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魔法陣で恋占をしてはいけない理由  作者: 成若小意


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第五話 言えないこともある

 あれは、どうとらえればよかったのかしら。

 デート? デートと言えばデート。

 最後少し気まずくなってしまったけれど。多分相手も恥ずかしかったのよね。


 そう思ってみたが、次第に不安が募るシンシア。自室でもいたたまれず、部屋の端から端まで行ったり来たりをしている。


 あの日の服装はやっぱり可愛くなかったのかな。

 もっとうまく会話をすればよかった。

 ただの気遣いだったのかな。

 最初は楽しそうにしていたと思ったのにな。


 池のほとりのベンチに座っても、後悔や反省点が溢れだしてきては止まらない。


「また前のようにお話をできるのを、楽しみにしていたのにな」


 二日たち、三日たち。一週間たってもライラックは来なかった。





「残念だよ」


 ライラックの前で教授がヒゲをしごきながらそう言う。場所は教授室だ。


 普段厳しい教授だが、馬鹿にしているわけではなく、心底そう思っているようだった。


「まさか、君がこんなところで躓くとは」


 表情の変わりにくいライラックは、一見して平然と教授の言葉を受け止めているように見える。


 しかし親しい者が見たら、そのいつも以上に白い顔と、背中で硬く握られた両の手を見て、彼が何とか堪えていることに気がついただろう。


 教授が次の面談の予定を伝えたのち、ライラックは静かに頭を下げて教授室を去った。




 こんな時は一人落ち込みたい気分であったが、あいにく戻った先は寮の相部屋。


 戻るなり自分用の椅子に深く腰掛けた彼を、ルームメイトのアランは気遣ったかのように静かに迎え入れる。


「今日のお説教は案外あっさり終わったな。試験結果、悪くなかったのか? 期待されている奴はやっぱ違うな」


 先ほど行われたのは、定期考査後の面談。


 アランは留学生だ。口数が多く、物静かなライラックとは性格が真反対だったが意外と気が合い、ライラックが珍しく本音をこぼせる友人の一人だ。


「いや。かける言葉が見つからないほど悪かったということだろう」


「……それって、この前にも言っていた、魔法陣の第三課程のことか? あれは言うほど難しくないだろう。現に基礎課程はライだって好成績で収めていたはずだぜ?」


「まあ、な。でも、現に実技ではどうやっても何も発動しなかった。絶望的なほど不向き、ということだ」


「は~。天才様にもできないことって、あるんだな。なんだか逆に安心したよ。それで? 何か方法があるんだろ? 代わりの課題を出すとか、コースを変更するだとか」


「それについては前回の面談でも話した。でも、無理なようだ。基礎すぎて救済措置を設けていないし、俺のために急遽規定を変更するのはそれこそ問題だと。かといって、コース変更は今の段階では認められてないだろ。1回生と2回生、3回生の時に柔軟に対応してくれたからな。だからこそ、4回生の今の時点でコース変更は無理だそうだ」


 ライラックは、飛び級で入学し、特待生として迎えられていた。成績も優秀で何の問題もないどころか教授たちの期待を受けていた学生だ。


 しかし、問題は卒業を控えた4回生の後期で起きた。いままで何の問題もなかった魔法陣の授業で、突如実技ができなくなったのだ。


 魔法陣の不発動。魔力が足りていて、方陣の図が正しい状況での不発動は前例がないと、教授陣も首をかしげている。


「そんなことってあるか? だって、ライだぜ? 大体の教科でトップ、教授ですら目をむく論文を出してたわけだし」


「でも、事実は事実だ。そして、救済措置も難しい。多少でも何か事象が起きていればよかったんだが、全くの無反応だろう? 救済の方法がないんだそうだ。何なら、『他の過程はできるのにこの工程だけできないということは、反抗の意志でもあるのだろう』ととらえる教授も出てき始めている始末だ」


「じゃあ、どうするんだ? 学園を出られなきゃ、お前が目指してた職には就けないだろ? ほかの大学に今から編入か? コース選択が違うとこもあるだろ」


 初めは自分用の椅子に座っていたアランだが、だんだんとその声にも熱がこもってきて、とうとう立ち上がってライラックに問いかける。


「いや、それだと経歴に残る。アカデミーを退学してから他校に入学してトップをとるのと、他校に最初から入ってトップをとるのとは違う。父上とも相談したよ。」


 この国でエリートコースを進む者はほぼ、ここ王立魔法学園の卒業生だ。まれに、王立魔法学園に準じる他大学の首席や、特殊技能を持った者が採用される程度。


 学園の卒業は難しいことが知られているが、面倒見がいいことでも有名だ。だからこそ、そこからドロップアウトしたものに対して世間の目は厳しい


「親父さんはなんて?」


「騎士養成所に進路を転向するしかない、と」


「あ~」


 貴族は進路に恵まれていると思われがちだが、法衣貴族になれず、なにも受勲されるようなこともない次男以下は騎士になるか学者になるかしか道がない。


 学園を出た者は、だいたいが法衣貴族になる。だが、卒業ができない場合、法衣貴族にもなれないし学者にもなれない。


「ライは勉強はできても体を動かすのは苦手だもんな」


 ライラックはただ無言でうなずき、椅子に腰かけたまま天井を仰ぎ見る。苦手分野でもがく自分の無様な姿が目に浮かぶ。


 戦争がなくなってから久しいこの国の貴族は、たいていの者が日ごろ体を動かさない。ライラックもご多分に漏れない。


 勉学にいそしんでいる者たちは特に華奢なものが多く、学園から騎士養成所へ行くと聞いたらほとんどの学生は青ざめるだろう。


 天才と評されて入学したライラック。輝かしい人生を歩んでいると周りの人間は思っていたが、解決の糸口が見えない悩みにもがいていた。


「次の試験結果次第で進路確定だ」


「じゃあ次の試験までデートはお預けだな」


 その言葉にライラックは身を起こし、先ほどまでの諦念の混ざり始めていた表情を改め、真剣な表情になる。


「退学の危機にある状況で会うなんて情けなくてできないからな。次の試験までに問題を解決して、ちゃんと告白する予定だ」


 人生の岐路に立っているライラックが誓いを立てているとき。シンシアはそうとは知らずにただただライラックをいつものベンチで待っていた。

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