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転生陰陽師は平穏に暮らしたい ~神の子と呼ばれたサラリーマン、最強すぎてスローライフ計画が崩壊寸前~  作者: パラレル・ゲーマー


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第43話 灰色の進路指導と青い春の迷路

 八咫烏本部作戦準備室。

 そこには、いつものようにコーヒーの香り――今回は、出張の土産で買った、少しだけ高級なドリップコーヒーの香り――が漂っていた。


 鈴木太郎は、湯気の立つマグカップを片手に、手元の書類に目を通しながら、まるで雑談の延長のように口を開いた。


「――で、どうするよ。そろそろ時期だろう?」


 その問いかけに、向かいに座っていた神楽坂瑠璃が、不思議そうに小首を傾げる。


「時期とは?」


「進路だよ、進路」


 鈴木は、面倒くさそうに書類を机の上に放り出した。

 そこには『次年度・特殊戦力確保計画(案)』という、物々しいタイトルの企画書があった。


「あのガキ共……斉藤健太たちも、そろそろ高校三年生に進級する頃だろ? 普通の学生なら、進路調査だの受験だのでピリピリし始める時期だ。あいつらだって、いつまでも学生気分で『怪異ハンター』ごっこを続けてられるわけじゃねぇ」


「……なるほど。彼らの将来の話ですか」


「ああ。それでだ。本部の上層部……というか、烏沢の奴がな、あいつらを正式にスカウトする方向で話を詰めてやがる」


「スカウト……。八咫烏のエージェントとしてですか?」


「そういうこった。Tier4相当の特殊工作員としての採用枠だ。提示額は、初任給で年収400万スタート。それに危険手当と任務達成ボーナスがつく。……高卒の新人にしては、破格の好待遇だな」


 鈴木は自嘲気味に笑った。

 彼が前世で、安月給の新入社員として馬車馬のように働かされていた日々を思い出し、少しだけ複雑な気分になる。


「400万……。私たち退魔師協会の初任給と比べると、少し安いですわね」


 瑠璃が何気なく言ったその言葉に、隣で事務作業をしていた長谷川蓮が「えっ」と素っ頓狂な声を上げたのは、聞かなかったことにした。


「まあ、条件は悪くねぇ。問題は、あいつらがどう考えてるかだ」


 鈴木は、瑠璃を真っ直ぐに見つめた。


「お前はどうするんだ、お嬢様? まさか大学行ってキャンパスライフを満喫したいなんてことは、ないよな?」


「……まさか。私は家で、大学相当の高等教育は全て修了しておりますわ。今更大学なんて、通う必要はありません」


 瑠璃は、心底くだらないというように一蹴した。

 彼女にとって学歴など飾りにもならないのだろう。彼女の実力こそが、彼女の全ての価値証明なのだから。


「だろうな。……だが、あいつらは違う。あいつらは、まだ普通の感覚を持った学生だ。進学するか、就職するか。……あるいは、この危険な道を選ぶか。その選択は、結構重いもんだぜ」


 鈴木は、窓の外に広がる春の霞がかかった東京の空を見上げた。


「それに勤務形態も問題だ。八咫烏の任務は、基本的に夜間が多い。大学に行きながらエージェント活動をするとなると、二足の草鞋ってレベルじゃねぇ負担になる」


「そうですね。夜は怪異退治、昼は講義。……過労死する未来しか見えませんわ」


「だろう? とりあえず採用後の配属先としては、都内の夜間学校の警備や、人気の少ない廃ビルの定期巡回任務なんかを割り当てる案が出てるらしいが……」


 鈴木はそこで言葉を切り、改めて瑠璃に向き直った。


「まあ、まずはあいつらの意志確認からだ。……瑠璃、お前から説明してやってくれるか? 俺がいきなり行っても、ただの怪しい勧誘だと思われるのがオチだ。お前なら教師役として適任だろ?」


「……はぁ。また面倒な役回りを」


 瑠璃はわざとらしくため息をついたが、その顔には「私の可愛い教え子たちの将来、私が導いてあげなくてどうするの」という、隠しきれない指導欲が滲み出ていた。


「分かりましたわ。……進路調査、請け負いました」


 数日後の放課後。


 場所は、彼らのアジトと化している『カフェ・ド・レンガ』。

 斉藤健太、田中、鈴木(同級生)、そして桜井詩織の四人が、いつものようにスイーツを囲んでいるところに、瑠璃がやってきた。


 だが今日、彼女の手にあるのは、いつもの高級菓子の箱ではなく、分厚い封筒だった。


「――というわけで。単刀直入に言うわ」


 瑠璃は四人の顔を見渡し、切り出した。


「あなた達に、八咫烏から正式なスカウトが来ているの」


「……へ?」


 突然の話に、四人はキョトンとする。


「スカウトって……プロ野球選手みたいっすね」


 田中が、的外れな感想を漏らす。


「違うわ。就職の話よ。……あなた達、もうすぐ三年生でしょう? 進路、決めているの?」


 その問いかけに、四人の間に微妙な沈黙が流れた。

 進路。それは、彼らが心のどこかで避けていた、現実の重い問題だった。


「あー……進路かぁ……」


 健太がストローを噛みながら、天井を見上げた。


「全然決めてねぇな……。まあ、普通に大学受験かなとはぼんやり考えてたけど……」


「私も……。親とは、看護学校とか、そういう医療系の大学に……って話は少しだけしてます」


 詩織も、自信なさげに答える。


「で、でも神楽坂さん! 八咫烏に就職って……マジでできるんすか!?」


 鈴木(同級生)が、身を乗り出して尋ねた。


「ええ。条件は、Tier4相当のエージェント採用で、初任給400万円スタート。プラス各種手当あり」


「「よよんひゃくまんんん!?」」


 田中と鈴木(同級生)が、椅子から転げ落ちそうになる勢いで驚いた。


「ま、マジかよ……! 高卒で公務員並み……いや、それ以上かよ……!」


「やべぇ……! めちゃくちゃ好条件じゃん……!」


 二人の目が、ドルマークに変わっていく。


「ど、どうしよ? 田中、お前どうする!?」


「えっ、お前大学行かねぇの!?」


「いやだって! 大学行くって言っても金かかるじゃん! 俺の親そんな裕福じゃねーし、奨学金借りてまで行って、卒業してから借金地獄とかマジで勘弁だぜ……! だったら稼げるところに就職して、親に楽させてやる方がマシじゃね!?」


「た、確かに……! 怪異ハンターって言っても、俺らまだドロップアイテム売って小遣い稼ぎする程度だしな……。それが月給で安定してもらえるなら……!」


 現実的で、そして切実な現代の高校生の悩み。


「お前らバカかよ……」


 その盛り上がりを見て、健太が呆れたように口を挟んだ。


「いいか、これは一生の仕事になるかもしれない話なんだぞ? 怪異と戦うってことは、常に命がけだ。400万が高いか安いか、よく考えろよ。それに、この能力がいつまで続くか、あるいはこの仕事がいつまであるか分かんねぇんだぞ?」


「う……。斉藤先輩、正論すぎて痛いっす……」


 田中が頭を抱える。


「で、でもさぁ……! 勉強嫌いだし……!」


「良いんだよ、俺らなんてバカぐらいで! 肉体労働には自信あるし!」


 開き直る二人。その様子を、瑠璃は冷ややかに、しかしどこか温かい目で見守っていた。


「……まあ、そうね。あなた達の場合は、焦る必要はないわ」


 彼女はコーヒーカップを置いた。


「私のように、すでに教育を終えている人間にとって、大学なんて時間の無駄でしかないけれど……。あなた達にとっては、モラトリアムとしての大学生活も、あるいは無駄ではないかもしれない。ゆっくり考えなさい」


「うわっ、サラッとマウント取られた……」


「……まあ、条件が書かれた詳細な資料は後で渡すわ。それを見て、じっくり考えなさい」


「はい!」


「……あ、そうだ。最後に一つだけ」


 瑠璃は立ち去り際に、思い出したように付け加えた。


「もし八咫烏に入るにしろ、大学に行くにしろ……。未成年である以上、保護者の同意は必須よ」


「「……え?」」


「つまり」と、彼女はにっこりと悪魔のような笑みを浮かべた。


「あなた達のやっている『怪異ハンター』の活動について、そろそろ親御さんにカミングアウトして、真剣に相談しなさいということよ」


「「「ええーーーーーーーっ!!!!」」」


 四人の今日一番の絶叫が、喫茶店中に響き渡った。


「む、無理ゲーすぎますよ神楽坂さん!!」


 健太が叫ぶ。


「親に『俺、超能力者だから就職は秘密結社にするわ』なんて言ったら、病院連れてかれるに決まってんだろ!!」


「そうですよ! うちの親、オカルトとか大嫌いなんですって!」


「無理だ……! それが一番ハードル高い……!」


 頭を抱えて絶望する高校生たち。


「あら、そうなの? 一般家庭の事情はよく分からないけれど……。まあ頑張りなさいな。親の説得も、社会人としての第一歩よ」


 瑠璃は涼しい顔でそう言い残すと、颯爽と店を出て行った。


 残された四人は、豪華なケーキの味も分からないほど、重くのしかかる現実に、ただ項垂れるしかなかった。


 進路。将来。そして家族。


 能力を手に入れ、世界を変えた気でいた彼らが、再び直面する「普通」の壁。

 斉藤健太たちの青春は、また一つ面倒で、そして大切な局面を迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
親の説得はせめて八咫烏の大人がやってくれませんかね…… 超能力を見せつければすんなり納得とまではいかないけども理解はしてくれるだろうし
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