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婚約解消の代償。どうしてもう少し早く言ってくれなかったのですか?

作者: naturalsoft
掲載日:2026/09/12

評価を付けて頂けると嬉しいです。


誤字脱字の報告ありがとうございます。

今日は月に一度の婚約者とのお茶会の日である。

先に来ていたのはシオン・グランドル公爵令嬢で、国内有数の名家の生まれである。

美しい金の髪を腰まで伸ばしており、手入れの行き届いた肌は白く美しかった。

少し遅れて、婚約者である王太子アレン・ルミナンスがやって来た。


「今日は珍しく遅かったですね?公務が忙しかったのですか?」

「いや、そうではないのだが、少し準備があってね」


準備?

気になったがすぐに温かい紅茶を用意した。


「ありがとう。いただくよ。それと君に大事な話があるんだ」

「大事な話ですか・・・」


シオンは周囲に目配せをしてメイド達を下がらせた。

アレンは紅茶を一口飲んでから言った。


「大変、申し訳ないのだが君との婚約を解消したい」


!?


流石のシオンも一瞬、表情を取り繕うのを忘れて呆然としてしまった。


「それはどのような理由でなんでしょうか?」

「君に過失はない。全ては私が悪いんだ。本当に申し訳ない」


アレンは一呼吸置いてから理由を話した。


「その理由なんだが・・・隣国の王女から縁談の打診が来たんだ」

「まぁ!確かに隣国のシャイネイ王国には同年代の王女様がいらっしゃいましたね。でも、婚約者がいたはずでは?」


「ああ、今調べているが婚約を解消したみたいで次の婚約者を探して、うちの国に打診があったんだ」

「我々の年代になるとすでに婚約者がおりますものね・・・」

「そうなんだよ。しかし、隣国の第一王女を無下に扱うこともできない。長年の友好国だしね」

「前回、うちから向こうに嫁いだのはお婆様の時代でしたか。お互いに向こうの血筋を取り込んでおりますから、うちの公爵家からでも探せなかったのですか?」


「全て断られた」

「それは──」


王族や貴族の結婚に5~10ぐらいの歳の差なんて普通だ。そこまでの幅があれば数人ぐらいは婚約者候補が見つかりそうなものなのだが・・いや、見つからないのではない。断られたと言った。ならば──


「不敬かも知れませんが何か問題のあるお方なのでしょうか?」

「それを今、調べているんだ。もし問題のある王女なら、最悪、向こうに恩を売れる」


最悪の場合ですか。

すでに私にとっては最悪の話なのですがね。


「それでアレン様は私との婚約を解消してその王女様を王妃にするおつもりですか?」

「まだ確定ではない。父上や母上が慎重に話をまとめている。しかし、隣国との関係を悪化させないためには王族との婚姻が好ましいだろう」


確かに、隣国の王女との婚姻はお互いの関税の見直しや、条約の緩和など『国』にとっては有益です。

公爵家との婚約よりメリットはあるでしょう。アレン様は美人局に引っかかるような無能でもありませんし、いつも国のことを第一に考えて行動する方です。少し視野が狭い所もありますが、完璧な人などいません。そこは王妃となる方が支えればいいと思っていました。


でも、だったら私は──


「アレン様、それでは私を側室にしてくださいませ」


!?


「な、何を言うんだ!」

「この時期に婚約を解消した王女を娶るのでしたら、王妃教育を受けていない可能性があります。側で支える人材が必要でしょう」

「それはそうだが、君にそんなことを任せることはできない」

「どうしてですか?」

「長年、婚約者として支え合って来たんだ。君には幸せになってもらいたい。そんな汚れ仕事のために側室になってまで尽くさなくていいんだ」


私の幸せのため・・・ですか。

本当にアレン様は『視野が狭い』ですね。

婚約を解消した後のことを考えていません。いえ、見当違いなことを考えているのでしょう。

私は確かに国のための政略結婚のために婚約しましたが、アレン様のことを信頼し、愛情も持っていたんですよ?


でもアレン様は国益のためとまだ決まっていないと言ったのに、ほぼ決心してしまったのですね。



「アレン様、どうしてもう少し早く言ってくれなかったのですか?」



本来であればもっと早くに打診があったはずです。

こんなに急になんてありえません。


「父上・・・国王陛下や私も決めかねていたんだ。本当にすまない。君には決して過失があったわけではないと周囲に厳命して、可能なら王家の方から次の婚約の斡旋もしよう」


次の婚約の斡旋だなんて、アレン様は王女様の情報収集と私との婚約解消について頭がいっぱいで、全体的な視野が見えてませんね。


「アレン様、婚約の解消は承ります。ただ次の婚約の斡旋は必要ありません。今までありがとうございました」

「え、ああ、君にも心の整理が必要だろう。わかったよ。ただ何かあればなんでも言って欲しい。できる限り、便宜を図ると約束する。今まで本当にありがとう」


「勿体無いお言葉です。アレン様、問題のある王女を娶ることで色々大変ではありますが、国のために最善の行動をお願い致します」


「わかっている。今まで君と話したように民のために働くと誓うよ」


シオンはその言葉を聞いて微笑みながら言った。


「『遠くから』アレン様のご活躍を見守っております」


綺麗なカーテシーをしてシオンはその場を後にした。

公爵家に戻るとすぐに家族を集めた。


「珍しいな。シオンが緊急召集をかけるなんて?」

「ええ、今日は殿下とのお茶会の日でした。何かあったのかしら?」

「妹は出来た女性です。何かあるとは思えませんが・・・」



父親の公爵とシオンの兄、そして母親がシオンからの先触れを受けて帰宅した。

公爵は息子でシオンの兄ガオンと共に領地の視察に、母は婦人達とのお茶会で情報収集をしに出かけていた。

それが緊急で戻れと連絡が来て慌てて戻って来たという訳である。


シオンは応接室ではなく食堂で待っていると聞いて食堂に行くと───


!?


「シオン、何があった?」


シオンは真っ黒い衣装を着て、顔には黒いヴェールを掛けていた。


「急にお呼び出しして申し訳ありません。本日のお茶会でアレン様に婚約の解消を言い渡されました」


家族は驚きの声をあげる。


「な、なぜだ!どうして?」

「隣国の王女様から婚姻の打診が来たと言っていました」

「バカな!あのアバズレ王女の話は無くなったはずだ!」


シオンは父親の方を向いた。


「お父様は知っておられたのですか?」

「内々に打診があったのだ。問題のある王女ということで伯爵家以上の家に連絡が行った。ただ内々のため当主しか知らされていなかった。それよりその話は無くなったと聞いたのだが、また持ち上がったのか?」


シオンはアレン様に言われたことを家族に話した。


「ふざけるな!あのバカ王子がっ!!!!」


ドンッとお兄様がテーブルを強く叩きました。


「確かに国としての利益はあるかも知れません。しかし、それで王家の血が途絶えるかも知れないのと、その王女が王妃としての公務ができるのかしらね?」


ギリギリッとお母様も手に持った扇を軋ませて言いました。


「あの王女は自由奔放で、気に入った従者に夜の相手をさせていたそうだ。そんなアバズレに王妃など任せられるか!せめて、側室ぐらいならマシかも知れんがな。それにしても、殿下は昔から大局の見えない視野の狭いお方だったが、ここまでとはな」


「目先の利益を優先して、何を切り捨てたかまでわかっていないのね。シオン、今なら事情を伝えればまだなんとかなるわ。あなたが責任を取らなくてもいいの」


シオンは首を振った。


「いいえ、それではあの方は成長できません。一度、心から後悔して国を背負う責任を知っていただかないと、国を任せられる国王にはなれないでしょう。私は最後にそれを願っています」


公爵は悲痛な顔で吐き出すように言った。


「もう覚悟を決めているのだな?」


「はい。私にも貴族としての矜持があります。今までお世話になりました」


『アレン様、私はこれでも怒っているのですよ。貴方は良かれと思って言ったことが、悪気がないからこそ許せないのです。だから死を以て抵抗致します。アレン様に成長して欲しい気持ちに嘘はありません。でも、生涯後悔してお過ごし下さい』


婚約解消は納得できたが、その後、愛する人から次の婚約者を探してあげると言う言葉だけは許せなかったのだ。



シオンの兄は拳を強く握って怒りを抑えた。


「お父様、お願い致します」

「・・・すぐ持ってくる」


公爵は自室に戻ると金庫からとある薬剤を取り出し持ってきた。


「シオン、あんなバカな王子のためにお前が──」

「お兄様、それ以上は言わないで下さいませ」


うううぅぅ・・・・

その場で兄は泣き崩れた。


「持って来たぞ」


公爵はワインと一緒に持って来た。


「お前の生まれた年に作られたワインだ。本当ならお前の結婚式の時に一緒に飲もうと思っていたものだ」

「まぁ!そんなワインを用意してくれていたのですね。お父様、ありがとうございます。私は果報者でございます」

「ああ、お前は私の自慢の娘だ」


シオンは注がれたワインに薬を入れて一気に飲み干した。


「くっ・・・」

「シオン・・・ううぅぅ」


シオンは最後に微笑んで小さく言った。


「私は幸せでした。今までありがとうございます」


ガッチャンとグラスが床に落ちて割れ、シオンは眠るように息を引き取った。


王妃教育を受けていたシオンは王族の機密情報などすでに学んでいた。

城の隠し通路や王族の裏の資産、財宝の隠し場所などだ。


婚約を解消しても野に放てる訳はなかったのだ。

故に王家から出るということは『死』を意味する。


せめて王妃教育が終了する前であれば救いもあった。



『どうしてもう少し早く言ってくれなかったのですか?』



この言葉が後に毒のように染み渡っていくのだった。


・

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・

・


その頃、王宮では───


「この愚か者がっ!!!!!」


視察から戻った国王と王妃は息子であるアレンを厳しく追及していた。

国王に殴られて床に倒れる王子を助けるものはいなかった。


「ぐっ、何をなさるのですか!」

「それはお前がどうしようもない愚か者だからだ!確かに隣国の王女の婚約の打診はあった。しかし、断ることにしたのだ!それを勝手なことをしよって!!!!」

「しかし、父上も長く迷われていたではありませんか!?」


「ふざけるな!そもそもお前とシオン令嬢の婚約は王命だ!貴様に解消できるわけがないだろう!」


肩で息をする国王に王妃が冷たい目で言った。


「陛下は迷っていたのではありません。伯爵家以上の貴族の家に打診して受け入れ可能な貴族家を探していたのです、その返事を待っていたに過ぎません」


王妃は深いため息を吐いて続けた。


「問題のある王女は我儘で『自由』な方のようでね。気に入った従者に夜の相手をさせていたそうよ。あなたはそんな王女を娶るというの?」


!?


問題のある王女を娶って恩を売り、自国に有利な条約など結ばせるつもりだったのだが、王族に嫁ぐ場合は『純潔』が必須条件である。それが根底から覆された。


「最初からお前達には関係のない話だと内密にしていたのが失敗だったわ!」

「アレン、国の利益のために行動したお前は、正しいことをしたと思ったのでしょう?それが長年婚約者として連れ添ってくれたシオンさんを切り捨てることも、国のためと言って自分を正当化しようとした。まったく情けない」


グッと言葉を詰まらせたがアレンにも言い分はある。


「確かに王女の件は私のミスです。しかし、シオンには解消の打診をしただけで正式にするとは言っていません!これからすぐに公爵家に向かい説明すれば──えっ?」


アレンは2人の視線がこれまで以上に冷たいものになっていることに気づき戸惑った。


「・・・お前がここまで視野の狭い、バカな男だとは思っていなかったぞ」

「ええ、私達はシオンさんに甘え過ぎていたのかも知れませんね。正直、あなたを息子とは思いたくありません。最低のクズですわ」


!?


「母上!それは余りにも酷いではありませんか!」


反論するも、2人はまだ気付かないのか?と、さらにアレンをゴミムシを見るような目になっていく。


「な、なんでそんな目で見るのですか?傷つけてしまったシオンには誠心誠意謝ります!シオンなら許してくれます!」


国王は目を閉じてからゆっくりと息を吐いてアレンにわからせるように言った。


「シオン令嬢は素晴らしい女性『だった』。彼女を義娘になってくれることを心待ちにしていた」

「ええ、私も楽しみにして『いました』。彼女は優秀で、心優しく、あなたみたいな視野の狭い男性を支えてくれると思っていましたわ。それがもう二度と叶わないなんてねぇ」


な、なんだ?

2人は何を言っている?

今の言い方ではシオンが二度と戻ってこないような言い方ではないか?


「シオンは必ず戻ってきます!シオンが戻ってくるなら公爵に土下座したって構いません!今から公爵家に行かせてください!」


検討違いのことを言う息子に心底失望した顔で言った。


「お前は政務は真面目にこなしてミスも少ないのに、一度決めたことしか目がいかんのだな」

「アレン、もう少しわかりやすく言いましょう。シオンさんは二度とここには戻って来ません」

「だからなんでですかっ!」


「シオンさんは王妃教育を終了しているからです」

「えっ?」

「もう一度言います。王妃教育を終了しているからです」



『どうしてもう少し早く言ってくれなかったのですか?』



母上の言葉とシオンの言葉が重なった。


「あっ、ま、まさか・・・・」


顔色が真っ青になったアレンを見てようやく思い立ったかと頷いた。


「そうです。すでに王妃教育を終了しているシオンさんを野放しにはできません。せめて側室にするのであれば・・・いえ、もう終わったことはどうしようもできませんね」

「視察から戻る途中に公爵家の使いの者がやって来た。もうすべて『終わった』後だそうだ。なぜ我々がお前を呼び出してここまで怒ったのか理解したか?」


すべて終わった後・・・?

いや、嘘だ!

シオンがそんなわけ・・・

その日のうちにする訳が・・・・


「ようやく理解したか。貴様が思い込みでしでかした罪が。その代償は大きかったな」


「シオンが?・・・・嘘だ!嘘だ!嘘だ!!!!!!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


両膝をついて天を仰ぎながら慟哭するアレンを2人は泣き止むまで見つめるのでした。

そしてようやく叫び疲れて落ち着いて来たアレンを引きずるように連れ出した。


「このままグランドル公爵家に向かうぞ。貴様だけ行ったのではそのまま殺されかねん」

「私も行きますわ。シオンさんの最期を見届けなければなりません」


こうして家族揃って馬車で公爵家に向かうが、道中は一言も喋ることはなかった。

アレンは酷く憔悴し切っていた。

公爵家に着いた時はグランドル公爵が出迎えた。


「・・・何しに来た?」

「シオン令嬢の最期を、いや、令嬢としての『矜持』を確かめるために来た」


公爵は黙って案内した。

左右に控える使用人たちは全員が涙を流しており、一部の者は殺意ある目で睨んでいた。


「ここだ」


そこはシオンの部屋だった。

中に入るとシオンが真っ黒い喪服のような格好で眠っていた。


「・・・どんな者でも最後に飲む時は恐怖で震えるものだ。それなのに、シオン令嬢はやり切って安心して逝った感じだな」


国王はシオンの冥福を祈った。

アレンは信じられなく、ふらふらと近づき、シオンに触れた。

冷たい。顔も、胸に置いた手も冷たく硬い。

死んでいる。


初めてシオンがもうどこにもいない事を自覚した。


「わ、私はこんな事を望んでいた訳ではないんだ・・・・」


静かに涙を流しながら言った言葉にシオンの兄ガオンが怒鳴った!


「ふざけるなよ!貴様、シオンに何を言ったのか覚えていないのか!長年支えてくれたシオンをもっといい条件の女性が現れたから捨てたのだろう!さらに、新しい婚約者を探してやるとまで言ったそうだな?どこまでバカにするつもりだっ!!!!」


!?


国王夫妻もその事まで知らなかったようで驚いた顔をした。


「このバカ息子が!婚約を解消した相手にそんな無礼な事まで言ったのか!恥を知れっ!!!!」


胸ぐらを掴んで床に叩きつけた。


「がはっ!?ち、違う。私は良かれと思って・・・・」


「何も違わないでしょう?そこのシオンさんのお兄様の言う通りです。傍目から見ればあなたのとった行動は、良い条件の者が現れたらすぐにそちらに鞍替えして、長年支えてくれた者を捨てる行為です。さらに、こちらの都合で婚約を解消しておいて、次の婚約者を斡旋してやるですって?どこまでシオン令嬢をバカにするつもりですか!この愚か者が!!!!」


これには王妃様の方が怒り狂った。

扇で何度もアレンを叩いた。


皮膚が裂け血が出ても誰も止めなかった。

アレンも自分の罰だとあえて耐えた。


「はぁはぁ、流石にここまでとは・・・あなた」

「ああ、ここまでグランドル公爵令嬢に無礼を働いたのだ。貴様を王太子にしておくことはできない。我々にはお前しか子供がいない。だから、王家の血筋を引く者に次世代は王位を譲る」


公爵家とは過去に王女などが降嫁して王家の血を引き継いでいる家しか名乗ることができない。本来であれば一人息子に王位を譲りたいが、公爵家に対するお詫びと、シオンに対して敬意を払うために王位を譲渡しようということだった。


「国王陛下、大変ありがたい申し出ですが、辞退させてください」


公爵の予想外の回答に驚いた。


「な、なぜだ?」

「シオンからアレン王太子に最後の遺言だ」


!?


「一度、心から後悔して国を背負う責任を知って成長して欲しい。そうでなければ国を任せられる国王にはなれないでしょう。私は最後にそれを願っています。だそうだ」



「ああぁ・・・・」


アレンは言葉にならない呻き声をあげて泣いた。


「ここまでした息子を国王にするのか?」

「・・・私は。いや、我が家族は生涯この殿下を許すことはないでしょう。しかし、臣下として『国王陛下』としてはお仕えしましょう。それが我が娘の願いでしたから」


「そうか。我が息子は本当に良い令嬢と巡り会えていたのだな」


国王も死してなお献身的に息子を支えてくれるシオンに涙した。


・

・

・

・

・

・


それから───


アレンはしばらくは後悔と自己嫌悪に自分を見失ったが、少ししてシオンの言葉を思い出して立ち直っていった。

そして、隣国シャイネイの王女を娶る事を決意した。自分への罰として。

隣国の王は驚いた。王家に嫁ぐ『条件』を満たしていないからだ。


無論、王妃にする条件として子供は作らないこと。

王妃の公務はしっかりさせる。お飾りの王妃にはさせない。

毎月の王妃の費用からなら好きなドレスや宝石はいくら買っても構わない。


など、いくつかの『密約』を交わして、それでも良ければ嫁がせても良いとした。

隣国としては、お飾りであっても自国から他国の王妃を輩出したと言えるので喜んだ。自国では王女の身持ちの悪さが広く知れ渡り、他国で嫁ぎ先が見つからなければ修道院に送るしかなかったからだ。


すでに切り捨てる予定の王女に価値を与えたアレン王太子に隣国の王は大いに感謝した。

そして大々的な結婚式をした初夜───


「今日はお疲れだった」

「・・・何か話があるんでしょ?私みたいな女を娶るんだから」

「なんだ。自覚はしていたのか?」


妻となった女性アリシアは目を逸らした。


「君の事を調べさせてもらったよ。随分と遊んでいたようだな」

「それは・・・ええ、そうよ」

「でも、昔の君は優秀だった。ただある時を境に態度が変わったそうだね。何があった?」


アリシアは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、観念して答えた。


「周囲の期待に応えるのがバカバカらしくなったのよ。当時の私は第一王女として必死に勉学に取り込んだけど、テストでどんなに良い点数を取っても、当然だ、もっと頑張れと言われ続けて、ある時全てが嫌になったのよ。だからバカな真似をして周囲に期待されなくなれば楽になれると・・・思ったのに・・」


いつの間にかアリシアは泣いていた。


「自分がバカなことをやっていると気付いても後には引くことができなくなったということか」

「なんであなたにそんなことがわかるのよっ!」


アレンは悲しい目をして答えた。


「君の目には、私と同じく後悔にさいなまれている者の目だったからわかるよ」

「えっ?」


アレンは自分の罪と罰、後悔についてシオンの事をアリシアに話した。


「・・・バカな話だろう?でも彼女は死んでも私に立派な王になれと言った。だから私はこの身を削っても彼女に誇れる王にならないといけないんだ」


「そうね・・・」


「アリシア、私は政略結婚とはいえすぐにお互いを愛し合うなんてできないと思っている。でも、お互いを信頼し合えるパートナーにはなれると思っているんだ」

「えっ?」

「私は国の内政に、君には王妃として国内の貴族のお茶会などで情報収集など王妃にしかできない公務をお願いしたい。国は王だけではまとめることができないんだ。君の力が必要なんだよ」

「随分と勝手な事を言うのね」


アレンはアリシアの目をしっかりと見て答えた。


「ああ、自覚しているよ。本来であれば君が噂通りの人物なら、適当に贅沢をさせてお飾りの王妃にする所だった。でも、本来の君にはしっかりと能力がある。腐らせておくには惜しいと思ったんだ。私は過去に失敗をして最愛の人を死なせた。同じ過ちを繰り返したくはないんだ。だからこれから君と対話して君の事を知っていきたい。私はよく視野が狭いと言われる。それを君に補ってもらいたいんだ」


「私の人望は最低よ?」

「でも負けず嫌いだろ?君は周りを見返したくはないのかい?」

「どうして私が負けず嫌いだってわかるのよっ!」

「だって泣いているじゃないか。それは悔しいからだろう?」

「あっ・・・・」


アレンはアリシアの涙を拭った。


「本当に君は私に似ている。現実が辛くて逃げ出して、バカな真似をしてメチャクチャにしたかったけど、それでも逃げ出した自分が許せなくて・・・だから悔しくて泣いている。私もそうだった。もう手遅れで、どうしようもなくて・・・それでも自分は生きて行かなくてはならなくて・・・」


アレンはソッとアリシアの手を取った。


「私は君の夫であり味方だ。辛ければ私を頼れ。泣きたければ胸を貸す。だから、逃げるのはもう終わりにしよう。もし私が君を裏切ることがあれば殴っていい。だから一緒に歩んでいこう」


アリシアは大きな声をあげて泣いた。

アレンはかつての自分を見ているようで胸が痛くなり、紛らわせるようにアリシアを抱きしめるのだった。



後に、アレン国王とアリシア王妃は様々な苦難を乗り越えて、名君と呼ばれることなる。アレンはアリシアを抱くことはあっても子供は作らなかった。グランドル公爵家から子供を養子に迎え入れ、グランドル公爵家の血筋が次代の国王となった。


アレンとアリシアは国王の座を譲ると、シオンの墓標にて、君の言葉を胸に抱き、国王ではなくなったので、残りの人生をアリシアの為に使うと報告した。


それから離宮にて、質素で穏やかな生活を2人は送ったと言う。


往年の2人は、お互いを尊重し敬愛以外にも確かに愛情があり、想い合っていたと侍女達は証言している。


そして2人の墓は特別に高台に設置されたシオン・グランドル公爵令嬢の麓に作られ、いつまでもシオン令嬢に見守られる形で埋葬されたと言う。


その場所には大きな木が立っており、埋葬される時には穏やかな木漏れ日が暖かく降り注いだ。



【END】



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【あとがき】


最後までお読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
実はシオンは生きてて別の国で生きてるとかの展開希望。
「向かい入れ」じゃなくて「迎え入れ」ですね。お話自体まとまってて、面白かったです。
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