2人きり
「アホだね。」
「うん、アホだ。」
二人はお互いに納得した。
それもそのはず。二人は、休校日に登校した。
ナツキとタツキ。偶然にも名前が似た二人の関係は、元恋人同士。
「あれ〜?今日何の日だっけ?」
ナツキが嘆く。
「知ってたら、ここにいない。」
「だよねぇ。」
「………」
「………」
気まずい沈黙。二人は一か月前に別れてからろくに会話を交わさなかった。
久し振りの会話だった。
付き合ってて頃と変わらない会話だった。
「そろそろ帰る?」
「え?」
突然のタツキの言葉に不意を突かれるナツキ。
「だって、ここにいても何もすることないでしょ。」
「あ、うん、そうだね。」
帰る準備をするタツキ。それをただジーと見てるナツキ。
「何?」
タツキが言った。
「何?って何?」
「いや、だって何か言いたそうにこっち見てるから。」
「別に何でもない。」
「あ、そう。」
再び帰る準備をするタツキ。
「タツキ。」
「何?」
「せっかく、久し振りに二人きりなんだから何か話さない。」
「何で?もうナツキは俺の彼女じゃないでしょ。」
「別に彼女じゃなくても、話すことはあるでしょ。」
もっともな考えだ。
「ああ、そうだな。妙に意識しすぎた。」
何気無い顔つきでタツキは言った。
「タツキ、最近どう?元気?」
ナツキのどうでもいい質問。
「同じクラスにいるから、それくらいわかるだろ。」
「人の内面は見ただけじゃ、わからないよ。」
「………そうだな。元気ではない。」
少し淋しげな声で返答をしたタツキ。
「ナツキは?」
「私も元気じゃない。」
「………」
「………」
再び沈黙。
お互い元気がない理由などわかってる。
痛いほどわかってる。
「タツキ、恋してる?」
「してない。俺の心はそんな器用にできてない。」
「そう…」
「………」
「………」
こんな何回も沈黙が続くほど気まずいことはない。ナツキは冷や汗を流した。
「やっぱ、俺帰るわ。」
既に私物を全部入れた鞄をタツキは肩にかけた。
「タツキ、待って!」
「待たない!」
予想外の大きな声に驚くナツキ。
「………何で?」
今にも泣きそうな表情で尋ねるナツキ。
「ナツキは、やり直したいと思ってるでしょ?」
「タツキは、そう思わないの?」
「思ったよ。だから待たない。ここでやり直したらまた繰り返しじゃないか。」
「………」
「二人で決めたことじゃないか。お互い別の道を頑張ろうって。」
「だけど…」
「だけどじゃない!お互い登校する時間帯もずらした。おそろいのストラップも外した。出来る限り一緒の空間にいないようにしてる。やっとココまで振り切ったのに………」
「………ぐす」
涙を流すナツキ。
「泣かないでナツキ。来世はきっと…」
愛し合ってる二人。
タツキが男だったらどんなに救われただろうか。
性同一性障害のタツキ。
レズビアンのナツキ。
二人は別々の道を歩くことを誓った。
そして、来世はきっと………と願った。