ・フラットレイルと言うのだ。


――――


事の起こりは今から数時間前。


わたし達が二人で冒険を始めてから、初めての夜を野宿で過ごしていた後の事だ。


わたし達は前日の夜、当面はわたしが戦闘を担当し、アルキがそのサポートをするという方針で行くことを決め、なおかつ一番最初の旅の目的として、とりあえず魔王討伐の情報を集めに最寄の大都市アラルラントを目指すことを二人で決めた。


そしてその後はアルキが速やかに敵索用の察知結界を張り、奇襲に対する措置を講じたあと睡眠に入った。





と……


ここまでは何とも普通の流れだったのだ。


異変が起きたのはその後……


明け方、日の出の時間に起きたのだった。


――――


「う……ぅ…うう!!」


日が昇り始め、辺りが朝焼けに染まり始めた時のことである。


「ん…………? あ、アルキ!?」


わたしは隣で寝ていたアルキに異変があることを察知し、飛び起きた。


「うぁ…… う……ぐぁ!」


わたしの隣にいたアルキは悲痛の表情を浮かべ、唸り声を上げながらもだえ苦しんでいたのだった。


「どうしたアルキ!! しっかりしろ!!」


わたしはそんなアルキを目にするやいなや、すぐにアルキを抱きかかえアルキに強く声をかけた。


「うぁぁああああああっ!!」


しかし、そんな声かけも空しく、アルキは更に苦しげな声をあげる。


そして、アルキはその後に更なる異変をその身に起こした……


「あ、アルキ!?」


アルキは苦しんだまま徐々に体からひかりを放ち始め、やがて……


「くぁああッ!!」


と言う、叫び声と共にまばゆい光に包まれたのであった。

















「ふぅ… 今日って満月の夜だったかぁ……」


わたしの腕の中でいつもより少し高い声でアルキがそうつぶやく。


「あ… アルキ… なのか?」


わたしは腕の中に抱いたアルキを見つめてそういった。


「あ… えっと、ごめんね? 驚かせちゃったね?」


腕の中のアルキは、風貌や雰囲気からして間違いなくアルキであるのだが、普段の彼と大きく異なる点が多々あった。


「ど、どういうことだ…… 説明しろ」


それは、胸が〔わたしよりも〕膨らんでいたり、いつもより少しだけ髪がながかったり、体全的に体が柔らかかったり、いつもより少しだけ小柄だったり……


つまり…


「なんで貴様は女になっている!?」


そういう事なのであった。


「えっと…… 英雄殺しの呪い ってしってるかな?」


女になったアルキはわたしの腕の中で甘えるように擦り寄りながら、そう言葉を続けたのであった。


――――


英雄殺〔えいゆうごろし〕の呪い。


それは古き伝説に語られる、伝説の呪い。


一人の英雄の生涯に幕を下ろした恐ろしき呪いである。



かつて、完全無欠の英雄と謳われた一人の男がいた。


英雄の名はバルナロス・クウェイザー。


至高の防御呪文、「光の盾」と究極の攻撃呪文、「闇の矛」を携えた、攻守共に無敵の、最強の勇者であった。


彼の戦は常勝無敗。


彼が赴く先には魔物一匹すら残らない。


彼の殲滅は常に完璧であった。





が……


それゆえに彼は多くの魔物から恨みを買った。


全ての魔王から憎しみを抱かれたのであった。



そして…


そんな彼を倒すべく作られた呪いこそが、この呪い。


108体の魔王が力を合わせ、魔力満ちる満月に施した、伝説の呪い。



それは…


最強の英雄を、一人の力なき少女に変えてしまうと言う……


なんとも恐ろしい呪いであった。



こうして、完全無欠の英雄は、一人の力なき少女へと姿を変えられ、魔王たちに陵辱された挙句、無残に殺されると言う末路を辿った。


そして、この逸話から、この伝説の呪いを人は「英雄殺しの呪い」と呼び、恐れ慄いたと言う。







「……って言うエピソードならわたしも知っているぞ」


わたし達は今、野宿をした所から一番近い小さな村の食堂で話をしている。


「そっか、それなら話が早いね」


アルキはその食堂でわたしを後ろから抱きしめて、膝の上に乗せながらニコニコとしている。


正直な話、わたしの後頭部にふにゃりと触れる膨らみがちょっとイラっとする。


「つまり、アルキの二つ目の呪いは満月の昇る日だけ女になる呪いと言う事か?」


わたしは少しむすっとしながらそうアルキに言う。


「うん、そうだよ♪ 満月の昇る日の朝から、その日の満月が沈むまで、僕は腕力も魔力も持たない無能で無力な女の子になるのさ」


アルキはニコニコとしながら、わたしに頬ずりをする。


「ところでアルキ…」


「なに?」


「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」


わたしは、わたしを抱きしめながら終始ニコニコしているアルキを半眼で睨みながらそう言う。


「だって、普段は紳士として我慢してるけど、今は女の子だから堂々とイグニスに触れるんだよ! そりゃ嬉しいさ!」


アルキはほにゃりと微笑みながら、わたしをきゅっとする。


「む……」


わたしはアルキの放ったちょっとアレな発言をとがめようと、アルキを睨みつけた……

が、その先で見たあまりに邪気のないアルキの笑顔に逆にひるんでしまう。


「僕ってさ… いままでこんな風に誰かにべったりくっついたりした経験ってあんまりないからさ、こうして堂々と誰かにくっつけるって嬉しいんだ」


…………どうやら、アルキは純粋に誰かとのスキンシップが嬉しいという事らしい。


「誰かとこうしてくっつくって、暖かくて幸せな気持ちになるね… ふふ、こんなの僕の呪いのことを堂々と話せるイグニスにしか出来ないなぁ」


アルキは朗らかな笑顔のままわたしに擦り寄る。


「むぅ…」


アルキの甘えるような笑顔に思わずわたしも口元がゆるんでしまう。


「呪いの事で嬉しいと思ったのは生まれてはじめてかも…… ありがと、イグニス!」


アルキはそういって無邪気に微笑む。


わたしはそんなアルキの無防備な笑顔を見て不思議な感覚が内に芽生えるのを感じた。



むむ…


な、なんだろうか……


初めは、ちょっと女の子化したアルキに戸惑ったが……


こう… なんか慣れて来たら逆にこれはこれで可愛く見えてきた…


なんていうか… こう、守ってあげたくなるというか。


こんなに甘えるような笑顔を見せられると、なんか不思議な感情が芽生えてくる!



はっ!


そ、そういえば、わたしは雌〔まがいものだけど〕に懐かれたのってこれが人生初じゃないか!?


むぅ…


なんかそれに気付いたらどんどん可愛く見えてきた……!


「ふふ… うれしいなぁ」


「はうぁ!!」


アルキがとろけるような甘い笑顔をわたしに向ける。


うぅ…


男の時のアルキもいいけど、女のこのアルキもこれはこれで良いやもしれない。


「むぅぅ…」


などとわたしが顔を赤くしてアルキを見やっていると……


「おい! えらく別嬪さんがいるじゃねえか!!」


「な!?」


不意に見知らぬ男から声がかけられ、アルキの手首が強引に掴まれた。


「アルキ!?」


わたしは突然の事態に、少しだけ驚く。


声をかけた男はどうやら、荒くれ者の用で、見るからに頭の悪そうなごつくて清潔感のない男であった。


「おいねえちゃん、こっち来て俺に酌でもしろよ」


その男は少し酔っ払っているらしく、若干顔を赤くしながらアルキの腕を無理やりに引っ張る。


「ちょ… いたぁ…!」


アルキは男に強く腕を握られ、その痛みに先ほどまでの可愛い笑顔を苦痛に歪める。


「このっ…… 下等種無勢がぁ!!」


わたしはその瞬簡に頭の奥がカッと熱くなったのを感じる……



ドカァ!!


「げぶぁっ!!??」


ガッシャーンッッ!!!!



そしてそう感じた瞬簡には男をはるか遠くに蹴り飛ばしていた。



「…………………イグニス?」


アルキがポカンとしてわたしを見つめる。


「わたしのアルキに気安くふれるなぁ!!」


そんなアルキをよそに、わたしはそう声高に叫んだのだった。


うむ……! アルキはわたしが守るのだ!!



どうも、月1ヒロイン、アルキちゃん登場です。


これでアルキ君はロリコン属性と百合属性も付与ですね!


恐ろしい子です!


そんなわけで下種恋はこれからもさわやかなただれ具合をテーマに頑張って生きたいと思います。

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