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彼方よりカナンの鍵へ  作者: 一沢


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終章 カナンの鍵・精神の欠片

  ——————終章——————


   カナンの鍵・精神の欠片





 久しぶりの先生の温もりは心地よかった。ゆっくりとした心臓の鼓動があれだけ張り裂けそうだった自分の心音を静寂へと引き落としてくれる。何から話せばいいのか、何処から求めればいいのか—————そんな杞憂は月へと消え去っていた。




 ひとしきりの逢瀬を楽しみ終わった後、先生に背中を叩かれる。




「そろそろ行かないと」




「何処かへ行ってしまうんですか?」




「私は大人なの。自分の上司に伝えなければならない事があります。気付いていたのでしょう?私は、特別な任務を与えられて潜入していたって」




 それ以上は告げずに出て行ってしまった先生の背中を追いかけて、自分も除菌室などの施設を通り抜ける。廊下の端々に見受けられる光景のひとつに、同胞達が銃口を向けて、自分達を『使う側』だった人間を床へと押し付けていた。




 持ち込んだ武器の数々はあちら側とさほど性能は変わらないかもしれない————けれど、こちら側の力を知っている人間達から、早々に降伏していった。




 勝てる筈がないからだ。カナンから逸脱出来た絵本の中の住人が、諸手を上げて現実世界へと侵攻を開始している。しかも、肉眼で認知出来てしまう鋼鉄の女神の名のもと。




「まだ抵抗してる連中もいるのか」




 上階から銃撃の音が鳴り響いている。現実の物理抗争しか知らないのだから、撃てば殺せると思い込んでいるに違いない。首輪と檻で制圧出来ていたのだから鞭ひとつで勝利できる。そう確信しているに違いない。




「あーあ、やめときゃいいのに————」




 猛獣の声と、巨大なロボットアームの金切り声が銃声を塗りつぶしていく。




 誰が彼もが新たな世界へと旅立たせる為に、調整、調教された力である。超能力と言うには人の手によって磨かれた刀剣。自身の身体だけで銃の構造を模倣できる力。魔法よりも現実的に、現実よりも幻想的に。




 行き過ぎた科学の最果てに、現代人が勝てる筈もない。




「殺してはいませんよ。そういう約束で、この星に降り立つ許可を得たんですから」




 僅かに振り返って微笑みを向けてくれた先生と共に階段を上る。絶望か、はたまた発狂か。強力な銃を落とした警備兵達が膝を付いて両手を頭の後ろに置いていた。




「私の上司とは会いましたか?」




「少しだけ。あ、先生。どうして俺達が降りたつ位置が分かったんですか?」




 着陸して数秒と経たずに、まるで待ち構えていたように『彼女達』からの接触を受けた。不快感など持つ時間もなく————あの研究所の位置を通達され、送り出された。




「私達にも、あなたの女神と同規格の存在が力を貸しています。恐らく、あなたも知り得ない内に交渉の席が設けられていたのでしょうね。あなた達の存在を認める代わりに、あなた達の力を貸して貰うと」




「そういえば。そんな話を兄から聞いたかもしれません」




 先生を救出するしか頭になかった所為だ。ここに来るまでの記憶が抜けている。




 外に出る為には最上階の玄関を通り抜けるしかない。薬で眠らされながら、ここに連れて来られる過程で通ったであろう『出迎える』為の、天井の高いエントラストへと足を踏み入れた時だった。俺を二度殺した紳士服の男が手錠をされていた。




「この化け物ガッ!!」




 唾液を吐きながら叫んだ姿に、ニヤリと笑みを浮かべるともはや言葉とも言えない絶叫を上げて連れ去られる。この施設の正体を知られる事態は避けるためだ、外はサイレンを鳴らさない黒い車両が並んでいる。




「————あの住宅に似てますね」




「気付きましたか?この施設を元に、あのホテルは造り出されました」




 すんなりと教えてくれる先生は、少しだけ手を横に伸ばし止まれと暗に告げてくる。そして黒服を纏った女性に連れていかれてしまう。自分もと、思ったが「待っていて。すぐ戻るから」と釘を刺された。




「大人って忙しい」




 仕方なしと近場のソファーに座る。どうやらこの施設は、生物実験を行い研究所ではなく行政施設のひとつと数えられていたらしい。そんな無駄な事実が頭に渦巻いていると、4人の身内が施設奥から姿を現した。




「やぁ。どうだった?」




「置いて行かれちゃったみたいね。借りてきた猫って感じ?」




 『アノヒト』と『カノジョ』が左右に座り、眼前に『アイツ』と『アノコ』が座る。シーツも被らないで現実世界で話す機会に恵まれたのは、思えば初めてだったかもしれない、




「待っててくれって。自分の上司と話してくるらしいんだ」




「大人に弄ばれてるみたいね。でさ、あの男は何処?」




 視線をエントラスト中に走らせる『カノジョ』に「もう連れていかれたよ」と知らせると、心底つまらなそうに足を組んで肘を突いた。長く成長した足を欲しいがままする姿を見て、エントラスト中の全員が視線を奪われる。




「俺も、一発で良いから殴りたかったが。まぁ、行っちまったんなら仕方ねぇな」




「僕も一言で良いから伝えたかったかな。あなたから離れたお陰で楽しい日々を送れているってね」




 背の高い兄と鋭い顔付きとなった友が、それぞれの目的を語る。




 自分達『星を渡る子』は、鋼鉄の女神のような貴き者を惹きつける為に作り出された。男女関係なく暴力的にその美貌を脳裏に焼き付ける力に、人間が当てられているのがわかる。その筆頭の『何もしていないアノコ』が笑みを浮かべる。




「だけど、しっかり戻ってきてしまいましたね。二度と降りたくなって姉さんは言っていたのに————外って、本当に空があったのね」




 立ち上がった『アノコ』が玄関近くの窓を見つめる。視線の過程にいる『こちら側』『あちら側』問わず、茹っていく状況を『アノコ』は楽しんでいる。




「そろそろ止めなさい。また声を掛けられるわよ」




「でも、皆さん、私に優しくしてくれるから」




 と、自分の美貌に誰よりも自信がある星すら堕とす美少女は笑みを続ける。




 だけど、自分にはひとつ気がかりな事があった。そんな自分に「何か気になる?」と兄が聞いてくる。だから自分は全員に視線を走らせる。




「俺の精神の欠片は何処にもなかった」




 カナンに落としてしまった。そう確信して訪れたというのに、この10年一度も見当たらずに戻ってきてしまった。失った欠片は、一体なんだったのか。それすら失っているのに。




「それって大切な訳?」




「わからない。だけど大事だった記憶はあるんだ」




 『アノコ』に頼んでカナンの深層。打ち捨てられた旧世界にも訪れたというのに、あるのは人の死体ばかりで自分のソレは見出せずに終わった。今までで放置してきたが、忘れ去る事はできなかった。




「はぁ、本当に気付いてないんだ。呆れた‥‥」




「ああ。未だに気付かないのかよ」




 同じ顔をして、同じ溜息をした2人に何故だ?と視線で問い掛ける。まさか2人は知っているのだろうか。だけど自分の期待に満ちた視線を受けた2人は首を振る。




「答えを教えるよ。君は、もう自分に付与している。カナンの鍵。僕達の解放者として」




「解放?」




「忘れちゃったんですか?レムナント。新しく与えられた名前なのに」




 要領を得ていないのは自分1人だけのようだ。レムナント。それは『星を渡る子』に変わって新たの与えられた名前だった。少女だけの贄ではない我々は、本来の正しき信仰を引き継いだ者達の意味であるらしい。しかし、それと欠片との関係が見出せない。




「君は求める心を取り戻した。それだけでいいんじゃないかな?」




 兄がそう告げた瞬間、全員が立ち上がって腕を引いてくる。突然の行動に驚いていると外へと引きずられて、石造りの階段や自動扉を超えて先生の待つ車の前で手を離される。




「まずは私達の代表として、この世界に降り立った証明をしてきて」




 開かれたドアに押し込められ、その意味を咀嚼していると先生が乗り込んできた。




「先生。みんながいじめるんです‥‥」




「いい友人、兄弟姉妹を得られてようね。家族は大切にしなさい」




 と、先生も先生で不思議な事を言って出発させる。




「これから何処に?」




「あなた達を、新たな種族として受け入れるにはまだ成すべき事があります。わかりますね?人間以上に電脳世界に順応し、新たな新世界と共に訪れたあなた達は、人間にとって脅威です」




「安全だって証明するって事ですか。それとも人間なんて捻り潰せるって証拠ですか」




 ふわりと笑んだ姿に、見惚れていると先生は新たな学生服を渡してくる。紺色を基調にした制服は、自分の感性から言っても決して悪い物ではなかった。




「この世界に馴染んでみなさい。そうすれば、我々はあなた達を受け入れましょう」

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