6 夫
結婚式の翌日、私はひたすら馬を走らせ公爵領にある屋敷に戻ってきたのだが…
「なぜ新婚であるはずのカイル様がこちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「えっと…」
「しばらくは奥様とタウンハウスで過ごす予定のはずでは?」
「それは…」
「まさか奥様を置いて、お一人でお戻りになったわけではありませんよね?」
「…」
マルクの顔は笑っているが目は笑っていない。間違いなく怒っている。
「カイル様?」
「し、仕方ないだろう?彼女を前にすると緊張してしまって…」
「……はぁ」
「そんな目で見ないでくれ!」
「そんな目もしたくなりますよ、ってまさか…。カイル様。さすがに大丈夫だと信じてはおりますが、念のため!念のために確認してもよろしいですか?」
「な、なんだ?」
「昨夜はきちんと夫としての務めは果たされたのですよね?」
「………」
「…きちんと初夜を迎えたのですよね?」
「………いや」
「…冗談、ですよね?」
「………いや」
「い、一体なにをやっているんですか!?」
「…ほんとに私はなにをやっているんだろうな。ははは…」
「いやいやいや!呑気にそんなこと言っている場合じゃないですからね!?初夜も済ませず奥様を王都に置いてきたってことですよね!?」
「…しばらく領地に戻るとは言ってきたぞ?それにしょ、初夜のことはちゃんと謝ってはある」
「ど、どのように奥様に謝ったのですか…?」
「あ、えっとたしか……彼女から初夜はどうするのかと聞かれたから『すまない』と…」
「…あー」
「ど、どうしたんだ?」
「…カイル様。それだと間違いなくカイル様に拒否されたと奥様は思っていますよ」
「な、なぜ!?」
「いやむしろ私がなぜですよ。初夜をどうするかの返事が謝罪の言葉だったら、拒否されたと受け取るのが普通だと思います」
「なっ!そんなつもりは…」
「カイル様にそのようなつもりがないことはわかっております。カイル様が奥様のことを好きだということは、屋敷の人間でしたら全員が知っていますからね」
「全員!?そ、それなら問題は…」
「ですが奥様は昨日嫁いできたばかりですよね?」
「!」
マルクの言葉に私はハッとした。たしかに屋敷の人間ならば知っているが、彼女は突然結婚を申し込まれ婚約期間もほとんどないまま嫁いできてくれたので私の想いなど知る由もない。それ以前に私は結婚前に彼女へ想いを伝えるべきなのに、勇気がなく伝えることができなかった。
「はぁ…」
「ど、どうすれば…」
「…とりあえず一旦落ち着きましょう。焦ってはまともな考えなど出てこないでしょうから」
「…そうだな」
「すぐ湯浴みの用意をいたしますのでまずは汗を流してきてください」
「…わかった」