表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法陣で恋占をしてはいけない理由  作者: 成若小意


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

第七話 魔法陣で恋占をしてはいけない理由

 そして出立の日。別れの際に、シンシアは贈り物を用意していた。


「あの、ライラックさん。今までのお礼です。いろいろな話を聞かせてくれたこと、私の魔法陣をほめてくれたこと、ありがとうございました。あと、街歩きも楽しかったです」


「街歩き、か。もう一度くらいデートをしたかったけどね」


 あれはやっぱりデートでよかったのかと、今更ながらに顔に熱がこもるのを自覚するシンシア。ごまかすように、急いでプレゼントの入った包みを渡す。


「開けても?」


 許可を取ってから丁寧に包みを開けるライラック。包みの中から出てきたのは、ガラスペンと、インクの入った瓶。

 そしてオリジナル魔法陣を束ねた手作りの本。


「あの、これは私がいろいろと配合をしているインクで。使いやすいといいなと思って、ライラックさんに合わせて作ってみたのです」


 ライラックと出会ったあの日の魔法陣を、シンシアはずっと不思議に思っていた。

 ――あふれ出る光が多すぎる。きっとライラックさんは魔力の共感性が高いのだろう。あれでは細かい魔法陣になってくると干渉しあって予期せぬ不具合が発生することもありそう、と。


 しかし、それを告げるとシンシアの秘密も伝えなければならない。人の魔力が見えること。気にしない者もいるだろうが、それは心を覗かれるのに似た感覚になる者がいても不思議ではない。

 

 話すことはできないが、何か自分も少しでも役に立つことはないかと思っての、特製インク。


 一方ライラックは、シンシアの気持ちをうれしく思う。それと同時に、自分が諦めた――諦めることになった決定的な原因である魔法陣を、これから先もう書くことはないだろうと思うと、少し寂しさもある。


 幼いころからずっと極めてきた魔法の道。よい思い出として飾っておこうと思いながら、その見た目も美しいガラスペンと魔法陣の本を優しくなでた。


「ありがとう。大切にする」


 そのまま手を振り、二人は特に思いを伝えることもなく別れを告げる。


 手を繋ぐこともなかった二人は、静かにそれぞれの道を歩みだそうとしていた。



 ライラックが寄宿舎へ向かう汽車に乗ってしまい、シンシアは汽車が見えなくなるまで手を振って心の中でサヨナラを告げたのち、寮に向かう馬車に一人乗り込んでいく。


 ライラックからはそんなシンシアの姿は見えなかったが、汽車の窓の景色からシンシアがいるであろう方向を眺めていると、ふと鞄の中で光る石に気づく。


 ずっと光ったままで、やはりガラクタかと思いながらも置いてくることのできなかった、思い出の品。


 そしてなんとなく一緒に入れていたシンシアの自作の本を取り出す。




「なんだろう? これ。ああ、これで転記をするのか」


 付属の転記用薄紙までついていた。シンシアの気遣いからくる工夫なのだろう。一般の製品にはない。


 二度と描くことはない魔法陣。しかしもらったままで何もしないのも気が引けた。汽車の中は暇だしと言い訳しつつ、書き写してみることにした。


 汽車の座席についているデスクに本とインクの小瓶を用意するが、汽車は揺れるので注意深くインクを少しだけペン先につけて、そっと慎重にカバンに戻し、本を開く。


 そしてペンを、薄紙の下のシンシアの魔法陣に沿わせて描きだした。





 一方、寮に到着したシンシアは、恋人でもないのに泣くのもおかしい、と思いつつ、涙をこらえるのがやっとの状態で部屋にたどり着く。


 その様子を心配した同室のベスが声をかけてきた。


「え、自作の魔法陣を渡したの? 勇気あることするわね」


 ベスは一足先に仕事を始めていて、シンシアにあれこれ教えてくれる頼りになる存在だ。


「勇気あること?」


 そんな彼女がなぜそんなに驚くのか。不安に思いながら聞いてみる。


「あれ、シンシアは知らないかしら? 魔法陣って製本販売される前に浄化の工程があるのよ。自作だとそれができないでしょ?」


「浄化?」


「そう。手書きだと、残留思念が残るでしょ。それを消すための大切な工程。自作だと無理よね」


 シンシアは、同年代の子たちと、早くからその道をたがえてきた。そして将来のために勉強に打ち込んできた。

 

 だから、雑談の中で得るような基礎知識が抜けていることがある。自身に魔力がないゆえに経験することもないので、なおさらだ。


「え、えっと。残留思念ってことは、描いていた時の気持ちが、聞こえてしまったり……するの?」


「まあ、めったにないけれどね。なぞるのが前提だし、書き手が強い気持ちを込めてなきゃいけないし、写しても共感能力が低い人なら全く気が付かないし。だからよく言うでしょ、恋占いの魔法陣は手書きで描いちゃいけないって」


 その言葉を聞いて、思わず立ち上がるシンシア。


 ライラックに手渡した自作の魔法陣の本。そこにはいろいろな種類のものを描いた。その中に、恋占いの魔法陣もあった。確かに入れた。シンシアにとって思い出の魔法陣だったから。



 

 シンシアが顔を真っ赤にしながら半泣きでベスに事情を話しているころ、魔法陣の転写が終わったライラックは騎士養成所への入所届を破り捨て、途中下車をして馬を走らせていた。


――シンシアと同じように顔を真っ赤にさせながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なぞるのが前提、書き手の強い気持ち、共感能力が高い――オールクリア! おめでとうございます、クリーンヒットですね!!! あああ;; でもでも、もう進路が;; だから! へんなプライドなんかこだわらず!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ