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彼方よりカナンの鍵へ  作者: 一沢


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——————序章——————

電子世界


「第一復元工程終了———」




 微睡む意識とは反して、この身に突き刺さる電極計は体内を蹂躙する。




 しかし、不思議と痛みはなかった。突き刺さる端から髪の毛のように分かたれるという説明は正しかったようだ。




「そのまま意識を手放して」




 まるで自分の物になると言いたげな強気な声だった。いっその事、何もかもを捨て去って逃げればよかったのだ。そうすれば、この全身を包む乾きからも逃れられたというのに。




 嗚呼、だけど。手放すには惜しい温もりだったのだと。捨て去る訳にはいかなかった。




「抵抗は無駄。あなたが選んだのだから、これから眠って貰います」




 突き落とされたようだった。曖昧と浮き上がる脳と脊椎を焼き切られた感覚を覚える。そして、この認識はあながち間違いなどではなかった。触れれば焼き爛れ嘔吐する劇薬を容赦なく打ち込まれている———深い海とは違う、底のない崖の落下途中で目的の物を掴み上げろ。確か、そんな命令であった。




 しかし、自分にとっても利益のある契約であった筈だ。




「まだ拒絶するなんて———何が知りたい?」




「精神の破片、それは確かにあるのですね?」




「ここで見つからなければ、あなたの片鱗は宇宙にある。さもなくば何処の神か———それにあなた自身がここにあると言ったのだから」




 突き上げていた手から力を抜く、舌打ちでも聞こえそうなガラス窓から意識を背けると「忌々しい」とマイクも切らずに嘆く意外と人間味の溢れる声が聞こえた。




 何を暗示するかもわからない警報が滅菌室中に鳴り響く中、契約通りに意識の同化、融解を始める。与えられた媒介精神と溶け合い、与えられた使命を思い出す。




「羨ましいか?」




 与えられた精神は元の自分とは若干ながら違っていたようだ。こういった言葉を正しく発する性格など、自分は持ち合わせていなかったのだから。




「精神融解、融合は完了したようね」




「お蔭でな。安心したか?」




「口が達者のようで何より。それがあなたの本性?」




「自分から与えておいて、その口ぶりか?わざわざ俺が返事をしてやったんだ。テメェらの御上にお伺いでも取ったらどうだ?あなた様の楽園は着々と完成し始めているってよ?」




 椅子を突き飛ばす音が聞こえる。




「何驚いてるんだよ?俺は欠けた精神を探し出す為に、直接電子壁に乗り込んだ背徳者だぞ?お前らがなんの為に、このカナンを造り出したか程度知ってるに決まっている。何も知らない獲物が入り込んだと思ったのか?わざわざ売り込んでやったんだよ」




「工程中止!!すぐに遮断、いえ切断して!!」




「遅い遅い」




 身体を犯していた電極に別の約定を与える。具体的にはこの身、この精神こそがカナンの鍵とする権能を付与させる力を。自分の意思ひとつで地獄とも楽園とも人界ともなる核スイッチを心臓とする。




「精神融解?良かったじゃないか、羨ましかったんだろう?俺を砕いておいて、ただで済むを思ったか?せめて味方のフリのひとつでもすれば良かった物をよ」




「‥‥何が目的」




 煩わしい警報を解き、声を響かせるように設定し直す。




「向こうには何がいる?ゲームマスターたるそちらが被害者に頼る無様を———どうした笑えよ?」




 鼻先まで浸かっていた体温調節ジェルから起き上がり、感嘆の声を響かせる。




 劇薬?毒薬?そんな物は既に使い潰した。失った欠片をどうすれば修復できるか実験してきたのだから。




「失礼———少しだけ舞い上がっていたようです。あなた方はカナンの維持も目的としている部隊。なのに、自分のような使い終わった消耗品を今更拾い集めるなんて。まるで、自分達の情報を撃ち込むのを止めたいようだ————だから笑えって」




 ここで舌打ちでもしてくくれば、まだ可愛げがあったいうのに。なかなか大人をからかうのは難解だ。自分の残った精神をふんだんに使ったジョークであったのに。




「そこまでわかっていて、何故私達に?」




「言った通りですよ。自分の欠片を探したい。失った手足を求めるのはおかしな話か?」




「‥‥その手足を奪った私達に、どうしてまた身体を預けるというの?」




「今更、俺から回収できるデータは何もないからだ。だから俺のデッドコピーは完成している。なのにデッドコピーを使っていても手の届かない領域があるからまた俺を頼った。ならば、其処こそが俺がまだ見通せない隔絶された領域だ」




 軽く腕を回して、ジェルに奪われていた自由を取り戻す。




「このジェル、正直気持ち悪い。もう少し寝心地のいい揺り籠に変えてくれ」




「人の体温を再現するには、それが最も確実なの。起きたら凍傷だらけに成りたい?」




「そもそも起こす手筈なんて整えてたのか?」




 間髪入れずに返すと「口の減らない」と歯軋りでも聞こえそうな声が返ってくる。冗談のつもりで発した言葉を、まさか肯定されるとは思わなかった。




 ここで何もかもを焦げ付かせてくれようか?




「あなたの目的は失った精神の欠片を取り戻す事。更に言えば感情と記憶の一部を見つけ出して、溶けあって完成させる。その為なら危険な道も渡ると頷いた筈だったのだけど?」




「そこは否定しない。だが、あなた方の目的はカナンの病巣を探して切除するなり追放するなりの排除。ならば俺達はパートナーの筈だ、なのに今の今まで時間を与えてやっても、何も教えない。もしかして失敗して欲しいのか?」




 消極的と言われれば、まだ聞こえは良い。だが自分のような純粋な異物を送り込むとは、癌細胞を更に増やしかねない作戦を立案している。どうにも解せない。




「忘れたようね、こちらからの指示には絶対に従って貰います。必要があれば当たり一帯を汚染させる命令も。あなたの言う通り、致命的な失敗も必要とあらば」




 修復も爆破も可能な人材を求めたとは、恐れ入る。次の楽園計画を実行中とは知らなかった。しばらく監禁されていた所為だ。融解が疎かになっていた。




 そして、一切の不純物を嫌う楽園に似つかわしくない汚染という言葉で気付いた。




「汚染か————飼えない獣は求めるべきではなかったな。楽園の治安維持に自律人形など遣うとは思ってなかった。俺に服従の命令文でも打ち込んで贄にでもする気だったみたいだな。甘い甘い、そんな余分に割けるほど俺の心は安くない」




 滅菌室のブレーカーが落ちる。瞬時に新たな明かりが灯るが、心臓や脳の手術をしている最中に落雷が機器に直撃したようなものだ。用意していた雑多なプログラムなどショートして消え去っただろう。その証拠に眼鏡の男性諸君が悲鳴を上げる。




「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とは言うが虎の子なんて得てどうする気だ?サーカスにでも売るか?虎はよく鼻が利く。追々復讐されるから、そろそろ手を引けよ」




「————これは人類の為に編み出された楽園計画。どうして、こんなに酷い真似を」




「何人だ?」




 この問いに、息を詰まらせた。応えられる筈がない。




「何人殺した?」




「‥‥全て被造物、だから」




「だから何人殺しても問題ないか?知ってるか?俺の出自を」




「———あなたは、本流になれなかったベータ。だからアルファの補助を」




「違う違う。俺は、星を渡る子計画のメインストリーム。奪う物がなくなったから廃棄された最新の実験素体だよ」

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