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魔法陣で恋占をしてはいけない理由  作者: 成若小意


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第一話 シンシア

 春の風が吹く学園の片隅。

 学生たちの声がかすかに届く池の畔で、女子学生が独り座っていた。


 スケッチブックを片手に何かを描いているが、それは風景ではない。


「...…うん。いい感じ」


 柔らかな日差しにかざしたその羊皮紙には、複雑な文様ーー魔法陣が描かれていた。


 彼女、シンシア・ルーベンスは王立魔法学園、通称アカデミーに通う三回生。あと一年は残っているが進路はもう決まっており、魔法陣を研究する機関に就職予定だった。


「もう一枚描こうかしら」


 通常なら、書き上げた魔法陣は試運転として一度起動させてみるものなのだが、とある事情でシンシアは起動させることはない。


 紙を一枚めくり、ガラスペンを手にしたところで、わっと賑やかな声が遠くの方から聞こえてきた。


 アカデミーの本校舎から今いる裏庭の池までは少しばかりの木が植えられて、散策できる小道がついている。その木々の間から本校を覗き見ると、数人の人の周りにご令嬢が集まっていた。


「第一学科の人たちが到着したのかしら」


 実は今日は、学園で定期的に開催されているガーデンパーティーの日だ。『人脈作りも学問の発展に寄与する』という理念の基、学園主催で催されている。シンシアに参加の予定はないが。


 第一学科というのは学園のコースの一つで、いわゆるエリートコースだ。


 頭がいいこともさることながら、まず家柄がいい。そしてなぜかそういう人たちは、見た目もいい。学科振り分け時の判断基準に外見審査も入っていると噂されるほど。ちなみに男性のみ。第二学科は女性のみ。


 そんな第一学科のひとたちは当然女性からの人気が高い。今もこの「交流会」の機会を逃すまいと、女性たちが集まっている。


「まるで蝶々ね」


 高身長で金髪の男性を、色とりどりのドレスを身にまとった女性が囲んでいる。その中に自分との共通点を探してみるが、みな華やかだ。地味な風貌の人もいるにはいるが、遠目にもその動きは洗練されていて優雅だった。同じ学園に通っているのにこうも違うとは。


「やっぱり育ちが違うのね」


 シンシアはチラリとその様子をうかがったあと、さっさとスケッチブックに視線を戻す。


「にぎやかなところ、苦手なのよね。あの人たちと関わることはあるのかしら。……まあ、ない、わよね。さあ、練習練習」


 そんな事を考えながら、二作品目の魔法陣に取りかかる。




 


――シンシアは魔法がほとんど使えない。


 生活のほとんどの場面で魔法が多用されるこの世界において、それは致命的な症状だった。


 学業面では優秀な成績を収めており、性格も温厚。裕福ではないが貴族の生まれなので、通常で行けば順風満帆な人生を歩めただろう。実際、大陸中からエリートの集まる王立魔法学園に通うこともできている。


 当り前のように進級の話をする同級生を横目に、自分は就職の道を選んだ。父親が伝手(つて)をたどって就職先を見つけてくれたのだ。それが魔法陣の開発研究所。地味な職場だ。


「昔は生活魔法陣は生活の主流だったのにね」


 シンシアは、懸命に作成した魔法陣の数々を見返してそう呟く。


 産業革命がおこり、量産型の生活用品の普及によって魔法陣の存在は隅に追いやられた。「電気」という物言わぬ労働力の供給に人々は夢中になったのだ。


 もちろん魔法という存在が疎まれたわけではない。戦闘用や祭事用に、より崇高なものに使うようになっていった。魔法学園に通う者たちの進む道も主にそちら。より華やかな道だ。


 生活用魔法陣はお年寄りが『このほうがぬくもりがある』という理由で買って行ったり、貧しいものが安価で買っていったりして、細々と残っていた。


 その衰退した業種にシンシアはかろうじて就けることになった。魔法陣の作成自体には魔法は要らないから。


 華のない道だけれど、将来に悲嘆していた時に比べてはマシだ。


 シンシアはせっせと将来につながる作業に精を出す。




「あの、ここに座ってもいいかな?」


 魔法陣を描くのに集中しすぎて、シンシアは後ろに男性が来ていることに気が付かなかった。


 急に強く吹いた風とともに背後に現れたその男性から突然声をかけられ、ちょっと腰を浮かしてしまう。


「あ、どうぞ……」


 ――そこにいたのは、関わることがないと思っていた第一学科の男性だった。


 吹き抜けた風が、男性の栗色の髪を揺らす。


 春の風は少し強くなってきたようだ。

本日20:10に2話目投稿予定です

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