原初の記憶を継ぐ者
これはお試し投稿(chap)です。
矛盾点や違和感を教えていただけると自分が自力で書く際の助けになりますのでどうかよろしくお願いします。
名前を持たぬ、いや、名を与える者すら存在しない原初のものが、**記憶**に触れた。
それは星々の誕生よりも古く、時の流れさえ形を持たぬ時代のこと。
触れた瞬間、闇は震え、光の粒子が芽吹くように宇宙へと散った。
そこに映し出されたのは、存在するはずのない景色――焼け落ちた空、歌うように沈む大地、涙を流す月の姿だった。
そしてその記憶は、ある戦場の映像へと変わる。
赤く裂けた地平線の下、黒い甲冑に身を包んだ戦士がひとり、炎の海を踏みしめていた。
「……また、あの夢か」
戦士の名はカイル。数千の軍勢を一夜にして葬った、“終焉の剣”の異名を持つ傭兵。
彼の足元には、未だ燃え尽きぬ骸が転がり、夜風が灰を舞い上げる。
その背後――。
大地を割って現れたのは、四腕を持つ巨影。漆黒の槍を握り、無言でカイルに向かって歩を進める。
カイルは剣を引き抜き、灰の雨の中で冷たく笑った。
「面白い……お前は、俺を殺せるか?」
巨影の四本の腕が同時に振り下ろされ、漆黒の槍が稲妻のように閃く。
空気が悲鳴をあげ、衝撃波が砂塵を巻き上げる。
カイルは一歩も退かず、右手の剣を横薙ぎに振るった。
刀身が赤く瞬き、目に見えぬ衝撃が槍の軌道を逸らす。
しかし次の瞬間、巨影の別の腕が脇腹を狙い、鈍い衝突音とともにカイルの体は地面を滑った。
「……はっ、四本腕は面倒だな」
カイルは口元を拭い、灰混じりの血を吐き捨てる。
巨影が低く唸ると、その背後の地面から無数の黒い触手が湧き出した。
それらは生き物のようにうねり、空に向かって螺旋を描く。
触れた空間がひび割れ、闇が漏れ出す――虚無領域。
「やっぱり、あの記憶はこいつか……!」
カイルの瞳が金色に変わり、剣身に刻まれた古代文字が赤く輝き始める。
その力は彼が忌み嫌う“原初のもの”の残滓。
彼はその血を引くがゆえに、人でありながら人でない存在だった。
巨影の触手が一斉に襲いかかる。
カイルは後方に跳び、両手で剣を構える。
「――断絶!」
地を割る衝撃音とともに、赤い斬光が一直線に走る。
触手が焼け、巨影の片腕が肘から先ごと消し飛んだ。
だが巨影は叫び声ひとつあげず、残る三本の腕を振るい、虚無領域をさらに広げる。
戦場はゆっくりと色を失い、灰色の世界へと変わっていく。
カイルの足元からも力が吸い取られ、剣の輝きが鈍くなる。
「……時間がないか」
カイルは腰の小さな短剣に手をかけた。
それは彼の師が命と引き換えに残した唯一の遺品であり、同時に原初の封印鍵だった。
巨影の胸部が開き、中心に赤黒い光球が脈動する。
その光球こそが、星々を滅ぼす「記憶」の核――。
「全部、終わらせる……!」
カイルは短剣を逆手に構え、地面を蹴った。
虚無領域の中を疾駆する影と影。衝撃の直前、両者の瞳が交わる。
そして――。
巨影の三本の槍が交差し、カイルの進路を塞ぐ。
しかしカイルは迷わず短剣を投げた。
それは赤い軌跡を残し、虚無領域を裂きながら一直線に巨影の胸へ――。
だが、直前で巨影の腕が弾き飛ばす。
短剣は虚空へ消えかけた……その瞬間、カイルの姿がかき消えた。
「……っ!?」
巨影の感覚器が反応する前に、背後で足音が響く。
カイルは短剣を追い抜くように瞬間移動していた。
それは剣の奥義でも魔術でもない――原初の血脈がもたらす、時空を裂く跳躍。
「お前に触れた記憶……それは未来じゃない。俺が選ばなかったはずの“過去”だ!」
短剣が光球に突き立つ。
耳を裂くような轟音。
光球が砕け、内部から溢れ出したのは黒い煙ではなく、無数の光の粒だった。
それらは虚無領域を満たし、色を取り戻しながら空へ昇っていく。
巨影は一歩退き、動きを止めた。
その姿が崩れ落ちる瞬間、声なき声がカイルの脳裏を満たす。
――我はお前だ。お前が奪った未来、その記憶こそが我だ。
カイルは膝をつき、息を荒げる。
「……そうか。だから俺は……」
彼の瞳から金色が消え、ただの人間の色に戻った。
戦場にはもう灰も炎もなく、ただ静かな風が吹き抜けるだけ。
空を見上げると、涙を流す月が微笑むように光っていた。
カイルは短剣を握りしめ、背を向ける。
この戦いは終わった。しかし、解かれた記憶が呼ぶ次の戦場は、もう近くに迫っていた。
さすが最新版chapけど断絶の意味が分からん。とか
涙を流す月の伏線回収が欲しいとか色々改善点待ってます。