我が名はイグニス
黒歴史。
そう、アレは強いて言うなら黒歴史と言う奴だ。
だってそうだろう?
自分が最強で全能で敵など居ないと思い、好き放題やってたあの頃。
私は自分の事を神かなんかだと思っていたのだ。
その頃の自分は正に黒歴史と呼ぶに相応しい恥知らずだったのだ。
「イグニス……?」
アルキが私を呼んでいる。
「なんだ? アルキ?」
私はそれに仏頂面で答える。
「そろそろご飯ににしようか?」
アルキは何時も通りの優しい笑顔でわたしに声をかける。
「わかった、そうしよう」
わたしはその笑顔に少しだけ口元を緩ませて答えるのであった。
私は本当に何も知らなかったのだ。
そう、我が主、アルキ・フラットレイルに会うまでは……
————
突然だが私の身の上話をしよう。
私の名前はイグニスフィア—ド・アルテファ・オリオン・フレイムオンハート…
ドラゴンだ。
ああそうだドラゴンだ。
この世界における最強種であるドラゴンだ。
そして、その龍族の中でも別格の強さを誇る孤高の龍種…
古代においては神と戦い引き分けた銀星龍の末裔にして龍族最強の雌。
それが私だ。
私は本当に強い。
最強である龍族の中でも、更に最強である私は正に無敵。
この世に私の敵はいない。
時に……
我ら龍種の中では強さこそが最大の魅力とされている。
強い雄は好かれ強い雌も同様に好かれる
そうして強い者同士がつがいとなりより強い子孫を残す。
これこそが竜における子孫繁栄の理である。
よって私はモテた。
所謂モテモテと言う奴だった。
世界最強と言っても過言ではない私の力の前に、多くの雄がひれ伏したのだ。
よって私は調子に乗った。
いい気になった。
天狗になった。
言いよる雄共を侍らし、虜にし、気に入った雄が居れば他の雌からも奪い下僕にした。
男共を奴隷の様に扱い、ねたむ女共を嗤い、果てしない悦に浸っていた。
雌を理由なく打ちのめし、そして意味も無く雄を嬲った。
やりたい放題というやつだった。
生まれた時から最強の名を欲しいままにし、全能感に包まれたままそだった私は、そうして日々を楽しんでいた。
が……
そんな日々が三世紀ほど過ぎたある夏の終わりの嵐の夜。
雌共が一斉に私に向け反乱を起こした。
あまりに調子に乗り過ぎた私を静粛すべく……
多くの雌龍が立ち上がり奮起したのだ。
その数千と六百。
それはわたしに恨みを持つ雌の龍の総数であり。
それに加えた各龍達の眷属であるおよそ30万あろう頭数の下級龍達の軍勢。
更には世界に現存する本物のドラゴンスレイヤーの10本のうち8本を持っての進軍。
完全に私を殺す気であった。
はっきりいって洒落にならなかった。
特にドラゴンスレイヤーが厄介だった。
一本あるだけでもめんどくさい宝剣が八本もあるのだ。
厄介なんてもんじゃなかった。
そしてその戦いは熾烈を極めた。
およそ100日間にも及ぶ不眠不休の戦い……
後に「神龍大戦」と呼ばれる大戦だった。
そして……
その結果…
私は勝った。
私に歯向かう八本の滅龍剣と千六百五十三頭の上位龍と三十一万五千四百六十一匹の下級竜。
その全てを屠ってやった。
そして……
その結果。
私は心の臓にまで達した深い傷を……
致命傷を負ったのだ。
そんな……
そんな致命傷を負って地面へと倒れ込み虫の息で這いつくばる。
開戦の嵐から100日後の、シトシトとした時雨が降るある日の夕暮れ。
「怪我を…… しているのかな?」
私はアルキに出会ったのだ……
ちなみにイグニスフィア—ド・アルテファ・オリオン・フレイムオンハートと言う名前は物語シリーズの、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのオマージュです。
オマージュです。
なので「パクってんじゃねぇーの」とかいわれたら「オマァージュですぅぅぅぅ!!」としか返せないんであしからず。