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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

伝えなっかた恋、叶った恋

作者: 他月

長いです


「あり得ん…」


行きつけのバーのカウンターに懐く。


「別にいいけどな…」


いや、良くはない。

スタイリッシュに決めてた格好を、今はだらしなく崩してる。

机に白いおしゃれな透かしの入った結婚式の招待状。

それには、豊島(とよしま) 圭介(けいすけ)様、と俺の名前が書かれていた。

目の前の琥珀色のお酒を見つめて思う。


今日あった同級生の結婚式を。

ただ眺めるしか出来なかった悔しさを。

この気持ちを持ち続けた時間を。

泣きそうになりながら、でも出ない涙を思いながら、グラスのお酒を一気に飲み干す。


「…おめでとう」


空のグラスを掲げて、泣き笑いの顔で叶わなかった想いを手放す。

カランっと鳴る氷の音が、終わりを告げるベルに思えた。





「…?」


どうやら俺は寝てしまったようだ。

最後に覚えてるのは、叶わなかった相手に祝福を呟いた処まで。


「〜ぅ…頭痛い…」


久しぶりに味合う二日酔いに頭を抱える。

そこでふと、違和感を覚える。

シーツから香るほのかなミントの爽やかな香り。

自宅の芳香剤は、大学から気に入っているジャスミンの香りを使っている。


「うちじゃ無いのか…?」


確かにうちに帰った記憶は無い。

という事は、近くのカプセルホテルにでも泊まったのか?と、首を傾げる。

とにかく、ミントの香りで少しすっきりした頭で、体を起こす。


左側には、窓にモスグリーンのカーテンに、背の低い本棚。

反対の右側には、クローゼットと思われるブラウンの扉。

ベットのすぐ左には、ダークブラウンの机が置かれていた。

あまり物が置いてなくて、すっきりした部屋だった。


すると、正面の扉が突然静かに空いた。


「あ、起きたんだ。おはよ」


にっこり笑う人物に見覚えがあった。

同じ会社の営業に居る、富士見 (ふじみ)(あきら)だった。


「え?」

「覚えて…ないか。あの状態だったら」

「えっと、全然。というか…今もよく分かってないんだけど…」


ベットに寄った富士見は、冷えたミネラルウォーターのペットボトルを俺に渡した。

謝辞を言って、俺はそれを受け取る。

富士見は机に収まっていた椅子にかけて、俺に向き直る。


「接待の帰りに立ち寄ったバーで、お前を見つけて声をかけようとしたら…寝ちゃって」

「おっつ…ごめん」

「いや、謝んなくていいって」


冷えた水が優しく喉を潤す。

二日酔いの頭が痛むのと、申し訳なさと、あの時の感情と色々ごちゃごちゃして、頭を抱えた。


「どうした?気持ち悪いのか?」

「…っ!」


パシッ!と静かな部屋に響いた。


「ごめん!」


己の行動に俺は戸惑った。

心配して気を使ってくれた富士見に、体が反応した。


「別に富士見は悪くないんだ!…ちょっと昨日色々あって。今…俺変だ」

「圭介…」


ベットの端に座る富士見は、俺の様子に心配そうに見つめる。


いりや(・・・)って奴のせい?」

「っ!?」

「ごめん…聞くつもりじゃなかったんだけど、寝言で…」

「聞いちゃった、か…」

「ごめん」

「別にいいよ。もう終わった事だし」


そう、終わった事をいつまでも引きずってるのがいけないんだ。

富士見は申し訳なさそうにしてるが、なんだかんだ俺はその様子に救われたような、同時に苦しくなる。

たかが恋愛、されど恋愛。

始まることの無かった恋愛が、始めて俺以外に伝わった。

恋しい相手では無かったけど。


「本当大丈夫なんだよ。なんだろ…富士見が、今一緒にいてくれるから…かな?」

「っ!?圭介…」


さっきは(はた)いてしまった手を、今度は俺から重ねる。

気をぬいていたのだろう、富士見はビクッと体を揺らす。

その顔が面白くて俺は笑ってしまった。


「富士見〜イケメンが台無し!」

「んな笑うこと無いだろ!」


俺が笑った事で、部屋の空気も穏やかに流れた。


営業にはイケメンぞろいのうちの会社。

その中で若手の中で成績もそうだが、顔も一つ飛び出ている富士見。

男女問わずモテモテだ。

俺はというと、いたって普通だ。

特にブサイクとも言われないし、ただ派手なことは好まない。

普通のサラリーマンだ。

部署も品質管理の内勤。


そんな対象的な二人のの接点は、入社半年に行われた新人研修だった。




「俺は富士見 昭。研修の間よろしく!」

「あ、はい…」


うちの本社はアメリカにある。

研修先は本社の、アメリカだった。

英語そんなに得意では無い俺は不安一杯だった。


そこでホテルのルームメイトだったのが、富士見だった。


第一印象はめっちゃくちゃイケメン。

そんで、気さくな気の回るいい奴だとはすぐにわかった。


俺が英語が苦手なのを笑わずに聞いてくれて、研修でわからない所は、帰って一緒に勉強したり。

向こうでの食事はもちろん、買い物も付き合ってくれたり。

今まで、仕事に追われて同期と交流の無かった俺に、皆を仲介してくれたり。


帰る頃には、研修に来て良かったと、心から思えた。

もちろん、研修から帰ってからも、ちょくちょく飲みに行ったり交流があったりしていた。




ーーだからかな。



「富士見にはいつも情けない所しか見せてないな〜」

「そんなこと無いって、いつも言うのに」

「ははっ。四年前から全然かわんねぇ…」


本当に富士見が居てくれたから、大丈夫なんだ。

でも…それもまた苦しくはなってる原因なんだけれど。


「今日は日曜日だし、もうちょっと休んだら?」


そうやって慰めながら、頭を強めに撫でる。

本当、俺って恋愛が向いてない。


「…ありがとう」


嬉しいのと、むずかゆさ、戸惑い。

後少しで要らない事が口から出そうだ。


「…あのさ、圭介はその子のことまだ…その、す、好き…か?」

「う〜ん…正直微妙かな。確かに、結婚式では苦しかった。でも…」


何だか言いにくそうに富士見は聞いてきた。

俺は、あの時のことを考えてみた。



式の最中、ずっと幸せそうなあいつの顔。

隣には同じく幸せそうな花嫁。

祝福で溢れている会場。


苦しい自分はそこで異物の様な気がした。

でも、最後には苦笑しながらも、しょうがないなって、思ってる自分が居た。

不思議だった。

でも、今目の前に居る富士見を見て納得している。


「あいつの事、なんていうか…両思い?になるとか考えた事なかったなって…」


いつの間にか富士見は、俺を探る様にじっと見ていた。

その真剣な目が合うと離せなくなった。



綺麗な瞳だと思った。

口からは彼とは違うやつの事を言ってるのに、頭の中は彼で一杯になって行く。


「圭介?」


キュンと、胸が疼く。

いつからだろう。

彼に名前を呼ばれると嬉しくなるとか。


無意識に俺は彼の手に力を込める。


「俺まだ、酔ってんのかな?…」

「…圭介」


すると、掴んでいたてが逆に掴み取られ、引っ張られた。


「富士見?」

「そんな顔すんなよ!俺っ!……見てらんないっ…」


爽やかなミントの香りが鼻腔をくすぐる。

手を引かれ、温かい富士見の腕に抱かれていた。

手は握られたまま、もう一つの腕で体を強く抱きしめられる。

顔は見れないが、手や腕の力強さとは反対に、耳元で聞こえる声は苦しそう。


俺は、その声だけで震える心を持て余す。


「こんな時に言うのは違うと思う」

「ふじみ…?」


普段とは違う様子の彼。


「圭介。俺じゃ駄目か?」


何が?と心が聞いてる。

もしかして、と希望が心を震わす。

でも、都合が良すぎると諌める心。


近くにある綺麗な瞳を魅入る。

苦しそうな瞳に、俺は何も考えれなくなった。


「俺は圭介が好きだ」


あり得ない。

嘘だ。

そんなはずない。

でも…本当に?


「こんな事信じて貰えるかわかんない。けど、お前といると心が温かくなるし、自然とお前を目で追ってる自分がいるんだ」

「…」

「お前が笑えば愛おしくなる。寂しそうな顔するお前は抱きしめたくなる。他の奴がお前に触れれば、それは俺のだ!って言いたくなる」

「…っ!」

「今、俺はずっとこの腕の中に閉じ込めて、誰にも見せたくないし、渡さない、なんて考えてたりする」


可笑しいだろ?と苦しそうな、熱っぽい視線で俺は、肌を焼かれるんじゃないかとさえ感じる。


「お前が俺に友情しか感じてないのはわかってる。でも…こんなお前は放って置けない」


頬に手を置かれ、ますます外せれない視線。

絡め取られて身動き出来ない。


「…っ!?そんな顔反則だからっ!」


目には伏せられた長い睫毛、柔らかい感触が唇に全身が震えた。

もう感情が溢れて止められない。


「…あき、ら」


頬に温かい物が流れた。

俺はたまらず彼に抱きつく。


「おれ、俺。さっき気付いたんだ。確かに入谷(いりや)の事好きだった。でも、それは昔のことだったんだって」


嬉しい、幸せ、恥ずかしい、苦しい、いろんな感情が渦巻いて、でもこの温もりを今度は離さまいと力を込める。


「昭に出会って、俺だって惹かれてた。でも、男同士だし、昭はかっこいいし、優しいくって、俺じゃ無理だって思ってた」

「圭介が思ってる程かっこ良くもないし、優しくはないよ俺は。それに、下心たっぷりだし」

「…そうかも」

「おい」


クスクスと、笑う彼は俺の髪を梳くように指を絡めて遊ぶ。


「俺も下心一杯だよ…?」

「っ!?どうなってもしんないぞ!」

「…ぅんっ!……いいよ」

「圭介。言って」


触れるか触れないかの唇に凄く焦れる。


「俺も昭が好きだ」


噛み付くようなキスに俺は、幸せを感じた。

続編を用意しました

もし興味がありましたら『叶った恋 始まる時間』もよろしくお願いします

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